第3話
輝かしくもない朝になった。
私はソファーから起きると、肩を回した。音がした。首を回す。音がした。
円形のシンプルな壁掛け時計を見ると、短針がローマ数字の8を、長針が9を示していた。
朝の8時45分だった。銀色の空、降り続く雨。代わり映えのしない毎日だ。
違う事と言えば、体が痛いことと、ベッドには藍原がいるということだった。
彼女はまだぐっすり寝ている。よく眠れなかったのだろうか?
私は彼女のスマートフォンを取り、彼女のプロデューサーに電話をすることにした。
ロック解除の様子を思い出し、真似してみる。二回目でそれは解除できた。
こういう仕事につくなら、他人のスマートフォンのロック解除ぐらいは出来ないと駄目だ。合法とは言いがたいのだが。時に法律は頭が固すぎる。
シンプルな電話帳から高岸マネージャーと名前の付いた欄を見つけ、電話をかけようとすると気怠い声が聞こえてきた。
「わたしのけーたい、さわらないでください」
モノクロームの空のように、気怠い声だった。
「君のマネージャーと仕事の話をしようと思ってね」
「へぇ、それでかってにさわるんですね」
「勝手に人の事を探し回るのがこの職業だ、悪かったとは思う。でも君を起こしたくなくてね」
「ぼでぃがーどはそのぐらいしてもらわないとこまりますよ」
彼女は首を傾けた。
「ポワゾンにやられた眠りの姫を起こすのは、男の人の役割でしょう?」
右目で一つウィンクをしてきた。
それじゃあ、そういうことにしておこうか。
「麗しのお姫様、君の召使いを魔法のなんとやらで呼び出してくれないか?」
私は彼女にケータイをゆっくりと、弧を描くように投げる。
猫のように両手で受け取ると、電話をかけ始めた。
テレビの前だとクールぶっているのに、意外と抜けた所もあるみたいだ。
人は誰でも演技をする。そこが銀幕の中でなかったとしても。
「はい、藍原です。あの契約してる探偵さんが仕事の話をしたいそうです。ええ、はい」
私はベッドに向かって歩いて、彼女からスマートフォンを受け取った。
「その探偵なんだが、契約書を持っていくからサインして欲しい。高岸マネージャーというのだったかな?シャンソンというバーで一時間後に会おう。つけられないようにしてくれ」
「朝っぱらから飲むのかい?相当お酒が好きなんだね、悪くない。というかこんな時間に開いているのか?普通昼か夜に開けるもんだろ?」
彼も気怠そうな声をしていた。芸能界に勤める物は睡眠時間が人とは違うと聞くが、心労で余計に疲れているだろう。仕事をキャンセルする彼の気苦労を考えると、六日で白髪になってしまいそうだ。その場合、後の一日は聖書にならって休むとでもしよう。
「私は禁酒中だ。もう一つに関しては、私の名前を出せば開けてくれる」
「そうかい。それじゃあ横でパパ・ダイキリかモヒートでも飲んでるよ。シャンソン、一時間後だな」
電話が切れた。
「出かけますよお姫様。召し物をどうぞ」
「わかりました。わたしを魔法の馬車で連れていってください」
彼女が着替え終わり、私と彼女は事務所を出て、インプレッサに乗った。
街は灰色で、遠くまで見渡せるかどうかわからない程に雨が降っていた。
途切れない、雨の音がしている。雨粒がフロントガラスにぶつかって、弾ける。心地よいノイズのような音と、ワイパーの周期的な音だけが聞こえる。彼女はまた眠っていた。
車を延々と走らせた。風景は代わり映えしない物だった。
数階建ての白い建物が並んでいる。その一角に、シャンソンがあった。
二階建てで、一階の出入り口の付近はウォルナットという木材で作られている。
横には共用の駐車場がある。十台ほど止められるスペースだ。
シャンソンの駐車場に車を止めると、他に蒼色のセダンが一台止まっていた。
藍原を起こした。
「ふわぁ・・・・・・もう着きましたか?」
「あぁ」
道路に銀色の車が止まっていた。中にいる男達はスーツを着ていた。グレーのスーツ、痩身で中背の男が運転席に、黒のスーツ、眼鏡をかけ、スマートフォンを触って、ゲームをしている細目の男が助手席にいた。運転席の男が助手席の男の肩を叩くと二人が、私達を凝視しはじめる。
藍原は彼等に微笑んだ。二人は下卑た笑みを浮かべた。
私はうすら寒いものを感じた。
ウォルナットで出来たドアの前に立った。ドアの上にChanson、そういう綴りのネオンがあった。しかし、ネオンは光っていない。夜ならば、赤色に妖しく光っている。
シャンソンのドアを叩いた。
少し押してみると、その分だけドアが動いた。
ドアを開けると、女のバーテンが一人。黒のスーツ、カクテルを横に、突っ伏して寝ている細身で長身の男が一人。
「ハーイ、探偵さん。一週間ぶりね。機嫌はどーお?」
底抜けに明るい声だ。
彼女は黒のベストの下に白のカッターシャツを着ていた。
髪は茶、頭の後ろ高くで1つ結び、手には銀のシェイカーを持っている。
燃えるように光る瞳を持っている女だ。昔芸能人だっただけあって、華やかさが彼女にはあった。服がよく似合っていた。
昔、仕事の問題で私の依頼人だったこともある。彼女はそのあと、仕事をやめここに拾われた。
芸能界は名声と金の副産物として、問題と格差を生む。彼女は大多数の芸能人のように、名声も金も手に入れられず問題と格差だけをかかえてしまったのだった。というより問題のせいで名声と金を手にいれる機会を失ったといった方が正しいだろう。
彼女は水江に目をつけられて、私の事務所に駆け込んだ人間だった。
「ああ、機嫌は悪くない。仕事がまた入ったからな。だが少し危険な仕事だ」
彼女はグラスに水を天高くから注いだ。
「そーいうことやってると早死にするわよ?」
グラスが私の前へスケートのように滑る。
「あら?そこの隣の女の人が今度の依頼人?どこかで見たことある気がするわ」
「わたしは今は誰でもありません。今は名無しの女ということにしておいてください」
「ああ、有名人の方なのね。じゃあそういう事にしておくわ。私の名前はみずな。よろしくね」
みずなというのは昔の芸名だ。彼女はずっと、本当の名前を明かそうとしない。みずなは寝ている高岸を起こした。
短髪で黒い髪、私より身長がさらに五センチ高そうだ。しかし、手は骨張っていて、体はひどく痩せている。
「ああ、寝ちまってたよ。ちょっと前まで左うちわだったのに、今じゃ車をかっ飛ばして徹夜で頭を地面につけるのが生き甲斐になっちまった。名前は高岸だ」
彼はひどいくまを目の下に作っている。人生の労苦を全てこの一瞬で受けたかのような顔をしていた。
「ここに時間内に来ると演奏してくれるのかい?」
高岸が、とても小さなホールのような設備を見て言った。
「営業時間内に来てくれれば、音楽があるかもしれないわ。辻っていう歌がうまい女の子が一人いるんだけど、興味ない?」
みずなが返した。
「へぇ。悪くなかったらスカウトでも考えてみようかな。僕の目は厳しいけどね」
「彼女は充分君の目に止まる程だと私は思っている。ルックスもスタイルも歌声も、君の言うとおり悪くない人間だ」
「そりゃあいい。それじゃあ、また明日来るよ」
私は口を挟んで契約書を取り出し、彼の目の前に置いた。彼は万年筆を取り出し、目を凝らしてサインをした。
「探偵さん。彼女を守ってやってくれよ。僕は彼女のために頭を下げておく」
高岸は、鉛のグラスを持ち上げるかのように、ガラスのグラスを持ち上げた。
そして器に少しだけ残った乳白色の液体を、掃除機が塵を吸い込むよりはやく流し込んだ。そうすると彼はグラスをひっくり返して置いた。
「実はこれはストーカーによる犯行では無いのかもしれないと私は思っている」
「へぇ、それで?」
彼にはそれほど驚いた様子は無かった。
「こういう世界にはよくあることだ。光あるところには影あり、なんてね。僕はそういうのを沢山見てきた。スポットライトやカメラの光が強ければ強いほど影は濃い」
高岸はおどけてグラスを戻し、次の酒を頼んだ。
「それで?誰かの差し金として、いったい誰が誰に彼女を襲わせたんだい?」
グラスにはもう一つダイキリが注がれることとなった。
「推測だが、水江だ」
「水江ってあの社長か?良くないな。これはとても良くないね」
みずなの眉がぴくりと動き細い指が、半分に切れたグレープフルーツの濁った、薄い黄色の果肉に食い込んだ。
人間誰しも聞きたくない言葉というのがある。言葉というのは母音と子音の組み合わせだが、組み合わせ方によって人を泣かせることも出来れば、怒らせることも出来る。彼女にとっては聞き覚えのある組み合わせだ。忘れたい名前だろうが。
「誰を雇ったかは知らない。ろくでなしであることは変わらない。問題なのはそいつが狡猾で、残忍で、陰湿で、冗談が好きな奴と言うことだ」
「冗談が好きだと何か問題なのか?」
「私が好きじゃない」
「君は真面目なタイプなのか?」
「いいや。ああいう手合いが冗談を言うのが好きじゃないだけだ」
高岸が空のグラスを覗いて、みずなに向かって催促するように肩を竦めた。
彼女の指はグレープフルーツの果肉に食い込んだままだ。
「何か君の気に触るようなことを言ったかな?」
「いや、昔の話よ。皆、色々な過去があるの。忘れがたい過去がね」
溜息を一つついて絞った。流れるように果汁を濾し、ライムの果汁と混ぜ合わせた。氷をシャーベット状に砕いた物をシェイカーに入れ、バカルディと果汁を注ぎ、蓋をして振り始めた。天井に張り巡らされているアメリカン・ウォルナットの木目を、星を見上げるような目で見つめている。
高岸が怪訝な顔で見つめて、一人で頷いた。
「思い出した。君は水江とトラブルを起こして辞めた人だね。バーテンになっていたとは思わなかったが。彼はそのうち全宇宙に女を捜す旅にでも出そうな奴だ。まぁしょうがないか」
みずなは高岸の最後の一言に顔を引きつらせた。
「なんですって?」
「しようがないさ。どうしようもない。君は大きなミスをしたんだ。君はあの業界に来るべきじゃなかったんだ。もっと地に足を付けた生き方をするべきだったんだ。大学に行って、企業で働いて、結婚して、子供を産んで、後はゆっくり年老いていくのを待つべきだった。そして孫に看取られてベッドの上でゆっくりと死ぬべきだった。君は星に手を伸ばそうとして梯子を蹴飛ばされたのさ。後は真っ逆さま。普通の人間は階段を昇って、五階あたりで街を見下ろせればそれで満足する。それで良かったんだ」
「口説くか乏すかどっちかにしてくれない?まるで自分がミスしたこと無いみたいな言い方して」
「僕の身勝手な予想だが、ここの四人は全員大きなミスをしている。一人はお星様から真っ逆さま、一人は超新星爆発寸前、そこの探偵はまず探偵なんていう危険とトラブルに首を突っ込む仕事を選んだのが最悪のミステイクで、僕なんかにいたってはそれと同じくらいかそれ以上さ」
「帰って。あんたの顔なんて見たくないわ」
「まだ終わってない。君が目を瞑ってればいいのさ」
高岸はカクテルグラスをひっくり返して置いた。
「僕はまだその雇われた男の外見を聞いていない」
「175センチ、長髪、筋肉質で、黒のレザージャケットにジーパンにブーツで高い声と彼女から聞いた」
私は答えた。
「ありがとう。僕も僕でそのろくでなしを捜してみるとする」
「無理はするなよ。頭がキレる奴だ」
「ああ、お代は置いておくよ。もう時間だ」
彼はカウンターに一万円札を十枚ほど置いて、ポケットに手を突っ込みながら立ち上がった。
「多すぎるわ」
「チップさ。取っておいてくれ」
底なし沼のように長く深い溜息を吐いたのは高岸だった。
「金だけはある。他は何もない。誇りも夢も持ち合わせてはいない。あるのはこの一張羅のイタリアのスーツと高いスイスの腕時計、そして飲んで食べるためだけの愛しく切ない金さ。一体そんなものが何になる」
彼は首を横に振って、扉を開けた。
そして空の灰色が、扉によって蓋をされた。
まだ雨は降っているようだ。
彼は傘を持ち合わせていない。
だからといって男は走らずゆったりと歩いて、車まで向かっただろう。
どんな時でも走らない男に見えた。いつも何かに疲れて、何かに辟易としている。
「何あの人。スカした男ね」
みずなは高岸の背中を横目で見送った。
一万円札を右手で取って数えた後、遠くのどこかの国への小さな募金箱へ九枚無造作に叩き込んだ。一枚は机の上に置かれた。
彼女は彼を気取っていると言ったが、それが体にしみこんでいれば気取るも気取らないもない。今の彼女の行動も、見慣れない人間から見れば、そう彼と変わってはいない。
「マネージャーはああいう人なんです。いつも皮肉や憎まれ口ばかり言ってます」
藍原がかばうように言った。
「皮肉屋になる権利があるのは疲れた人間だけだ。きっと彼にはその権利がある」
「あたしも皮肉屋になりたいところね」
彼女は果汁の付いた指を、レースの付いたピンクのハンカチで拭き取った。
「あ、どうせカクテル作っちゃったし、あなたどう?」
みずなは藍原に新しいグラスを差し出した。
「お願いします」
ダイキリが藍原のグラスに注がれた。
「しかし大変ね。あんな奴に目を付けられて」
「はい。それはとても」
藍原はダイキリを半分飲んだ。グラスの端に口紅の跡が残った。
「でも、いいことも少しあるんですよ」
「へぇ、どんなこと?」
「仕事が休みになって少し暇が出来たことと、探偵さんに守ってもらえるなんて映画みたいな事を体験できたことです」
「映画なら必ずうまくいくけど、現実だとそんなに甘くはいかないわ」
「今の言い方はちょっとないんじゃないんですか?」
カクテルグラスがひっそりと置かれた音がした。
私は空になったコップを見つめて、もてあそんでいた。
「色々思い出して嫌になっちゃったから、こういう言い方をしてしまったわ。悪気があったわけじゃないの」
「いいんです。こちらもちょっと気が立ってて」
「ところで水をくれないか?」
私はみずなにコップを差し出した。
彼女は逆手に持ったアイスピックを軽く振り下ろし氷を砕いた。
クリスタルのように透明な氷に亀裂が走り、ピンポン球ほどの大きさの氷が作られる。
それが私のグラスに放られ、水が注がれた。
「アイスピック」
「アイスピックがどうかしたの?」
「彼女はアイスピックで襲われた」
私は水を飲む。ミネラルウォーターの味がした。
「その男は不思議な武器を使うのね。今度はうまくいくの?」
「やってみるしかないだろう」
私は席を立とうとした。藍原はまだ立とうとする気はないようだ。
「今度?昔何かあったんですか?」
藍原は質問をした。私に対してかみずなに対してかはわからなかった。
「昔、ある若い女が依頼人だった。依頼は証拠を集めて奴を警察に突き出すこと。しかし私はしばらくの間留置所送り、今その女は私の目の前にいる」
私は答えた。答えたくはなかったが、みずなが答えないのだから仕方ない。私の後に続けて、みずなは答えた。
哀愁と過去という酒を口に含んで、舌の上で転がしているような表情で、自嘲するように絞り出した。
「注目されると舞い上がる人種がいるの。それが私だった。でも今は廃業ね。昔話なんて聞いてて楽しくもないからやめたほうがいいわ。今が真夜中で、お酒を飲んでるなら少しは楽しめるかもしれないけど」
藍原はぐいとアルコールを喉に注ぎ込むと、少しだけ突き出ているのど仏が艶めかしくせり上がった。
少しだけ時間をおいて、グラスは空に浮かべたまま。口紅の跡が一つ増えた。
写真家がこの場にいたのなら、二人に迷わずカメラを構えるだろう。
「そんなことがあったんですか」
「あったんだ」
私は答えると、グラスを空にした。グラスは水滴がついて、深い霧がそこだけにかかっているようだった。
グラスの向こうは見えない。
そろそろ上がりだ。
「帰るぞ、藍原。みずな、時間外だったが、感謝している」
「ええ、気をつけて、二人とも」
私は藍原に席を立つよう促し、バーの扉を開けた。
扉を開けると、雨が降っていた。
天の滝から降りしきるような強い雨だった。
私は道を見回したが、二人の男が乗っていた車は消えていた。
そして道に出た。
駐車場に向かおうとしたその時だった。
黒いバイクが走ってきて、私のすぐそばに何かを撃ち込んだ。コンクリートが悲鳴を上げた。撃ち込まれた物は、短く太い金属製の矢だった。
そして男はそのまま通り過ぎていった。
バイクにはバッグを背負い黒のレザージャケットを着込んだ、中背で肩幅の広い男が乗っていた。
男が手袋をした左手に何か持っている。小型の弓が横に倒れ、そこに台座と照準器と拳銃のような形をしたグリップが付いている。後ろに、蠍の尾のような、弦を引くための為の棒があった。
小型のボウガンだった。ピストル型にしては強力な80ポンド型ボウガンだ。
男はすぐにボウガンをバッグにしまった。
きっとあのストーカーの男だろう。
ナンバープレートには黒いビニールがかぶせてあって到底読めなかった。
コンクリートに当たった金属矢は折れ曲がっていた。先に紙が結びつけてある。矢文とは古風な脅迫者だ。紙を開けた。
筆跡鑑定を避けるためか、直線だけで描かれていた。インクも自分で作った物だろう。手のこんだ事をする奴だ。手紙にはこう書いてあった。
その女から手を引け、と。
私は一度受けた依頼は、依頼人がやめろと言うまで必ず実行する。それが私なりのルールだ。
必ずしも人に誇れるような人生を歩んできたわけではないが、それがルールだ。
たとえやくざや警察、社会や国家を敵に回しても、私が納得して受けた依頼なら最後までそれを完遂する。
ボウガンの一つで今更引くような人生は歩んでいない。
「大丈夫ですか!?」
藍原が駆け寄った。
「矢文だ。手を引け、と書いてあった」
紙を丸めて捨てる。
みずながシャンソンから駆けだして、こちらに来た。
「何があったの!?」
「大したことはない。あのストーカーからちょっとボウガンを近くに撃たれただけだ」
「ちょっとって・・・・・・」
私は車に向かって歩きだす。
「店の戸締まりはちゃんとしておくんだ。少しでも不審な点を感じたらすぐに警察を呼ぶんだ」
「今呼べばいいじゃない」
「それは依頼人が望んでいない事だ。出来ない」
「気をつけて」と、みずなが溜息の後に言った。
私は背中を向けたまま頷いた。
車に細工はされていなかった。
「ただのストーカーだと思ってたのに、どうしてこんなことに」
藍原が両手を胸の前で強く握り合わせた。震えていた。
「そういうこともある」
鍵をさしこみ、捻って、クラッチを踏み、エンジンをかけ、ギアを入れ、アクセルを踏み、クラッチを離した。
尾行されているかどうか注意しながら帰った。
しかし、尾行はなかった。どうやら手紙を書き、それを矢に結びつけ、バイクに乗り、ボウガンを撃つことだけで手一杯だったらしい。
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