Valentine's Day

二月に入ると商店街やショッピングモールではピンク一色のハートマークが

一斉に花を咲かせていた。

周りにいる女性たちは普段と違って羊の皮を被った狼、

殺気に似たような異様な雰囲気の狼に自ら近づこうとはしなかった。

気がつけば今週の日曜日はバレンタインデーだ。

一日一日が過ぎていくにつれて異様さがさらに増していき、

平和な日本とは思えないほど、町には殺気が満ち満ちていた。

僕といえば学校にもプライベートにも女性関係などなく、

チョコをもらえる確率など素人が初めて持ったバットでホームランを打つに

等しいほど低かった。

しかしながら現実ではチョコをもらえないとは分かってはいるものの

心のどこかでもらえるんじゃないかなと淡い期待を抱いている私がいた。

もしも仮にもらえるとすれば恐らく義理チョコという選択肢しかないであろう。

世間的にいえば、お世辞。チョコ事態に何の意味もなく、

本命を変わらない点があるとすれば、成分が同じというところだけだ。

ただ女性からの義理チョコの甘さは残酷なもので無いものを有るものに変え、

何もない砂漠にオアシスを出現させている。

純粋で思春期の心を持つ少年の心を悪戯にもてあそんで

甘い罠で知らず知らずのうちに傷つけている。

であるならば、いっそのこと、毒を盛ってもらいたいものである。

幻想の苦しさよりも現実の苦しさのほうが希望がないぶん、救われる。



二月十四日の日曜日の夜、私の手元にあったチョコは

生みの親からもらったただ一個たけだった。

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