3.意外と気づかないもんだな

    4(other_side=day185606/-pt)



 セインは、それなりに腕のいい冒険者だ。


『王都』でギルド教団に認可を受けてより数年。『王都』周辺の地理なら大体マスターしているし、魔物も人間サイズ程度までなら一人で始末することだって可能である。忌児の出身でない人間としては、破格の戦闘能力だと言っていいだろう。


 しかもこのごろは依頼報酬の貯金も少しずつ増えて来て、働き盛りにして引退後の生活まで安泰になりつつあった。


 ギルド教団は冒険者に対して手厚いサポートをしているし、セイン自身も強い為生活に困ったことなど一度としてない。冒険者を引退した後は冒険者時代の経験にあった職業をギルド教団によって斡旋してもらえるし、貯金を使って道場でも経営しようか――なんて思っていた。


 そんな頃、彼は『王都』から少し離れたシニオン村へとやって来た。『王都』からシニオン村への行商の護衛、という名目だ。


 そして、彼女に遭遇した。


 村にいる知り合いから、彼女についての話は聞いていた。


 曰く、徒手空拳でガルムの巣に飛び込んで、一匹残らず壊滅させたばかりか、地盤にヒビを入れるほどの力を振るった正真正銘のバケモノ。


 曰く、盗賊団から奪った奴隷少女を粗末な格好のまま連れ回す、外道も外道な女奴隷商。


 そんな噂から、セインは女とは名ばかりの筋肉ゴリラ生命体を想像していたのだが…………街中で『アル様!』と粗末な布を纏っただけの従者を連れた彼女を見て、自分の想像力がいかに貧困だったか思い知った。


 輝くような、金色の長髪。髪の一部は布を複数のベルトで戒めて作ったような服の肩にかかってよく映える。


 白すぎるほどに白い肌の美貌はともすると病弱な令嬢を思わせるが、その目つきはまったくの正反対。大の男にも負けない力強さを湛えた輝きは、絶対的な実力の裏打ちであるかのように思われた。


 体つきも華奢で、特に丈の短いワンピースから伸びる足の女性的なラインは突けば折れてしまいそうなほどに細いが――――何故だか、彼女にはそれでは終わらない妙な威圧感があった。


 決してお行儀が良いとはいえず、美女とみれば多少強引にでも口説きに行くようなセインでも、一歩踏み込めない『何か』があった。


 噂の中の彼女の戦闘能力を馬鹿正直に真に受けて気圧されたわけではない。


 見た限り、彼女そのものの魔力は常人並だ。魔力の量だけでいえば従者の少女の方が数倍は高い。物腰からは、いかにも戦闘慣れしていない『素人』という趣しか感じさせないくらいだ。


 奴隷商、という根も葉もない噂を信じたわけでもない。


 あの従者の少女の表情を見れば、二人の関係が奴隷と奴隷商なんてものではないことくらい、馬鹿でも分かる。


 つまり、それ以外の『何か』。


 今までのキャリアで積み重ねてきたちっぽけな自信など、ここでは何の役にも立たない。


 その為、一度アルに話しかけられた時も、その目を見ることができず、ワンピースから覗く肉感的な太腿の方にばかり視線がいってしまった。


 これではまるで童貞だ、と後になって恥じたのは、彼にとって最も新しい『忘れたい失態』だ。


 そんな折、アルを再び見かける機会があった。


 村の酒場でエールを呑んでいると、見たこともない黒装束に身を包んだ従者を連れて酒場に入って来たのだ。その美しさときたら、むさくるしくて男臭い場所が一瞬にして浄化されたかのような感覚だった。


 あまりのことに、セイン含めてその時の客の全員が一瞬絶句するほどだった――と言えば、アルの美貌のインパクトがどれほどのものだったか分かるだろう。


 すぐに静寂は消え去ったものの、その場の全員が適当な話をしつつアル達の方へ耳を傾け続けていたのは言うまでもない。


 その後、彼女達は蜂蜜酒とリンゴジュースを頼み、店主と何事かの会話を交わし、従者に何事かを言われて赤面し、それから――――、


「……………………っ!」


 今、セインの目の前に、エプロンを身に纏って立っている。


(これは、夢か?)


 セインは思わず自分の正気を疑った。


 あの美しい少女が、羞恥に頬を赤らめて、微妙にしなをつくって自分の前に立っている。それも、自分が頼んだおかわりのエールを持って、だ。いつもならむさくるしいおっさんが悪態を吐きながら持ってくるというのに…………。


 だが、いつまで経っても目の前の美しい幻想は消え去らない。当然だ。これは現実なのだから。


 セインはおそるおそる言う。


「おう、姉ちゃん。エールありがとよ!」


 そう言いながらも、彼の視線は目の前の美少女にくぎ付けだった。


 ゆったりした服装だから気付かなかったが、エプロンで締められたことによって、その豊かな胸がより強調されているのだ。


 加えて、エプロンの裾から見える生足。これもまた女性的な魅力にあふれていた。


「ど、どうぞ。お待たせいたしました」


 コトリ、とアルがエールを置こうとする。


 凄腕の冒険者ということだったが、客商売は慣れていないのか、あるいはセインの露骨すぎる視線が恥ずかしいのか、アルの動きは少しぎこちない。


 村で話しかけられたときは、もっと男らしい言葉遣いだったのも覚えている。それを今は接客用に丁寧な言葉遣いに抑えているところも、セインにとっては注目ポイントだ。


 緊張している為か、妙に声も上擦っていて、何故か過剰に艶を出そうとして若干空回りしている風であったが、そこがまた微笑ましかった。


 何にせよ、どういう事情かは知らないが、自分をはるかにしのぐであろう実力者が、形式上とはいえ自分に尽くしてくれるというのは男の浪漫を刺激するものだ。セインは冒険者の神ディレミンに感謝の祈りをささげた。


「ところで、ここに来る前はどの村にいたんですか?」


 セインの目の前を横切るようにテーブルに身を乗り出しながら、アルはそんなことを問いかけた。おそらく、そういった問いかけをして情報を集めるのが目的なのだろう。


 ――が、セインとしてはそれどころではない。


 何せ、目の前にアルが身を乗り出しているのだ。ちなみに彼女の身に纏っているワンピース様の服はノースリーブで、しかもゆったりめである。さらに彼女はノーブラである。


 ここから導き出せる桃源郷…………それはずばり、横乳!!!!


 一世一代の大勝負である。アルの問いかけなんか聞いている余裕はなかった。


 それどころか、ガン見しすぎて身を乗り出す勢いだった。


 相手がガルムの巣に乗り込んで群れ単位で始末した化け物でなければ、今頃パイタッチの一発や二発は繰り出していたところである。


「あの、お客さ…………ひいっ!?」


 そして、いつまで経っても返事がないことを怪訝に思ったアルが横目で見ると、そこにいるのは自分の腋に釘付けになっている変態。既にちょっとしたホラーだ。


 驚きのあまり、思わずアルは飛び退いてしまう。


 あと、当然の帰結としてアルが置こうとしていたエールも倒れて中身がこぼれてしまう。


 …………周囲からの視線が痛かったが、セインは悪びれなかった。同じ立場に立てば、彼でなくとも同じことをしただろうと確信しているからだ。


 誰だって美少女の横乳が今目の前で展開されていたら食い入るように見る。誰だって見るしお前だって見るだろ? そんな気分だ。


「あっ、ああっ……! すみません、今拭きます!」


 そんな開き直りド変態はさておき、(色んな要因で)青い顔をしたアルは、すぐにしゃがみ込んでこぼれてしまったエールを布巾で拭き取っていく。


 そうしながら、彼女は忸怩たる思いで内心呟いた。



 ――――ちくしょう、これも全部カレンのせいだ!


 …………アル、もといアルテシアの様子がおかしいのは、ひとえにカレンに言われた一言が原因である。


『(アルテシア様、貴神あなたは気付いてないみたいですけど、酒場の男の人はけっこうアルテシア様のこと「女」として見てますよ。そういう方向で誘惑すれば、色んなことを聞けるんじゃないですか?)』


 お前子供なのにどっからそういう知識仕入れてくんの? というツッコミはさておいて、その一言はアルテシアにとっては毒のようなものだった。


 いや、神に毒は効かないので、ある意味では毒以上の効果を齎したといえるだろう。神にはメンタル攻撃が有効、なんて冗談のようだが、わりとマジなのかもしれない。


 ともあれ、カレンの一言から酒場の客の視線を意識するようになると……、


 見える見える。


 男達の視線が、自分の胸(特に肩口の隙間)や太腿周辺に集中しているのが。


 女は男の視線が分かるよ、なんて前世で聞いたことのあるアルテシアだったが、それは別に女がエスパーだということではない。単純に、男が性欲を隠せない馬鹿ということなのだ。


 とはいえ、別にアルテシアは自分がガン見されているからといって恥ずかしい~動けない~…………などとカマトトぶるつもりはない。


 彼女の中身はれっきとした男であり、女としての意識など皆無に等しい。なので、自分が普通にしているときに女として意識されても羞恥心が煽られるということはない。


 …………が、自分が相手を誘惑しようとしているとなると話は別だ。


 普通に考えたら、今のアルテシアは女性なのだから女性らしい振る舞いをするのは『外面的には適している』ということになる。


 しかし、アルテシアの中身はあくまで男なので、女性的な振る舞いをすることに女装にも似た背徳感をおぼえるのである。


 おかげでしなをつくるのも妙にぎこちなくなってしまうし、エールを置く時にあえて無防備な姿を見せようとしたら横乳をガン見されてることに気付いて思わずびくっとしてしまった。


(はたから見たら処女かよってくらい初心だと思われてるんだろうなぁ…………)


 まぁ実際に処女なのだが、そんなことを思いつつアルテシアはテーブルに続き床に零れたエールも拭き取る。


「…………おい姉ちゃん。そんな変態の世話なんかしてねぇでこっちのテーブル来いよぉ! 一緒に飲もうぜえ!」

「あぁ!? なんだゴロツキ、今姉ちゃんはエールの代え持ってきてくれるとこなんだよぉ!」

「お? なんだ若造、やんのかコラ? あ?」


 そのやりとりを皮切りに、セインともう一人の酔っぱらいが勢いよく立ち上がる。アルテシアはいつの間にか喧嘩腰になっていた二人に少し戸惑っていたが、酒場の面々は止めようとはしない。


 喧嘩は酒場の華である。どんどんやれと店主の男含めて騒ぎ立てる始末だ。


 アルテシアは、小さく溜息を吐いた。



「…………あー。二人とも、穏便に終わるうちにやめとけ。な?」



 そう言って、アルテシアは間に割って入る。


 おそらく巣の口調であろう、男勝りな喋り方。声色も変に作った上擦り気味の調子ではなく、地声に近い感じ。


 その声を聞いた瞬間、セインは一気に酔いが覚めた。


 特別、アルテシアが殺気を込めたりしたわけではない。ただ、少し機嫌を損ねた――あってもその程度だろう。だが、それは『可憐な美少女が機嫌を損ねた』のとは意味が違う。


 たとえるなら、凶悪なドラゴン系の魔物が機嫌を損ねてしまったような…………そんな恐怖が、本能的危機がセインの行動を慎重にさせた。


「……そ、そうだな。姉ちゃんもそう言ってることだし、このへんでやめとくか……」


「あぁ? んだぁ、あっさり引き下がりやがって腰抜け野郎が。ケッ」


 セインが矛を収めると、相手の酔っぱらいはそう吐き捨てて自分のテーブルの方に戻って行った。彼はアルテシアが持つ『何か』に気付けなかったのだろう。


 よっぽど殴りに行ってやろうかと思ったセインだったが、それでアルテシアの怒りを買いたくはないので我慢した。


「…………あー、ご、ごめんなさい。私がエール倒しちゃったせいで、色々言われちゃって。でも、退いてくれて助かったわ。ありがとうございます」


 が、その後でアルテシアがこそっと声をかけてくれたことによって、それまでの出来事など全部どうでもよくなった。


 なお、やっぱり声は上擦り気味だ。先程までよりは少し自然になったが。


「それで、ありがとうついでに聞きたいんだけど……何か、このあたりの情報で知ってることがあったら教えてくれないかしら?」

「…………知ってること?」


 セインは首を傾げる。


 このあたりと言っても、特に何か突飛な事情があるわけではない。彼女ほどの凄腕冒険者であれば、何もしなくても情報なんか集まるだろう。ここでわざわざ聞き込みをする必要があるとは思えない。


 ………………まぁ、実際にはつい四日前にこの世界に顕現してきただけのルーキー中のルーキーなのだが、それは知らぬが花というヤツである。


「情報ね…………眉唾モノの噂ではあるが、最近各地の盗賊団が山の向こうで頻繁に衝突してるって話を聞くな。縄張り争いか何かなのかもしれねぇが……」


 セインは肩を竦め、侮蔑を交えて続ける。


「同じ神を信じる者同士で争い合うなんざ理解できねぇ思考だな。まぁ、…………、……っと、すまん」

「ん?」

「……いや、気にしてないならいいんだ」


 セインは咳払いをして、


「あと、アンタは知らねぇかもしれねえな。このへんに伝わる昔話」

「……昔話?」

「やっぱりな。アンタ、普段『王都』の近くにいねぇだろ。このへんに慣れてねぇ雰囲気がするからな。どこか遠くから来たんだろうが……ま、話してやろう」


 怪訝な表情を浮かべた様子だけでそこまで確信を持つセインに、アルテシアはある種の畏怖を感じたが、わざわざ説明してくれるというのであればそれを断る理由などない。


「この村、山の麓にあるだろ。で、山を境にした向こう側には狼が多く住んでいて、逆にこっち側には鷲が多く住んでるんだ。その理由を説明したもので、山の向こうのクレルは狼を、『王都』にいるディレミン様は鷲を従えてる、だからクレルが追いやられている山の向こうには狼や狼型の魔物が多い…………って話があるんだ」

「へぇ」

「ま、どこにでもある昔話さ。『眷属獣』の逸話なんて珍しいもんじゃないだろう」


 さも当然のように言うセインに、アルテシアはこくりと頷いた。


『眷属獣』――――これもルールブックに記載されている概念だ。


『眷属獣とは貴神あなたに従うようになった魔物のことをさす』


 継続的信仰Pに記載された文章の一文である。魔物は人類にとっては脅威――しかしながら、神様にとってはただの有象無象と変わらない。やり方によっては魔物を調伏したり、家畜化することだって不可能ではない。


 そうして傘下に加えた魔物は、ただの魔物ではなく『眷属獣』となるのである。


 日本で言えば、ちょうど狛犬や稲荷がそれに該当するだろうか。


「…………ん? 待てよ、ってことは……」

「ま、この手の話はどこまで本当か分かったもんじゃねぇよ。盗賊の中には『自分達はクレルの子孫だ』なんて言う馬鹿もいやがるって話だしな」


 そんな風にセインが肩を竦めると、


「おぉーい! アルちゃん、エール持ってきてくれぇー!」


 丁度その時に酒場の店主から声がかかり、アルテシアは話を切り上げることにする。


「色々ありがと。参考になったわ。お礼にエール、代金おまけしてくれるように店主さんに頼んであげるね」


 そこで、アルテシアは初めてにっこりと、セインに笑いかけた。


 まるで、花が咲いたように可憐な笑みだった。


「…………お、おう」


 歴戦の冒険者が、まるで初恋をした少年みたいに真っ赤になるくらいには。



    5(アルテシア=day185606/2482pt)



 ある程度情報が集まったと判断した俺は、酒場の手伝いを切り上げて外に出ていた。…………いや、意外と疲れるんだよな、ああいうの。俺にネカマは向いてないなと切実に思った。


 もっとこう、美少女ぶりっこ全開できゃるるんっ(死語)と媚を売りたかったんだが……一般元童貞美少女にはまだ荷が重かったか。


「流石にもうしばらくは、あんなことしたくないな」

「何でですか?」


 心に思ったことを素直にぼやくと、横を歩いていたカレンが不服そうに言い返して来た。


 だって疲れる上に向いてないんだもん。


「というか、前から思ってましたけど、アルテシア様はもう少し女性らしくすべきじゃないですか? 口調も『俺』だし、喋り方も男の人みたいだし…………」


 ……あー……、そこ、やっぱり気にしてたのか。


 スルーしてくれてたから、そこのところはこの世界ではどうにでもなるもんだとばっかり思ってたけど……。


 まぁ、カレンには隠すようなことじゃないし、言ってもいいか。


「そうは言うけど、俺はこれでも、元々いた世界では男だったんだぞ? 男なのに女っぽい喋り方って、気持ち悪いだろ。心が女な人ならともかく…………」


 前世じゃオネエ系タレントとかがかなり一般的になってたけど、それはあくまで『女性的な心を持ってるから』普通なのであって、普通~に女が好きな男が女みたいな喋り方してたら…………ちょっと引くよな? そして俺は女が好きだ。


 これにはカレンも同意してくれ、


「関係ありあせん」


 …………なかった。ばっさりだった。


「さっきの酒場の様子を見て分かりませんでしたか? アルテシア様の美貌は、それだけで武器になるんですよ。ぶっちゃけ、それだけで信仰が稼げるのです。男口調のせいで台無しにするのはあまりにもったいないんです」


 カレンの語調はさらに熱くなっていく。


「それに、ただでさえアルテシア様は自分から働こうとしないじゃないですか……。それなのにこういうところで地道にポイント上げていかなかったら、一体どうするつもりですか? あ?」

「すみません…………」


 積極的にポイント集めしてないってところは全くその通りなので、俺は全然言い返せなかった。


 ポイントの為なら女口調もマスターしてぶりっこしろ。うーん、やはり神様というのはなかなか厳しいな…………。


「今日みたいにぎこちない感じでもいいといえばいいですが、今後のバリエーションも考えるともっとスムーズに演技できるようにならなくてはいけません。先は長いですよ! アルテシア様」

「頑張ります」


 ファイト! と両拳を握って俺のことを鼓舞してくれる巫女さんに、俺が言える言葉はこの一つだけだった。


 気を取り直して、


「そういえばさ、さっき酒場で聞いた話なんだけど」

「はい。私も給仕のお手伝いをしながら聞いていました」


 説明の手間が省ける素晴らしい有能振りである。……有能過ぎて神様はちょっと寂しいぞ。


「この前のガルムの巣、立地がおかしいって話はしたよな。ずっと気にかかってたんだけど、酒場の話を聞く限りだと…………どうも盗賊を守護する神っていうクレルが怪しい気がするんだよなぁ」


 クレルの『眷属獣』がガルムなら、自分の眷属を操って山の下に巣をつくらせた、って推論を立てることもできる。あと山の周辺で盗賊の活動が活発化してるっぽいのも、盗賊の神であるクレルの関与を感じさせるよな。


「確かに、怪しくはありますね。…………でも、このあたりで暴れても良いことなんてなくないですか? クレルは一度ディレミンと戦って敗れているんですよね? しかも『王都』にはディレミン以外にも神様がいますし」

「うーん、それもそうなんだよなぁ……」

「それに、盗賊の活動が活発化って言っても、話を聞く限りだと同士討ちしてる感じじゃないですか。クレルが盗賊団を統制してるなら、仲間割れなんか起きないと思うんですけど」

「う、たし、」


 ――――かに、とは続かなかった。


 カレンの尤もな反論に、俺が唸りかけた、丁度その時。



「逃げろォォォおおおおお!! 盗賊がやって来たぞ!! 山の向こうの盗賊団が、だ!!」



 そんな怒号が、俺の声を遮った。

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