STATELESSNESS

2030年、日本政治形態は未だに民主主義という名の高齢者主体の政治を行っていた。日本人口は三十年の間、ずっと逆ピラミッド構想だったため、若者たちの意見が反映することは稀であった。少子化は進み、若者にかかる国の負担は増加する一方であった。その背景により若者の自殺やニート化が増加し、日本は不安定な状態に置かれていた。影山忍はそんな若者の内のひとりだがIQ200の東大文学部卒のエリートであったが会社との隔たりがあったため、高学歴ニートとして世に出てしまった。影山は学生時代から他とは違い、政策や心理学といったあまり関心を持たれない学問に関心を抱いていた。また、文学以外にも解剖学を取得し、その成績は理系学生に勝るものであった。大学での卒論では『心理学を用いた政治戦略』と題して恐怖と暴力により心理的に民衆から賛同を得る戦略を発表した。この内容は大学側を激怒させ、内定のなかった影山に対して院進学への道は絶たれた。卒業後、影山は五年間、家に引きこもっていた。その間、ネットでFXを行い、生活を立てセキュリティなどのIT関係について学んでいた。東大卒とあって未経験のIT分野であっても丸二年でその腕は世界でも五本の指に入るウィザード級のハッカーとして裏世界で名を馳せていた。これにより影山に対して援助する者やビジネスを持ちかける者が現れ、表の世界でも影山の名は「WANDERER」として各国の警察機関に知られるようになった。そしてネットを始めて三年目に内乱紛争国であるイスラム過激派組織との出会いがあった。影山は世界的革命、イスラム組織は世界への宣戦布告、影山の思想と組織との目的が似通っていたため、この二つが意気投合するのに時間はかからなかった。最初はネット上だけのやりとりだけだったが出会ってから半年ほどすると、組織側から直接接触するため、日本に訪れていた。日本ではネット上ではやりとりを躊躇するような内容を話し合い、その会話は組織によってメモのような形で議事録が取られていた。この議事録によって後に過激派組織は飛躍的に組織としての質を上げたという。この出会いによって影山は自分の思想に現実味を感じ、より一層組織との関係を密にしたいと考えていた。そのために影山は日本のみならず、各国から少数精鋭の同志を集め、「今の世の中を若者の手で直接的に言動させる」ことを目的とした組織『STATELESSNESS(以後、STN)』をネット上で立ち上げ、過激派組織と同盟を結ぶことによって世界から問題視されるようになった。一国の若者だけの暴動ならば対処できたが、多くの国の人間によって形成され、さらにネット上だけの組織・STNは異例であり、各国の政府は対処の仕方に困難を極めていた。影山はこの混乱に乗じて世界各国にいるSTNメンバーをイスラムに集結させることを決めた。大学を卒業して五年目、影山は故郷である日本から旅立ち、イスラムへと向かった。数百万人の若者たちの待っている地で影山はSTNのリーダーとして組織として正式な活動を始めた。影山は実行部、政策部、諜報部といくつかの部隊を編成し、各部にその道のエキスパートを置き、若者たちの育成を始めた。若者たちは国を抜き出てきたアグレッジブさによりこの計画は順調に進行していった。正式に活動を始めて三年、STNは第二段階へと移行した。この年、イスラム近隣において世界各国の大統領、首相が集まる首脳会談が行われる予定であった。影山は最大の好機と考え、一年前から計画を立て実行部隊を編成した。過激派組織の協力もあり、首脳会談制圧計画は実現可能なものとなった。実際に首脳会談制圧においては完璧といっていいほどの手際で制圧を成し遂げた。制圧後、衛星中継を通して会談室が映し出された。画面中央には影山が立っており、後ろは数人のSTNメンバーが大統領をひざまずかせてその額に銃口を向けている。影山は一息つくとカメラに向かって喋りだした。

「はじめまして、皆さん。STNリーダーの影山です。我々は今回、宣戦布告の場としてこの場所を選ばせていただきました。中継をご覧の若者たちよ、今の世界に満足しているか?無駄な政策、資金を行い、弱者から金を要求する世に。もし、不平不満があるのならば、理不尽な世を打倒したいと考えているのならば、今こそ古き時代から新しい時代へ、反旗の時、革命の時だ。」

影山は怒涛のごとき演説を行い、終わると同時に右手を上げた。周りはその合図を確認すると人質に銃を突きつけ、影山は一言だけ大きく叫び、手を降ろした。

「ピース(これが真の平和だ)」

数発の銃声が室内に響き渡り、次の瞬間、宙に赤い血が舞った。

世界はこの事件に口を開けて唖然とすることしか出来なかった。この頃になると世界各国でSTNに熱狂する支持者が増加し、今回の「宣戦布告」をきっかけに各国で支持者による暴動や反乱が起こり、激化していった。次第に政治で成り立っていた国々は暴力によって成り立つ国へと変化しつつあった。これにより影山の描いた『心理学を用いた政治戦略』は現実のものとなり、高齢者中心の社会から若者中心への社会へと大きく時代は変動していった。

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