第三章 もう一人の契約精霊(3)
『3年前 中等部時代』
ターミナル魔法学院中等部に入学しもう3ヶ月が過ぎ、先輩達も通ってきた試験を受ける日が近づいてきた。今までは座学を学んでいたがこれからは魔術の訓練も行なう為に自分の契約精霊が必要だと言われた。
「必要って言われてもどうやって契約しろって言うんだよ」
召喚の術を行い自分の契約精霊を精霊界から呼び出し契約を結ぶ。術式が自分と相性の合うパートナーを選んでくれるため滞りなくたくさんの人が契約を完了している。だが俺は召喚の術がうまくいかず未だに契約ができていない状態、用は落ちこぼれだ。
「あぁ~!なんでうまくいかないんだよ!!」
一人家への帰り道でつい叫んでしまう、すると前に小さい少女が後ろを気にしながら走っている姿が見える。そしてその少女が過ぎ去ってから少ししてもう暑くなってきているにも関わらず厚い生地のコートを羽織り、マスクを着用している4人組の男達が追いかけている。
「まさか、人さらい」
その現場を見てしまった俺は先回りをして少女を守るために裏路地を走った。
俺が追いついたとき路地裏の行き止まりで少女は捕まえられていた。
「やっと捕まえやしたよ!」
「よし、よくやった。いや~これで俺達は金持ちだな」
「は、離してください!!」
男達の一人が少女の腕を後ろに回して固定して反撃をできないようにしている。そしてリーダと思われる人物が前に出てポケットからガムテープを取り出して少女の口に貼り付けて話せなくする。
「んん!」
「これで一安心だな。じゃあ連れて行くぞ」
そう言うと少女を抱え上げて、一人が用意していた布状の袋に入れようとする。その現状を俺は路地の曲がり角から見下ろしていて内心焦りまくっていた。
いやいや、どうするどうする。俺。魔法はまだ練習してないから扱えないしあるのは剣くらいだが勝てるだろうか・・・・・・そんなの考えてる場合じゃない!
「待て!」
少女が袋の中に入れられる寸前で俺は飛び出し、腰に装備している剣を引き抜く。
「ああん?なんだガキやる気か!」
俺の姿を見て圧をかけてくる、正直めちゃくちゃ怖くて足がぶるぶるしそうだがなんとかこらえてしっかりと相手の動きを確認する。
「お前、別の所だな。こいつは渡せねぇぞ!」
男達は胸ポケットから銃を取り出して俺を威嚇してくる。少女も震えてしまっている。だがこの状況を打開する案なんて・・・・・・
「す、すいません!か、帰ります~!」
そう言い俺は目の前の男達から逃げだし、塀を乗り越えて男達が現在いた行き止まりの所に壁一つ挟んでだが奇襲できる位置についた。
「袋にいれました、準備は完了です!」
「よし、じゃあ急ぐぞ」
男達の声が聞こえて、俺は思いっきり塀を乗り越えて後ろ姿を見せている3人の男を流れるように峰打ちして意識を失わせる。
「このガキ!」
しまっていた銃を取り出そうとした男が胸ポケットに手を入れた瞬間に俺は行動して一発打撃を喰らわせる、そして鳩尾に剣の柄で殴るとその場に倒れ込み気絶してしまった。
そして俺は袋を開けて女の子の口についていたガムテープを取ってやる。そのまま手を引きこの危険地帯から逃げるように去った。そして大通りに出て少なくとも安全な自分の家に逃げ込もうと走るが少女が俺の掴んでいる腕にブレーキをかけて止まってしまう。
「どうしたの?」
「すいません、こっちに来てください!」
そして今度は少女に連れられるままに大通りとはほど遠い森の中にある湖にまで逃げてきた。
「マナ!大丈夫、出てきて!」
そして息をつく暇を与えずに少女は湖の横にある洞窟の中に大声で叫ぶ。
「お姉、ちゃん・・・・・・?」
すると奥から歩く音がした後に助けた少女と同じくらいの歳のマナと呼ばれた少女が出てきた。
「その人、誰?」
マナと呼ばれる少女は襲われていた少女におびえるように隠れながら問う。
「大丈夫この人は私が襲われている所を助けてくれたのよ。本当にありがとうございます!私の名前はマリと言います。この子はマナという名前で私達は精霊です」
マリという少女は丁寧に挨拶をしてくれた、それに対して俺も礼儀としてしっかり返す。
「俺はターミナル魔法学院中等部1年生の矢頭真白って言います。言いたくないかもだけどどうしてあんな奴らに追われてたの?」
「その・・・・・・ご存じだとは思いますが、精霊は人間の契約者がいないと魔力が足りなくなるため人間界で最終的には消失してしまいます。そして深くは言えませんけどある人達から逃げるために妹は魔法を使ってしまいました。今は気分が良いみたいですが魔力の量としてはもう底を・・・・・・」
そこまで言ってマリは言葉に詰まり涙を流し始めた。流れる涙を拭うマリの頭をマナが優しく撫でている。
「おい本当にこっちなんだろうな!」
「へい、学生服を着た少年とちびっ子が手をつないでこっちにきたそうです」
そんな子達を目の前にして俺がどうしようかとオドオドしていると俺とマリちゃんが走って来た方向からさっきの男達の声が聞こえる。どうやら男達に食らわせた一撃ではそこまでダメージを与えれらていなかったようだ。声を聞いた限りではだいぶ近くまで来ている。見つかるとこの二人がさらわれてしまうため、二人を先導してさっきまでマナちゃんが隠れていた洞窟へと向かう。
「真白さん・・・・・・」
マリちゃんが俺の制服の裾を掴んで心配そうな目で見つめてくる、マナちゃんも俺の制服の裾を掴んでこっちは無表情で見てくる。
「大丈夫だよ」
そんな二人の頭を軽く撫でてこれからの打開策を考える。
一番良いのはこのまま何もなくあの犯罪者共が逃げていく事だがそうもうまくいかないだろう、最悪の事態を考えて俺は上着の内側にある護身用で持っている短剣を構える。
「ここら辺は全部見ましたぜ、さっさと先に進みましょうよ」
「そうだな」
そしてそのまま犯罪者が別の所に行こうとしているのを見て俺は構えていた短剣から手を離す。手汗がひどくその手汗をズボンの袖で拭いて一息つこうとした時犯罪者のリーダーの男が声を上げる。
「おい、あの洞窟は誰か調べたのか!」
男の発言にそこにいた子分達は誰も反応しない、その姿を見て男は隠していた銃を取り出して構えながらゆっくりと近づいてくる。
「そこにいるならゆっくり手をあげて出てこい、そうすれば命の保証はしてやる。お前らも構えろ」
どうする、さっき勝てたのは奇襲がうまく成功したためだ、だがこんな逃げ場のない所で遠距離武器の銃を相手なんかにすると出た瞬間蜂の巣だ。男はここに俺達が入るのを気付いているのかのようにずっとこっちを見続けてゆっくりと仲間を引き連れて近づいてくる。
「くそ、こりゃやれて一人だな・・・・・・」
俺が迷っているときに制服の裾が引っ張られる。その方を見るとマリがさっきの心配しているような顔ではなくて何かを決意したような顔でこっちを見ている。
「真白さん、私達と契約してください」
「私達って・・・・・・」
精霊契約は一人っていうのがマナーであり鉄則のはずだ。この緊急事態だからって何を言ってるんだ。俺はマナちゃんの方も見てみるが無表情のままこっちを見ている。
「私とマナは少し特殊なんです。私達は二人で一人、そして私達の持っている固定魔法である『創造』は強大で普通の魔力では扱いきれません、それに二人分の魔力も必要となるので普通の人ではまず契約しても魔力切れで下手をしたら殺してしまいます。けど貴方と関わって貴方の魔力を感じて貴方にかけて見てもいいかとおもいました。どうでしょうか」
「どうでしょうかって・・・・・・」
こんなやりとりをしている間にも男達は銃を構えてどんどんと近づいてくる。
「私も、いい」
迷っている俺の裾をもう一度強く引かれた。確認すると今度はマナちゃんが引いており、無表情なのは変わらないが何処か決心した雰囲気を漂わせている。
その二人の姿を見て俺も、気持ちを入れ替える。
「分かった、俺で良かったら契約してくれ二人とも」
「分かりました」
「分かった」
二人とも頷いてマリちゃんが右手を持ちマナちゃんが左手を持つと下に魔方陣が浮かび上がりその光の中に3人は取り込まれる。あまりのまぶしさに目を瞑り開くと何処か分からない真っ白の世界に俺と向かい合うように二人の少女だけが立っていた。
「契約の意思のある者矢頭真白」
「契約に基づいて我らの質問に答えよ」
マリとマナは先程とは違う雰囲気で契約の儀式を進めていく。
「質問1,我らと共に敵を討つための意思はあるのか」
「勿論だ」
「質問2,何を守り何を願う」
「俺は・・・・・・この世界を守り、皆が幸せに生きる世界を作りたい」
「覚悟は受け取った」
「これが最後だ」
「最後の質問、汝は我らを大切な存在として扱い」
「死する時まで契約をすることを誓うか」
「誓う」
マナが言い切ったのと同時に俺がそう宣言すると目の前に立っていたマリとマナは光となり武器に変化した。そしてマリとマナの武器を手に取ると右手と左手から戦闘服へと変わり契約が終了する。
「これで私達は貴方の契約精霊です、よろしくお願いします。」
「あ、あぁ・・・・・・よろしく」
「私の剣は千鳥って名前です。今回は私もマナも武器になっているように見えたかも知れませんが実際は貴方の魔力で作った私達の武器を再現して今回はお邪魔させて貰ってます」
「私の銃は朱雀。バンバン撃ってね」
すごい、右手に持っている剣も左手に持っている銃もどちらも初めて使う違和感など感じないほどに馴染んでいる。そしてなによりも戦闘服になったからか動きやすく体が軽くなった気がする。
「あ、そうです。契約成功の記念として呼び名を考えても良いですか?」
「もちろん」
「シロでいい」
うーんうーん、と頭を刀のまま悩ませているマリちゃんを尻目にマナちゃんが俺のあだ名を決めてしまう。
「いいですね、よろしくお願いしますシロさん!」
「シロ、よろしく」
そのあだ名は紗雪が使っているんだが仕方ない、本人達も納得してるようだしもういいだろう。
「あ、私達は呼び捨てで構いませんので、さぁ戦いましょう!」
「あぁ、マリ、マナ。よろしく頼む!」
そして真っ白の世界から俺達は戻ると目の前には男達が銃を持ったまま立っていた。
「うわ、やべ」
「撃て!!」
「上に思いっきり飛んでください!」
マリの言葉が聞こえて腰をおとして思いっきりジャンプをする。するとものすごい高さまで跳べ、目眩を起こしてしまいそうになる。さっきまで俺が立っていたところに男達の放った弾丸が通過して岩と辺り鈍い音を出して埋まっている。
「私も使って、いいよ」
そして銃状態のマナが俺の意思とは関係なく銃口を敵の一人に向けて引き金を引いた。銃から放たれた弾丸は見事に相手に当たるとその相手が地面に倒れ込んでしまう。
「おい、マナ傷つけたら駄目だ!」
「大丈夫、あれ、魔力で撃った銃だから、気絶でダメージは、ない」
実体化していたらどや顔をしていたと思われるような自信満々の声でマナは答える。
「すげぇ・・・・・・」
「ちなみに言ってくれれば、どんな弾丸でも作る、睡眠とか、殺傷、とか」
「殺傷はしないようにしような!」
なんて怖いことをさらっと言うんだ、なんとなくだがマナのつかみ所のない会話に対する返しが徐々に理解できるようになった気がする。
「さて、じゃあ残りの奴も倒そう!」
「はい!」
「おー」
俺は重力に任せて地面に着地する。そしてその着地を狙って撃ってくる銃弾を横に動いて交わす。一気に距離を詰めてまず一番近くにいた一人を千鳥で峰打ち、そのままの流れでもう一人二人と徐々に人数を減らし、最終的にリーダーがまた残ってしまう。
「てめぇ、また邪魔してんじゃねえぞぉぉおおおおおお!」
男は右手で銃を撃ちながら俺の方へと走って向かってくる。それらの弾を俺はすべて避け、男の懐に入り込み相手のお腹に銃口を向ける。
「睡眠弾!」
「ん」
マナの気の抜けた返事を聞いて俺は思いっきりトリガーを引く、そして一発の銃声が鳴り響き、男はその場に倒れ込む。
「・・・・・・勝った?」
「はい、目の前の敵は一応皆気絶しているみたいです。初戦闘おめでとうございます!」
「おめでと」
マリとマナがそれぞれに褒めてくれる。俺の心臓は未だにバクバクと激しく動いており、深呼吸をして脳にしっかりと酸素を送り徐々に落ち着きを取り戻す。
「やった、怖かった」
そして俺は緊張の糸が切れ地面に座り込んでしまう、マリとマナも武器の形から人型に戻り俺を上から見下ろしている。
「やっぱりシロは、魔力をすごく持っている」
「はい、私達二人分のトランス、そして武器化に弾丸の作成。普通の人の魔力じゃ魔力切れで完璧にトランスは解けてますね」
「え、弾丸も魔力消費してるの!?」
「当たり前、じゃないと弾丸はどこから来るのか。精霊が契約者に魔力を提供なんてありえない」
俺の驚きにマナは当たり前と言った風に頷いて淡々と話した。
だとしたら弾丸を撃つときもしっかり考えないと駄目なのか・・・・・・攻めは朱雀で守りが千鳥と言うところだろうか、これが双子の強み、かな。
「とにかくだ、今は安全な場所に移動しよう」
「シロさん・・・・・・」
そう言いながら俺が立ち上がるとマリは俺の後ろを睨んでいる、マナもまた俺ではなく俺の後ろを警戒している。その二人の視線を追ってみたところ森の中の一つの木を見ているようだ。
「誰かいます」
マリがそう言うと木の後ろから一人ローブを深く被った人が出てくる。体の大きさからして男だろう。そしてそのがたいの良い人は何も言う事なく大剣を実体化させてそのまま走ってくる。
「トランス!」
俺ももう一度トランスをして千鳥と朱雀を実体化させて構える。思った以上に早く俺の目の前まですでに来ていた敵は上段から剣を俺に向かって振り下ろす。その剣を俺は千鳥で防ぐ、目の前で火花が散るがそんな物にびびっている暇はない。膠着状態にしたくない敵は一定の距離感をとる。
力比べをしていたら俺が負けていただろう、この時に敵が下がってくれたのは運が良かった。
強い・・・・・・
そして距離をとった敵は構えを解いてようやくローブの下から声を発した。
「その二人のうちどちらか一方を渡せ、そうすればお前と片方は見逃そう」
「はぁ?何言ってんの、誰かも分からないような人間に大事な可愛い契約精霊を渡してたまるか!」
今度は俺から攻撃を仕掛けて相手の懐まで全速力で入り、千鳥で脇腹を狙う。だがその攻撃は相手の剣によって簡単に防がれる。相手に攻撃のチャンスを与えないために俺は連続で右手から左手からと攻撃を続ける。剣がぶつかり合う風圧と激しい動きで敵のローブもとれる。ローブの下は想像通り男だった。短髪で首を見たら分かるくらい筋肉もすごい。素顔が見えたことを気にはせず男はそのまま戦闘を続ける。
「たった今生き残るためだけに結んだような何の意味も持っていない契約だろう、何故そこまでして守る」
「そんなもん契約して嬉しかったからに決まっているだろう。俺みたいな落ちこぼれでもこの子達は認めてくれたんだよ。そんな子達を守りたいと思うのは契約者として、人間として当然だろうが!」
そして俺が剣を振り上げて攻撃した時、今までずっとガードに専念していた剣に不意を突かれて千鳥は空中へと舞い上がり俺の後ろの方向にはじかれ地面に刺さった。
「マリ!」
俺は刺さった千鳥を見るために振り向いてしまう。だがその隙を相手は見逃すわけもなく、右手を捕まれて関節を決められて地面に倒される。
「威勢だけはいいな」
「クソ!」
俺はなんとかして逃れられないかジタバタと動くがどうにもならない。そして男は俺の頭を倒したまま鷲掴みして持ち上げる。
「なっ!」
そのまま男は地面に俺の顔を叩きつける。その姿を見てマリとマナが武器から人型へと姿を変える。マリは走って俺達に合流しマナと必死に俺の頭を掴んでいる屈強な腕を持って止めようとする。だがマナの細腕では止まるわけもなく男は俺の頭を掴み地面に叩きつけ数秒あける、という動作を止めなかった。
頭が砕けるように痛い、目の前に見える地面が少しずつ自分の血で赤く染まっていっているのが見える。あまりの痛さに意識も少しだけ遠のいてきた。
「そろそろどちらを差し出すか決めたか?」
男は一旦その動作を止めて、俺の顔を横向きにして確認する。いくら痛くてもこの質問の答えだけは絶対に決まってる。
「んなもん決めるわけねぇだろうが。バーカ!」
「よかろう」
男は俺の頭から手を離して立ち上がる、逃げる絶好のチャンスだが体が動いてくれない。そして男は大剣を構える。
「クソ・・・・・・マリ、マナ、逃げろ」
俺は地面に倒れ込んだまま二人に呼びかけるが二人は応じずに俺と一緒に逃げようと体を持ち上げ逃げようと試している。
「初めからこうしておけば楽だった・・・・・・」
男は大剣を構え直して今にも攻撃できる態勢となった。
「おい、二人とも逃げろ!」
「大丈夫です、あの人は私達を連れ去るのが目的なら攻撃はできないはずです」
そうマリは言い切り俺の腕を持って引きずりながらゆっくりと離れようとする。マナは俺の後ろに立ち攻撃を当てられないように手を広げてガードしている。
「小娘を避けて攻撃することなどはたやすい・・・・・・今度は小娘共に聞いてやろう、どちらか一方がついてくるならこのままの状態で見逃してやろう、どうだ?」
あの男の実力なら俺だけを殺す事は可能だろう、だが俺の命の代わりにどちらかを渡せなんてふざけてやがる。
俺が反論をしようと思い口を開こうとした時、俺の腕を掴んでいたマリの手に力が入った。俺は横目で確認するとマリは唇を噛みしめて一人考え込んでいた。マナも何も反応がないと言う事は葛藤しているんだろう、俺の命を助けるために・・・・・・
このまま何も話さなかったらどちらかが何処かへ行ってしまうと思った俺は言葉を発さずにはいれなかった。
「駄目だ、そんなの間違ってる。俺のために二人が犠牲になるなんてありえないぞ」
「「・・・・・・」」
「なぁ、マリ、マナ!」
二人に呼びかけても反応は返ってこない。
「ふむ、どちらも拒否するか、ならこの男を」
剣が地面から離れる音がした後動きが止まった気配がした。そして俺の腕を掴んでいたマリの小さな手が離れる。支えを失った俺の体は自然に地面に倒れ込んでしまう。
「おい、マリ・・・・・・?」
「私が、私がついていきま―――」
マリが犠牲になる言葉を言おうとした時、後ろで銃弾が放たれた音が鳴り、それと同時にマリの声は途切れマリがいる位置から倒れる音が聞こえた。
「シロ、ごめん。魔力使った」
どうやらマナが俺の魔力を使い睡眠弾をつくって撃ったのだろう。そしてマリは今眠っている状態になって倒れてしまった。
「あぁ、それでいい。二人が犠牲になる事はないよ」
「けど、この状況を打開する事実がないのも、また事実。だから、私がついていく」
「っ!」
マナはマリが連れて行かれる事が嫌で自分を犠牲にしてマリと俺を助けたのか、だがそれじゃあ結局マナが・・・・・・
「駄目だ!それじゃあマナが犠牲にな――――」
「じゃあ、誰がこの状況を変えれるの!」
俺が止めようとするとおっとりとした話し方をするマナから発せられたとは思えないような大きな声で怒っているようにも聞こえた。
「ここを乗り切るには、こうしか、ない・・・・・・だから」
そしてマナが後ろから俺の耳元に口を寄せる。
「シロは、マリと二人で、助けに、来て?」
そう小さな声で俺にだけ聞こえるように言った。そして離れていく。
「待って、待てよマナ!」
俺はもう感覚なんて分からない状態で体をできるだけ起こしてマナの方を振り向く、マナは男の後ろを歩きゆっくりと俺達から離れて行っている。
「マナ!!」
俺がもう一度叫ぶとマナは振り返った。その顔は我慢して無理矢理笑ってはいるが眼からは涙が零れていた。不安に決まっている怖いに決まっている、そして声がもう出なかったのだろう聞こえない声は口パクとして俺に言葉を伝え、振り返りもう二度とこっちを向くことなく離れていった。
――――・――――・――――・――――・――――・――――・――――
「という感じで俺はマナを失って、そこからは師匠から剣術を本気で習ったり勉強もするようにしたんです。これがマナを失った過去です」
マリとマナが女帝を脱走させているから追われている事などはできる限り話さないようにしながら話せる事だけ皆に話した。
「すいませんこんな話をぉ!?」
「ぞ、ぞれで?あんて、マナちゃんはぐ、ぐぢぱくで伝えだんだね?」
そこにいる全員が号泣していた。俺のこの話を知っている姉ちゃんですらも零れる涙を拭くのに必死だ。
ここまで泣かれると予想外というか引いてしまうと言うか、なんとも言えない気持ちになってしまう。
「マナが最後に言ったのは『またね』でした」
「うわぁぁぁぁぁぁぁああん!!!!!」
そして光子先輩の涙腺も崩壊したようでダムが決壊したかのように涙を流している。
「また会おうね、か・・・・・・信じてるんだ、な・・・・・・」
桔梗先輩は涙を流すのを堪えながら呟く。
本当にその通りだ、マナは俺とマリが助けに来てくれると信じて待ってくれてるんだ、そのためにこれまで剣術も魔術も特訓してきた。この巡ってきたチャンスを無駄にしない。
「これで俺の過去話は終わりですよ」
「強いし真白君最高だよ!一緒にマナちゃん取り返そう!!」
「うんそうだね~、絶対取り返そ~!!」
「勿論、私も微力ながら力にならせて貰うよ」
俺の話を聞いて感動してしまった先輩方一人一人と握手をして俺は本当にメンバーに入れたんだと実感が沸いてくる。
マナ、待ってろよ。もうすぐだ。
「さて、じゃあ無事シロも仲間になったし、作戦会議を行なうわよ。もう一度学院長室に集合!」
そして俺は未だに泣いている先輩方3人と共に学院長室に向かった。ちなみにだが俺が初めて固定魔法を使ったのはその後の師匠と姉ちゃんと特訓している時だ。師匠と打ち合いとばされた時、咄嗟にマリに創造を使うように言ってオリジナルの剣を創造したのが最初だ。そしてその能力を知った師匠が他の人の前で自分の固定魔法を使ってはならないと教えられたためそれから先誰にも話さず見せてこなかった。これが最初の固定魔法の使用だった。
「でも、何故マナ君だけを攫っていったのだろうか、そこだけが気がかりでならない」
「そうだね~二人の固定魔法が狙いなら二人とも連れ去っちゃってましろっちを・・・・・・ってのが一番早いのにね~」
実際そうなりそうな状況になってしまったんですけどね。あの時マリとマナが助けてくれなかったら俺はあの男に殺されて今ここにはいなかっただろう。
「それなんだけどシロ、私なりにその事について一つ思い浮かんだんだけど・・・・・・その相手もしかしたら精霊王の使いの者かも知れないわよ。」
「な、なんで?」
「簡単な話よ、強力な固定魔法である創造の力を持っている精霊を野放しにできないからでしょ、二人そろったら契約者の魔力量によっては世界自体を滅ぼせる力だからね、けど一人になった瞬間に一気に創造の力は制限されてできるラインが低くなるわ。だからこそ精霊王は一人だけを連れ去るようなマネをしたんだと思う」
「学院長、それはおかしいんじゃないか?謎の男が精霊王の使いならば何故今マナ君は女帝の元にいるんだ?」
姉ちゃんの立てた推測に対して桔梗先輩は質問を返す。だが姉ちゃんは詰まることもなく仮定の話を話し続ける。
「理由まではさすがに分からないけど女帝に何らかの方法で連れ去られたからでしょ、大体女帝が奪いに来たんだとしたら自分自身で来るはずよ。保健室の時みたいにね。それに奪うなら二人そろって奪うはずよ」
確かにそうだ、無理矢理奪うような事をするなら保健室の時にもマリは問答無用で連れて行かれているはずだ。その事から考えても姉ちゃんの考えは理解できる。あの事件に精霊王が絡んでいるというなら大事になりそうだ・・・・・・気を引きしめないと駄目だな。
そうこうしている間に理事長室についた。姉ちゃんが扉を開けて最初に中に入り、その後に先輩方が続き俺が最後に入室して扉を閉める。そして先輩方と姉ちゃんは定位置なのか知らないが、戦闘する前の話し合いの時と同じ席に座る。俺も余った席に着席すると姉ちゃんが咳払いを一回して会議を始めようとする。
「こほん、じゃあ女帝確保のための作戦会議を始めま――――」
「が、学院長!!」
作戦会議が始まろうとした時、扉を思いっきり開け放ってから一人の教師が汗を流しながら飛び込んできた。何か急用で伝えたい事があるんだろうが息を切らしていて声が全く出ていない。そんな教師を一旦落ち着かせて、話せる状態になり伝えたいことを話し始めた。
「じょ、女帝が。女帝が精霊王の城を占拠しました!!」
「っ!?」
姉ちゃんを初めとするそこにいた人間が耳を疑った。
女帝が、精霊王の城を占拠した・・・・・・?そんなの完璧なテロじゃないか。
「今現在の状況は?」
姉ちゃんは流石と言える早さで落ち着きを取り戻して今の状況の詳細を聞いている。
「はい、女帝は精霊王だけを捕らえ城にいた精霊と人間はすべて追い出したそうです。どうやら命を狙った犯行ではなくお金などが狙いでもないようで、現在は外から様子を見ている状況です」
「まずいわね、下手をしたら精霊王の命も・・・・・・作戦は後で考えて今は皆で城に向かうわ! 皆は先に精霊門まで行っておいて」
「「「了解!」」」
先輩達は指示された瞬間に返答を返してから精霊門まで即座に走る。俺も先輩達と共に行動するために学院長室を後にした。
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