LiFe
季節は年末の十二月に入り、町はクリスマス一色に染められていた。
人々が白い息を吐きながら町を行き交う中、広川は自宅の自室の
布団の中でうずくまっていた。
布団の周りにはゴミ袋やペットボトルが無造作に転がって
まるで広川の性格や感情を表していた。
広川は現在二十六歳、順調にいけば社会人四年目を歩んでいたのかもしれない。
だが現実とは残酷なもので気付いた時には自宅警備員もとい
引きこもりになっていた。
広川は朝起きるたびに自分を蔑み、自らを哀れむ生活を繰り返し、
気がつけば半年が過ぎていた。広川の頭の中では
どうしてこうなってしまったのか、懺悔の念で毎日を過ごしていた。
広川は四人家族の長男で他に父と母と姉がいる。
普通の家庭で父と母は共働きの身だったが父といえば
仕事やパソコンに熱心で家庭には無関心のひとだった。
母は父に比例して真面目な性格だったので
広川や姉に対しては口うるさく面倒を見ていた。
人に迷惑をかけることを良しとしない人で物事を自分で決めてしまう人だった。
子供の服選びや修学旅行の準備といった広川の身の回りの世話を
大学を卒業するまでずっとしていた。
一方で姉は我侭な性格でよく広川をこき使っていた。
当の広川は母の世話好きのおかげで物事に対して自分では判断できなくなり、
姉の虐げによって物事に対して意欲的に動けない自分がいた。
大学時代の就職活動、周りからは『とにかく内定獲得』の空気が流れて
広川の中でも内定を獲ることが優先事項になっていた。
広川は得意なこと、好きなこと、したいことが分からなくなっていた。
結局、広川は自分の価値を下げていくことでしか
社会との繋がりを見出すことができなくなっていた。
大学卒業後、地元の中小企業で働き始めた広川だったが
別段、志望していた企業でもなく、何気なしに入った企業で
働くものの日々の生活に意味を見いだせずにいた。
友人のいない広川は休日になっても孤独で居ることが多く、
何もないのに泣いている自分がいた。
生きる意味が分からなくなった広川は会社を辞めて社会との繋がりを切断した。
それからは懺悔の毎日だった。
「学生時代にもっといろいろ体験しておけばよかった」
「友人との繋がりを大切にしておけばよかった」
「無意味なことにもっと熱くなっておけば良かった」
気がつけば広川はホームセンターでロープを買い、
ネット検索で『もやい結び』の方法を探していた。
広川はもやい結びでできた輪に首を通して体重に身を任せると
自然と周りが虚ろに見えてきた。
薄れゆく意識の中で広川の中に今までにない感情が沸き上がってきた。
「生きたい」
心臓の音がはっきりと聞こえた。
精神が極限状態なのか、高鳴る鼓動が鮮明に聞こえ、脳に伝わってきた。
重力に身を委ねていた体は無意識のうちに姿勢を正して
生きるための姿勢をとっていた。目には生きたいという意思なのか
涙が出て目は赤く充血していた。広川は今の自分に絶望したのだ。
死を願った自分だったのに今、生きたいと思った自分がいたからだ。
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