第三章  もう一人の契約精霊(4)

『精霊門前』

 「さて、皆準備はできてるわね」

 来るのが二度目になる精霊門、一度目はあのイケメン教師に意味もなく連れてこさせられた。そして二度目にテロを鎮圧させに行くために使用するとは想像もできなかった。今その門の目の前で皆トランスした状態で姉ちゃんと合流をした。

 「問題はないよ。さぁ行こうじゃないか学院長!」

 「お~!」

 門田先輩の反応に光子先輩が乗っかる。桔梗先輩と俺は頷き返す形で返事をした。その姿を見て姉ちゃんも俺達に頷き返して精霊門と向かい合い詠唱を終わらせると精霊門が開いた。

 「何があるか分からないわ。各々気を引き締めるように!」

「「「「了解!」」」」

 そして姉ちゃんを筆頭に次々と精霊門に入っていき俺も精霊門に足を踏み入れる。そして前回と同じように眩しくて目を閉じてしまう。そして次に目を開けた時は精霊界についていた。基本的に俺達の世界とは変わった様子はないが、建造物なんかは家を木の上に作ったり自然を利用した物が多いように見える。そしてその自然で作られた街の外れに俺達が今目的地としている女帝がいる精霊王の城がある。

 「精霊達がいないな・・・・・・」

 桔梗先輩が不思議がり辺りを見回している。確かに街は不自然すぎるほどに静まりかえっていた。

 「女帝の命令だそうよ、精霊王の命が欲しかったら街に住んでいる人間、精霊を皆別の所に移動させる事。そして城に侵入して王を助けようとしないこと」

 「それじゃ私達せっかく来たのに何もできないよ~」

 「いや、それらの命令には条件があるみたいで、その条件が『二人の精霊と契約する者とその仲間以外』という条件があるの」

 「二人の精霊と契約する者・・・・・・明らかに真白君の事だね」

 門田先輩の言葉に全員の視線が一気に俺へと集まる。

 「やっぱり、マリですよね」

 女帝は保健室で仲間に引き入れると言った。そしてこの状況を使ってマリを仲間にするための機会を作ったのだろう。だが女帝なら保健室の時のように学院の中でもコンタクトできるだろう、だがこういった方法をとってくるんだとしたら、あの話だろうか・・・・・・

 「・・・・・・ん?どうかしたのか?」

桔梗先輩が考え込んでいる俺を不思議そうに見つめる。

「いや、その・・・・・・」

あくまで憶測の考えをここで言うわけにもいかないし、これはマリとマナ、女帝の事の他人が踏み込んではいけない事でもある。どう答えようか悩んでいると俺が困っているのを察して姉ちゃんが助け船を出してくれた。

「ここで悩んでいるよりも本人に聞いた方が早いわ。私達は許されてるんだから早く行くわよ!」

 そうとだけ言い姉ちゃんは走って城に向かい始めた。それに遅れないように俺達も姉ちゃんの後を追いかける。

 そしてそのまま誰も話さず一目散に城の目の前まで走る。

 (シロさん、実体化もできるんですがこっちの方が楽なので今は武器として側にいますね)

 (あぁ頼むよ。その、マリ・・・・・・大丈夫か?)

 (え?)

 (王の事とか、それに女帝やマナの事もだよ)

 (シロさん、確かに気になってます。けど今はその問題よりもマナに会える方が本当に嬉しいんです、だから・・・・・・今はマナを救うことだけを考えています!)

 (マリ・・・・・・そうだな、分かった。けど俺は欲張りだから任務も成功させてマナも取り返せる事を目標にするよ)

(それでこそシロさんです、やりましょう!)

(おう!)

 マリと決意の確認をしている間に俺達は城門前まで到着した。城に入るための門は開門しており向こうからしたら歓迎モードのようだ。

 「私達を舐めている事を後悔させてやるわ、全員武器装備!」

 姉ちゃんの号令で各自自分の武器を実装させる。俺も千鳥を実体化させて腰に装着する。

 そして走らず門をくぐり辺りを警戒しながら城の中に入っていく。城門をくぐるとそこから7メートルほど先に入り口がある。俺達はそこを目指して慎重に進む。

 「静かだね~」

 光子先輩が言ったように嫌なほど静まりかえっていて人の気配なんて全く感じられない。聞こえるのは風の音とその風によって揺らされた木々のざわつきくらいだ。

 「っ!? 皆下がるんだ!」

 門田先輩が叫び一人前に出て門田先輩の武器である鞭を振るう。そしてピシッという音と共に俺達が向かっていた入り口の陰から飛んできた何かを弾いた。弾かれた物体はそのまま飛んできた方向に吸い込まれるように戻っていく。

 「そこにいる人は出てくるんだ」

 鞭を振るった後に門田先輩は構え直して俺達も入り口の近くにいるであろう敵に注意を向ける。

 「今の完璧に一人くらいヤレたと思ったんだけどなぁ~」

 暗くなっている所から俺達に攻撃をくわえてきた敵の姿が徐々に見えてくる。長く黒いローブを羽織っており、顔は見えるようにフードはとっている。眼鏡を掛けて目の下にはクマもできている。歳は20代後半といったところだろう。どうやらこの不健康そうな女の人が攻撃してきたようだ。

 「茜学院長、皆を連れて城に入ってください。あいつは僕が止めます」

 「分かったわ」

 門田先輩の男気で俺達は先に行くように促す。そして姉ちゃんは頷き走って城の内部を目指す。その後に俺と桔梗先輩と光子先輩も続いて走る。

 「行かせるわけないじゃない」

 そう小さく女は呟くとローブから武器を持った手を出して先程攻撃したやり方と同じだろう、紐のさきに付いた刃物らしき物をくるくると回し、一番先頭を走る姉ちゃんを狙う。だが姉ちゃんにそんな単純な攻撃が効くはずもなく実体化させた剣を振るい跳ね返した隙をついて横を通り抜け中に侵入する。そして姉ちゃんに気をとられている隙を今度は俺達がついて桔梗先輩が女に一発パンチを入れる。そしてがら空きになった入り口を俺と光子先輩は通り抜ける。

 「真白君!」

 俺が入り口をちょうど超えた時に後ろから門田先輩が叫んだ。その声に俺は振り向く。

 「マナちゃんを絶対助けろよ!」

 「門田先輩・・・・・・当たり前ですよ!」

「・・・・・・まずい!」

その声援に俺は一言だけを返した。そして姉ちゃん達の元に向かおうとした時に壁で隠れて見えなかったが、桔梗先輩に吹き飛ばされた女が武器を持って急に現れた。

「クラエ」

俺は咄嗟のことで魔法を使えず全身を守るために右腕と左腕を合わせてガードする。そして女が刃物をこちらに投げようとした時、門田先輩の武器である鞭が女の手首を取り状況を回避できた。

「っ!」

「君の相手は僕だろ? さぁ真白君、助けに行くんだ!」

「ありがとうございます!」

俺は感謝を言葉にしてから奥の所で待っていた三人と合流をするために走る。



「さぁ、こっちはこっちで戦闘をしよう。僕も皆に追いつきたいからね」

そう言い門田は手首から鞭を解放させて一定の距離をあけて構える。

「あんた、名前はなんて言うの」

「門田健太ですよ、そういう貴方の名前は?」

「川上明」

川上は眼鏡を掛け直して門田の方をじっと見つめる。

「ねぇ、門田さん。そんなことより一つ聞いていい~?」

 「なんです、この僕に質問ですか?」

 門田はキャラを崩すことなく優雅に髪をなびかせながら返事をする。だがそのキャラに突っ込むことなく女は質問を続ける。

 「そ、その・・・・・・君と、あ、あの、お、男の子は付き合ってるの!?」

 「へ・・・・・・?」

 敵の女は息を荒くして心配してしまいそうなほどに眼も見開いている。

 「そ、その。川上さんは何を言っているんですか?僕と真白君は男同士で付き合ってなどはないですよ」

 「え・・・・・・」

 門田の一言に川上の顔色が一変した。さっきまでは日の光を浴びてないような色白な肌は門田の話を聞いてから青ざめてしまっている。

 「あ、あの・・・・・・?」

 「・・・ソだ」

 「へ?」

 「ウソだ、ウソだウソだウソだウソだウソだウソだ!!」

 「・・・・・・」

開いた口が塞がらないとはこの事だろう。門田はあまりのキャラの変貌についていけず口を開けたままぽかーんとしてしまっている。だがそんな門田に気を止めることなく川上は言葉を続ける。

 「そんな事はない! さっき呼び止めた時だって二人は恋をしている眼だった!」

 「いや、あれは友情みたいな物であって恋とかの類いでは――――」

 「でも君達が城門から入ってくる時そばに立っていた!」

 「それはたまたま――――」

 「私がわざと攻撃しようとした時も素早く攻撃を防いで愛のある眼で見ていたわ!!」

 「いや、仲間なら当然、ってわざと攻撃しようとしていたのか!?」

 「イヤだ、イヤ、イヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤ!!」

 川上はその場に叫びながら座り込んでしまい頭を抱えてプルプルと震えてしまっている。そんな川上を見つめながらどうすればいいか門田が困っていると川上がは何かを閃いたように顔を上げ立ち上がる。

 「貴方のような人は、調教する・・・・・・」

 「へ・・・・・・?」

 あまりの恐ろしい雰囲気と威圧を醸し出しながら一歩一歩近づいてくる川上とは反対に同じように一歩一歩後ずさってしまう。

 「貴方のような人には力で教えます! 何が本当の愛なのかを!!」

 「や、やられてたまるか・・・・・・」

 川上が戦闘モードに入り、門田も覚悟を決めて武器を構える。そして女帝達との最初の戦闘が始まった。



 俺達はあの後女帝が最上階にいるだろうとの予想をして上をとにかく目指していた。門田先輩と別れてすぐに聞こえてきた女の人の叫び声が気にはなるが今は先を進む。そして階段を上りきって最上階の廊下についた。いくつもの部屋を無視して奥に進むと他の部屋とは違い少し豪華な建物が廊下の真ん中にある。そしてその扉の前で立ち止まり皆と目を合わせてうなずき合ってから同時に扉を開けて中に入る。部屋は大きくダンスパーティーなんかも開けそうだ。そして部屋の中央には二人の男が立っていた。一人は大剣を地面に突き刺して体格もいい、魔法よりも剣術で戦う人間だろうがもう一人の男は本を持って眼鏡を掛けて杖をすでに持っている。

 「やっと来たじゃないか、待ちくたびれたぁああ!」

 「公平、まぁそう言わないでこれで戦えるんだから」

 公平と呼ばれる体格の良い男が大きくのびをしながら悪態をつくのを細い眼鏡の男がなだめている。どちらも威圧感などから強い相手だと言うことが認識できる。

 「貴方達も女帝の仲間ね」

 姉ちゃんが剣を引き抜け切っ先を相手に向けながら言う。

 「当たり前だろ。んで、誰から俺達と戦ってくれるんだ?」

 (真白君、そのままで話を聞くんだ)

 「何を言ってるのかしら。大体あんた達が敵う相手だと思ってるの?」

 姉ちゃんが相手の注意を引きつけて放している、その成り行きを見守っていた俺に桔梗先輩が静かに相手の陰になる位置から話しかける。桔梗先輩に言われたとおり俺はそのまま姉ちゃん達の会話を聞いてるふりをしている。

 「そりゃ分からねえが、戦闘を純粋に楽しめそうだって事は分かるさ」

 (学院長が戦闘の態勢に入ったら私と光子でなんとか道を切り開く、だから君は茜学院長と共に奥の扉に進みこの事件を止めてくれ)

 姉ちゃんがいると言われても責任重大だな・・・・・・というよりもここにいる時点で責任の重さは変わらない、か・・・・・・よし!

 俺は改めて気合いを入れ直して俺の向かう扉を確認する。

 敵は前線で戦うガタイのいい男さえどうにかできれば魔術師の方は押し通れるだろう。ここは桔梗先輩と光子先輩を信じて突っ切る。

 「それで、作戦会議は終わったかい?」

 どうやらこちらの考えはすべて分かっていたようで魔術師は眼鏡をあげて言い放つ。

 「あら、ばれてたの。じゃあ遠慮なく行くわよ」

 姉ちゃんのその一言でこの場にいた全員が自分の武器を構え戦闘態勢に入る。そして嫌な空白の時間が流れる。その無の流れを断ち切ったのは桔梗だった。桔梗は茜の陰から飛び出しそのまま公平を殴りにかかる。だが公平も大剣でその攻撃を防いだ。桔梗の拳と公平の大剣の交わった音を合図として全員が行動を開始した。

 「おらぁぁあああああああ!!」

 「ふんっ!」

 桔梗先輩はこっちに気を向けれないほどの勢いで相手に攻撃を行なう。その横を俺と姉ちゃんは全速力で通り抜ける。だが通り抜けた先には魔術師が詠唱を完了させてこちらに向けて魔法を放った。

「フレイム・スピア!」

 魔方陣から出現した火を纏った槍が俺目掛けて飛んでくる。俺は極力体力を温存するためにぎりぎりで避けるがすでに敵は次の魔法を構え放ってくる。

 「ファイヤーボム!」

 「っ!?」

 敵はファイヤーボムを放つことで俺と姉ちゃんの猛進を止めようとする、姉ちゃんは剣で攻撃を加えて自分に爆発が直撃しないように前に進んでいくが、俺はフレイム・スピアを避けた事で剣を振れる体勢にない。このままだとボムが直撃してしまう。いくら第2式の術といっても直撃はダメージがでかすぎる。なんとか千鳥でガードしようとするが間に合わない。

 くそっ・・・・・・

 「稲妻落とし!」

後ろから聞こえた声の後、凄まじい早さで上から下に電撃がほとばしる。そしてその電撃のおかげで放たれたボムが全て爆発してなくなる。

 「今だ~ましろっちいっけ~!」

 「桔梗先輩、光子先輩ありがとうございます!」

 そして俺は体勢を立て直してそのまま扉に向かって走る。

 「させるか、ファイヤーボ――――」

 「あんたにさせるか!」

 「なっ!」

 俺に向かってファイヤーボールを速攻で放とうとしていた眼鏡の男は姉ちゃんの存在を忘れており、思いっきり顔をぶん殴られた。そして眼鏡は思いっきり空中に舞ってそのまま墜落した。

 うわ、痛そ・・・・・・

 だが敵に同情している暇はないのでそのまま扉まで走る。そして姉ちゃんの開いておいてくれた扉に駆け込み、中に入ると同時に姉ちゃんが閉める事によって俺は女帝の存在する所に近づいた。



 「はっ!」

 茜に扉を閉められた公平は大剣を払い桔梗を遠くに遠ざけ少しの余裕を作る。

 「無事二人を送り届けることができたな・・・・・・後はお前ら二人だぞ」

 「どうやら頭は緩いようだな、お前程度に俺が足止めされるかよ。あの二人は俺じゃあ到底勝てないさ、けどお前ら二人なら俺と健太郞がいれば余裕で勝てるんだよ」

 「ほう馬鹿にしてくれる・・・・・・その健太郞さんは私達の大将にやられて地面にキスをしているが?」

 「な!?」

 公平は驚きのあまり後ろを振り返り健太郞の方を見るが扉の前にいたはずの健太郞の姿を探すと桔梗の言った通り少し扉から離れた所で地面に突っ伏しており、開いた口が塞がらなかった。

 「少し、時間をくれねぇか・・・・・・?」

 そして公平は桔梗の方に向き直り頭を下げる。そんな姿に桔梗も警戒を解いて「どうぞ」と許可した後に仁王立ちした。そして許可を貰った公平は健太郞に近づいて寝転がっている健太郞の服を持って無理矢理立たせる。

 「おい! 起きろ!」

そしてそのまま健太郞のほっぺたを右左にいい音をならしながら叩きまくる。そして5往復くらいしてようやく健太郞は薄めを開き覚醒する。

 「ん・・・・・・え、何? てかほっぺたが痛い!!」

 覚醒した健太郞はすぐに自分で立つことができたが公平にずっと叩かれていたほっぺたを押さえながらあまりの痛さに悶絶してその場にうずくまってしまう。

 「そりゃ痛いよね~毎日剣を振り回している茜学院長のパンチ受けた後にそんな筋肉がすごい腕で何回もぺシペシされたんだから~」

 光子もほっぺたを触りながら苦虫を噛みつぶしたような顔で健太郞を同情しながら見ている。

 「さぁ、起きたんだから始めようか」

 「すまんな、これで全力を出せる」

 「桔梗ちゃ~ん、サポートは任せて~!」

 「あぁ、サポートを頼む」

 そしてこの4人の戦闘の幕が開いた。



 扉の先も広い空間が続いていた。扉から真っ直ぐ赤い敷物が敷かれており、その先には王様が座るためにある椅子が用意されている。そしてその椅子に羽根付き防止を被りブーツを履いている一人の男が鎮座していた。

 「女帝はどこかしら、早く教えなさい?」

 その敵に姉ちゃんは刃を向け問いただす。だがその程度で答えるはずもなく何を思ったかその男は拍手をした。

 「は?」

 思わず疑問が口から出てしまった俺に何か返答を返すことなく男は続ける。

 「いや~良くここまで来てくださいました。私は石原寿稀と申します。エリィ様はこの先にいらっしゃいます。ですが、この先に行ってもいいように許可をいただいているのは真白様とマリ様だけです。」

 「へぇ~なら私は?」

 「僭越ながら私が相手をさせていただきますよ、レディ」

 石原は帽子を取り胸に当ててお辞儀をする。

完璧に俺も姉ちゃんも苦手なタイプの相手だ。

 「えっと・・・・・」

 俺は通してくれると言っているので先に進もう、そう考えて奥の扉に向かおうとした時姉ちゃんに肩を掴まれる。

 「あんた何処行こうとしてるのよ」

 「いや、その~通してくれるって言ってるし・・・・・・」

 思った通り姉ちゃんも苦手なタイプのため一人で相手をしたくないのだろう、俺の肩を意地でも離さないつもりかめちゃくちゃ痛い。

 あ、これは明日アザかな・・・・・・

 「私を裏切る気?」

 「いや・・・・・・」

 やばい、姉ちゃんの目がマジすぎて怖い!しかも徐々に手の力が高まってきてるって!マジで痛いです、戦闘前に肩壊れます・・・・・・

 「おやおや、仲間割れですか。ちなみにですが、マナ様もこの先にいらっしゃいますよ?」

 男は笑みを浮かべながら俺を見ながら言う。

 マナが、マナが近くにいる・・・・・・

 「姉ちゃん!」

 「・・・・・・はぁ、なら仕方ないわね。さっさと行って助けてやりなさい」

 「ありがとう!」

 姉ちゃんはため息をついた後に笑顔で俺を送り出してくれた。その笑顔を見た後に俺は奥にある扉まで近づき開けてみると、扉の奥は階段となって下に向かう事になっている。俺は迷わず階段を下りこの先に待つ女帝とマナの元へ向かった。



「二人きりになったところで話があるのですが」

 「何よ、私をナンパしようっての?」

 寿稀の予期せぬ言葉に茜は顔を思わずしかめてしまう。

 「貴方方はエリィ様の崇高なお考えを知った上でこうして邪魔をしに来ているのですか?」

 「崇高な考え・・・・・・?」

 「はい」

 寿稀は胸に当てていた帽子を被り直して言葉を続ける。

 「貴方も知っているでしょう、精霊王がエリィ様を殺害しようとなさった事を」

 「だから何」

 「その殺害方法はご存じですか?」

 思わぬ質問に茜は考え込んでしまう。確かに女帝が精霊王によって殺されかけたという話は聞いている。だが、その殺害方法などの詳しい話は全く聞いたこともないし資料として見たこともなかった。

 「どうやら知らないみたいですね・・・・・・精霊王はある実験に関与していたんです。その実験は『神の召喚』です」

 「そんな無茶苦茶ありえないでしょ、神を、しかも召喚するなんて」

 「そうです、普通に考えたらありえないことです。ですが精霊王は神を召喚し、自分の下僕として扱おうとしていたそうです。そして勿論召喚は失敗に終わりその失敗の副作用として今なお魔物が出現しているんです。そして先程言った殺害方法ですが、強力な固定魔法を持つ精霊を強制的に集めて魔物の出現を止めるための実験材料として殺してきたんです」

 「それが本当だとして何であんたは女帝につくの?」

 茜が投げかけた質問に男は鼻で笑った後に答える。

 「そんなのは簡単です。エリィ様の考えに賛同しているからですよ。私は8年前に親、弟をとある事が原因でなくしました。分かりますよね? 突如魔獣が現れて私の住んでいた村を壊し、そこに住んでいた人達を私以外圧倒的な力で殺していった!」

 俊稀は先程までの冷静な話し方とは違い、激しく興奮し吐き捨てるように話していく。

「そして生き残った私はなんとか街までたどり着きましたがお金も何も持ってない薄汚れたガキは誰にも相手にされませんでした。そして生きていくために仕方なく盗みなんかを働き、裏稼業で生きていくようになりました。そしてそういった仕事をしていると耳に入ってくるんですよ。その魔獣は精霊王が生み出した物だって、そしてもう一つ聞こえてきた情報がありました。それは精霊王に変わり精霊界を変えようとしている組織があると・・・・・・即座に私は見つけ出した。私は世界を変える事なんてできない。ですがあの人なら私達の復讐も世界を正すこともしてくれる、そう私は考えているんですよ!!」

「・・・・・・」

「これが、私のあの人に仕える理由です」

未だに興奮冷め止まない寿稀は肩で呼吸をしながら、茜をじっと見つめながら説明を終えた。茜はただ単に立ち尽くし聞いた。その状態の茜に疑問を抱いた寿稀が質問をする。

 「どうですか、精霊王よりもこちらにつくことが正しいと言うことが分かったでしょう。さぁ今からでも遅くありません、私達と新しい世界を作りましょう」

 「・・・・・・そうね」

 茜が納得し寿稀の側に行こうとしたとき、右手にあるドアに何かがぶつかった音が微かにした。そしてそのドアが開くと服が血まみれで所々が斬られている女の精霊が倒れこんできた。すぐさま茜は近づいて魔力を与えて回復力を高める応急処置を行なう。そして少し落ち着いて苦しみの表情が和らいだのを見て寿稀に問う。

 「この精霊は、どうしたの・・・・・・?」

 「あぁその精霊ですか?精霊王を渡せって言っても全く通そうとしなかったので少し痛めつけたんですよ」

 「あんたの目的は精霊王だけじゃなかったの?」

 「えぇ精霊王ですよ、ですが、考えてもみてください。人間をあれだけ殺しといて精霊は全く被害がないなんておかしいですよ。これは精霊王に対する報いですよ」

 ケラケラと笑いながら言う寿稀を見て、茜は一つの嫌な考えを思い浮かんでしまう。それが現実かどうかを確認するために寿稀に問う。

 「まさかとは思うけど街が静かだったのは・・・・・・」

 「ははは、あれだけで終わらせたんだから感謝して欲しいくらいですよ。隠れながら何人も痛めつけるの大変でした」

 「っ!・・・・・・医療班を動かして!」

 茜はポケットに入れているアミュを取り出し学院に連絡を取る。

 「こんな事もあろうかと一応特別部隊を組んでいて正解ね」

 「準備がよろしいですね、まぁもう十分痛みは与えたしどうなろうが私の知るところではないので」

 アミュをしまいながら言う茜に対して寿稀は背を向けながら首を横に振り返答をする。

 「これは、女帝の命令なの?」

 「いえ、これに関しては私の個人の判断です。仲間の中で知っている人はいないでしょう」

 「そう・・・・・・なら、罪のない精霊をいたぶった貴方だけは許せない。捕らえます」

 「残念です、仲間になれない上に私の秘密も知られてしまったら貴方は生かしておけない。貴方も殺します」

 寿稀は武器である長剣を実体化させ装備する。茜も改めて剣を構え直して戦闘状態になる。そして寿稀から攻撃を仕掛け戦闘が開始した。



(シロさん大丈夫ですか?)

 「だ、大丈夫」

俺は一人狭くて一定の間隔に配置されたかがり火しかない階段を降りている。マリが話しかけてくれているがこの先に待ち受けている戦いのことを思うと少し恐怖感がある。そしてマリに応援されながら階段を降りてようやく一つの扉の前にたどり着いた。

(私はいつでも準備ができています!)

千鳥の姿のまま心意気を話したマリに向けて一度頷いてから俺は扉を開けた。ギーッという音と共に中に入る。そこにはあの城の何階にここまででかい空間が存在したのか分からないほどに広かった。たぶん広さ的には城の面積と同じほどだろう。 そして一番最初に視界に入ってきたのはこの広い空間の真ん中に書かれた魔方陣の中に倒れた人影だった。

「あれは・・・・・・」

俺は薄暗い中誰かが倒れている魔方陣に近づいて走った。そして魔方陣の中にいた人物は王冠やマントなどの装飾品をつけており、考えられると思われる人物は精霊王だった。

「大丈夫ですか!」

精霊王に目立った外傷はなく、今もどうやら眠っているだけのようだ。

「よかった、傷はないみたいだな」

「あら、傷がないのは今だけよ」

精霊王の確認をしていると後ろの方から誰かが歩いて近づいてくる。暗くて相手の顔がよく見えないがこの声は・・・・・・

(お姉ちゃんです)

「これじゃあ暗すぎて顔も見れないわね」

そういうと女帝は右手を挙げて合図をする、すると空間を包み込むように配置されていたかがり火に火がともり急に明るくなる。そしてようやく相手の姿を視認できた、そこには女帝ともう一人俺と同じくらいの歳に見える男が立っていた。

「ここは精霊界だから実体化も魔力は使わないわ、さぁマリ。実体化して?」

(シロさん)

「勿論」

マリがこちらに確認をしてきているようなので俺は一度頷き反応を返す。そして精霊化をといてマリは実体化した。

「姉さん」

「あぁマリ、可愛い私のマリ!」

マリが実体化をしたとほぼ同時にエリィはマリを抱きしめる。突然の事でマリも最初は驚いているようだったが数日ぶりの出会いをまた心から喜んでいるようだった。姉妹の愛を確かめているのを横目に俺は女帝のパートナーを確認する。女帝のパートナーは二人を無表情のまま見つめていたが俺の視線に気付いたのか俺と視線が合った。

「エリィ、あいつを先に連れて行っておくぞ」

「えぇ、直ぐに行くわ」

そして俺から視線をそらして女帝の方を見た後によく分からない了承をとった。そして俺にもう一度視線を送った後に「ついてこい」とだけ冷たく言い放ち半回転して二人が来た方向に帰って行く。何を考えているかがいまいち分からない奴だが、見た感じ俺をどうこうしようとした感じでもなさそうなので素直に後をついていくことにする。そして律儀にも扉の前で待っていた男の所まで走って向かう。そして俺が追いついたのを見てから男は扉を開放し中を進んでいく。扉の中は通路になっており一直線に進んでいく。

だがそこには何の会話もなく気まずい・・・・・・この空気をどうにかするために俺は自分から質問をする。

「えっと、俺の名前は矢頭真白。君の名前はなんて言うの?」

「竹内大輔だ」

「よ、よろしく」

「「・・・・・・」」

そしてそのまま俺は質問が何も思い浮かばずに会話が完璧に止まってしまった。俺の会話力のなさに後悔をしている。もっとたくさんの人と話しとけば良かった・・・・・・

「お前は、何故ここに来たんだ」

一人心の中で落ち込んでいた俺に対しての突然の質問に少し動揺してしまう。だがここで怯んでる姿を見せては駄目だと感じて俺はできる限り平然を装いながら返答する。

「大事な精霊を返して貰うためだよ」

「なるほどな良い答えだ。大切な者の為に命を使えるのは幸せだからな」

そう答える男の後ろ姿は何故か少し寂しそうに見えた。

「何でそんな気持ちになれる奴が女帝についたんだ? お前らは今テロを起こしてるんだぞ?」

 俺の問いを聞いた男はこちらを振り返る。その顔はやはり無表情のままだ。そしてそのまま立ち止まり話を始める。

 「エリィだからだ、お前もあの二人の契約者ならエリィがどんな仕打ちを受けたか知ってるだろ」

 「それは知ってるよ、だからって・・・・・・」

 「この後エリィが話すさ、その時にお前も俺達の目的が分かる」

俺は話したいことをうまく言い表せずに拳を強く握りしめて黙り込んでしまう。そんな姿を見た男はそうとだけいいまた先を目指して歩き始めようとした時後ろから追いついた女帝とマリの声が聞こえた。

「あら追いついちゃったみたいね」

「シロさん!」

俺を見つけたマリは俺の側まで走り寄って隣につく。そんなマリの頭を撫でた後に女帝を見て質問をする。

「女帝、いやエリィあんたはなんでこんな事をしている」

基本的に姉ちゃんが教えてくれた情報からして残虐な事をしようとしている訳ではないことは分かる。だがだったら何故こんなテロを起こしたのかが全く分からない。俺はまっすぐエリィを見る。エリィも俺を見返して口を開く。

「その話は後よ。今はこの先に用があるの」

そうとだけいい俺の横を通り竹内の横に並んで歩いて行く。俺とマリもそれに遅れないようについていく。そして目的地の扉が見えその扉の前で一旦二人は止まって俺達の方を見る。

「さぁ準備はいいわね?じゃあ扉の前に立って」

そして無理矢理俺達を扉の前に立たせて竹内と息を揃えて扉を開放する。

「「あっ!」」

開かれた扉を見て俺とマリは同じ反応をしてしまう。目の前には俺達が探していたエリィとマリの姉妹で俺の契約精霊でもあるマナが椅子と机を使って行儀良く本を読んでいた。

「ま、マナ!」

俺は叫んでしまいマリは開いた口が塞がらないままその場に立ち尽くしてしまう。あの日攫われてから探していたマナが本当にいる・・・・・・

そして俺の声を聞いてマナがこっちを向く。そしてこちらに気付いたマナは本を机の上lに置いてこちらに走って来て俺とマリの前に立ち

「やっと、会えた」

そう言いマリと俺の服の袖を片手ずつつまんでいる。だがつまんでいる手もマナの体もプルプルしている。そんな姿を見て俺もマリも我慢していたが限界に達して涙をこぼしてしまう。

「マナ、ごめんな。あの時は本当にごめんな」

「私もごめん、ね」

俺もマリもマナを抱きしめる。そしてマナもさっきから我慢していたのだろう泣き始めてしまう。

「辛かったよな、一人だけ連れて行かれて・・・・・・俺が力不足で、本当にごめんな」

そう言いながら俺はマナもマリも強く抱きしめる。

よかった、本当によかった。

そしてそのまま2分くらいでようやく二人の涙は収まりかけて少し落ち着いた。

「もう、大丈夫」

 マナの言う通り俺はマナから離れて立ち上がる。

 「あら、もういいの?」

 「あぁ」

「来て」

俺が返事をすると女帝と竹内は来た道を引き返していく。俺はマナとマリと一緒にその後を追いかける。そして精霊王が倒れている部屋まで帰ってきた時、女帝は精霊王の下に向かいながら話しを始める。

「貴方さっきなんでこんな事をしてるのかって聞いたわよね」

「あぁ」

「私達は別に王様になったり、誰かを殺そうとしてる訳じゃないわ、勿論精霊王も例外でなくよ」

「じゃあなんでこんな事・・・・・・」

俺達は精霊王の元まで辿り着き、女帝は少し間を開けてその質問に答える。

「皆に現実を見せる為よ、魔法解除」

そして女帝が睡魔の魔法をかけていたのだろう、魔法を解除すると今まで寝ていた精霊王が目をゆっくりと覚ました。

「これで役者はそろったわ、私の本当の目的はこいつに本当の事を姉妹そろって聞き出すことよ」

「本当の事?」

「うっ・・・・・・」

精霊王は目眩でもするのか頭を抱えながら倒れていた体を起こす。俺は精霊王に近づいて肩を貸して立つのを手伝う。

「ねぇ精霊王、いやお父様」

「・・・・・・」

そう、エリィとマリとマナは皆精霊王の実の娘だ。俺はここに来た時、姉ちゃんの情報を聞いて何で女帝は人を殺さないように遠ざけたりしたのかが疑問だった、そして昔マリに話して貰った精霊王との関係性などを聞いた時から、自分がそういう状況なら『何故親が自分を殺すような事を命令したのか、その命令は本当に親がしたのか』が気になると思う。女帝は敵の陣地にも堂々と訪ねてくるような大胆なやつだ。ならテロを起こしてその真実を聞くくらいやるのではないかと仮説を立てていた。

そして女帝は何も言わず頭痛がまだ続くのか頭を抱える精霊王に、精霊王が密かに行なっていた実験や精霊を殺していた事を話した。

「それは違う!儂は強力な魔法を持つ精霊達を殺そうとしたわけではない!」

「じゃあここにある魔方陣は!? 貴方は母様を生き返らせたい一心でできもしない神を呼び出そうとして副作用で生まれた魔物達を消すために強力な固定魔法をもっている精霊を使って殺したんでしょ!」

「ちょっと、二人とも待って、落ち着いて話しましょう。このままじゃあお互いがお互いの話を聞かないまま中が悪くなってしまいます」

明らかに不穏な空気が流れる状況を俺は変えるために言葉を挟む、そして二人とも一旦落ち着きまた話し合いが始まる。

「エリィ聞いてくれ、確かに私は神を呼び出そうとこの魔方陣を描いた。そして確かにその副作用で魔物達は生まれた。そしてその魔物達を討伐して貰うために集めたのじゃ」

「じゃあ私みたいに強力な固定魔法を持っている捕らわれた精霊達は何処よ」

「今現在も魔物が現れたとされる街に行き討伐を行なっておる。だが勿論負けて死んだ者もいるのは事実だ」

 という事は女帝が知っていた話は何処かで着色されて王様が集めて殺したとなっているが、自分の失敗を何とかしようと早めに動いた結果強力な固定魔法を持つ精霊達に頼って魔物を討伐する第一陣としたわけか。

 「でも実際に精霊は死んだし多くの人間も死んだわ・・・・・・なのにお父様は何事もなく生活して人間界と精霊界を繋ぎ、人間界のピンチを救った英雄だと思われてるのよ?」 

 「勿論死んだ者達には悪いと思っている。だからこそ謝り―――――」

 「謝っただけ!?命をなんだと・・・・・・やはり貴方はここで・・・・・・大輔、戦闘モード!」

 女帝はそう言うと竹内の元に行く。竹内はトランスをして武器である剣を実体化させた。

 「エリィ待て、最後まで話を――――」

 「待ちません、貴方を信じてたのに・・・・・・殺す気なんてなかったのに!!」

 精霊王の話には聞く耳を持たずに女帝は竹内の剣となる。

 「マリ、マナ。絶対にお前らの姉を止めるぞ!」

 「はい!」

 「もち」

 そしてマリとマナも俺の千鳥と朱雀となり戦闘態勢に入る。

 「竹内、女帝、あんたらが精霊王を狙うというなら俺達を倒してから狙え!精霊王は離れていてください!」

 精霊王が離れようと後ろに走って行っている姿を竹内は狙って攻撃を仕掛けようとした、その竹内を止めるべく俺は正面に入り千鳥を脇腹目掛けて振るう。そして千鳥の攻撃を受けないために竹内は一度後ろに下がり攻撃を避けた。

 「なるほど、お前から狙わせてもらう」

 「こっちも全力でいく!」

 そして俺達の戦いも始まった。


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