第一章  魔法戦闘(5)

「はぁ、はぁ、ちょ、タンマ・・・・・・もう、無理」

休憩をほとんど挟まず連続で紗雪のスピードに合わせて剣の打ち合いと、智彦の範囲攻撃の回避を行っていたため、もう足も腕も体のほとんどがガクガクとして立つのもままならない状態になっている。

そして俺は持っている剣を地面に突き刺して地面に寝転がる。紗雪や智彦も限界に近かったようで三人して地面に倒れた。

「いやいや真白君の才能には驚きです、急成長を遂げるので見ていて本当に面白い。最初はだいぶ圧倒されていましたが、最後には押し返して反撃できるほどにまでなったじゃないですか、一日もかからずこれはすごいですよ」

イケメン教師は拍手をしながら俺へと近づきながらそう褒めてくる。

「てか、先生。ダメージを受けないんだったらこういった疲れとかも普通なくなるんじゃないですか?」

「真白君、あくまで生徒が怪我をしないための処置です。本来の戦闘で疲れないような処置は施されません、あくまで実戦と変わらない環境で学ぶ事が重要です。ですが生徒に怪我をさせるわけにも行かないので、打撃や魔法攻撃の力だけ無くしているんです」

なるほどな、確かに本番で疲れないわけがないし、その時に疲れないと思い込んで戦ったらすぐに全力出して負けてしまう。

すぐに実戦で使えるようになる人材の育成か、よく考えられてるものだ。

「今日は少し早いですが、早く帰ってゆっくり休んでください。明日は魔法の応用をするので精神に疲れは溜めないことです。いいですね?」

「了解です」

「それでは解散です」

そしてイケメン教師は一足早く訓練場から去って行った。

「ふぅ、じゃあ俺達も帰ろうぜ」

「そうだな、体がマジで痛てぇわ。明日は筋肉痛確定だ」

「え、えぇ、そうね。私達の愛の巣に・・・・・・きゃっ」

本当にどうしたんですか、紗雪さん!? そんなキャラクターじゃなかったでしょ!!

少し恐怖を感じた俺は、戦闘服を解除して出口へと向かった。智彦も戦闘服を解除して俺の横に来て小声で話をする。

「なぁ、お前紗雪ちゃんが好きだとか言ったか?」

「あ、あぁ、好きとは言った。勿論長年の付き合いである幼なじみだからな、だから協力して智彦を倒そう、とも」

こいつはよく分かるな。気絶してたし聞こえてないはずなのになんで分かるんだ?もしやこいつの固定魔法か!?

「いや心とか読んでないからな?普通に考えてそれ以外紗雪ちゃんがあんな風に露骨に変貌するはずがないからな」

すげぇ、すげぇ洞察力だ。こいつと知り合ってからここまで優れた能力があっただろうか!

 「失礼な事考えてるんじゃねぇよ。てかマジでお前が紗雪に対してそういった気持ちがないなら今日誤解を解いとけよ、じゃないと血を見ることになるぞ」

 血を見るって大げさな、大体そういう気持ちってなんだよ。もっと具体的に話してくれないと血を見ることを避けられないのに・・・・・・

 「何話してるのよ・・・・・・その、シロ!」

 「は、はい!」

いつのまにか紗雪は俺達に追いついており、俺の名前を強く呼ぶ。その言葉の覇気に怯んでしまい、少し距離もおいてしまう。

 「あ、あのね?」

 紗雪は下を向いたままモジモジとしている。心なしか耳が少し赤い気もする。紗雪は話そうとして口を開けかけたり、閉じたりを繰り返す。ここで今変な状態になっている紗雪を怒らせるわけにはいかないので何も言わないまま言うのを待つ。

 「その・・・・・・私達ってあれじゃない?」

 「あれ?」

 「ほ、ほら!最初の試合で・・・・・・!」

 もしかして幼なじみの関係の事を言ってるんだろうか

 「もちろんだろ、あの時の気持ちに嘘はないぞ」

 「そ、そうよね!」

 「なんでそんな言い方するんだよ・・・・・・」

 俺の返答に対して紗雪は笑顔で俺の方を見る。だが智彦はその後ろでぼやきながら頭を抱えていた。

 「だったらその・・・・・・腕を、組んで帰らない?」

 「へ?」

 なんで腕を組んで、恋人みたいな真似を・・・・・・恋人?

 俺は一瞬頭によぎった事を否定してくれないかという期待を込めて、感が冴え渡っている智彦の方を見る。智彦と目が合い、智彦はこっちが言わんとしている事を感じ取ったのだろう真面目な顔でゆっくりと頷いた。

 そして俺の憶測が現実と重なっていくのを感じながらも否定の案を探すために、俺の言った言葉を振り返ってみる。

(紗雪、俺・・・・・・お前のことが(幼なじみとして)好きだ)

確かに俺はどういう関係で好きかとは言ってはいない、それはもちろん紗雪が俺のことを幼なじみとして見ていると思い、少々省いても脳内では『幼なじみとして』で通ると思っていたためだ。だが思い返すとどうだろう、これは完璧な告白ではないかっ!

俺は事の重大さにやっと気付いた。心の中では頭を抱えて地面に膝から崩れてしまっている。

智彦の、血を見るという言葉の意味がよく分かった。

あんな勘違いさせるような発言をして、このままダラダラと進んでいくと紗雪の思いをもて遊んだようになってしまう。もうすでに手遅れかもしれないが、そこは男として、何よりも幼なじみとしてちゃんとしないと駄目だ!

だが、どうすればいい。俺の想像ではどう動こうと俺が殴られる未来しか見えない。

迷いに迷う俺はもう一度智彦を見るが、ため息をついて首を横に振る。どうやら俺は親友にも見捨てられたようだ。

「ねぇシロ!・・・・・・駄目?」

ずっと返答をしない俺に少しいらついたのか、紗雪は俺の制服の裾を思いっきり引っ張って俺と目を合わせ、上目遣いで頼んでくる。

勿論紗雪が嫌いなわけはない、というか本人にも言った通り好きだ。だがそれは幼なじみとしてであって、恋人とかそういった類いの甘い感じの物ではない。

「シロ・・・・・・」

あぁ、そんな目で見られたら・・・・・・

「し、仕方ねぇな。家の前までだからな?」

「やった!」

紗雪は少し飛び上がり、俺の手にしがみつく。その姿に少し俺の心も飛び跳ねてしまった、紗雪はあまりにも嬉しいのかくっつきすぎて俺は昔と今の違いを意識してしまっている。

お父さん、お母さん、大人になるってこういう事なんですね・・・・・・

 「よし、じゃあ帰る、か・・・・・・」

 「あれ、もしかしてシロ照れてるの~?」

 「ん、んなわきゃねぇだろうが!」

 紗雪が茶化すので思いっきり否定しながら見てみると、紗雪はこっちを見ずに顔を赤らめながら下を俯きながら歩いており、そんな姿に不覚にもドキッとしてしまう。

 紗雪のくせに紗雪のくせに・・・・・・

 「あの、お二人さん?俺もいるからね?」

 「うおっ!」

 いつの間にか、というより最初からいたが紗雪に意識を向けすぎていて忘れられていた存在である智彦の声に驚いてしまう。そして、智彦は俺の耳元で小さく

 「お前と紗雪ちゃんがいいならいいけど、誤解を解くなら早めにした方がいいぞ」

 そうとだけ言い元の体勢に直り、そのままぎこちなく三人で帰って行った。

――――・――――・―――――・―――――・――――――

『夜―真白の部屋―』

 風呂に入り、夜飯を食べ、寝ようとした時にアミュに紗雪から通知が届いた。アミュを開き内容を確認すると

(明日からも今日帰る時みたいにして登下校してもいい?)

 いや、それはまずいだろう。今日流されて腕を組んで下校したがやっぱり付き合ってもいない男女がそういう事をするのは・・・・・・だが、俺のミスのせいで紗雪は付き合っていると思っている、紗雪は昔からかわいかったり誰とでも明るく接したりする事で、結構男子からも女子からも好感度が高かった。そしてよく告白されていたらしいが誰とも付き合わなかった、もしや!

 昔、小学生の時だが「俺に彼女ができなかったら紗雪が貰ってくれるさ!」と言っていたことがある。そのたび紗雪に怒られていたんだが、もしかしてそれを律儀に覚えていて実行してくれたのだろうか。そうだ、そうに違いない。俺が好きならもっと早く行動を起こしていただろうし、やっぱりあの約束ではないが俺の適当に言った言葉を守ったんだろう。可能性的には少ないがこれ以外に思い当たる点がない。だとしたらなおさら断らないと紗雪が彼氏を作れないままだ、幼なじみとして紗雪には本当に好きな人と幸せになってほしい。

 よし、やっぱりここははっきり言わないとな。

 (そういった事はやっぱり駄目だろ。後その事について話があるんだ、明日の特訓を始める前に会ってくれ、それでこれからもいつも通りで頼む)

俺はアミュを操作しそう打ち込んで送った。善は急げというしな、特訓前に言えばいいだろう。そうして俺はその日眠りについた。


『同時刻―紗雪の部屋―』

 「今日はなんていい日なのかしらっ! うっふっふ~でもシロもシロよね、あんな戦闘中とかじゃなくてもっといい雰囲気で言ってほしかったな・・・・・・けど、シロとうふふふ~。私遂にシロと付き合ってるのよね」

 自分ではまずいと思っていてもにやけが止まらない。昔から側にいて、私はずっと思いを寄せていた。けどシロは私なんかには興味なさそうだったけど・・・・・・本当は相思相愛だったのが本当に嬉しい。

 「もう、シロシロシロシロッ!大好きすぎる~~!!」

 私は枕を強く抱きしめベッドの上をごろごろと何回も何回もあまりの嬉しさに転がってしまう。そして何回したか分からないほど転がって目が回りそうになった時アミュが振動し、通知が入った。

 そしてその通知の送り主は愛しの彼氏・・・・・・ちょ、まだ、少し照れくさくて言えない!!うーんどう呼べばいいのかしら・・・・・・と、そんな事よりもなんて帰ってきたかな~

 一人妄想をしてテンションが変なことになっている。今でも自制しないとスキップをしてしまいそうなほどに気持ちはうきうきしている。そんな思いを抱えたままシロからの通知を見るとそこには、腕を組むのは止めてほしいとの事だった。

 「駄目なんだ・・・・・・もう、シロってば恥ずかしがり屋なんだからっ!」

 私とくっつくのそんなに恥ずかしいのかしら、確かに私も恥ずかしいけど・・・・・・でもでも、好きな人とは距離感0でいたいんだもん!けど、シロが駄目って言うなら仕方ないし、我慢しないと・・・・・・

 そして続きを読んでいく、その次には明日腕を組むことに関しての話?というよりももしかして恋人として接するに当たっての話と言う事かしら・・・・・・も、もしかして!

 あの時は好きって言っただけで『付き合ってくれ』とは言ってないから、言うつもりなのかしら!シロったら律儀、本当にそんな所も大好き!

 明日からもいつも通りって言ってるし、いつも通りに動けばいいのね。

 私はずっと高まっているテンションを無理矢理落ち着けようとしながらアミュに

 (了解よ!また明日ね!!)

 と打ち込み送った。カーテンを開けて向かいの部屋を見てみると電気が付いていない。もうシロは寝たようなので、私も寝ることにする。

 そして高まってしまったテンションのせいでその後1時間寝れなかったのは言うまでもない。

――――・――――・――――・――――・――――

―――特訓4日目―――

 「ねぇシロ、早く行きましょうよ。もう試合まで時間がないのよ!」

 「お、おう」

 「ちょ、待ってくれよ!」

ホームルーム終了後、紗雪はすぐに俺の所に来て腕を引き訓練場へと向かう。俺達の後を智彦が追ってこようとしたところ、紗雪はそそくさと動かしていた足を静止させ振り向きこう冷たく言った。

「あ、教室でまだ準備があるんだったわ。坂本君は先に行っていて?」

「え、あぁ・・・・・・じゃあ真白も――」

智彦が俺の肩を持って一緒に連れて行こうとした時、俺の肩に乗っていた智彦の手を紗雪が思いっきり叩いた。

「痛っ!?」

「シロも私の手伝いなの、分かるわよね?」

 紗雪の目が怖い、笑っているのに目の奥が全然笑ってない、こんな状態の紗雪に言えと?あれ、今日が俺の命日なんじゃないのか・・・・・・

 「は、はい。一人で準備してきます」

 そう言い智彦は走って訓練場に向かった。そして紗雪はもう一度俺の腕を引き、さっきよりも遅く歩きながら訓練場の方に向かい始めた。

 「あれ、忘れ物があったんじゃないのか?」

 「そんなの嘘に決まってるでしょ、シロが、その・・・話があるって言うから・・・・・・」

 「あ、あぁ」

 こいつはこいつで気を遣ってくれたんだな。やっぱりこんな優しい奴俺にはもったいないし、他にもっと似合う男がいるよな、しっかり言わないとな。

 「じゃあ訓練場に行くまでの間にある中庭で話すよ」

 「分かったわ」

 そして、紗雪が腕をひっぱっている状態で歩き続け、中庭に到着した。下校する生徒や部活に行く生徒も以外といるため、もう少し訓練場のほうに歩いて行く。

 「さて、ここならいいだろう」

 結局どこも人が多かったため訓練場のほぼ前の道に来た。

 「紗雪、話ってのはな俺達の関係なんだけど」

「うん」

 紗雪は若干頬を赤く染めて俺の目をじっと見返す。その目力の強さに怯みそうになるが、ここで言わないと駄目だと自分に気合いを入れて言葉を続ける。

 「俺が戦闘の時好きと言ったのは恋人としてじゃない。幼なじみとしてなんだ」

 「・・・・・・え?」

 「本当に勘違いさせるような事言ってすまない!」

 俺は思いっきり頭を下げる。

 あぁ~絶対怒ってるだろうな、勘違いとはいえ、俺の言葉の少なさが引き起こした事態だ、責任は取らなくてはいけない。何があろうと断らない。

 「あ・・・・・・っ!」

 紗雪は口を開いて何かを言おうとしたがすぐに止めた。

 「その、紗雪・・・・・・」

 俺は顔を上げて紗雪の顔を見てみると目は充血しており、今にも涙を流しそうになっている。

 「いや、見ないで!」

 「ご、ごめん」

 俺は後ろを向く、すると後ろから紗雪の啜り泣く声が聞こえた。そして数秒間経ち、ようやく泣く声が止んで、紗雪は話し始めた。

 「や、やっぱりシロは分からないわよね・・・・・・」

 紗雪の声は弱々しく罪悪感が胸を満たす。

 「本当にごめん、紗雪が俺の言った事本気にしてると思わなくてさ、本当にごめん」

 「え、どういう意味?」

 「紗雪は俺が中学とかで言ってた事をしてくれてたんだろ?ほら、俺が周りの男子とかに、俺に彼女ができなかったら紗雪が貰ってくれる、って言ってたの。あれを幼なじみのよしみでしてくれてたんだと思ったんだが」

 「何それ」

 俺の説明が終わり明らかに紗雪の声音が変わった。さっきまでの悲しみではなく今は怒っているように聞こえる。そして俺は紗雪の方を見るとまだ涙で瞳を潤ましている状態で俺を睨んでいた。

 「いや、違うのか?」

 「じゃあ何、シロは私が貴方に恥を欠かせないために聞き間違えで彼女になったと勘違いしてたとでも言うの!? ふざけないでよ、そんなわけないでしょ!私は昔からシロの事が好きだった。だからシロに告白された時本当に嬉しかった。両思いだ、なんてはしゃいで一人で・・・・・・馬鹿みたい・・・・・・」

 「紗雪――」

 「一人にさせて、今日の特訓は悪いけど行けないって言っておいて、体調が悪いの」

「あ、あぁ・・・・・・」

 紗雪はそうとだけ言い、その場を去って行った。俺はあまりの迫力に止めることもできず、紗雪はどんどんと離れて行ってしまった。

 「くそ、俺は何してんだよ」

 紗雪が俺の事を本当に好きだったなんて、少しは考えた事もあった。紗雪は俺以外の男子には一線を引いた話し方をしており、何処まで行っても知り合いの男子、というような扱いをしていた。けど俺に対しては女子以上に仲良く接してくれた、それは幼なじみと言う事と、おれの事が好きと言う事があったのは今知った。

 「俺、どうしたらいいんだよ・・・・・・」

 「はぁ、お前は馬鹿だろ。何がどうしたらいい、だよ。謝る以外方法はあるのか?」

 俺が頭を抱えてその場にうずくまっていると、後ろから俺の親友である智彦の声が聞こえた。俺はそのままの体勢で答える。

 「けど、ああなったらなかなか話してくれないぞ・・・・・・」

 「なら話してくれるまで謝り続けるしかないだろうが、もしくは本当に告白するか、だな」

 「おま、何言ってるんだよ」

 「いや、俺は割と本気だぞ? 俺は紗雪ちゃんがお前の事好きなのは知ってたからな、後はどうやってくっつけようかと思ってて、俺を倒すためにくっついたのかと思ったら、明らかにお前は全く違う感じを出してたからな」

 こいつ、どんだけ勘が鋭いんだよ・・・・・・

 「てか、知ってるなら教えてくれていいだろうが!」

 「お前が教えたところで動ける人間じゃないって事くらい知ってる。しかも知ったらいきなり避けたりし始めたりするだろうからな」

 「・・・・・・」

 言われるとそうしていただろう、本当に俺の事を俺以上に知っている親友だよ。

 「まぁとにかく今日帰ってからアミュに連絡いれとくとかしとけ、今は紗雪ちゃんの事よりも戦闘訓練だ!ほら、行くぞ」

 そして俺は智彦に押されるままに訓練場へと向かい、訓練を開始した。欠席した紗雪の代わりにベータが紗雪の立ち回りを担当とした訓練が始まった。

 そしてその日の夜にアミュで紗雪に連絡を取ってみたが返事が返ってくることはなかった。

――――・――――・――――・――――・――――

 『―紗雪の部屋―』

 (本当にごめん、許してくれ!いつでもいいから連絡待ってる!)

 シロから送られてきた連絡にはこう書かれていた。

 「あぁ~もう、本当に馬鹿みたい!」

 あんな勘違いをしていた私自身に腹が立つ。私自身も思ってたじゃない。シロは女の子に

興味とかないって・・・・・・勘違いして、結局今逃げてるし・・・・・・

 「過去に戻りたい」

 過去に戻って過去の私にシロはそんな気持ち少しもないよって言ってあげたい。

 あぁ~・・・・・・

 すごくナーバスになっている時にアミュが振動した。しかも振動が長くどうやら通話のようだ。相手を確認するとそこには『坂本君』と表示されていた。気は乗らなかったがシロとの事だろうと考え一応出てみる。

 「お、紗雪ちゃん。坂本だけど」

 「はい、そう登録してあるので分かりますよ。それで用件は何です?」

 「勿論真白の事だよ」

 やっぱりシロの事だ。

「・・・・・・はい、どうぞ」

 「シロすごい謝ってたぞ?特訓手伝ってやらないのか?」

 この男は・・・・・・私だって、勿論手伝いたいに決まってる。だけどあんな事があってすぐに何事もなかったかのように顔を出せるわけないじゃない。

 「貴方には関係のない事です。この事は私とシロの問題ですので、二人で解決します」

 「そうか、シロ寂しそうに特訓してたな・・・・・・」

私が言いたい事は言いアミュの通話終了をしようとした瞬間、坂本君が小さくつぶやくように聞き捨てならない台詞を言った。

「シロが、寂しがってた・・・・・・?」

「あぁ、あいつって魔法とかでは成績優秀で、顔もそんなに悪くないだろ?だから以外と中学校の時から女子が近寄ってきてたんだが、俺の目から見てると明らかに紗雪ちゃんと接する時と対応が違ったんだよな」

「・・・・・・」

シロがモテてるの? でも、馬鹿な事言ったり、鈍感で相手の気持ちとか考えたりしないのに・・・・・・

 「中学の時一回こんな話をしたことがあるんだよ。お前の好きなタイプってどんな人なんだ、って聞いたらどう答えたと思う?」

 シロにも好きなタイプがあるのね、すごく気になる。けどここで変に食いついたりしたら恥ずかしいという事もあり、何の反応も起こさないでおく。すると坂本君は最初から変わらないままの調子で話を続ける。

 「『俺は紗雪みたいに気兼ねなく話せるような人がいいな』って言ってたぞ?」

 え・・・・・・?

 「その、よく聞こえなかったのだけども。シロはなんて言ったの?」

 「『俺は紗雪みたいに気兼ねなく話せるような人がいいな』って・・・・・・紗雪ちゃん?」

 シロが、シロが私みたいな人がいいって・・・・・・ならなんで私の事を幼なじみとして好きってわざわざ言ったのかしら。私みたいに気兼ねなく話せる人じゃなくて、私だったらそれですべてが解決なのに・・・・・・

 「お、おーい紗雪ちゃん?」

 「え・・・・・・あ、何かしら」

 少し考え事をしていた為、無言の時間が続いてしまったようだ。急に呼びかけられて驚いてしまい途切れ途切れの返事を返すと坂本君はある提案を持ちかけた。

 「このままだと紗雪ちゃんの望んでいるような未来はないと思うんだ、だからあの鈍感男に紗雪ちゃんがアピールしていくしかないと思う」

「坂本君、シロが私に簡単に惚れるような人だったらとっくの昔に行動してます」

 「さっきも言ったように、シロは俺が見た所紗雪ちゃんくらいしか女子とは仲良く話してないんだ。しかも紗雪ちゃんの事を良いと思ってるようにも感じる!俺も全力でサポートするから、まずは謝って宣言しよう」

 「な、なんて・・・・・・」

 「貴方が私を好きじゃないなら私に惚れさせて告白させるわ!って」

 坂本君は似合いもしない高い声を出し私に言わせようと思っている宣言を発する。

 「ば、ばば馬鹿じゃないの!? そ、そんなこと言えるわけないじゃない!」

 私に惚れさせてやるってどんなだけ自信過剰な女よ!そんな事言ったらシロは確実に引いちゃって、もう絶対話してくれなくなる・・・・・・そんなの絶対に嫌!

 「分かった、じゃあせめて訓練くらいには参加してほしい。・確かに今回の事はシロが悪いと思うよ、けどさ、元々は紗雪ちゃんの不始末が原因でこうなったって理解してるか?昔から紗雪ちゃんに対して告った男が告白振られて逆上したりしたのを助けたりしたのもシロだろ?だったらここでその恩を返しても良いんじゃないか?」

 「そんなの、そんなの分かってるわよ。けど、あんな事言った後でどうすればいいのよ」

 「謝れば良いんだよ、シロがあんな事で人を嫌いになるような奴じゃないって事は分かってるだろ?」

 「けど・・・・・・」

 「まぁ、もう俺が話すことは話した。これで明日の練習に来るか来ないかはお前次第だ。けど、来て一緒に訓練をするというなら俺もお前らの関係を協力させて貰う。それは言っておくよ。じゃ」

 最終的に一方的に坂本君は話して通話が終了した。

「明日・・・・・・」

確かに今回の特訓も香川先輩と戦う事になったのは私のせいだし・・・・・・けど、会わせる顔なんてないし・・・・・・どうしたらいいのよ!

私は布団をかぶってその日の夜寝るまでの間ゆっくりと考えた。

――――・――――・―――――・―――――・―――――

 ――特訓5日目――

 今日も今日とて紗雪に無視をずっとされていた。そして早くも放課後となり、訓練場について智彦と一緒に自主練習をしながら用事があると言っていた先生を待っていた。

「んで、今日はどうだったんだ?」

 「やっぱり話も聞いてくれないし無視されてるよ。はぁ、どうしたらいいんだよ・・・・・・」

 「お前は謝り続けるしかないんだよ、それでも駄目なら誠意を見せないと駄目だな」

 「誠意?」

 なんだ、金でも渡せとこいつは言うんだろうか。

 「そこはやっぱ紗雪ちゃんに告白してちゃんと付き合うだろうな」

 は?

 「いや、まてまてまて。大体俺は紗雪に彼氏とかできないと思ったからちゃんと言ったんだぞ?」

 「そうだな、けど紗雪ちゃんは好きな人いたじゃん」

 それを言われると痛い、俺は紗雪が本来できるはずだった恋を俺の勝手な行動のせいでできなくしているんじゃないかと思っていた。だが本当は紗雪が俺の事を好きだった。言ってて恥ずかしくなる。

 「お前自身嫌じゃないんだろ?」

 「そりゃそうだろ、紗雪は普通にかわいいと思うしな。けどだな、俺達はあくまで幼なじみだよ。やっぱり恋人ってのは違う気がする」

 「もう埒が明かねぇ、普通に練習試合するぞ。お前が負けたら強制告白な」

 「はぁ!? おい待て、それは紗雪もかわいそうだろうが、そんな賭けなんかで告白されても!」

 「うるせぇ!大体お前が勝つために特訓付き合ってやってるのに、昨日も身が入ってないわ、今日もまだナヨナヨしてるわでこっちの方が迷惑だ!文句があるならまともに戦えるって所見せてから言え。5秒後スタートだ」

 きゅ、急すぎる。

 智彦の我慢が限界に達したのだろうか、いきなり怒り始め、しかも勝手にカウントダウンも始めた。俺は焦りながらも剣を構えて臨戦態勢を取る。

 「0!」

 そしてカウントダウンが終了し、智彦は一気に距離を詰めて俺を殴ってくる。しかも一発一発を防いでいて分かるが、こいつ俺を仕留めるほどの力で来ている。

 「おらおらおら」

 しっかりとガードをするが、智彦の早さと力に圧倒されてバランスが崩れ始める。そして遂に俺は体勢を崩して、体勢を直すために剣を地面に突き刺してどうにか戻そうとするが間に合わない。智彦の拳は俺の顔面をとらえており直撃だ。

 くそっ、負けた!

 「させない!」

 俺があきらめて殴られようと目を閉じ歯を食いしばったがどれだけ経っても智彦の拳は俺の顔に当たらない。恐る恐るゆっくりと目を開けてみると、智彦の拳を紗雪が長刀を使って止めていた。

 「え、紗雪?」

 「話は後よ、坂本君を倒すわよ!」

 「お、おう」

「え、ちょ待って」

 紗雪は長刀で智彦を俺からいったん遠ざけながら攻撃を加える。そして俺は地面に突き刺した剣を引き抜き、攻撃態勢で紗雪に加勢するために上段の構えで智彦の方に飛ぶ。

 「紗雪!」

 俺が名前を呼ぶと紗雪は横に移動し、俺が連続攻撃で智彦を迎撃する。さっきは俺が一方的にやられていたため俺も手加減なしで追い詰める。

 「おい、真白。それは強すぎる!」

 智彦の悲しい声が聞こえるが無視をして攻撃を続ける。そして、疲れが出てきた智彦の足に隙ができる。俺はその隙を見逃さずに斬る。

 「あ・・・・・・」

 「紗雪!」

 「はぁぁああああ!」

 そして体勢を崩した智彦の頭を紗雪は思いっきり斬った。魔法がかかっているため死なないが普通なら致命傷じゃすまないレベルだろう。心の中で気絶している智彦に対して合唱し、突如始まった練習試合は幕を閉じた。

 だが今は智彦の気絶を悲しんでいる場合ではない、どうしてここに紗雪が・・・・・・今はそんな事を考えるよりも謝らないと。

 「その、紗雪・・・・・・」

 「シロ、ごめんなさい!」

 俺が謝ろうとした時、さっきまで背を向けていた紗雪は反転して俺の目を一回見てから頭を下げた。

 「え、おい。どうして紗雪が」

 「ううん、シロは私の事考えて誤解を解こうと話してくれたのよね」

 「あ、あぁ」

 紗雪は下げていた頭を上げて俺の目を真っ直ぐ見据える。

 「私、あの後喧嘩してちゃんと考えたの。そしてちゃんと結論を出したわ。私はシロの事が好き、シロがどう思ってようと私はシロが好き!」

 紗雪は顔を真っ赤にしながら叫ぶように言う。俺も自分の顔が熱くなっているのが分かる。

 「だから決めたの、シロに好きになってもらえるように努力するって、これからシロにもしかしたら好きな人ができたりしても最終的には私に振り向いてくれるように努力するの。

今を精一杯生きて、シロを私に惚れさせてやるんだから!」

 紗雪は人差し指をで俺を刺し仁王立ちで宣言をした。だがよっぽど緊張していたんだろう、声も体も震えてしまっている。

ここまで紗雪が思いを見せたんだ、俺も・・・・・・

 「紗雪、ごめん。やっぱり俺はまだお前を幼なじみとしか見れない。だけど紗雪の思いは分かった、俺も、何ができるかは分からないけど、色々と頑張ってみるよ」

 そして二人は笑い合った。正直めちゃくちゃ恥ずかしいし、優柔不断な選択なのかもしれないけど、今の俺にはこれが精一杯だった。

 「えっと~二人ともそろそろよろしいですか?」

 「「うおっ!?」」

 いつの間にかその場に先生がおり、俺達の空気を思いっきり元に戻した。先生は俺達に一言言った後に倒れている智彦の治療を終えた。

 「さぁ、では訓練をはじめますよ~!」

 そして先生の掛け声の下、俺達は香川に勝つための特訓を開始した。

そしてそのままの勢いで先生の課される特訓をし、とうとう香川との対決の日になった。

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