第一章  魔法戦闘(3)

試合の作戦を聞いた俺はマリと分かれて精霊世界から現実世界へと帰ってきた。扉から出てあたりを確認すると近くの木の下で眼鏡のイケメン教師が優雅によだれを垂らしながら寝ていた。

 「・・・・・・おい」

 「ぐぅ・・・ぐぅ・・・」

 「おいっ!」

 規則正しい寝息を立てながら眠る先生の肩を思いっきり揺さぶり、無理矢理に起こそうとする。そして何度も揺さぶるとピクッと体を跳ねさせて目を開けた。

 「・・・・・・あっ、く、訓練は終わりましたか!?」

 寝てませんよ、と言わんばかりのテンションで、口元によだれをつけたまま先生は話を進めた。

 「うんうん、訓練の成果が出てますね。これなら一週間後ももしかしたら勝てるかもしれませんね」

 訓練成果って・・・・・・まぁマリとの会話で気が紛れたのはあるから成果と言えば成果なのか。

 「えぇ、先生のおかげです。ただ勝てる可能性を増やすためにも実戦形式での練習を明日からお願いしていいですか?」

 「えぇ、もちろんです」

 俺からの願いにイケメン教師は二つ返事で引き受けた。今日マリから聞いた作戦はもう少し動けるようになったらできるようになるだろう。少しでも確実性を増やすために動きを洗練しなくてはならない。

「あ、あと紗雪や智彦はどこにいるんですか?」

 「あの二人ならすでに訓練を終えて帰宅していますよ」

 あいつらも以外と早く終わったのだろうか。いつも一緒に帰るという紗雪が一人で帰ったなんて驚きだ。訓練で何があったんだ・・・・・・

 とにかくあの二人がいないなら俺も帰ろう。

 「先生今日はありがとうございました。俺も帰らせてもらいます」

 「あぁ、気をつけて」

 俺は先生に頭を下げ出口へと向かう。

 今日立てた作戦は唯一、俺が勝てるかもしれない方法だ。その方法を忘れないようにしっかりと頭に叩き込みながら家へと帰った。

 「なるほど、何かしら見えたみたいですね。これからの成長に期待ですね」

 そうして扉の前に一人残されていた眼鏡教師も精霊門の前を後にした。

―――・―――・―――・―――・―――・―――・―――・―――・―――

―――特訓二日目―――

 「そうです、集中ですよ。絶対に途切れさせないでください」

 昨日の俺の一言で今日、実戦形式の訓練をすることになっていたのだが。俺は今現在魔法を放ちやすくするために必要な精神統一をさせられている。

 この練習は中等部で行われている基礎の基礎だ。何故、今こんな事をしているのだろうか、それは俺にも分からない。

 「はい、いいでしょう」

 「ふぅ・・・・・・先生、精神統一何でしたんですか?もういらないでしょう」

 「何を言ってるんですか、こういうのは基礎が大事なんです。まぁ真白君は必要ないみたいでしたけど・・・・・・」

 「何無駄な時間使わせてんだこらぁ!!」

 え、何。本当にこの人教師なの?てかこの人に特訓頼んで正解だったのだろうか・・・・・・

 「こ、こらぁって教師に言っていい台詞ではありませんよ。基礎ができているかの確認ですから。という事でこの魔人形と戦ってもらいます」

 そう言うとイケメン教師は目にもとまらぬ早さで簡易的な魔方陣を描く。そうしてその魔方陣から俺が知っているのとは少し違うフードを深くかぶった魔人形が出てきた。中等部時代の俺が相手にしてきた魔人形は高さ160センチ程度だったが、この魔人形は180センチはあるだろう。そして少しだが魔力量の差を感じ取れる。

 「この魔人形は学園で独自に作った物でベータと呼ばれています。従来の魔人形は実戦用とはいえ、動きがとろかったり、魔力量の関係上魔法も第一式、ようはサンダーボルトのような基礎魔法しか扱えませんでした。ですが、このベータは魔力をより多く溜めておく機関を作ったので第2式の魔法までなら全属性使えるそうです。ですので、舐めてかかると痛い目を見ますよ」

 なるほど、動きがより俊敏になってなおかつ強力な魔法を討てるようになった。これならマリの言ったより実戦に近い戦いができる。初めて先生を先生だと感じてしまった瞬間だった。

 「よし、なら先生しようぜ。と言いたい所だけど紗雪と智彦は?」

 「あの二人は昨日の疲れが溜まっているので今日は出ないそうです」

 「え、嘘だろ」

 そういえば何か今日はいつもよりもテンションが低かったような。あの二人が疲れが溜まって出ないって、二人の契約精霊は何させたんだよ・・・・・・。

 「まぁ、明日には元気になるか。よし、来い!」

「元気がいいですね、怪我をしても知りませんよ? ベータ起動、模擬対戦開始!」

 先生の声と共にベータと俺の対戦が幕をおとされる。

 「サンダーボルト」

 ベータが開始直後にいきなりベータの腕から発動されたサンダーボルトを俺に向かって討ってくる。俺は真っ直ぐ飛んでくる呪文を出現させた俺の魔道具である剣でぎりぎり防ぐ事ができた。

 と言うか

 「なんでこいつ魔方陣描かなくても魔法討てるんですか!!」

 「あはは、すごいだろ。そいつは見ての通り魔方陣なんていらない。いるのはこの腕だけなのさ・・・・・・という魔人形なのだ!言いましたよね、怪我をしても知りません、と」

 「この・・・・・・」

 ありえないだろ、魔方陣を描かずに第2式までの魔法はすべて使えるって、魔法の歴史全否定かよ。さて、この高速術者のような魔人形をどう倒すか・・・・・・普通に魔法を討ち合ったとしても、早さでは勝てるわけがない。俺が魔法を討つとなると敵の攻撃を避けながら魔方陣を描き上げなければならない。まずは為しにやってみないとね。

 「はぁっ!」

 飛んできていたサンダーボルトを一つはじき返しそのまま横に飛ぶ、そして左手で魔方陣を描き続けながら、ベータが打ってくるサンダーボルトを右手の剣で防ぐ。

 そして3回ほどの防御の末、やっと魔方陣が完成して魔法を討てる状態になる。そしてずっともう一度サンダーボルトをはじき今度は上に飛んで即座に魔法を発動。

 「しゃあ、もらった!ファイヤーボム!!」

 ファイヤーボムは第2式の魔法で、サンダーボルトなんかの飛距離はないが、何かと接触すると爆発してダメージを与える爆弾を放つ魔法だ。今みたいに飛び上がり投げるようにして発動すると飛距離も若干だが伸びる。そのため集団での戦闘時は重宝されるが、そんなに威力は高くないので、簡単な魔術障壁で防がれてしまう。

 俺の放ったファイヤーボムは綺麗にベータの周りに散らばり、地面に着弾するたび爆発する。土煙が舞い、あたりが見えなくなってしまう。

 どうだ、やれたか?

 徐々に煙がなくなっていくと、影が見えた。どうやらベータは健在のようだ。

 「魔法障壁も使えるのか・・・・・・」

 「甘く見てますよ真白君」

 イケメン教師がしてやったり、とドヤ顔をしているのに腹が立つ。

 絶対勝ってやる!

そして俺がベータに近接攻撃を仕掛けようと構えた瞬間

「サンダーボルト、サンダーボルト、サンダーボルト、サンダーボルト」

 「うぉぉおおおお!?」

 一人で討っているとは思えないほどのサンダーボルトをベータは連発してきた。しかもそのサンダーボルトの練度が無駄に高く、剣で一つを防いだ瞬間に次に飛んできたサンダーボルトに左足をやられ、残りの3つ目と4つ目のサンダーボルトも左手と右足に見事に命中し、俺はその場に倒れ込んでしまう。

 「なっ!」

 そして俺はそのまま地面に倒れてしまい、動けなくなる。くそ、これは負けだ・・・・・・

 「ミッションコンプリート」

 そう発言をしてずっと掲げっぱなしだった腕をベータは降ろした。そして最後まで試合を見届けていたイケメン教師がどや顔のまま立ち上がれない俺の元へと近づいてくる。

 「だから言ったでしょう。怪我をしても知らないって、今現在は痛覚も無くすように魔法を掛けていますが、本当の試合はちゃんと痛みもありますからね」

 うわ、それは痛そうだ。

 「てか、先生治療魔法してくださいよ。俺倒れたまんまじゃないですか」

 「あぁ、すいません。」

 先生が仰向けに倒れた状態の俺の胸に手を置き、その手を通じて俺の体に先生の魔力を送り込まれている。手が置いてある所が暑すぎず、だがしっかりと熱を持っており何か変な感じだ。

 「よし、これで動けますよ」

 先生が手を離し俺はさっきまで動けなかった足からばたばたとしてみる。

 「おぉ、直ってる~!!」

 そのまま立ち上がって飛んだり、直った左手で両足を叩いたりもした。さっきまで全く動けなかったのに不思議だ。

 「これも以外と難しい技術なんですよ、知っていると思いますが治癒術ですね」

 治癒術も中等部の時に習う、だがこの治癒術は座学でしか学んだことがない、それというのもある程度の魔法が使いこなせるようになった魔道士でないと、自分の魔力はまだまだコントロールできていないそうだ。そのコントロールできていない魔力を他人に向けて流し込むなんて危険すぎる。だからこそ実技はできなかった。

 「先生って治癒術どれくらいでできるようになったんですか?」

 「え、そうですね・・・・・・時期はしっかりと覚えてませんが、魔法の練度を高める事をしていたら自分の魔力の流れが感じれるようになったと言うのでしょうか、急にできるようになりました」

 え、そんなアバウトなの!? まぁ一に練習、二に練習って事だな。練習を飛ばす方法はないらしい。

 でも少しくらいならいいのではないだろうか・・・・・・今度誰かが怪我したときにでも―――

 「やりたそうですが駄目ですよ、確かに真白君は同級生の中では一番優れています。けど魔道士の世界ではまだまだです。危険な事は考えないでくださいね、下手をしたら殺してしまう事だってあるんですから」

 「あ、当たり前じゃないですか。嫌だなぁセンセイ~!」

 「本当か心配ですが、くれぐれも注意してくださいね」

 見事俺の心の中で考えていた事を的中させて、教師らしく注意をしてくる。なんだこの先生は相手の気持ちでも分かるのだろうか、すごすぎる。てか逆に怖いわ!

 そんな俺の心の内を今度は分かっているのかは知らないが、先生はベータに近づいてベータの設定を表示させていじっている。

 「さて、これでいいでしょう。少しレベルを下げました。今のままでは絶対にベータにさえ勝てませんから」

 「えぇ・・・・・・」

 「当然です、少しずつ進めるのが一番の解決策です。確実に勝ちに行くんですからね!」

 「はい・・・・・・」

 そして何度もベータと対戦し、ようやく最初戦ったレベルまで引き上げる所までを一日でやり遂げ、帰宅することになった。2日目は初のベータとの対戦をして、自分の実力を思い知った一日となった。こんな状態で香川に勝てるのだろうか、少しナーバスになってしまう。

 だがまだまだ香川との魔法対戦の時間はあると、自分に言い聞かせその日は眠りについた。

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