第5話 機械天使《ドローン》
「フェアリー隊長、
副官の隻眼、赤髪の騎士リー・ファ・リーは、いつものように艦長席のフェアリー・フェリスに報告した。
彼女は火星世界のルナの戦巫女の二番隊以来の副官であり、気心から何から知り尽くしてる仲であった。
「そのまま、無波動航行で次元潜航を維持してやりすごすわよ」
機動突撃艦シルバーソード艦橋の全天スクリーンには、漆黒の
文字通り機械的に天使を
機動突撃艦シルバーソードは次元潜航機能により、
が、フェアリーの記憶では第三惑星は生物が生存するには不適な惑星だったはずで、
「しかし、あまり心臓にはいいものではないですね」
リー・ファ・リーは黒い隻眼を細めながら、異次元レーダーを眺めていた。
シルバーソードの光子波動エンジンは停止して、次元流の流れに乗って航行しているが、どこかでエンジンの再始動は必要になると思われた。
「このまま無波動航行を続けられればいいけど……」
フェアリーもそれが気がかりだった。とはいえ、次元流は太陽風の「エーテル効果」によって発生すると言われていて文字通り風任せなので、心配しようがジタバタしようが無駄だった。
「次元ソナー来ました! 対ソナー
通信士のファジエルは異次元レーダーに広がる次元ソナーの波紋を確認、天海士に伝達する。二枚羽の黒髪の誠実な天使で、天界の傭兵部隊【アポクリフォン】の精鋭である。
「急速潜航! 次元深度100メタから200メタへ」
天海士のチャム・ファ・ウルは艦をディープスペースに急速潜航させながら、巧みな操艦で太陽風の流れを捉えていた。
両翼に四枚づつある主翼を太陽風に立てて、その力だけで船を航行させる神業級の高等技術である。
エメラルドグリーンの双眸と髪をもつ少し幼い顔立ちは幼女のように見えるが、実はフェアリーより少し年上である。
そもそも、このシルバーソードに乗船している乗組員はほとんど一度、死んでいる青い翼をもつ天使、ルナの
どう考えても千人ぐらいしか乗船出来ない船に、天界の空間改変技術により二万人の将兵を収容してるというでたらめな話なのだが。
「次元ソナーはファジエルが
天海士のチャムは幼い顔立ちに似合わない低音で答えた。
青い翼の天使に転生してから、チャムには不思議な空間把握能力が目覚めた。360度全天を一瞬でイメージできる【天眼視】の能力である。
絶対空間把握能力と呼ばれるものだが、優れた天海士には不可欠で、特に次元潜行のような多次元戦闘においは戦況を変えうる切り札になる。
「そう。とりあえず、このまま何もなければいいけど……」
フェアリーは思わずつぶやいた。
銀色の
「いざとなったら、例のプログラムを発動するか、最悪、時間魔法戦で切り抜けるという策もあります」
作戦参謀でもあるリー・ファ・リーは対策を提示して、フェアリーの心配を打ち消した。
「そうね。今まで通り、なるようになるだけよね」
少し微笑むフェアリー・フェリスに、天海士のチャムも静かに肯いた。
「直人、クリス、バーニィ、スタンドウルフのスタンバイOKかしら?」
フェアリーはシルバーソードの艦載機である次元潜航艇スタンドウルフのパイロットに呼びかけた。
「こちら直人、あ、バーニィが居眠りしていますが、各機、出撃準備完了です」
「誰が居眠りしてるって? 直人、こらぁ!」
金髪碧眼のバーニィはいつものように、黒髪黒眼の直人に喰ってかかった。
「ーーーーあ、一段落したら、声かけてちょうだい」
「フェアリー隊長、それはないで! 関西人なら乗りツッコミ必須の場面だわ」
あきれ顔であくびを始めるフェアリーに、栗毛碧眼のクリスがツッコミを入れる。
「しょーもない地球の小芝居にはついていけまへんわ!」
怪しげな関西弁でチャムが応じる。
「……いや、チャムさん、いつのまに……」
引きつるクリスの笑顔、びびる直人とバーニィ。
「まあ、直人たちの出番はまだ先だと思うけど、みんな、頑張ってね!」
モニター越しに、にっこり微笑むチャムに、
「
と鼻の下を伸ばす男性陣であった。単純である。
小芝居が終わったところで、リー・ファ・リーは艦橋の全天スクリーンに作戦空域地図を映し出した。
「ざっと、今回の作戦を説明すると、このまま無波動航行で
「ラクトエル、時間魔法戦の運用可能時間はどれぐらいなの?」
フェアリーは普段、無口な技術士官に語りかけた。
天界の傭兵部隊【アポクリフォン】叩き上げの庶民出身の天使である。
二枚羽根で灰色の髪をもつ地味な天使というか、メガネをかけてるのだが、心眼をもつ天使にそんなものが必要とは思えないのだが、ファッションか何かだろうか。
「4エルぐらいが限界です」
ラクトエルは補足説明もない、いつもの簡潔な返答をした。
「うーん、仕方ないわね。サファエル的にはシールドはどれぐらい持ちそう?」
対照的にド派手な戦術長に話をふる。
「サファエル的には10エルが限界っすね。地味な防衛戦は得意じゃないんですよね。高速機動で光子魚雷ぶっこんで、光子レーザーをバンバンぶち込みたいですね!」
戦術長で攻撃、防御シールドなど兵装全般を担当してるサファエルがため口ではきはきと答えた。
こいつの口調はいくら注意しても治らない。お調子者なのでおだてて使うしかない。
でも、【アポクリフォン】の精鋭部隊の生き残りで、身分も結構、高く四枚羽根の天使である。
ド派手なピンクの髪に、ピンクのウイングカバーという大天使長もびっくりのファッションだが、いや、これ以上何を言っても無駄なので、ここまでにしておく(泣)
「了解」
フェアリーも思わず無口になる。
「では、そういうことで、我慢我慢で行きましょう!」
忍耐強いリー・ファ・リーも何かとストレス溜まってる感じである。
「フェアリー隊長! 次元爆雷です! 全く感知できませんでした!」
異次元レーダー担当の通信士ファジエルが悲鳴を上げた。
二枚羽の誠実な天使は困惑顔でフェアリーに助けを求めた。
全天スクリーンには次元爆雷が舞い、次々と誘爆していく姿が映し出されていた。
まだ、直撃はないが、シルバーソードの艦橋は衝撃波で振動していた。
「ラクトエル、時間魔法戦用意! 例のプログラムも発動して!」
フェアリーも迅速な指示を出す。
「了解!」
冷静なのか、何なのかラクトエルの地味な声が響いた。
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