第一章 魔法戦闘(4)
―――特訓3日目―――
「さて、今日の特訓はちょうど3人いるので戦ってみましょうか」
何故か2日目の特訓を休んでいた紗雪と智彦も今日の特訓には顔を出していた。だが二人ともやる気というか生気が感じられない。
「え、それって俺達3人が自分以外と魔法でって事ですか?」
「えぇ、もちろんです。それとも私が3人1グループの皆さんと戦いましょうか?」
冗談じゃない、俺達3人が束になって挑んだとしても先生は軽く片付けてしまうだろう。それなら先生とやるよりもこの3人で戦い合った方がまだましだ。
「いえ、さすがに勝てないので3人で戦います。それで良いよな、紗雪、智彦」
「う、うん・・・・・・」
「真白がそれでいいなら俺も異論はないぞ・・・・・・」
どうしたよ二人とも!! 顔が完全に死んでるぞ!?
「さて、では始めましょうね。あ、ついでにベータ投入しちゃいましょう」
「何勝手に思いついた事実行してんだよ!」
だが俺の突っ込みなんぞに先生はベータを魔方陣から出現させる。そして紗雪と智彦はボーっとしながら歩いて訓練場の壁までたどり着いた。そしてベータを含めた4人が一定距離に立ち、いつでも始められるように武器を取り出し構える。
「それでは、本番で使用する機械音が鳴ったら開始です。あと1分集中させておいてください」
俺は他のメンバーの様子をうかがう。ベータはいつも通りフードがかぶせられて何も分からない、智彦は武器であるメリケンサックを触りながらブツブツ言っている。紗雪も武器である長刀を構えたまま一点をじっと見つめて動かない。
いや、あいつら大丈夫かよ・・・・・・
「5,4,3,2,1,」
ビーーーーーーーーーー
周りの行動を探っていると時間が経ち、すぐに試合が始まった。
今回智彦と紗雪は相手にならないだろう、だとしたら狙うのはベータ。こいつさえやってしまえば俺の勝ちだ。
そして開幕速攻、俺はベータに剣を構えたまま突っ込み一気に間合いを詰める。そしてベータもそれに迎え撃つ準備として、さんざん昨日苦しめられたサンダーボルトを討つための腕を上げた。
「サンダーボルト」
そして容赦なく討ってくる。
「くそっ!」
一つ飛んできたサンダーボルトを剣で切り裂き避けようとする。だが、先生が変更したのだろう昨日よりも何気なく威力が上がっている。そしてサンダーボールを叩き斬った時俺は衝撃を受けた。
「え・・・・・・?」
「サ、サンダ――――行動停止、全情報回路ヲ切断シ修正シマス」
続けて俺に魔法を放とうとしていたベータは俺の見た時にはフードの中から煙を出して座り込み動けなくなっていた。そしてその後ろには紗雪がいつの間にか立っていた。
何、何がどうなってるの?
よく見たらベータの背中には紗雪の長刀が刺さっている。その長刀を紗雪が抜き取り俺を見てから構えた。
「ちょ、ちょっと待て!」
俺は叫ぶが、紗雪はそのまま突進を仕掛けてくる。そして上段から思いっきり長刀を振り下ろしてくる。それに対して俺も自分の剣でガードをするが押されて片膝を地面についてしまう。
紗雪は俺を真っ直ぐ見据えて、全体重と力で俺をそのまま斬ろうと試みている。だが俺も意地だけで耐え、膠着状態となってしまった。
「もう、早く斬られてよ!」
「ふざけんな!? 誰が斬られてたまるかよ!」
だが後は時間の問題だ、このままの状態が続くと圧倒的に俺は不利な立場にいる。ここをどうにか打開しなければならない。どうすれば・・・・・・
「うおらぁぁああああああああ!」
俺が打開策を考えていると、右方向から魔力を纏ったメリケンサックを振りかぶり高くジャンプし、落下と共に思いっきり智彦が俺を殴りに来た。俺は長刀の力を刃先に反らし、左方向に思いっきりジャンプする。そして紗雪も巻き添えを受けないように後ろに思いっきり飛んだ。そして智彦が空振り地面を殴ると、智彦の拳を中心に直径3メートル程度のクレーターが作られた。
「くそっ、真白なんで逃げるんだよ!」
「逃げるわ!え、何、お前も俺を殺そうとしてるわけ!?」
だが、いつの間に二人がここまで強くなったんだろうか。中学の時はここまでの力を二人とも持ってはいなかった。本当にあの2日で何があったんだ。
そして俺が構え直すと目の前にはいつの間にか紗雪が長刀を振るおうとしている姿が目に入った。そして斬られないように俺は咄嗟に剣で受け止める。
「あ、あぶねぇ・・・・・・」
「もう少しだったのに」
紗雪との唾競り合いがまた始まってしまう。そしてさっきと同じく智彦が高く飛び、攻撃を仕掛けようとする。そして俺ももう一度紗雪の剣を反らして左方向に思いっきり飛ぶ。紗雪も避けるために飛べば、また俺達がいた場所に新しいクレーターが作られる。
そして紗雪は俺に近づいてまた長刀を振るい、俺はそれを受け止める。この最悪のループが続いてしまう事になる。
あいつらがこんな戦い方をするのは魔法では俺に勝てる事はない、と考えているためであろう。俺はあいつらよりも強力な魔法も膨大な魔力も持っている。単純な魔法比べだったら俺が圧倒的に勝ってしまう。だからこそ剣でしか戦えない押し込むような戦法をしているのだ。
それだけこいつらは本気で俺を潰しに来ているという事だ。
だが俺だって負けるわけにはいかない。だから俺はもしもの状態の時に、中等部の時から考えていた状況を打破する方法を実行することにした。
「紗雪」
「な、何よ」
俺は膠着状態の紗雪の耳元に自分の口を持って行きささやくように話す。智彦は俺の行動が変わったことを認識し、飛ばずにその場で様子を見ている。
さすがだ、相手が違う行動をしたら警戒するべきだ。だが今回に限っては智彦の用心深さが仇となる。
「紗雪、俺・・・・・・お前のことが(幼なじみとして)好きだ」
そうとだけ言い、耳元から顔を離し紗雪の目を真っ直ぐ見つめる。突然の事で何が何だか分からないのであろう。紗雪はぽかーんとして口を開けたままでいる。そして内容が理解できたのか、顔を真っ赤にしてプルプルと震えながら長刀を振り回す。
「な、なななな、何言ってんのよぉぉおおおおおお!!」
「うおっ!?」
振り回す長刀が俺の頭上を通過する。
やべぇ、もう少し下だったら血が出てる。
危険も感じるがこの動揺しているチャンスを逃したら駄目だ。
「ちょ待て! 落ち着け!」
剣でもう一度長刀を受け止めて振り回すのを止めさせる。
「な、なによ」
「だからだな、俺はお前が―――――」
「うぉぉおおおおおおお!!」
後少しだったが、危険だと察知したのか知らないが智彦が俺に向かって攻撃を仕掛けてきた。今度は紗雪が近くにいたためさっきみたいな力業は使えないため、普通に殴ってくる。
「くそっ!」
近距離での拳との戦闘は危険だと俺は判断し一定の距離を開ける。
「紗雪ちゃん、ああ言って仲間に引き入れようとしてる。だまされちゃ駄目だぞ」
「え、え・・・・・・? あ、あぁ!もちろん!分かってるわよ!!」
智彦の言葉に紗雪が最初は惚けていたが、シャキッとした顔になり。また攻撃を仕掛けてくる構えをする。
流石智彦だ、状況理解するのが早すぎるだろ、タイミング良すぎる・・・・・・。
そしてまた紗雪が突っ込んできた。
「ね、ねぇ。あれ、本当?」
紗雪と剣をぶつけ合うと、俺にだけ聞こえるくらいの小さい声で紗雪は言った。このチャンスを悟られないためにも頷いて、智彦の攻撃の回避に移る。
そしてまた智彦が地面にクレーターを作り、紗雪が俺に攻撃をする。
「な、なら・・・・・・智彦を倒すから手を貸しなさい」
「お、おう!」
さっき智彦に注意されたのに見事に紗雪は騙されて、智彦を倒すのに協力してくれるそうだ。罪悪感で胸が痛むが、勝利には変えられない。
「うぉら!」
突然の了承に回避が遅れて智彦の攻撃を受けそうになるが、寸前の所で交わすことができた。そしてまた紗雪が俺に接近。
「次に坂本君が攻撃した後私は背後から攻撃するわ」
そうとだけ言い、さっきよりも少し早く回避行動に二人で移る。
「うぉらぁぁあああああ!」
そして地面に智彦が作って立ち上がったと同時に紗雪は接近し、智彦を思いっきり後ろから長刀で叩ききった。
「え・・・・・・?」
少しの疑問を感じている声を発して智彦はその場にゆっくりと倒れ込む。
「シロ、私やった――――」
「ありがとう」
智彦を見事討ち取った紗雪が俺の方に振り向いた。そして俺は罪悪感を抱えつつも紗雪の頭に瞬時に描いた魔法を放射して、意識を無くさせた。そして勝負か決まったため始まりと同じ機械音が鳴り響く。
本当に紗雪すまない・・・・・・
紗雪は今現在地面に寝転がっている。しかもすごく嬉しそうに何故かニヤニヤしている。魔法が掛けられているためダメージはないだろうが、やっぱり少し心配になってしまう。
ましてや智彦は紗雪に思いっきり斬られてたしな・・・・・・
俺はチラッと智彦の方を見るとその場に倒れたままピクリとも動いていない、まじで大丈夫だろうか。
俺が智彦に近寄ろうとすると、イケメン教師が拍手をしながら降りてきた。
「いや~真白君すごいですね。敵を味方に取り入れて倒してしまう、生き残るには大切な事です」
「素直にありがとうございます。けど今回はまともにやってたら俺の体力が底を尽きて負けてしまってました」
「それが分かってるなら十分ですよ、今回は勝負に負けて試合に勝ちましたね」
本当にその通りだ。そしてまた俺が魔術に頼らないとろくに戦闘もできないと言うことも理解できた。本来の戦闘ではもちろん近接技を使う魔道士だって存在する。そのタイプが現れた時に俺は今日みたいな永遠ループをするような実力じゃあ負けてしまう。だが、何故あんなコンビネーションが良かったのだろうか。
「先生、紗雪と智彦は何で機敏に動けたんですか? 明らかに先生がさせた初日の特訓に関係してますよね」
「えぇ、もちろん。正直言うと初日の特訓って言って絆を深めさせていましたが、あの時の貴方は本来いらないんですよね」
「は・・・・・・?」
え、戦う本人であるこの俺がいらない特訓って何? どんな状況だよ!
この言葉を思いっきりぶつけてやりたかったが今ぶつけてしまうと離しがずれそうな気がしたので、ぐっと飲み込んで先生の話をおとなしく聞く。そして先生は俺の心境なんてそっちのけの状態で話を進める。
「あの香川っていう生徒は弓を自分の武器として戦うため、遠距離戦闘を得意とします。そしてあの子が放つ弓は本当に早くて、消えたように感じてしまうくらいなんです。そして早いだけでもなく矢の一つ一つがしっかりと重いんです。これらを攻略するために紗雪さんと智彦君に協力を要請したんです」
なるほど、紗雪はああ見えて昔から代々続く長刀道場の娘である。そして技術もさることながら、紗雪が最も秀でているのはスピードだ。魔力で身体強化も何もせずに、道場破りに来たプロの魔道剣士とやり合い勝った。勿論相手は身体強化をしている状態でだ。プロの魔道士は第一式のような簡単な魔法なら討つのに二秒もかからない。だが紗雪は二秒もあれば50mほどの距離を詰めてしまい、相手は魔法を討てる範囲が足りなくなる。そのため剣で応戦することになるが、スピードでかなわないため大体の剣士が受けるだけで体力が底をついて負けてしまう。それほどまでに紗雪のスピードはすごい。
「紗雪の協力は納得いくんですけど、智彦は何でなんですか?」
「香川君は広範囲の固定魔法を持っていると噂があるからです。あの香川君がこうやって公の前で戦うことなんて今までなかったため、あまりにも情報がないんですが。広範囲の固定魔法なら力でがんがん破壊できるような生徒がいいと考え、智彦君を決定しました」
なるほど、智彦と紗雪との戦闘はそういうことか、素早い攻撃からの範囲的ダメージ攻撃をどう対処するか、か・・・・・・今の話を聞くと香川は本当にやっかいな相手のようだ。
「そしてあの日は今日に向けて紗雪さんと智彦君の意思を聞く事をしていたんです。貴方の特訓の付き添いついで、と言うことならあの二人も来る確率が多い気がしまして、そういった方法をとらせてもらいました」
「素直に特訓の手伝いをしてくださいって言えば二人とも快く引き受けてくれますよ」
ようは、俺は完璧に二人を呼び出すための餌になったわけだ。どうりで初日は適当すぎる扱いを受けたわけだ。
「これからは素直に頼むことにしますよ。そして貴方が契約精霊と話をしている時から、二人には特別な空間に入ってもらい、あのコンビネーション技を極めてもらってました」
「てことは、あいつらは精霊門の中で二人の契約精霊に鍛えられていた訳ですね」
「はい、いや~びっくりしました。あの二人どっちもドSな契約精霊なものですから、休憩がなくてずっとヒイヒイ言ってましたよ」
思い出したのか先生はその場でお腹を押さえながら笑っている。
うすうす感じてはいたがこいつはやはり最低だ。確かに強くはなっていたがこのまま信じてもいいものかと悩んでしまう。
そして未だに笑い続けているこの最低教師を少し放置し、数十秒間一人で笑い続け、やっと笑いが収まってきた。
「はぁ、はぁ・・・・・・笑い疲れました。さて、では続きをしましょう」
「練習するなら二人を起こしましょうよ、回復頼みます」
未だに先生が治癒魔法を施さないため、ダメージは受けていないものの、気絶状態にある。香川の弓対策の為の特訓なら二人の力がないとできない。その為先生に二人の治療を唆す。そして先生は紗雪は頭、智彦は胸に手を当てて魔力を注ぎ込んだ。そして魔力を流して5秒程度で紗雪も智彦も目を覚ました。
「・・・・・・」
「ね、眠いわね・・・・・・」
智彦は寝ぼけているかのように何も話さず、遠くを見つめている。紗雪は眠そうに目をこすってあくびまでもしている。
「いや~、お二人惜しいところまで持ち込んだんですが、真白君の方が一枚上手だったようです。次は気合いを入れていきましょう」
「あ、シロ・・・・・・ぽっ」
先生の言葉に返答せず起き上がった紗雪はまず俺を見た瞬間に顔を赤らめる。あぁ~明らかにこれは俺が原因だがちょっとまずい状況になってしまってる。
しかもちょっと性格変わってるじゃぇか!なんだ、ぽっ、って今まで聞いたこともないぞ!
「じゃあ二人とも頼むぞ、準備します」
そんな紗雪に突っ込みをいれるとずるずると続きそうなので、俺は二人への再度の願いをし、さっきと同じ持ち場へと向かう。
「そ、そうよね。シロは私のためにしてるんだから、しっかりしなくちゃ!」
「うわ、俺が気絶する事になった原因が理解できた気がする」
そんな二人の声がはっきり聞こえるが聞こえてないふりをして、精神を集中させ訓練をするために気合いを入れる。
そして壊れたベータの代わりとして先生の立ち会いがあるもと、この日も特訓をした。いつもと違い対人戦で主に剣を使った動きを学ぶ事ができたため、普段自分一人ではできない特訓をできたため充実感を持ったまま、下校時間になるまで特訓を行った。
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