turning point

肌寒い季節が過ぎて心地よい風は吹くころ、

各地では入学式や入社式の輝かしい行事が行われていた。

阪本も今年から大学生として入学式に参加している。

彼の周りには新たな人生の始まりに浮足立って

騒いでいる『彼ら』がいた。

阪本はただ群れて意味のないことで騒ぐ『彼ら』に

苛立ちを感じ、一方で『彼ら』のようにならないよう

気をつけようと心に誓った。

入学式後、『彼ら』を迎えるように部活動の勧誘が行われていた。

阪本には大学生活をいかにも充実していることを世間に

アピールしているようにしか見えなかった。

阪本は『彼ら』と距離を置いて生活をしていた。

普段の生活でも『彼ら』と絡むことはなく、

ただひとりで黙々と生活する日々を送っていた。

阪本は別に他人と一緒に過ごしたり、

イベントに参加しようとはせずに齟齬していた。

ひとりの方が楽だったし、他人と関わっても

自分にはメリットがないと考えていたからだ。

阪本の通っている大学は理系なので三年になると

研究室に五人ずつ配属されることになった。

阪本以外の四人のメンバーは阪本が『彼ら』と

呼んでいた人たちだった。

皆、三年以前から仲のいい四人だったが

阪本は馴染めずに研究室でも

ひとりであることを貫き通した。


三年の終わりごろになると一斉に

就職活動に取り組み始め、『彼ら』の中で情報交換が始まった。

阪本は孤立してしまい、周りの状況や情報を得られずに

精神的に塞ぎ込んでしまっていた。

結果、『彼ら』は志望通りの会社に進み、

阪本は志望していた会社とは縁遠い会社へと入社した。


阪本は酷く現実を思い知らされた。

勉強だけではなく、協調性や

コミュニケーション能力が問われることを。

阪本はこのことに酷く後悔していた。

あれだけ軽蔑してきた『彼ら』に負けてしまったことを。

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