第20話

 次に私が目を醒ましたとき、全てが暗かった。自分が目を潰されたか、それとも死後の世界を体験してしまったのかと思った。

 しかし違った。そこは狭苦しく、体を動かす隙間もない。手は後ろに縛られている。縄や手錠ではない。プラスチックのバンドだ。

 目隠しをされていて、口にはテープが貼られているらしい。ひどく揺れている。

 車の中だ。ここはトランクに違いない。

 テープを舐めて、湿らせた。少しずつ、テープを剥がしていく。足を曲げて、靴紐を抜いた。靴紐を腰の裏側、ズボンの中に隠した。

 靴紐を結束バンドにあてがって、少しずつ引いた。トランクの中では抜け出せない。助けを呼んでも、せいぜい相手がユンに刺し殺されるだけだ。

「なぁ、ユン。この後はどうするんだ」、バットで私を殴った男の声だ。

「こいつをちょっといたぶってやろうと思う。その後始末しよう。あの隠れ家まで行こう。こいつを始末したら、病院で指の腱を繋ぐ。チンも折れた腕を元に戻してもらえ」

「こいつのことじゃない。本当に、テロをやるのか?」

「そうだ。世界を滅ぼしてやる。日本の首相か、38度線で銃撃戦をやるか、どっちかだ。警察署はなしだ。もったいない。いや、38度線でやるのも、俺は韓国に入国できない。首相を殺ろう」

「殺った所で、アジアで戦争が起きるとは限らないぞ」

「それでもいい。俺は国旗を持って行く。そうすれば俺の所属がわかる。韓国は自衛隊と在日米軍の後ろ盾を失う。そうすれば、北の野郎が韓国に大打撃を与える」

「首相を殺すためにはライフルが必要だぜ」

「ある。7.62ミリの狙撃ライフルを持っている。こいつは効くぜ。軍にいたときの銃剣もある。それに、M16もやくざの連中からパクった」

「M16っていうと、あのアメリカ軍の?」

「300メートル先まで、秒間15発の死をチャーミングに振りまく天使さ。ちゃんとカスタムしてある。本物の光学機器、マグプルのフォアグリップにストック、コイツは全部エアガンショップで揃う。弾はほとんどないが。60発ぐらいか。弾がなくなっても、銃剣をつければ槍と棍棒のあいのことして使える。それに、探偵の持ってたマカロフも手に入れた。あいつの家に行って銃弾をかすめ取ったら、マガジン三個分は使えるかもしれない。足りなくなったら警官かやくざを殺せば、銃が手に入る。日本の警官なんて甘ちゃんだ。夜道でナイフで刺し殺してやる」

「俺はお前に従うよ、兄弟。俺は日本なんかどうなってもいい。チンは?」

「おれも中国が嫌いなんだ。中国を滅ぼしてやる。世界大戦になれば、中国は倒れる。アメリカに勝てる国なんてどこにもない」、違う男が言った。多分、チンだ。包丁を持って突っ込んできた奴だ。

「銃器はライフル、M16、パイソン、マカロフ、五連発のリボルバーだけか。弾はせいぜい100発あるかないか、か。足りんな。やくざを殺して調達しよう。そして無音武器として、ロープと鈍器とナイフとマチェットとクロスボウが必要だ。それに、爆弾を作る必要がある。爆弾で警察をおびき寄せる必要がある。ガソリンを変化させたナパームで満員電車を焼くのも加えよう。時限発火装置と、ガス圧での噴出装置をつけるんだ。駅から発車した後、真ん中の暗闇の中、消火器もないところで燃やしてやるのさ。これだけで数百人は焼き殺せる。JR山の手線の最大の乗車率なら、250人は一車両に乗るはずだ。三人で3回ガソリンを仕込めば、最低でも600人は殺せるだろう。車両の端と端から起爆して、炎から中心に何とか逃げようとした人間で圧死する奴も出る。衣服と衣服がくっついてるから、すぐに人間同士で延焼する。そして最後に真ん中のを燃やすのさ。人の殺しかたは俺が全力で仕込む。厳しい訓練になるぜ、兄弟。特殊部隊も真っ青だ」

 くそ、なんてことをするつもりなんだ。ここで放っておけば、数百人が地獄の業火で焼き払われる。しかも、銃器や刃物や爆弾で殺される人間の数を考えると、世界最悪クラスのテロをたった数人で成し遂げようとしている。

「最後、死ぬときはちゃんと自国の国籍の国旗をつけろ。俺は韓国国旗をつける。チンは中国国旗をつけろ。お前はつけるな。このテロを国家主義的なテロに見せかけるんだ。そうすれば日本人は頭に来るはずだ。真珠湾をやった国だ。ブチ切れないわけがない」

 私は何も口を挟まなかった。口も塞がれていた。その後長い沈黙が続いた。私は音を立てないように、少しずつ結束バンドを靴紐でこすって、その気になればいつでもちぎれるぐらいに焼き切ろうとしていた。しかし指だけで引っ張り、音を立てずに切ろうとするのは至難の業だった。

 酷い雨の音が聞こえ続けた。そのうちにカーステレオから音楽が流れ始めた。ロックとポップスが流れた後に、ジャズでキーを止めたらしい。

 ずっと聞いたことのないジャズが流れていた。

「なぁ、俺達どこでこうなっちまったんだろうな」、バットの男が言った。

「俺は生まれたときからだ。中国じゃ戸籍がなかったからな」

「俺は軍を辞めてからだ」

「くそっ、金持ちのガキに生まれてれば、こんな風にはならなかったのかもな」

「俺は金持ちのガキだったが、こうなった。そんなもんだぜ。今更何を言ったって、しょうがねえ。なるようにしかならねえんだ」、ユンが呟いた。

「なぁ、兄弟。来世じゃ三人揃ってアラブの石油王の息子に産まれようぜ。一生遊んで暮らそう。美人の女を好きなだけ抱いて、好きな車を買って、好きな事をしよう」、バットの男が言った。

「同年、同月、同日に生まれることを得ずとも、同年、同月、同日に死せん事を願わん」、ユンが言った。

 またずっと、雨の音だけが響いた。私はこすり続けていた。

 そのうちに、車が長い間止まった。靴紐をズボンの中に隠した。切っている部分は手と背中の間に挟んで、隠れるようにした。

 三つのドアが開く音がした。

 トランクが開けられた。薄目を開けてみていると、三人が私を引きずり出した。あたりには樹木が鬱蒼と茂っていて、ここが山の方の場所にあるとわかった。

 そしてその隠れ家とやらのドアを開けて、地下の机と椅子の所まで連れて行かれた。隠れ家と言うより、ビルの廃墟のような場所だった。東京の湾岸部から、この山の方まで来るのは骨が折れたはずだ。もっとも、骨が折れているのはチンだけだ。

 結束バンドにさらに結束バンドが取り付けられ、椅子と連結された。

 明かりがついた。

 机の上にコルトパイソンが置かれた。それに、大きなナイフが置かれた。ライフルの先につけるためのナイフ。M9銃剣だ。

 ユンが私を拳の甲で殴りつけた。

「こんばんは」

 口のテープが思い切り剥がされた。皮が剥けて口の周りがひりひりした。

「起きてるよ。目覚ましにしてはちょっと苛烈だな」、と私は返した。

「まだ命があることを感謝するんだな。刺し殺されなかったことをな」

「どうもありがとう、命を助けて頂いて。私だってその気になれば二十数人、お前を含めてとどめを刺せた」

「それが甘いって言うんだよ」

 目隠しが取られた。

 ユンが目の前にいた。額に一筋の傷が出来ていて、下瞼の一部に穴が空いていて、眼球が見えた。

 バットの男とチンが脇に控えていた。今の二人はバットの男が私のマカロフと軍用ナイフを、チンが五連発のリボルバーを左手で持って、包丁をポケットに突っ込んでいた。

「どうやって拳銃は使えばいい?」

「とりあえず、ちゃんと両手で構えて、心臓を二発撃て。指は撃つまで引き金にかけるなよ。それで人指し指で相手を指す様に向けろ。よく狙って、5m以内で使うんだ。黒目が見える距離だ。二人とも下手だろう。ナイフは、突っ込まず相手の手先から滅多切りにしろ。わかったか?」、ユンが言った。

「わかった。こいつ相手に使うことになるかもしれねぇからな」

 目の前の状況は酷かった。銃と刃物持ちが三人もいる。一人は元軍人で、使い馴れ、高級スポーツカーのようにカスタムされたアサルトライフルを出してくるかもしれない。

 しかも三人とも殺害に躊躇がない。

 こっちは素手だし、まだ結束バンドを焼き切ってすらいない。逃げ出したとしても山狩りが始まる。こっちは獲物だ。ハンターは足跡を追ってくる。

 マカロフの弾は6発だが、リボルバーやユンのパイソンは何発あるかわからない。それに、狙撃用のライフルもある。バットの男や、利き腕が折れたチンの銃弾は距離を取ればろくに当たらないだろうが、ユンは別だ。

 私は四つ足の椅子に縛り付けられている。目の前には四つ足の机、パイソンとナイフが乗っている。出入り口は中々遠い。出入り口の近くにも机と椅子があった。武器庫がどこにあるのかはわからなかった。ライフルに弾が装填されていれば、武器庫も価値があるのだが、そうではないだろう。軍人はそこのところをきちっとやる。ずっと弾を入れているとマガジンのバネがゆるむ。賭けに負ければ、ただの鈍器だ。パイソンで頭か心臓を撃ち抜かれるが関の山だ。

 コードを焼き切り、隙を見てパイソンを取り、三人に向けながらこの場所を出る。少なくともユンの腕は撃ち抜かなければ、こっちが山狩りで殺される。

 忘れていた。小鳥遊はどうなったんだ。

「おい、小鳥遊はどうした」、私は聞いた。

「あの野郎、どっかに消えやがった。すばしこいチビだ。俺達以外皆逃げやがって」

どうやら目的は達成したようだ。小鳥遊の命は救われ、強盗団とか武装スリだとか呼ばれるグループは壊滅したらしい。

 ユンは右手を握ったり開いたりした。小指の第一関節だけが動いていなかった。腱は浅く切ったらしい。

「もし死ぬなら、どっちがいい。銃か、ナイフか。それぐらいは選ばせてやる」

「銃のが楽だ。ちゃんと頭を撃ってくれ。ナイフはきつい」

 ユンは頷いた。

「なぜ殺さなかった、俺を」

「人殺しは苦手なんでね」

「馬鹿め」、ユンは眉をしかめて、目を細めた。

 時間がゆっくりと流れていった。爪で拘束バンドの切れた部分を広げようと努めた。しかし広がっている気配がなかった。

 ユンが冷蔵庫から、ウィスキーを取り出した。

 三人で、ウィスキーのボトルを回しのみしていた。そのうちに最後の琥珀が消え、ボトルが空になった。

 バットの男はもうだいぶ酔っていた。チンもだいぶ来ている。ユンは平然としていた。

 これなら行けるかもしれない。腕に力を入れて、少しずつ広げていた。

 ユンがこちらを睨んできた。私は力を入れるのをやめた。力を入れているときの震えや血色を見られるとまずい。

 ユンは目を離し、3人で煙草を吸っていた。私はまた力を入れた。チンの煙草だけ、煙が濃かった。そしてどこかから甘いような匂いがした。

「おい、この匂い、大麻だろそれ」、バットの男がチンに言った。

「そうだ。吸うか?」

 ユンがチンの煙草を取り上げて、揉み消した。

「大麻だと?ふざけるな。酒ですら銃が揺れるんだ。大麻はもっと揺れる。これからはなしだ」

「わかったよ、トンチー」、チンは肩を竦めた。

「おい、俺はゲイじゃないぞ」、ユンが言った。

「ジョークだよ」

 長い時間がたった。ずっと爪を動かしたり、力を入れていた。

 これで少しは広がったはずだ。

 三人が急にこちらを向いた。

「お前は馬鹿な事をしたぜ。ふざけたことせず、黙ってりゃあよかったのにな」

「よく言われるよ」、私は言った。

「人のことに首を突っ込まなきゃ生きていけないのか?」

「他にやることがないんでね」

「どうやら正義のヒーローには自殺衝動があるらしいな」

「私は鉄砲玉みたいな、社会の跳ねっ返りだ。失うものなんてない」

「ははは、笑わせてくれるぜ。俺達も失うものなんてない。だから世界を滅ぼしてやる」

 ユンは煙草を踏み消した。

「ユンは俺を拾ってくれた、兄弟だ。こいつが死ぬっていうなら、俺も死ぬぜ」

「冗談はやめろ!世界を滅ぼしたいのか!」

「ああ。ユンがそういうなら」

 2人の男はずっと脇に控えていた。そして、新しい煙草を吸っていた。

「兄弟、ありがとよ」、ユンが言った。

「俺が証明してみせる。追い詰められたたった数人の人間が、世界を滅ぼすところを。この世界がいかに意味が無い、ただの積み上げられたがらくただという所をな。大陸の共産主義者と、あんなに働いたのに、俺を殺そうとした祖国と、祖国の仇敵と、世界の超大国を俺が全て引き裂いてやる」

「元はと言えば、ミサイルを売ったのが原因だろう」

「だったらなんだ!北の野郎にずっといいようにされてろっていうのか!このふぬけめ、臆病者達のせいで報復一つできやしない!命令一つさえあれば北の狙撃手を1人残らず俺が血祭りに上げてやったというのに!」

 ユンが机を殴った。そして私の顔面を殴りつけた。

 男は息を切らしていた。怒りに包まれた男だった。私の胸ぐらを掴んできて、顔を近づけてきた。アルコールと、唐辛子と、大蒜の匂いがした。

「俺は軍のために全てを捧げてきた。特殊部隊には高い語学力が必要とされるし、運動能力、射撃能力、近接戦闘能力、何もかもだ。俺は四ヶ国語が話せる。体力もあり、射撃や近接戦闘能力だって常に磨いている。もうすぐで特殊部隊にだって入れた。だが、俺にはもう何もない。全てが無駄だったんだ。何をしようと、北に報復なんて出来やしないってな。臆病者のせいでただ延々とやられるだけだ。俺は軍を辞めた後、ただのちんぴらやすりの使い走りになったんだぞ。俺は国のためにこの身を捧げたが、国は俺をゴミのように扱った」

「誰かに身を捧げるときは、見返りなんて期待するものじゃないぜ」

 ユンが私を殴った。

「くそ、喋りたいのか殴りたいのかどっちなんだ」、私は言った。

「両方だ」、そう言ってまた私を殴った。

 口にタオルを詰めてきた。

「CIAがやる拷問を知っているか?タオルと水を使うんだ。俺は軍で上官にやられた」

 ウィスキーボトルに詰められた水が私の口に注がれた。息が出来ない、水の中にいるみたいだ。苦しんでいると、タオルが離された。ユンの拳が顔面に飛んできた。頬骨と脳が痛む。

「CIAって言うのも、大したことないんだな。野良ネズミが猫に食われるのを見る方がよっぽど答えるぜ」、私は笑った。

 ユンの眉が動いた。

 タオルがまた詰められた。そして、また水が注がれた。

 今度はもっと長かったが、顔を崩さなかった。ポーカーフェイスには自信がある。

表情も商売道具だ。

 顔にパンチが飛んで来た。ぐらつく。

「俺は終わりだ。だが、皆いつか終わりがやってくる。それに気づかないピクニック野郎。そしてそれに気づかないふりをした臆病者がいる。死ぬまでの日にちを数えてみればいい。鮮やかな花だってすぐに枯れる。どれだけくたばるのが早いかを」

 まるで末期ガンにかかった患者のようにユンが呟いていた。私はずっと爪を動かして結束バンドを切ろうとしていた。ユンは水道まで水を汲みに行って戻ってきた。

「臆病者を俺は軽蔑する。些細な事で涙を流し、恐怖に震える、堕落した奴等め。お前ぐらいでも骨がある奴ばかりなら、もう少しマシなはずだ。つまり人類は数が多すぎるって事だな。弱い人間は昔だったらすぐに死んでいた。今は弱い人間まで生き残ってしまい、生の苦しみを受け続けると言うことだ」

「喜べよ、お前もそのうち生の苦しみとやらから解放されるじゃないか」、私はユンをおちょくった。

 ユンは目を見開いて、青筋を立てたあと、急に笑い始めた。

「そうだな。死は救いだ。そのうち楽になる日が来るだろう。俺はこの世を生きるには少しやわで、真面目すぎたようだ。だがお前のが先に死ぬ」

 タオルが口の中に突っ込まれた。今度はもっと長く水が注がれた。肺に水が入ってきた。咳き込んだが、まだ注がれていた。そしてタオルが引き出された。

 激しく咳き込んで、腹筋が痛くなった。目と鼻と口から水分が出た。激しく短い呼吸が続いた。

「最近鼻が詰まってた、んだ。これで鼻がよく通るようになった」と、私は言った。

 ウィスキーのボトルがこめかみに飛んで来た。

 タオルが口に詰められた。また水が注がれた。咳き込む、首を握り締められた。

 意識が遠のいていく。くそ。

 次に起きたとき、私はまた椅子の上に戻っていた。ケーブルの切れ目はまだあった。

「ケーセッキめ」、韓国人は細い目を細め、立ち上がった。下の瞼に穴が空いて、白目が見えていた。

「犬の息子は罵倒語になるのか?」と、私は聞いた。韓国人は答えなかった。

「ロシア人のルーレットをやってもらおう」

 韓国人は歩いて行って、自分の机から拳銃を持ち上げた。大きな拳銃だ。リボルバーだった。コルト・パイソン。ケーブルが切れていれば、銃を取れた。だがまだ切れていない。

「こいつは強烈な357マグナムを6発装填する。一発で逝けるぜ、ウェノム」

 韓国人は円筒形の弾倉を振りだし、弾を抜いてポケットに入れてから、一発だけを納めた。そして回転させ、弾倉を振り込んだ。私に一瞬だけ銃口を向けて、撃鉄を起こした。

 撃鉄を起こす前、弾倉の右下に弾頭が見えた。

 そして私の後ろに回り込んで、後頭部に銃を突きつけた。

「6回の内、1回しか外して撃つことは出来ない。10秒以内に選択しろ。撃つか、外すして撃つかを選べ、チョッパリ」

 思い出せ、コルトパイソンのシリンダーはどちら向きの回転だったか。

 私はアメリカでこの銃を撃ったはずだ。

 私側からの反時計回りなら二発目、時計回りなら四発目に弾薬が入っている。1回しか外せない。どちらだ。

「あと4秒だ」、韓国人は笑った。

どちらだ。くそっ。

「3、2、」

「撃て!」、一発目は空だと分かっている。

がちりと撃鉄が落ちた。

「10」

コルトとスミスウェッソンで、シリンダーの回転は逆だ。くそっ。思い出せない!

「9」

アメリカを思い出せ。

「8」

走馬灯のように記憶が蘇ってくる。

「7」

カジノでの記憶。違う。

「6」

射撃場、だめだ、思い出せない。

「5」

黒人を撃ち殺した記憶。違う!

「4」

日本でもリボルバーを使われたはずだ。

「3」

菊知と三木のリボルバーはスミスウェッソンのものだ。私から見て時計回りだった。

「2」

つまり逆だ!

「1」

「外せ!」、私は叫んだ。

 轟音が轟き、きつい火炎が銃口から噴き出し、壁に穴が開いた。硝煙の焦げ臭い匂いが漂った。

 息が切れて、汗が体中にひっついていた。助けてくれるのは神ではない。最後にはいつも自分だけが頼りだ。

「運がよかったようだな」、韓国人は呟いた。

「実力だ」、私は言った。

 ユンは私をグリップで殴りつけた。

 私の意識が遠のいていくのを感じた。

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