てるてる坊主

昔々、ずっと昔のお話。


山と山に挟まれた盆地に小さな農村がありました。

人口は数十人と小さいですが、農作においては温暖な気候のため、

毎年豊作で飢えとは無縁の生活を送っておりました。

そのため、村の人々は穏やかな性格で平和な日々を過ごしておりました。


季節は四月。寒さから抜け出し、収穫に向けて種まきを行う季節になりました。

毎年のことなので村人の作業には全くといっていいほど

滞りがなく、種まきを終えることができました。

四、五月は晴れの日と雨の日が作物にとって良い状態で訪れ、

順調に育っていきました。

しかし、六月に入ると徐々に晴れる日が少なく、

雨続きの日が長引きました。

中旬になると例年、害虫によって作物に被害が出て村人を困らせていましたが、

今年は虫どころか、猪や狼といった野生の動物の姿を見かけなくなりました。

村人は不安感を抱きましたが作物に対して甚大な被害が出なかったため、

その時はあまり問題視されませんでした。

ところが下旬になると一向に晴れる気配がなく、

次第に作物にとって悪影響を及ぼすのではないかという不安の声が

村人たちから出始めておりましたが、

梅雨の時期を越せば晴れるだろうとどこか淡い希望を抱いていました。

七月に入りましたが晴れはせず、それどころは日増しに雨が降り続く一方でした。

村人はこの事態に動揺を隠せませんでしたが

天災に対してさすがに対策の仕様がなく、

日照り乞いといった儀式に頼るほかありませんでした。

空は雨乞いの儀式と勘違いしたかのように次第に雨の勢いは強まり、

今年の収穫は絶望的な結果となりました。

それでも村人たちは貯蓄していた食料で今年を乗り切ることを決めて、

来年に託すことにしました。


時は流れ、


一年が過ぎ、種まきの季節がやってきました。

村人は種をまき、五月が過ぎました。ところが六月に入ると雨の日が続き、

去年の悪夢の再来だと村人たちは頭を悩ませました。去年と違い、

今年は蓄えがなかったため、何としても乗り越えなくてはならず、

村では将来に対する不安や食料不足に対する不信で

小さないざこざが起こり始めていました。

天災である限り手を打つことができず、

宥めるしか他村人たちはできることがありませんでした。

村が沈黙で静まり返ったとき、ひとりの男が立ち上がりました。

見た目は三十代半ばでしょうか、村の誰よりも宗教にのめりこんでおり、

日照り乞いの一件も彼の発案で行っていました。そして彼の口から


「生贄を捧げ、神にこの天災を鎮めてくださるように祈りましょう。」


とまるで何かにとり憑かれたかのように言いました。

普段の村人たちならこの案に対して反対したでしょうが不安や不信の募り、

正しい判断の下せない今の状態では全員一致で賛成する答えを導いてしまいました。

生贄は神への捧げものということで神聖なものでなくてはなりません。

そこでまだ年端もいかない十代の少女が選ばれました。

服は純白のワンピースのような服が選ばれ、儀式の方法として首吊りが選ばれました。

翌日、村の中心にある大木の木の下で儀式は行われました。

周りは我関せずと冷たい視線を逸らし、少女の母親は泣き崩れる中、

少女の命は神へと捧げられました。

降り続いていた雨はまるで嘘のように晴れ、

その後、作物たちは順調に収穫を終え、食料不足の問題も解決し、村の危機は救われました。

以降、村では毎年六月になると少女たちを生贄に捧げることで

村の安泰は何十年も守られ続けられました。



現在、農村跡地では神社が建てられ、中心にあった大木はご神体として祀られていました。そして毎年六月には豊作を祈る儀式としててるてる坊主を百体作り、神へと捧げる祭りがあるそうです。

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