第三章  もう一人の契約精霊(2)

俺は皆に流されて試合場のフィールドに立っている。そしてトランスをした状態で桔梗先輩は前方に準備万端と言った風に構えている。桔梗先輩の武器は拳のようだ、自分の拳にテーピングをくるくると巻いてある。

さっきまではどうでも良かったがマナが関わるとなると別だ。最初から全力で行く!

「トランス!」

俺もトランスをし、マリの実体化を解除して精霊界に戻って貰う。そしてマリとの武器である銃、名前は『朱雀』。俺は射撃よりも斬撃を得意とするため、普段の試合はあまり使っていないが今回は全力を出す。そしてまた右腕だけを再度トランスして千鳥も実体化させる。

「うわ、片剣片銃だ。シロの本気が久々に見れるんだね」

 「あの装備はなんだい、右手に剣で左手に銃ってあんな装備見たことない」

 門田は食い入るようにシロの装備を見つめる。そんな門田に対して茜は説明を行なう。

「そりゃそうよ、あの装備は魔物が現れた当初に軍があみだし使ってた戦闘法よ。ただ使いこなすのがどうも難しくて結局止めちゃったのよ。そんで家の近くにその退役した軍人さんがいて昔からその人の所に行っては普通の剣術を教えて貰ってたんだけど。何故かシロはただ単に遊びで見せた師匠のあの戦闘スタイルに見せられて普通の修行が終わって毎日追加に片剣片銃を教えて貰ってたのよ。ちなみに私もその人に戦闘の仕方とか教えて貰ったわ」

 「学院長もあの戦闘スタイルで戦う事できるの~?」

 「無理無理、私器用な方じゃないから。扱えるあの子が普通じゃないくらい繊細な動きに向いてるのよ」

光子の思いがけない問いに茜は一瞬目を見開いて驚いた後笑いながら言った。

そしてお互いが準備を終え、試合が始まるカウントダウンが開始した。

「それでは試合を始めます、5,4,3,2,」

俺は足に力を入れて開始直後に突進できるように構える。

「1」

そして前に重心を移動させそのまま前のめりになる。

ビーーーーーーーーーー!

そして機械音が鳴り響いたと同時に俺は突撃する。だが武器が拳の桔梗先輩も開始直後に突っ込んできてすぐに近接戦闘となった。俺は上段から剣を振り下ろしそれを先輩は右拳で殴って防ぐ。先輩の拳は魔法によって金属化されていて俺の刃をしっかりと受け止める。こんな事では動揺せずに俺は左手にある朱雀の銃口を桔梗先輩に向けて放つ。だが桔梗先輩はジャンプをして後ろに後退をして俺の連撃を防いだ。

「早いですね先輩」

「いや、君もたいした物だよ、たいてい刃が通らないことに動揺する輩が多い物だが動揺せずしっかり攻め込んできて回り込ませないように銃を撃ってきた」

あの一瞬でそれだけの事を分析できるのかよ、さすがこの学院のトップクラス。だが俺は絶対に勝たないといけない。俺は構え直して攻撃の態勢を取る、すると桔梗先輩も同じように拳を構える。そして合図があるわけではないが2人同時に突っ込みまた接近戦が行なわれる。

「おいおい、あの試合はなんなんだろうね・・・・・・桔梗ちゃんと渡り合ってるよ」

「でも、桔梗ちゃんはまだ本気を出してないからな~固定魔法を使い始めたら勝負も直ぐ決まると思うよ!」

「あら、シロだってまだ本気じゃないわ、あの子が固定魔法を使うなら負ける事はないわね」

「学院長にそこまで言わせる真白君の固定魔法ってなんだよ、恐ろしい人もこの世界にはいるもんだね」

光子と茜はにらみ合う、その二人に挟まれた立ち位置で1人悟ったかのように門田は試合を眺める。そして試合はお互い攻撃が当たらない状態がずっと続いており真白は息が切れ始めた。

「なんだ、そろそろ体力が切れたか!」

「いや・・・・・・まだまだ、ですよ!」

桔梗先輩はまだまだ余裕のようで最初と全く変わらないスピードで連撃を繰り出してくる、その一つ一つを剣と銃で受け止めるため防ぐという行為で余計に体力を持って行かれる。

この状態がずっと続いたら俺は負けだ。

「くらえ!」

俺はまた拳と千鳥を合わせた時に朱雀を打ち込み後ろに後退させる。そして同時進行で千鳥を地面に刺して右手で魔方陣を描く。

「第一式、ファイヤーボール!」

「っ!?」

魔方陣から一つの火炎玉が飛んでいき見事に桔梗先輩を捉えて爆発する。

「やった・・・・・・わけないよな」

 ほんの少し甘すぎる期待を抱いたがこんな攻撃で決着がつくわけがない、それに先輩はまだ固定魔法を使っていないという事は本気を出していないことだと思う。

 ファイヤーボールの爆風が消えると先輩は腕をクロス状にして自分の体を守っていた。

 「なんだトップクラスをそんな第一式の魔法で勝てるとでも思ったのか」

 若干笑っている所が余計に怖い。そしてそのまま桔梗先輩は突っ込んでくる。俺は銃で近づけないようにしようとするが先輩の魔力のトレースにより作られた壁で跳ね返される。

 「くそ!」

 また接近戦にされた俺は千鳥を地面から引き抜こうとするが間に合わず、先輩はそのまま俺の腹に一発パンチを入れる。

 「ぐはっ!」

 「ほら、もう一発あげるよ」

 そして今度は一回転してから回し蹴りをもう一度俺の腹に蹴り込む。そして俺の体は重力を失いフィールドの壁まで吹き飛ばされてしまう。一発のダメージがでかすぎる。彼女は魔法を撃たない代わりにその魔法に使う魔力を身体強化に注ぎ込んでいるのだろう、瞬間的に俺も魔力で腹を強化してみたが意味がないほどに強力だ、この一撃がトップクラスの一撃・・・・・・正直心が折れかける。

 (シロさん、こうなったら固定魔法使いますか?)

 (駄目だ、あの魔法はマナがいないと本来の力が出せない)

 (けどそんなこと言ってる場合じゃ、このままじゃ負けてしまいます・・・・・・)

 そんな会話を脳内でマリとしていると桔梗先輩がとどめを刺すために走ってくるのを確認できた。そしてなんとか立ち上がり、桔梗先輩のストレートのパンチをぎりぎりで避けて、銃を撃ち桔梗先輩と距離を開ける。

 なんとかとどめはさされずに乗り切れたが、このままでは確実に負けるだろう。やっぱり使うしかないのか・・・・・・

 (シロさん!)

 「マリ、固定魔法を使う!」

 (はい!『創造』を開始します)

 マリの声と共に固定魔法を使う準備が始まる。この固定魔法は強すぎる、そのため使用までに時間がかかってしまう。その間をなんとか凌いでみせる。

「シロが固定魔法を使ったわ」

 「真白君の固定魔法はなんなんだい?」

 「固定魔法宣言してからましろっちに普通じゃありえないくらいの魔力が感じれるね~」

 「シロの固定魔法は『創造』。ようは魔力がある限り自分の想像した物を作り出すことができる魔法よ」

 「なんでも作り出せる!?」

 「そんなの何でもありになっちゃうじゃない!」

 門田も光子も互いに驚きを隠せずにいる。

 「そうよ、この能力は普通じゃない。だからこそシロは普通は使わないの、今回は私が焚きつけちゃった所もあるからね・・・・・・」

 「まぁその件については後ほど聞かせて貰いますよ。さて真白君の面白い戦いを見てみましょうか」

 想像が使えるまでの溜め時間、ずっと接近戦を続けないといけない。だがダメージを受けすぎた俺はほとんど先輩の攻撃を見きれなくなった。今はぎりぎりの状態でなんとか防ぎ続けているがいつ攻撃を直で受けるか分からない危機的状態だ。

 (もう少し、もう少しだけ耐えてください!)

 マリの言葉を聞いた俺はもう少しという言葉を信じ、しっかりと気合いを入れ直して桔梗先輩の攻撃を避けることに専念する。

 「そろそろまずいね・・・・・・なら私も固定魔法を使わせてもらうよ」

 そして少しだけ後ろに下がった桔梗先輩は魔力を放出して右手の拳で左の手のひらを叩く。そして攻撃を行なうために構えを取る。

 「さぁ約一分間だ。速攻で戦わせて終わらさせてもらうよ」

 そして桔梗先輩は俺にさっきと同じように正面から迫ってくる、そして俺は同じ事のループをしようとまた迫ってくる拳を千鳥で迎え撃ち、跳ね返して胴体を斬る。だが俺の創造とは違い拳と初めて交えた時のように金属音が響く。

 「な、なんで体も、ぐはっ!」

 俺が驚いてしまい集中力が削がれ、その隙を突かれて桔梗先輩が俺にブローを入れる。そして少し浮かんだ俺の顔にストレートを食らわせる。そして俺は飛ばされまたフィールドの壁にめり込んでしまう。

 「私の固定魔法は『破壊不能』。絶対に壊されることのない見えない鎧を一分間だけ体全体に着用できると思えば良いさ。一分間はどんな魔法も打撃も斬撃も通すことはない無敵状態ってわけ」

一分間・・・・・・俺が想像を使ったとしてもその間は勝てないし、ここで固定魔法を使ったと言う事は俺を倒せると思ったんだろう。

非常にまずい状況すぎる。

「ごめん、けど君を危険な目に遭わせないためなんだ」

そして桔梗先輩はゆっくり歩いて壁に埋まっている俺の体を取り出して軽く空中に投げ、息を吐き出し何発もの打撃を空中に浮いたままの俺の体中に与える。そして連撃の最後の一発を思いっきり顔に撃ち込まれる。

「本当にごめん、けど弱かったら邪魔になるし私達の危険も高まるの。ごめんね・・・・・・」

そして桔梗先輩は俺が倒れているのを見てゆっくりと離れていく。だが、俺は負けられない。体中が痛がってこれ以上はまずいと信号を送っているが構わずに手を地面についてゆっくりと立ち上がる。

「待ってくださいよ、まだ、終わってないですよ」

「な、なんで。普通立ち上がれる傷じゃないんだけどね」

そう言い桔梗先輩は歩きながら近寄ってくる。そして俺の目の前まで来て俺の目の前から消えた。目の前から桔梗先輩が消えたと同時に俺は後頭部に重圧がかかりそのまま地面へと頭から突っ込んでしまう。

「さあ、これで終わりでしょ?」

 「ま・・・・・・まだ」

 痛い、正直ライオン型の魔獣と戦っていた方がまだ楽だった。だがここで諦めたらマナを取り戻すチャンスがなくなる。その思いで俺は何度でも立ち上がる。だが中腰になった時くらいに今度は頭を鷲掴みされる。

 「くそ、もう諦めてよ!」

 そしてそのまま地面に思いっきり顔がめり込んだ。だが、俺はまだ意識がある。絶対に絶対にマナをこの手で・・・・・・!

 (シロさん、お待たせして申し訳ありません!いつでも使えます!)

 そしてもう一度立ち上がろうとした時に頭にマリの言葉が聞こえる。

 (よし、じゃあ決めるぞ・・・・・・マリ)

 (はい!)

 そして俺は最後の一踏ん張りと思いっきり立ち上がる。桔梗先輩は固定魔法を使ったときと顔色が変わり、何度もゾンビのように立ち上がる俺に恐怖していた。

 「じゃあ俺も使わせてもらいますよ」

 固定魔法を使うのは久しぶりだ。過去に一度しか使ったことがなくそれ以後は使わないように自分を戒めてきた、けどここで負けるわけにはいかない。この魔法を使って勝つ!

 創造を使うとあまりにもでかすぎる物などはおもいっきり魔力を消費してしまう、そのためよく創造する物を考えないともいけない。この状況なら・・・・・・

 「創造を実行する!」

 そして俺は千鳥と朱雀を持ったまま腕を左右に広げると千鳥と朱雀の前に出現した魔方陣から一つ一つ光が飛んでいき、その飛んでいった光が形を作り、俺と見分けのつかないコピーとなった。そしてそのコピーは走り回り、俺もそれに合わせて走るため何処に本当の俺がいるかは分からない状況だろう。俺の魔力のすべてを出し尽くした。コピーは全部で10体、こうなったら残り時間まで何人が残って戦えるかだ。

 「さぁ桔梗先輩。残り数秒で全部やれますかね!」

 「くそ、時間が!」

 桔梗先輩は全速力で突進し、早くも1人を捉え殴る。するとコピーは光の粒となり消えてなくなった。

 「はぁぁああああああああ!」

 桔梗先輩は速度が上がり、また一体一体確実に仕留めていく。俺はとにかく動き回り時間だけを稼ぐ。だが先輩は1秒に1人ペースで倒していく。そして早くも俺ともう一体になる。そして先輩は俺を狙ってくる、だがコピーが守りに入ってくれ一発は避けれた、だが次はもう守ってくれる物がない。

 「これで私の勝ちだぁぁあああああああああ!」

 「くそ!」

 俺は最後の抵抗にと朱雀でガードをする、そしてそのまま俺は先輩からダメージを受けて次こそは立ち上がれない、はずだった。

 「え・・・・・・?」

 だが先輩の拳は急に力がなくなり朱雀で受け止めれた。そして俺はこの隙を逃さずにすぐさま千鳥を構え斬る、そして朱雀でお腹に弾を2発。そして桔梗先輩は足から崩れ落ち、地面に倒れ込んでしまった。

 「や、やった!勝った勝ったぁぁあああああああああ!」

 俺もそのまま喜びながら倒れてしまう。すでに俺の体は限界が来ていたようで全く思う通りに動いてくれない。

 「シロー!」

 姉ちゃんの声が聞こえる、どうやら観客席から降りてきたのだろう。これでマナを助けに行ける、俺はその気持ちでいっぱいだった。

 「桔梗ちゃん!」

 光子先輩はすぐに桔梗先輩の元に駆け寄り、魔力を解放した。どうやら固定魔法を使うようだ。

 「光子の能力は『健康管理』と言って、その相手のダメージや直す程度によって自分の魔力を支払い完全に直すという魔法よ」

 そして光子先輩が魔法を使うと、薄い黄色の光が桔梗先輩を覆い、その光が消えたと同時に桔梗先輩が起き上がる。

 「わ、私は・・・・・・負けたみたいだな」

 起き上がった桔梗先輩は頭を抱えてすごく悔しそうにしている。それは当然だろう、学院の中でもトップクラスと言われていて特殊部隊にも入っているのに急に現れた人間に負けてしまったのだ。悔しくないわけがない。

 桔梗先輩の治療がすんだ光子先輩は俺の所に来て治療をしてくれる。あのイケメン教師が俺の治療をしてくれた時のように淡い黄色の光を暖かく安心する、そして一瞬目の前が覆われて何も見えなくなり、次に皆の顔が見えたときにはさっきまで感じていた痛みがなくなっていた。

 「すげぇ」

 俺は立ち上がり体を確認してみる、すると何処も異常がない。本当にすごい能力だ。

 「光子先輩ありがとうございます!」

 「いや、大丈夫だよ~私こそ貴重な物を見せてもらったよ!」

 そう光子先輩は元気に返してくれる。そして右手を差し出したので俺もその手を握り返し軽く握手をした。

 「いやぁ二人とも本当に凄かったよ、だが真白君は創造の力を完璧に出し切れていないように見えたが?」

 「それは・・・・・・」

 俺が力を出し切れていないのはマナが近くにいないためだ、本来契約した精霊は契約者とほとんど行動を共にする。実体化をしていないなら契約者でも視認することはまずできないが、普通は契約者と精霊は側にいる。契約した精霊が近くにいなければそれだけ魔力も消費されて、威力も落ちてしまう。武器も本来は契約者が魔力で作り出した物に契約精霊が宿るという形で威力を発揮する。そのため今の朱雀はただ銃弾を撃つだけのレプリカにすぎない。マナは連れされられて契約をした瞬間に離ればなれとなってしまった。だがトランスができると言うことはまだ無事だという事だ。

 「でもグループに入るんなら言っても良いんじゃないかしら。シロ、あなたの契約精霊について話してあげたら?桔梗も仲間に入ることにもう文句はないでしょ?」

 「もちろんだ、私に勝った人間に立ち去れなんて言えないよ」

 姉ちゃんの問いに対して桔梗先輩は頷きながら答えた。そして俺が正式にチームに入る事になり、俺は皆にマナの事を話す決意をする。

 「俺が今回桔梗先輩との戦いにおいて固定魔法で全力を出せなかったのはマナが近くにいないためです。俺は、中等部の時にマリとマナと同時に契約をしました」

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