第二章 新たな敵、新たな仲間(3)
香川先輩との対戦から3日後の放課後。
俺は未だに興奮冷めやまない周りの友達から質問攻めにあっている。
「はぁ~、よく皆聞くことあるよな・・・・・・」
「仕方ないさ、正直俺もびっくりしたからな」
「えぇ、私も知らなかったわ。まさかシロが二人も精霊と契約してるなんてね」
そう、香川先輩と俺が戦って2度目のトランスをしたと言う事が見物人の人達から伝わったようで、もうあれから3日も立つのにまだ休憩時間でもクラスの人や他クラスから質問に来たりしていて正直まいっている。
「しかもその精霊の一人は幼女姿のかわいらしい子だし、何故か実体化したままだし」
あの後マリのお願いによって今マリは実体化したままで俺と一緒にずっと側にいる。授業中も勉強している俺の邪魔にならないように本を読んでいるし、今も俺の横で静かに話を聞いている。
「かわいいだろう、もうホントかわいいんだよ~」
そう言いながらマリの頭をわしゃわしゃと撫でてやる。するとマリは嬉しそうに「えへへへへ」と言いながら気持ちよさそうに頬を緩ませる。
「えぇ、よく分かるわよ。貴方がロリコンって事がね」
「んな、違ぇよ! 精霊としっかり仲を深めないと駄目だろうが!」
「そういった名目で幼女に夜な夜な・・・・・・最低っ!不潔っ!色魔!」
そう言いながら紗雪は目から流れる滴をぬぐいながら走り去っていった。
こんな小さい子の前で色魔ってどうだよ。絶対アウトな単語だろ・・・・・・
「真白、幼なじみなのに隠されてきた事があったんだよ、そんで今紗雪ちゃんは動揺してるんだって、ましてやお前が二つ魔術を使えるだけじゃなくて、こんなかわいらしい精霊と契約してたんだからな。少しは察してやれよ」
「意味が分からん、幼なじみだからって全部言う必要なんてないだろ?」
「あ、あの。私が紗雪さんの様子を見てきましょうか?」
俺と智彦が話しているとさっきまでずっと聞いているだけだったマリが立ち上がり言った。確かに気にならないと言ったら嘘になるが、泣くほどの事だろうか。
だが実際泣かせたのは事実なので俺が見に行こう。後で何かされるのもめんどくさいし。
本当だからな?後で嫌がらせとかされるのが面倒くさいから様子を見に行くんだからな!
「いや、俺が行くよ。悪いけど智彦、マリと話をしていてくれ。マリ、こいつと話しててくれ」
「分かりました」
俺は心の中で誰に対してか分からない弁明をして立ち上がり、マリをいすに座らせて、俺が紗雪の元に向かうことにした。
「待て、何話せばいいんだよ!おい、真白!ましろぉぉおおおおお」
後ろで何か叫び声が聞こえる。だが俺はあえて心を鬼に変え無視をして紗雪の元へと向かうのだった。
―――――――――・――――――――・――――――――――――・―――――――
「もう、何よ。あんなにデレデレしてさ、そんな事よりなんで私に魔法が2つ使える事黙ってるのよ・・・・・・むかつく」
こんなのは私のわがままだ。そんなことは分かってるけど昔から近くにいて、なんでも相談し会える仲だと思ってたのに・・・・・・
「もう、なんなのよ!!」
私は青空に向かって思いっきり叫ぶ。私の声は空へと吸い込まれて、その後に残った辺りの静寂に余計心を暗くしてしまう。
「てか、なんですぐに追ってこないのよ!追ってきなさいよあのバカ!!」
完璧に心が沈みきっている時に私の後ろにあった茂みがガサガサと揺れる。あたりに人気もなく話し声なども聞こえないため、木々が重なり合い奏でる音だけが周りに響く。
「な、なに・・・・・・?」
その音が出ている所に少しずつ近づいていく。すると小さい声で誰かが何かを話しているのが聞こえてきた。
「なぁ、俺ってどうやったら友達できるのかね・・・・・・」
「にゃ~」
こっそりとその場所を覗いてみると、私がぶつかって私の代わりにシロが対決をした相手である香川先輩が猫の喉元を指で撫でている姿があった。
「誰よりもこの学園で強ければ誰か友達ができるって思ったのに、結果は怖がって逆に近づかれなくなるし・・・・・・どうしたらいいんだよ」
「にゃ~ごろごろ」
そんな弱音を吐く香川先輩の足に猫がすりより慰める。
「猫ちゃん・・・・・・ねこちゃああああああああああああん!!」
「ふにゃ!?」
香川先輩が側に寄ってきていた猫を抱きしめ思いっきり泣きながらすりすりしている。だが猫は突然のことに驚いて明らかに逃げようとばたばたしている。
これ、見てはいけない物だったわね・・・・・・速く逃げないと
そして私はゆっくりとばれないようにその場を立ち去ろうとしたら足下に枝が転がっており、それを思いっきり最初の一歩で踏んでしまい、パキッと爽快なまでの音が響く。
「誰だ!」
その音に反応して香川先輩が茂みから立ち上がり猫を抱えた状態で私の方を睨む。
「あ、お前。確かあいつの彼女の!」
か、彼女ぉぉぉおおおおおおおおおおお!?
「いや、彼女はまだって言うか、でも彼女みたいな立ち位置って意味ではもう彼女って事でもあるっていうかぁ!!」
私は頬に手を当てて体をくねくねさせてしまう。
もう、なんていい人なのかしら! 早くシロに報告したい!
「シロ、私香川先輩にさっきあったの!」
「は、おい。大丈夫だったのか?なんなら今からでもあいつを倒しに・・・・・・」
シロが香川先輩の所に行くのをシロの腕を掴んで止め、シロの唇に人差し指を当てる。するとシロは恥ずかしそうに顔を赤らめて私と目線を反らす。
あぁ、こんなかわいいシロも大好き。
「香川先輩がね、私の事シロの彼女だと思ってたのよ」
「そ、それは、照れるな・・・・・・」
照れてるシロ本当にかわいい、大好き大好き大好きっ!
私はシロを思いっきり抱きしめる。するとシロも私を強く抱きしめてくれる。
「大好き!」
「俺も・・・・・・大好きだぞ、これからもずっと」
そして自然に二人の唇が近づいて・・・・・・
「あぁ、ぁぁああああん! シロ駄目よ、こんな所でぇぇええええ!」
「お、おい・・・・・・?」
でもでも、シロがここでどうしてもって言うなら・・・・・・
「お、おい?」
いや、でも駄目よ! もっと静かで落ち着いてるところがいいわ!どこか落ち着ける場所は・・・・・・
「おい!」
「は、はい!」
急に目の前にさっきまでいなかったはずの香川先輩が少し気持ち悪いものを見るような目で私を見ながら目の前に立っている。どうやら香川先輩の原因でもあるが、妄想世界へとトリップしていたみたいだ。
「あ、あれ?」
「お前、大丈夫か。保健室行くか?」
「先輩心配していただいた事は感謝します。ですが、この私の病は保健室では絶対に直せない物なので・・・・・・この恋の病は・・・・・・きゃ!」
言っちゃった、本当に恥ずかしいな。けどシロを私に夢中にさせるためには確実に周りからの声とかも必要になるはず!少しずつでもいいからこうやって言い歩かないとね。
「そ、そうか・・・・・・それよりもだ。お前、見たか・・・・・・?」
「確かに見ました・・・・・・シロと私の熱々の未来が!」
「違えよ!?だから、ほら、俺が猫に・・・・・・」
「猫に友達がいないのを告白していた瞬間ですか?」
「お前ド直球に来るじゃねえか!?あぁそうだよ!それでだ・・・・・・」
香川先輩は私に一部始終見られていた事を知り、顔を真っ赤にしながら怒っている様子だ。少し先輩のことをかわいい所もあるって思ってしまい茶化してしまったが、この状況は本当にまずいかもしれない。
香川先輩は少しの溜をつくって、私に向かって頭を下げた!
「へ?」
「お願いします!今までのことは謝るので誰か、誰か友達になってくれそうな人を紹介してくれないか!」
私は突然の香川先輩のお願いに少し動揺してしまう。
「いや、頭を上げてくださいよ。謝らないで良いですから、手伝いますから!」
「ヒッ、ホント・・・?」
香川先輩は涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにして私に再度確認する。
「本当です、本当ですから!」
「ありがとう・・・・・・」
さて、約束をしたのは良いがこの先輩と友達になってくれる人って言ったら・・・・・・あ、一人いるわね。
――――・――――・――――・――――・――――
「紗雪何処行ったんだよ」
あれから10分くらい校舎を走り回っているが、この学園の敷地が広すぎて行き違いになっている可能性もある。もしかしたら教室に帰っているかもと考え、教室に戻るために走ろうとした時に俺の胸ポケットが震えた。
「あ、アミュ・・・・・・」
俺は胸ポケットに入れていたアミュをすっかり忘れてしまっていた。そして胸ポケットからすぐに取り出してみると今現在捜索中の紗雪から着信が入っている。すぐに着信に出る。
「あ、シロ。今どこにいるの?」
「それはこっちの台詞だ!」
「ご、ごめんなさい。いきなり飛び出していったのは謝るわ、それで今シロに会わせたい人がいるんだけど何処にいるの」
紗雪の声のトーンは下がり謝ったが、すぐに調子を取り戻して話を淡々と進める。俺は紗雪に聞かれて今の自分の場所を表せるような物を何か探す。すると、少し歩くがこの学園で一番高い建物である時計塔が見えた。
「時計塔だな」
「いいわね、そこ高くて目印になるし直ぐ向かうわ!」
そしていきなり通話を切られた。
「自由すぎるだろ・・・・・・」
と愚痴をこぼしながら時計塔に少し早歩きで向かうのだった。
そして時計塔についた、だがまだ紗雪は来ていないようなので近くにあったベンチに座る。以外と人が少なく聞こえるのは鳥の美しい鳴き声と風に揺られる木々の音色。質問攻めで疲れていたためすごく今の状況が居心地が良い。
「シロー!」
目を閉じて自然の音色に耳を傾けていた時に、意外と早く到着したのだろう紗雪の声がしっかりと聞こえる。
「遅いぞ紗雪・・・・・・ってなんで香川先輩がいるんだよ!」
俺はベンチから立ち上がりこちらに紗雪と一緒に向かってくる香川先輩に警戒する。
「ちょっと待って、何もしないから。まず話を聞いて!」
紗雪が真面目に話す、何があったんだよ。 紗雪に言われるように俺は話を聞くためにある程度の警戒心を解いて話だけは聞いてやる。
「それで、なんで香川先輩と一緒にいるんだ?」
「教室から走って外に出て、たまたま休憩していた所の茂みに香川先輩が猫とじゃれているのを見てしまって、香川先輩の秘密を知ってしまったの」
「秘密?」
一旦、紗雪は香川先輩に目配せする、すると香川先輩も真面目な顔で深く頷く。その姿を見た紗雪はこっちを向き香川先輩の秘密を俺に向かって言う。
「香川先輩は・・・・・・友達が一人もいないの!」
おぅ・・・・・・これは俺が思っていたよりも中々にディープで他人が触れてはいけない領域のようだ。
「それで、なんでお前が関わってるんだ?」
「その、あまりにもかわいそうでつい、手伝ってあげるって・・・・・・言っちゃった、てへっ」
自分の頭を軽く拳骨で叩き、舌を出してへぺろしている紗雪に若干のイライラを覚えるがあえて無視をして話を進める。
「それでどうした」
「そこは俺が言うよ・・・・・・」
紗雪の前に立ち香川先輩が話しを始める。
「俺は小さい時から体が弱くて、入院のせいで皆よりも2週間遅れて学園に入学したんだ。その結果周りはもうすでに友達がいて新参者に入る隙がなくてしまった。そしてある人に言われたんだよ。強い人間には人が寄ってくるよって、それで人が寄ってくるんだったら俺でも友達ができるかもって、努力して強くなった、そして見た目も強そうに見えるように髪も金色に染めて見たりした、そして模擬試合で上級生なんかを倒した、そうすると周りの人は俺を怖い人として扱って完璧に孤立してしまったんだ」
「それでそのままの状態を引きずって今に至るか・・・・・・」
なんというか、ひどい話だな。努力をした結果間違った方に努力して、その努力のせいでもっと周りの人間が引いていく、か・・・・・・
「ねぇ、シロ!」
「分かってるよ」
俺は香川先輩の目の前にまで行って真っ直ぐ見据える。
「香川先輩、貴方も大変だったんですね。俺で良かったら友達になりますよ」
そして握手を求める右手を差し出す。
「え、え?」
「先輩、シロは来る物拒まず去る者追わずなんです」
「でも俺は紗雪さんを・・・・・・」
「確かにあんたは紗雪に喧嘩を売ったよ、けどそれも終わったし結果戦ったのは俺です。もう気にしてなんていないですよ」
俺は自分の気持ちを正直にぶつけ笑う。
「そっか、ならよろし―――」
「あ、忘れてた」
俺の右手を掴み握手をしようとしていた香川先輩の右手がスカって宙を舞う。
「俺の仲間になるんだったら今後喧嘩はしないでください、絶対です」
そう言い俺はもう一度右手を出す。
「うん、絶対にしない。もう喧嘩の必要はないから」
香川先輩はそう言うと微笑み、今度は俺の右手をしっかり掴んで握手をした。
「さて、じゃあシロの『祝3人目の友達!』て事で今週末歓迎会しましょう!」
「あ、お前いらない事ばらすなっ!」
「真白君も僕と似たような立場だったんだね」
「同情の目をするんじゃねぇぇえええええええええ!」
俺の声が時計塔の下から響き渡り紗雪の捜索はこういった形で終わった。そして俺達は香川先輩を連れて、マリと智彦の待つ教室へと向かった。教室付近にはもうすでに生徒は全くおらず香川先輩がいるのが目立つ事もなく一安心だ。
「さて、二人はどうしてるかなぁ・・・・・・うわ」
「どうなってるの・・・・・・うわ」
「どうかしたんですか・・・・・・うわ」
俺が見た後に二人とも同じ反応をする。だが誰でもこの状況を見たらそう言えるだろう。智彦はマリを目の前にしていてカチカチのまま話しかけようと試みているが、マリは本を読み続けている。
これをあの時間ずっと行なっていたというのか・・・・・・
「マリ、智彦帰ったぞ」
いたたまれなくなった俺は教室の扉から入り、二人に声を掛ける。
「シロさん待ってました」
「真白、帰ってきてくれて良かった」
紗雪は本を閉じ俺の元へと走って駆け寄ってくれる。そんなかわいいマリの頭を撫でてあげると嬉しそうに笑う。
うん、かわいい。安定のかわいさだマリ!
「お、おい!なんで香川先輩がここにいんだよ!」
「ごめんなさい、驚かしてしまって。真白君と友達にならさせて貰いました。色々ありましたがその拙は本当にすいませんでした」
「え、誰」
俺がマリを可愛がっている間に智彦は香川先輩がいる事に気がついたようで、驚いている、それもそうだろうあの香川先輩がすごく今は弱々しくて別人だ。
「香川先輩は色々あって強いふりしてたんだよ。こっちが本当の先輩な」
「へ、へぇ~」
どうやら頭の中でいろいろな考えが巡っているのか思考がショートしているようで智彦はそのままの体勢から動かなくなった。
「じゃあ今日はもう家帰るぞ」
俺は自分の席にある鞄を取りながら3人に言うと紗雪も自分の鞄を取って帰る支度を終わらせた。
「あ、僕は用事があるのでこれで失礼させてもらいますね、後よかったらアミュのアドレス交換しても良いですか?」
「もちろんです」
先輩からのお願いを聞き入れてポケットからアミュを取り出して先輩と交換した。俺に続いて紗雪も交換して、智彦のアドレスも俺が送っておいた。皆のアドレスを知れたのが余程嬉しかったのか、先輩はアミュを抱きしめている。
本当にこの人は誰なんだろう、俺と戦った人とは思えない・・・・・・
「それじゃあ僕はこれで!」
見て分かるくらいウキウキとした状態で先輩は俺達と分かれて帰っていた。先輩が教室から出て行きまだ放心状態の智彦の背中を叩いて教室を出る。
「ほら、おいてくぞ」
「あ、ああ! ちょっと待ってくれって!」
正気に戻った智彦は急いで自分の席に掛けてある鞄を取って俺達の後を追ってきた。そして新しい友達ができて内心嬉しい気持ちでこの日は終わった。
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