第8話 飽和攻撃《イージスブレイク》
「まだ、レーザー回避できる? ラクトエル?」
フェアリーは時間魔法戦に没入している灰色の天使に声をかけた。
「船首に
何か余裕ね、ラクトエル。頼もしいわね。
「はい! 私、結構、絶好調だよ」
チャムはエメラルドグリーンの瞳でウィンクを返す。
しかし、レーザーを紙一重でかわしつつ艦をスライドさせる操艦とかどこで覚えたのかしら?
ひょっとして天才?
あ、サファエルは………?
フローティングシートはまたも天井近くまで浮き上がり、ふわふわモードで漂ってる。
「テメエ! 寝るんじゃない! 起きろ!」
幸せそうにすやすや寝てるじゃん。
兵器管制を私にとか、キメゼリフ吐いてただろ。
何、寝てんだよ!
「だって、暇なんだもん! 出番ないんだもん! 寝ちゃうもん!」
なんで、駄々っ子になる。
ちょっと可愛いけど、許しませんよ!
「―――いや、確かにそうだけど、そろそろやばい感じがしない? 飽和攻撃とか来るんじゃないの?」
「徐々に、
ファジエルが絶妙な合いの手を入れてきた。
この子、可愛いだけじゃないわね。
できる
「じゃ、そろそろ本気だしゃうかな?」
早く出せ!
羽根の瞳が全く光ってないけど、気のせい?
「では、イージスシステムは起動済なんで、光子魚雷全弾発射!」
発射と同時に異次元空間に溶け込んだ光子魚雷が
弾頭に数百のにホーミングミサイルが仕込んであり、それが花火のように綺麗に広がって誘爆して、一度に万単位の敵が消滅していく。
サファエルの四枚の翼に一斉に百万の瞳が輝く………。
え? 二枚の羽根の瞳が全部、閉じてるけど。
あれ、もしかして、居眠り?
「いや、まだ、寝起きなので」
「そう、それなら仕方ないわね」
イラッと来るけど、まあ、ここは我慢しとくわ。
もしかして、私の心の声、聞こえてる?
「結構、分かりやすいので。表情が豊かで」
「そうなんだ。ふーん」
そんなにわかりやすいの?
ここはひとまず落ち着くのよ、フェアリー。
「左舷から飽和攻撃来ます! イージスシステムで迎撃を!」
ファジエルがヤバそうな表情をしている。
船首に時間魔法シールドを集中展開してるので、かわせそうもない。
「了解! 左舷に小型ブラックホール弾頭を発射!」
サファエルの翼の瞳がせわしなく動き出した。
超天使的な動きで、少し気持ち悪いけど、たぶん、あれのお蔭で数万のミサイルの標準を一瞬で合わせてるのね。仕方ないわ、我慢するわ。
左舷の光子魚雷発射管から黒いミサイルが一斉発射される。
弾頭が散開すると、そこに小型ブラックホールが発生して、数億のレーザーとミサイルが飲み込まれていった。
「何とかかわせました。あ、右舷からも、いや、本艦の上方、下方からも一斉に来ます」
ファジエルの円らな黒い瞳もぱちくりしだした。
サファエルはイージスシステムを次々展開して、全方位のレーザー、ミサイルに対応してるが、敵の飽和攻撃も激しさを増している。
その合間に、光子魚雷、レーザーで数万の
サファエルの四枚の翼の青い瞳が全部開いて、数万の座標を同時確認しているようだ。
フェアリーのフローティングシートの戦略モニターに、リー・ファ・リーから艦内ネットの
チャムが転生後に獲得した【絶対空間把握能力】は天界の【赤天族】のものらしいが、サファエルのような【青天族】の【絶対時間把握能力】はそれに加え、光子魚雷やレーザーの着弾タイミングをぴったり合わせることができる能力らしい。
天界のエーテル力学、光子波動理論によれば「空間の変化の相が時間」となる【時空連続理論】が主流である。
直人たちのいた太陽系第三惑星の相対性理論や量子力学でも同じような理論があるらしいが、空間把握の力が進化すると時間把握を可能とするので、この能力の本質は同じものなのだろう。
となると、【赤天族】やチャムの能力が開発されていくとサファエルようになっていくことも考えられる訳か。チャムの羽根にも眼ができるのかしら? 何だか気持ち悪い。
そもそも、この前の天界大戦の【青天族】の反乱とやらも真相はちょっと怪しいという噂もある。
天界の第三天で発生した【メルキゼテク騒乱】は、第二天【エデン】にまで波及した魔天使デミウルゴスによる魔導汚染事件と聞いてるが、そのせいでゼクエル、サムエル兄弟の【魔導天使】が生まれたと言われている。
天界の宰相、最も古き天使メタトロン直属の
この事件は天界の警備部隊の
しかし、敵の数が多すぎて洒落にならないわ。
連続飽和攻撃で、そろそろイージスシステムも限界かもしれない。
「敵の数、どれくらい減らせた?」
ファジエルに聞いてみる。
「ざっと半分、五十万ぐらいです。サファエル戦術長は凄いです!」
ファジエルは素直に絶賛している。
そんなに褒めちゃダメ、つけあがるから奴は。
「そうでしょ、そうでしょ、私、天才だから、外れないから、もぐもぐ……」
サファイルは得意満面な顔で緑色の戦闘食バーをほおばっている。
せめて、食べ終わってから話しなさい!
「それじゃ、そろそろ【シルバーソード】を出すわよ。リー・ファ、艦の指揮はあなたに任せるわ」
フェアリーはついに決断を下した。
「了解!」
隻眼の副艦長リー・ファ・リーのフローティングシートに戦術モニターが映し出される。
フェアリーも正確には艦長とか、総司令の肩書があるのだが、火星世界の記憶から”隊長”と呼ばれている。
「いよいよ、
サファエルがお通夜モードに入って感極まる。
「勝手に私を殺すな! スタンドウルフ隊も一万ほど出撃!」
フェアリーも仕方ないのでツッコミを入れる。
いつものことだけど、小芝居やめてよ。
「直人、クリス、バー二ィ、スタンドウルフ各隊出撃! ちゃんと生きて帰ってくるのよ!」
フェアリーのいつもの口癖である。
「もちろんです。一回、死んでますので命は粗末にしない主義で」
戦術モニターのサイドウィンドに映った黒髪黒眼の直人が答える。
なかなかいい表情してるけど、死亡フラグじゃないよね?
「いや、ここは意外とバー二ィあたりがやられるパターンやわ」
エセ関西弁の栗毛碧眼のクリスがいつものように突っ込む。
「そうそう、登場してすぐ亡くなってしまって伝説のキャラになるバー二ィですよ」
金髪碧眼のバーニィも負けてはいない。
バー二ィも少しノリ突っ込みが分かってきたみたいね。
いや、感心してる場合ではないわ。
そろそろ、小芝居やめない?
機動突撃艦シルバーソードの上部甲板に
鑑底第三艦橋のハッチが開き、
サファエルの攻撃で
フェアリーは部隊の騎士たちの無事を祈りつつ、光波操縦システムに思念を集中する。
六枚の翼が銀色に輝き、光子波動エンジンの放つ光粒子が宇宙空間に煌めく。
一気に
次の刹那、フェアリーは銀光の鬼神と化して戦場を天駆けていた。
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