第二章  新たな敵、新たな仲間(1)

―――試合当日―――

 試合開始数分前、俺は戦闘服姿で第一訓練場のフィールドへと着いた。俺が到着しているときにはすでに香川は到着しており、香川の魔道具であろう弓を持ったままフィールドの真ん中に立っていた。

「よぉ、逃げずに来るとはすごいじゃないか、たっぷり楽しもうぜ」

 「冗談やめてくださいよ、僕と先輩では実力差がありすぎます。速攻で決めますよ」

 俺は香川との会話を極力避け、自分の魔道具である真剣を構えて勝負開始の合図を待つ。

 「おいおい、気が早いね。以外にも観客が集まってるんだ、時間通りに始めないとだめってもんだろう。いったんその剣をおさめておさめて~」

 香川は頬を少し上げて真剣を鞘に納める動作を行う。俺は言われたとおりに鞘に収めて香川をじっと見つめる。

 「おぉ怖い怖い、視線だけで人が殺せそうだな~戦うのが怖いよ~」

 「そうやって挑発しないでもらえるか、集中力がそがれる」

 くそっ、いちいちかんに障る話し方をする奴だ。話していると集中力が乱れそうになってしまう。しっかりと呼吸も整えて気を抜かないようにする。

 「お前は何でこの勝負を受けたの?」

 突然香川が質問をしてきた。にやにやとした笑みは相変わらず浮かべたままで質問を続ける。

 「あれはあの子の不注意で俺にぶつかったんだろ、幼なじみかなんだか知らないがお前が代わりに戦って助ける理由になんのか?」

 「いきなりですね、俺にとっては幼なじみってだけで十分戦う理由になるんですよ」

 「はぁ~難儀なもんだね。何、あの娘に惚れてるの?」

 「は、はぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 いきなり何言ってんだこいつ、俺が紗雪の事好きとか・・・・・・別にそういう気持ちがあって助けたわけじゃないっ――――――

 ビーーー、と言う機械音が訓練場内に響き渡る。

 そして混乱して出遅れた俺が真剣に手を伸ばした瞬間、俺の足に鋭い痛みを感じた。

 「くそっ、やられた・・・・・・」

 「いや~あの程度の事で動揺しちゃうなんてかわいいな~」

 俺の利き足である右足の太ももに魔力で作られた矢が刺さっていた。不意の事で右足に力が入らず、その場に倒れそうになるのをなんとかして真剣を引き抜き地面に突き刺すことで耐えた。

 「君は魔剣士なんだから利き足をやられたらもう無理だよ」

 くそっ!最悪のスタートだ・・・・・・

 刺さったままの魔力の矢を引く抜くが、これは満足に動けそうにない。刺さっていた場所は少し動くだけでもズキズキ痛む。

 「うわ~痛そ。でも安心してね、この訓練場なんかの建物はつねに建物ダメージを与えないよう魔術が掛けられているから。ただ痛覚だけはそのままらしいから安心してね、楽しめるよ」

 何が安心してね、だよ。楽しめるか!

 「あいにく俺にはそんな特殊な趣味はないんで」

 「えっ、そうなの?なら、僕が目覚めさせてやろう」

 いらねぇよ!てかそう言うのは女子としかする気はない!・・・・・・じゃなくて今はここをどうにか乗り切らないと・・・・・・

 なにやらいろんな意味で狂気染みた目で俺のことを狙ってきている。

 「ほら、どんどんいくよ」

 香川は魔力の矢を即座に作り今度は何本も素早く連続で射ってくる。次々飛んでくる矢を地面に刺していた真剣を引き抜きどうにかはじくが間に合わない矢がいくつかあり、顔や腕、足などの体にかすり傷を負わせる。

 「ほらほらほら、こうやって徐々に痛みを感じるのは快感だろぉ!?」

 「ねぇよ!!」

 香川は腕を休ませる事なく俺に向かって矢を放ってくる。香川の矢の威力は智彦よりは少しだけ弱い、だが早さは紗雪の非にならないほど早い。少しでも気を抜くと矢が見えなくなるだろう。そしてそれだけの早さに重い一撃、一本跳ね交わすだけでも剣に振動が伝わってびりびりする。

 このままだと考えられる結果は、俺がこのまま耐え続ければ香川の魔力が底を尽きかけ、俺がその隙を見つけて逆に攻める。それかこのまま俺の握力が矢の威力に耐えられずに、剣を離してしまって討たれるか。もしくは、俺がここで何かしらの魔法とかでの遠距離攻撃を繰り出して状況を変えるかといったところだろう。

 正直このまま耐え続けられる自信はないし、香川は多くの人と戦ってきたと言う事はこれだけじゃなくて何かある奥の手みたいな物を持っているはずだ。

 仕方ない

 俺は右手で剣を持ち、体を斜めにしできる限り守る体積を減らす格好で、左手を使い魔方陣を描き始める。

 「お、何の魔法だ? けど、そんなの描いてる間に討たれちまうぞ!いや・・・・・・」

 そう言うと香川は討つのを止めて、少し息をついて集中し右手に魔力を込めた、すると銀作りの綺麗な矢が生み出された。先端が矛の形になっているこの矢を弓に構えて、俺をしっかりと捉えている状態で話を進める。

 「その魔法と俺の矢をぶつけてみろよ、観客にも面白い物見せないと退屈だろうしな」

 「てめぇ・・・・・・」

 香川は余裕を見せ、俺を明らかに挑発してくる。

 「上等だ、俺の最大の魔法でお前との試合はこのまま終わらせてやる!」

 俺は右手の剣も地面に突き刺し、左手と右手を使って魔方陣を描きまくる。そんな俺を香川は笑いながら見ている。

 この勝負で第7式のような範囲魔法を使ったら発動時間で先に俺に攻撃が届き負けてしまう。だったら第1式の初期魔法のファイヤーボールを討てばいい。魔力が多い人間にはできる事だが、魔方陣を描きまくり一斉に魔法を放つ、そうすれば香川も避けられず勝てる。

「しゃあ、準備できたぞ」

 「よ~し、じゃあカウントダウンだ。5,4,3,2,1,」

 1まで数えた時香川は矢の目標を俺ではなく天井へと向けた。

 「0」

 そして俺は魔法を放つ。俺のファイヤーボールは地面を這い、いくつものファイヤーボールが香川に当たることによって爆発し、ものすごい爆風で飛ばされそうになる。

 「やった?」

 舞っている埃のせいで香川がどうなっているかが分からない。だがそれよりも気になるのは香川があの構えていた矢を討っていないところだ。

 何かの事故で矢が放てなかったのか?

 その時、爆風の中からものすごい早さで飛んで出てきた。そのあまりの早さにさっきまで舞い上がっていた埃は消え、爆風が起こる前と何もかも同じになってしまった。香川一人を除いては・・・・・・

 「いや~さすがだね、先生相手に第7式を討つなんてどれだけ魔力持ってる子なんだと思ってたけどこれは想像以上だね。もう少し反応遅れてたら今あの場に寝てる寝てる」

 そう言い笑いながら香川は俺を空から見下ろした。香川は何故か空中浮遊している。

 「は、なんだよそのチート!」

 数ある魔法の中でも空中を飛ぶ魔法は上級者しかできない技だ。それは飛ぶためには自分の魔力を体に纏い、その量を調節してスピードなども決める。これらは自分の魔力の性質なども把握していないとできないので、ものすごい量の訓練、精霊との絆も重要らしい。

 「空を飛んだくらいで驚かないでくれよ、これくらいなら教師達はできる事だ。そんな所じゃなくて、俺の弓の力を見て貰いたい、ね!」

 そして香川は空に飛んだ状態で本来同時に討つと言っていた矢を思いっきり放った。俺は剣を地面から引き抜いてガードの体勢を取る。

 矢が放たれ俺と香川の距離からして役半分の所で、矢が割れ、どこから現れたのか分からないほどの無数の矢が俺を射貫くために飛んでくる。

 「まずい!」

 この量じゃ防ぎきれない。さっきの連発していた矢でさえ避けるのがぎりぎりだったのに、今度はそれ以上の量が一瞬で押し寄せてきている。

 「くそっ!」

 俺は左手を即座に前に出し、左手に魔力を注ぎ込む。そして魔力の壁を作るようなイメージを持ち、自分の魔力をその通りに置換する。

 「うぉぉおおおおおおお!」

 何百もの本数の矢を自分の魔力だけで跳ね返す。

「お、魔力のトレース。しかもこの一瞬でできるなんて優秀なんだな。ほら、もう少しもう少し」

香川の話している言葉なんかには耳を傾けず、トレースにだけ集中力を注ぐ。

そして矢をすべて弾き返した。だが集中のしすぎで足下がふらふらする。

「いや~すごいすごい、これを全部はじいちゃったの君だけだよ。あれ、でも集中しすぎて足ふらふらしてるじゃん。こんな矢も防げないかな?」

香川は弓を構えて、そのまま魔力の矢を一本こっちに向かって歩きながら放った。俺はふらふらとしながらもその一本を叩き斬る。

「おぉ、すごいすごい。何本落とせるかな~」

香川はまた立ち止まり一本放つために構え直す。このままだと俺の負けは明らかだ。

 (シロさん)

 その時俺の頭に一人の声が響いた、この声は俺の契約精霊のマリだ。自分の契約精霊とはこうして頭の中で会話をする事ができる、だが使用中は少量だが魔力を使う事になるのであまり使う人がいないのが現状だ。特にこういった戦闘をしている時は余計な魔力を使いたくないため使うことはない。

 (あんまり長々と話す時間はないので早めに終わらせ――――撃ってきます!)

 「くそっ!」

 マリとの会話に気を取られていた俺に香川の矢が迫ってきていたが、マリの教えによってぎりぎりで躱せた。

 (それで、どうした?)

 (はい、作戦通りに行動してください。ここで負けるくらいならばれても大丈夫です)

 マリの言う作戦とは、初日の特訓の時にマリが持ちかけてきた物だ。あの時は本当の本当に限界の時に使おうと決めていたが、あまりの香川の圧倒的な強さにこのままでは負けるとマリは判断し知らせてくれたのだろう。

 (分かった、じゃあ通信きるからな)

 そういい頭の中の通信をきって、地面に剣を突き刺す。

 何回地面に剣を突きさしてるのか分からないな、そんな馬鹿な事を考えながら香川に話をかける。俺が地面に剣を突き刺した事で香川先輩も出方を窺い構えるのを止めた。

 「香川先輩はただ戦いたいだけですか?」

 「そうだな、もしかして話をして時間を稼ごうとか意味のない事しようとしてるのか?」

 「いえ、違います。戦いたいんだったらこっちも全力でした方が嬉しいかなと思いまして」

 俺は少しでも気を抜いたら転んでしまいそうな状態で、引きつりながら今できる全力の笑みを浮かべて香川を見る。

 「て事は、まだ本気をだしてないって事であってるかな?」

 「はい、けど本気を出すためには少しばかり落ち着く時間がほしいのでその間攻撃しないでくださいませんか」

 俺が頼むと香川は少し考えるようなそぶりを見せた。そして少し考えて俺に問う。

 「本当に面白くなるんだな?」

 「はい!」

 そう俺が言い切るとその場に座り込み俺の方を見ている。

 さて、これでゆっくりと準備ができる。マリ、力を貸してもらうからな。

 俺はそう心の中でつぶやき、自分の息を整えて落ち着かせる。そして俺は人差し指にだけ魔力を溜めて目の前に自分の顔ほどの大きさの魔方陣を描く。

 香川が乗ってくれなかったらこんなに落ち着いて書けなかった。敵ながら香川の戦闘馬鹿には感謝しないといけない。

 「万物は生まれ生き死に その姿を変える 我為に他為に 生まれ落ち 生きる為にその姿を変えよう トランス!」

 詠唱と魔方陣を同時に終わらせ、完了の証として魔方陣が青色に薄く光る。そしてその魔方陣に自分の右腕を入れると、魔方陣はガラスの破壊音にも似た音を奏で砕け散った。

「よし、成功!」

「・・・・・・あの魔法は何だ?」

 魔方陣の代わりに俺の右腕だけが別の装備となり、そこにあった。右腕はさっきまで使っていた剣とは違い刃が細く普通の剣の1.5倍ほどの長さだ。名は千鳥、ある人からの贈り物だ。すごく久しぶりにこの魔法を使う。だが違和感なども感じず、いつも使っている戦闘服よりも右腕だけだがしっくりくる。

 そして立ち上がった香川は楽しそうな顔で俺に当然の質問を投げかける。

「なんでお前の戦闘服が右腕だけ変わったんだ?」

 香川が疑問を持つのも当然だろう。戦闘服はいかに自分の魔力で作っているとはいえ、最初に作られた物のイメージが主流となり、全く別の服装は作れない。そしてそれらのイメージは自分が契約精霊と最初に出会った時のイメージが元になっている。

 では何故俺は全く別の服装になっているのか、精霊二人と契約する、それはできない。魔力量の問題で普通は一人の精霊としか契約はできない。だからこそ俺が2着目の戦闘服を着れるのを不思議に思うのは当然だ。

 俺がもう一つの戦闘服を着れたのは単純な事だ。

 「俺がイレギュラーなだけですよ」

 そう、俺は普通じゃないから・・・・・・

落ち着く時間があり体力は少しだが回復することはできた。俺は千鳥を構えて攻撃の態勢を作る。

 「さぁ、こっちも仕掛けますよ」

 俺は左足で思いっきり地面を蹴り、一瞬で香川の目の前まで接近し、千鳥を香川の脇腹めがけて思いっきり振るう。だが香川は隠していた短剣でぎりぎりの所で防いだ。

 「危ないな~負けるとこだった」

 香川は若干汗ばみながら短剣で必死に受け止めている状態をキープしている。だがその頑張りも無駄だ。

 ピキッという音と共に香川の短剣にひびが入る。

 「んなっ!」

 「舞い斬れ、千鳥!」

 短剣を切り裂き、そのまま持ち主である香川も下から上に上がるように切り裂く。

 「うぁぁあああああ!」

 香川は絶叫しその場に倒れ気絶した。

 ビーーーーーーーーーー、という始まりと同じ機械音が鳴らされ俺の勝ちが決まった。観客はスタンディングオベーション。会場内は拍手と俺に対しての労いの言葉が響く。

 「シロー!」

 俺の名前を叫びながら紗雪は飛びついてくる。

こいつは、ホントさ・・・・・・俺が足を痛めているのを忘れているんだろう。

 俺は今現在痛めている右足を使って立っているのに精一杯の状態だ。なのに紗雪は俺に飛びついてきてやばい・・・・・・そして踏ん張りきれるはずのない俺はそのまま地面に頭から着地した。

 「ちょ真白!紗雪ちゃん離れて!今やばい音したから!」

 「おぉ智彦サンキューな、だが何で魔法を使ってるんだ?」

 「は?お前何言って・・・・・・」

 「智彦が7人に増えてる」

 「救護班早く来てぇぇえええええ!」

 智彦は力の限り救護班を呼んでいた。そして到着したタンカにすぐ乗せられた所で今まで観客の拍手などの声が止んでいる事に気付く。そして俺を見ていた紗雪や智彦も違和感を感じたのだろう、俺が本当はタンカで向かうはずだった方を見ている。俺も無理に体を起こすとそこには黒く、ブラックホールのような物が現れていた。

 「嘘だろ・・・・・・魔獣ゲートがなんでここに」

「生徒の皆は落ち着いてこの訓練場から出ろ!教職員はすぐに魔法障壁を作り、この訓練場から出れないようにするぞ!」

 突然男性教師が叫び、これからの行動を命令する。そしてその命令通り教師がフィールド全体に囲みができるように丸く並び、両手を前に突き出して魔力を解放しドーム型の障壁を作る。

 観客席で俺と香川の戦闘を見ていた生徒達は叫び、外へと続く扉に我先にと詰めかける。

 「中にいる人間も早く逃げるんだ!」

 さっきまで命令していた男性教師はそう言うが無理に決まっている。香川は気絶しているし俺は限界ぎりぎり。この状況でどうやって逃げ出せと?

 そんな事を考えている間に魔獣ゲートの中から一体の魔獣が現れた。ライオンのように魔力でできた鬣(たてがみ)があり、大きさで言うと家一軒程度だ。

 「ウガォォォオオオオオオオオオ!!」

 ライオンのような魔獣の方向は空間内にいるだけでビリビリと体を痺れさせる。耳も痛いし最悪だ。そしてもっと最悪なことにライオンは俺達に気付いて、俺達の方向に思いっきり走ってきた。地面もドシドシと揺れる。

 せめて、無事な人達だけでも逃がさないと・・・・・・

 「おい、智彦、紗雪。その人達と香川をつれて逃げろ!」

 「え、えぇけど、香川先輩を坂本君が背負ったらシロは・・・・・・」

 「なんとかするから早くしろ!智彦!」

 「分かった! さぁこっちへ」

 おい、めちゃくちゃお前連れて行くの早くないか!?

 自分で行けと行ったがあんなにすぐに行かれると少々心も傷ついてしまいそうだ。そして智彦が香川を抱えて皆を誘導して俺以外の5人は出口に向かう。

 そして俺も力を振り絞ってその場に立ち上がる。千鳥を手に取り構え、ライオンを斬るために構えを取る。

 そして走ってきたライオンは俺に向かって飛びかかってくる。その攻撃を受けるために負傷中の足にも鞭を打って、地面に踏ん張る。

 「さぁ来いや!」

 「横に飛びなさい!」

 ライオンの攻撃を受ける気満々だった俺にどこからか声が聞こえた、そしてその声に従うと、俺がいた位置の左手から一つの台風のように渦を作る風がライオンを包み込み動きを封じた。

 「各員、魔法射撃!シロ、大丈夫?」

 「ねえちゃん」

 そこにはターミル魔法学院長でもあり、俺の姉でもある矢頭 茜が寸前の所で助けてくれて俺を心配してくれていた。

 「話は後、こっちに行くわよ」

 姉ちゃんは敵からできるだけ遠い所に風魔法で俺を運んでくれる。

 「ウガォォォオオオオオオオオオ!!」

 「う、うわああああああああああ!」

 だが姉ちゃんの作った風の檻がライオンに壊され、その付近で魔法で攻撃をしようとしていた人達に攻撃を食らわせて重傷者が続出した。

 「嘘でしょ、私の檻があんなに簡単に壊されるはずないのに・・・・・・このままだとまずいわ。ごめんシロ少し行ってくるわ」

 そう言い姉ちゃんは俺を敵から少し離れた場所において、敵の所に走っていく。姉ちゃんも俺と一緒で武器は剣だ。そして得意なのは空中戦で風魔法を使い凄まじいスピードで攻撃を行う。

 今現在も風魔法でスピードを上げて、見えないほどの早さでライオンに攻撃を行っている。ライオンは怯みながらも姉ちゃんをなんとか捕らえようと前足を振り回す。だが勿論そんな攻撃は姉ちゃんに当たるはずはない。

 「・・・・・・!」

 姉ちゃんには当たらないはずだった、だがライオンが前足を使って暴れていた足下には姉ちゃんが俺を避難させている間に代わりに戦ってくれていた人達がいた。そしてその人達の安全を取るために姉ちゃんが地面に降りて移動をさせようとしていた所をライオンは見過ごしてなかった。

 「ウガォォオオオオオオオオオオ!!」

 ライオンの叫びと共に振り下ろされた手に姉ちゃんは気付くが、少し反応が遅れてしまい前足に付いている爪によって攻撃を受けてしまい、血が飛び散った。

 「・・・・・・姉ちゃん!!」

 どうやら傷は浅かったのか姉ちゃんは負傷者の人達の回収作業を始める、だがライオンもこれが好機と攻撃を繰り出すのを止めない。それに対して姉ちゃんは障壁を作りガードをしているが疲労により肩で息をしている。

このままだと姉ちゃんが死んでしまう。そんなのは絶対に・・・・・・嫌だ!

「万物は生まれ生き死に その姿を変える 我為に他為に 生まれ落ち 生きる為にその姿を変えよう トランス!」

 俺は香川先輩の時に作った魔方陣よりも大きい魔方陣を自分の立っている地面に描く、そして魔方陣を描き上げて詠唱を完了すると、地面に描かれていた魔方陣が俺を包むようにして上がっていく。そして俺の頭上を通過して魔方陣は消え、トランスが完了される。

 「はぁぁあああああああ!」

 俺は全速力でライオンの足下に入り、一発攻撃を食らわせて俺に注意をそらす。俺の願い通りライオンは俺に狙いを決めたようで俺の後を追ってくる。

 「シロ、少しそのまま耐えてて!」

 姉ちゃんが叫ぶ通り俺はライオンを引きつけたまま、とにかく人のいない方に逃げる。香川に撃たれた右足が痛むが、そこは我慢だ。

 だがずっと逃げている訳にもいかず直ぐにフィールドの端に付いてしまった。そして容赦なく追いついてきたライオンが前足を振り降ろしてくる。俺は飛ぶ事がまだできないし、この距離だと回避も間に合わない。だとしたらとれる行動は一つ。

 「おらぁぁあああああああああ!」

 「ウガォォォオオオオオオオオオ!!」

 俺は千鳥を頭上に構えてライオンの前足を受ける。

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いっ!!

 右足が悲鳴を上げているが、そこで気を抜くわけにはいかない。姉ちゃんが時間を稼げって言ったなら何か策があるはずだ。俺はそれを信じて今を耐える!

 だが気持ちとは裏腹にどんどんと押され始めてしまう。

 「うおおおおお!? もうこれ限界だわ」

 俺が諦めかけた時に俺にずっと重圧を与えていたライオンの前足が浮き、少しの隙ができる。俺はその間に左に走り、危機的ピンチを脱出する。そしてライオンの方を見てみるとライオンのお腹に穴が空いていた。

 「よく頑張ったわね。シロのおかげでお姉ちゃん回復できたわよ」

 「良かった」

 安心して俺は思いっきり息を吐き出して、さっきまで緊張していた体を楽にしてやる。そんな俺の姿を見た姉ちゃんは少し笑ってライオンの方を向き直す。

 「速攻で作ったとはいえ一応体を貫通しているんだけどねぇ・・・・・・」

 姉ちゃんの放った魔法で体には穴が空いているが、ライオンはまだぴんぴんして体に穴が空いたのに怒っているのか唸っている。

 「よし、じゃあシロ。そっちの力も久々に使ってあの魔獣をやっちゃってみて。私なら避けられるからバーンと派手なのでも良いわよ」

 「いやいやいや、姉ちゃんが回復したんだから最後までしてくれよ。俺香川先輩とので限界なんだけど?」

 「反論は認めないわ、姉命令でもあり学園長命令よ!」

 そんな会話をしているうちに走って来ていたライオンを姉ちゃんは足止めするために飛んで攻撃を食らわせていた。

 「ほら、早くして。さすがのお姉ちゃんも魔力尽きちゃうわよ~」

 姉ちゃんがこういう事を言い出したら止められないのを俺はよく知っている。大体2度目のトランスをした時点で皆に質問攻めをされる事はわかりきっている。

 もう、一つ二つ質問事項が増えたところで何も変わらないか・・・・・・

 俺は逆らう事を諦めて、目の前に魔方陣を描き始める。

 「ほ~ら、早くしてくれないとお姉ちゃん本当に死ぬわよ~」

 遠くで足止めしている姉ちゃんの声が聞こえるが無視をして自分の全力で魔方陣を描く。だが魔方陣は第1式のような弱い魔法だと少しで終わるのだが第2式第3式と徐々に上がっていくにつれて、描く魔方陣の量と中身が多くなる。

 そして少しの時間を描けて魔方陣を描き上げた。

 「姉ちゃん離れてくれ!」

 「了解!」

 俺に返事した姉ちゃんはものすごい早さで俺の後ろに立つ。そしてライオンは獲物を探してきょろきょろとあたりを探している。

 「くらえ、シャイニング ギャザー レイ!!」

 そして俺が『光』の第6式魔法を発動すると、俺の魔方陣が強く光り輝いた後ライオンをも飲み込む大きさの光の柱が魔方陣から発動される。

 「ウガォォオオオオオオオオオオオオ!!」

 魔法は見事命中し、ライオンは叫び消失した。

 「や、やった・・・・・・」

 「よくやったわねシロ、ってシロ!?」

 俺の体は限界を通り越していたのか、魔法を撃ち終わると力が入らなくなりその場に倒れてしまう。そして俺は返事もできずに目を閉じて疲れた体を休ませるためにもすぐに眠りに落ちるのだった。

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