第四章 あたしはあたしで一人でいきます
「うん、わかった。じゃあ待ってる、うん」
一つため息をつき、円はケータイを閉じた。
「直と清がくるって」
いいながら黙ったままの沙耶と龍一を見る。ソファーに腰掛けた龍一は窓の外を睨みつけ、対角線上に座った沙耶はうつむいたままだ。
「それじゃあ、円さん」
龍一はゆっくりと立ち上がると、鞄を肩にかけた。
「俺、帰ります」
「え? 別にいてもいいのよ?」
「いえ、そうじゃなくて」
円をまっすぐ見ると少しだけ口元を緩める。
「予備校なんで」
「あ、ああ、そっか」
受験生だもんね、と小さく呟く。
「明日、事務所に行きます。平気ですか?」
「ええ」
「それじゃあ、沙耶」
龍一は沙耶の方を向く。ゆっくりと沙耶が顔をあげる。赤い瞳を睨むようにして見ながら、
「また明日」
早口で告げると、返事を待たずに玄関へ歩き出す。その後を慌てて円がついていく。
「大丈夫? 道とか時間とか……、送ろうか?」
「いいえ、平気です」
「そう? 気をつけてね」
「はい」
玄関で繰り広げられている会話を、沙耶はぼーっと顔を上げたまま聞く。壁を見つめる。
かちゃり、とドアがしまる音がした。
「沙耶」
戻って来た円の言葉にゆっくりと視線をあげる。
「……台所、借りるわよ?」
他に何をどういえばいいかわからなくて、とりあえずそう声をかけた。
「あれ、龍一君は?」
「追い返したの?」
「違うわよ。予備校だって」
「あー」
玄関の方で、そんなやりとりがされているのがぼんやりと耳に流れ込んでくる。
直純と清澄がきたのだな、となんとか思えた。
「沙耶」
声をかけられて、ゆっくりと顔をあげる。
なんだか怒ったような顔をした直純と、泣きそうな顔をした清澄がそこにいた。
直純は散らかった部屋を一度見回し、沙耶の向かいに腰を下ろす。おずおずと清澄がその隣に座った。
人数分のお茶を持った円がゆっくりとやってくると、沙耶の隣に座った。
「それじゃあ、話を聞きましょうか?」
頬杖をついて、円が切り出した。
促されて、ぽつりぽつりと、沙耶は言葉を紡ぎ出す。
堂本賢治に道で会ったこと、今日も再び会う約束をしたこと、彼が自分が幽霊であることを途中で自ら気づいてしまったこと。
本当に大事な部分は、自分だけのものとして秘匿しながらも大筋を話す。
「……以上です」
小さく言葉を締めくくる。
円は何処を見ているのか宙を睨み、清澄は泣きそうな顔をさらにして、
「話にならないな」
大きなため息と一緒に直純が吐き出した。
「直?」
「堂本君のことを黙っていた気持ちはわかる。でも、連れて行って欲しかったって本気で思っていたのだとしたら、話にならないな」
強い語調で直純が言う。
「直さん?」
普段は温厚な彼の、厳しい言葉に円と清澄が驚いた顔をした。
沙耶は視線を下に落とす。
「沙耶が死んだら、沙耶はそれでいいかもしれないけど、じゃあ俺たちはどうすればいいんだ? 龍一君は? それで本当に、いいと思ってるわけ?」
「それは……」
「龍一君が予備校とかいって帰ったって聞いて、逃げたなって正直最初思った。違うな、彼の方が正しい。悲観して不幸に耽溺して、そんな人間と一緒にいたって時間の無駄だもんな」
「あたしは、別に……」
「別にそんな風に思ってない? 思ってなくてもそう見えるんだからしょうがないだろ」
小馬鹿にしたように直純が言う。
「……円姉みたい」
小さく清澄が呟く。
「連れて行って欲しいと本当に思っていたのだとしたら、堂本君に対しても失礼だな」
盛大なため息を一つ。
「駄目だ、気分が悪い。俺は帰る」
言いながら直純が立ち上がる。
「円、悪いけどあとは頼む」
「……わかった」
いつも冷静な従弟の見慣れぬ姿に少しあっけにとられながらも、円が頷く。
「清、直をお願い」
すたすたと玄関に向かう直純を見ながら、円が小声で言う。
「え、お願いって」
「とりあえず、追って。あいつ、多分、この後落ち込む」
やけに自信満々に言われ、
「……わかった。それじゃあ、沙耶。また明日」
頷くと、清澄がばたばたと小走りで直純の後を追いかける。
足音が消えると、円は小さくため息をつきながら、横で俯いたままの沙耶を見る。
「……とりあえず、なんか作るからそれ食べて、寝なさい」
困ったまま声をかけた。
「直さん」
マンションを出たころで追いつき、背中に声をかける。
いやに早足で歩いていた直純は、清澄の声に速度を落とした。
「あの」
「……失敗した」
隣に並んで声をかけると、小さく押し殺した声で直純が言う。
「え?」
「失敗した。落ち込んでるのに怒鳴ってしまった」
顔を見る。なんだか少し青い顔をしていた。
「本当にむかついたんだ。今まであんなにずっと一緒にいたのに、俺らのことなんだと思ってるんだって。あんなの今は本気かもしれないけど、あとで後悔する類いの言葉だってわかってたのに。失敗した」
「間違ってないよ」
呪いのように低い声で呟く直純に、出来るだけ明るい声で言う。
「俺も、むかついた。正直。ついでにいうと、堂本にもむかついた。なんだよ、あいつ」
小さく舌打ちする。
「沙耶の前でちょっとかっこいいこと言って、また消えてさ。どうせなら、俺の前にも姿現せよ」
親友じゃないのかよ、と小さく呟く。
直純は横目でちらりと清澄を見た。
「……よくわかんなかったんだけど、堂本はつまり……、幽霊として普通に働いてたってこと?」
「視認したわけじゃないから、定かではないけれども」
清澄の言葉に、一つ息を吸い、いつもの自分の調子で話始める。
「戻って来た、って言ってたみたいだし、一度向こうにいたのを戻って来たんだと思う」
「そういうの、ありなの?」
「お盆にご先祖様が帰ってくる、とかいうだろう」
「あー、そういうこと?」
「お空で見守ってる、っていうのもあるしな」
「堂本は、沙耶のことを見ていたってこと?」
「まあ、もともと未練があったんだろうな」
「沙耶に?」
「恋愛的なものではなく、沙耶の今後が心配だ、という意味で」
「ああ」
思わず笑ってしまう。
「それはあるなー。あいつ、卒業してからもしばらく俺に沙耶の様子伺わせてたもん。じゃあ、それで?」
「まあ、よくわからないというのが正直なところなんだが。その辺りは生前のその人の宗教とか死生観にしばられたりするし」
「戻ってきたとして、じゃあ、スーツ着て、ケータイ持ってたのは?」
「お盆とかだとこっちが迎える準備するだろう? そういうのもなく戻って来たら、混ざったんだ、と思う」
「混ざった?」
そう、と直純は一つ頷き、
「本当はただ幽霊としてこちらに戻ってくるつもりだった。それでも問題はなかったはずなんだ、沙耶は見えるわけだし。普通の人相手なら夢にでもでればいいし」
「うん」
「それが戻ってくる時に道に迷った的な感じで」
「曖昧……」
「よくわからないんだから仕方がないだろう? 実体のある幽霊としてこちら側に存在することになったんだと思う」
「じゃあ、普通に働いていたってこと? 明日会社に来なくてみんなびっくり?」
「それは、多分違うんだろうなー。彼がどれぐらいこちらにいたのかはわからないけれども。いるけれどもいないものとして存在していたんだと思う」
「いるけどいない?」
「怪談でよくあるだろ、本当はいないはずの六人目が居た、みたいな」
「ああ、みんなが違和感なく受け止めていたのに、思い返すとびっくりっていうやつ? 四人で山小屋にいて、部屋の角に立って次の角まで歩いてタッチしていくことで寝ないようにした、みたいな話? 五人いないと実は成立しない、的な」
「そうそう、そんな感じ。一時的に記憶にも働きかけて存在していたんだと思う。まあ、明日辺り机が多かったりして首を傾げることはあるだろうけれども、ただの勘違いで処理されて終わりだろうな」
「うーん、わからん。全然わからん」
苦々しく呟く清澄に、
「いずれにしても、彼がきちんと成仏したというのは、間違いないと思うよ」
「ふーん」
ならいいけどさ、と小さく清澄は呟いた。
「しかし、沙耶はなー。これだけいろんな人に心配されているのに、どうしてあんなにも後ろ向きなのか。育て方間違えたかなー」
「父親かっ」
直純のぼやきに思わずつっこむ。
「まあ元々ネガティブなのは否定しないけど、一時的にでしょ。大丈夫だって」
「大丈夫なのかなー。もう二十四歳なのに」
「直さん、普通二十四歳の妹の心配をそこまでしない」
言われて直純はぐっと言葉に詰まり、
「そーだな! もう大人だもんな、妹っ!」
半ばやけくそ気味に言った。
「フられたんだから諦めなって」
「諦めてるって!」
「どうだか」
「諦めてたって、前から。敵う訳ないって思ってさ、龍一君に」
そこでもう一度ため息をつき、
「だからこそ、今度は龍一君と上手くいって欲しいんだよ。兄として」
「ん、まあそれは」
二人で顔を見合わせ、小さく苦笑しあう。
「心配性だな、俺たち」
「だねー」
「どっかで軽く夕飯食べて帰るか」
「うん。ところで沙耶、大丈夫? 円姉に任せて」
「あー、あとで確認してみる。普段と立場が逆になっちゃったから、さぞかし困っているだろうし」
言いながら、先ほどより少しだけ軽い足取りで二人は歩いて行った。
円は腕を組んでテーブルの上のケータイを睨んでいた。
沙耶には強引に夕飯を食べさせ、ベッドに押し込んだ。眠っているかどうかは知らないけれども、音もしないので寝たのだろう。円にはあの状態の沙耶にできることが他に思い浮かばなかった。
部屋を片付けたら、一気にすることがなくなった。
そもそも、普段と立場が違うのだ。普段ならば円が沙耶を一喝し、それを後から直純がフォローするという立ち位置だ。それで十数年やってきた。
それが今回、直純が切れて出て行くというパターンで、あれからさらに一喝するわけにもいかず、
「直のバカ」
恐らく、そろそろ頭が冷えて電話がかかってくるころだろう。向こうも、円に任せていることは心配だろうし。だったら、さっさと連絡してこいつーの。
思っていると、
「あ、」
案の定、ケータイが震える。着信、直の表示を確かめ、
「遅い」
『遅いってなんだよ。沙耶は?』
「寝てる、と思う」
『ん。……大丈夫か?』
「大丈夫じゃないんじゃないのー? 流石に」
『沙耶じゃなくて、円が』
思いがけない言葉に、円は一瞬沈黙し、
「大丈夫じゃないに決まってるでしょ」
あっさりと言葉を返した。
『あ、泣き言』
「言うわよ、あんたになら。大丈夫じゃないのは、お互い様でしょ?」
『まあ。結構きついよな』
「連れてって欲しかった、はねー」
受話器越しに、苦笑いを交わす。
「私たちじゃ駄目なのか、って思ったわー」
『一時的な感情、だからこそきついよな』
「あんなにずっと傍にいたと思っていたのに、私たちを見捨ててでも賢治君についていきたいって。いくら、色々なことが重なってたとしても」
『色々なこと?』
「ああ」
円は少し顔をしかめ、
「龍一君がね、今日、会ったらしいの。沙耶と賢治君が二人でいるとこ」
『それはそれは……』
「俺のことは忘れたのに、堂本賢治のことは覚えているのかって言ってしまった、って泣いてた」
『それは……』
電話の向こうで少し沈黙があり、
『まあ、仕方がないか』
「うん、なんてこと言いやがったとも思ったけど、それよりも龍一君の気持ちもわかるし」
恋人が自分のことは忘れて、前の恋人のことだけ覚えてるなんて、正直きつい。
「龍一君も心配なのよねー、さすがに」
言いながらソファーに倒れ込み、天井を見上げる。
『心配してばっかりだな』
「本当」
平穏な日々はどこにあるのかしらー、と芝居がかっていうと、電話の向こうで呆れたような笑い声がした。
「なによ?」
『いいや、その通りだなって思って』
「でしょ? 私がもっとしっかりしていればいいんだけれども」
『お互いに、な』
当たり前のように被せてくる従弟に少し笑みがこぼれる。
「そうね。まあ、とりあえず明日龍一君は事務所にくるって言ってた。沙耶も連れてく」
『わかった、俺も事務所行く』
「うん。……なんかさ、もしかして私たち沙耶のこと甘やかし過ぎ?」
『え?』
「至れり尽くせり過ぎじゃない?」
電話の向こうで少し沈黙があり、
『否定はできないかも、知れない。まあ、あれだ、俺たち結局シスコンなんだよ』
「……あんたの場合はそれだけじゃないけどね」
『五月蝿い』
本気で怒った声。
「ごめん」
『いや、いいけど』
素直に謝ると、拍子抜けした空気が感じられた。
「うん、まあ、明日」
『ああ』
言って、電話を切る。
なんだかんだで頼りになる従弟だ。少し落ち着いた気持ちを感じながら、目を閉じる。
過保護かもしれない。甘やかしているのかもしれない。それでも、
「どうにかしないとね」
このままじゃ駄目なことだけは確かなのだ。
翌日の昼休み、龍一はぼーっと黒板をみていた。
巽翔やちぃちゃんが話かけてきてくれたが、少し一人で整理したくて放っておいてもらうことにした。二人には迷惑と心配をかけっぱなしだ。
連れて行って欲しかった。
沙耶の言葉がよみがえるたび、心臓が抉られる思いがする。それは、俺では無理と同義なのではないか。
顔をしかめる。気持ちが悪い。
悲しいとか悔しいとかそんな言葉よりも、不快、だ。
自分のことはともかくとして、円や清澄や、直純だっているのに、現在手に持っているすべてを捨ててでも連れて行って欲しいと言った沙耶が、不快だ。
同時に、今までたくさんの志半ばで死んでしまった人間を見て来た彼女らしくない言葉だとも思う。つまり、それは、そう言わせるぐらい追いつめてしまったのかもしれない。自分が、責めたから、傷つけたから。
唇をぐっと噛み締め、拳を握り、
「榊原君」
かけられた言葉に、慌ててそれらの力を抜く。
「これ、あげる」
西園寺杏子が、少し肌寒いこの時期に額に汗して立っていた。差し出されたのは、購買で一日五個限定の幻のデラックス夕張メロンパンだった。初めてみた。
「え、これ」
「元気無いときは、美味しいもの食べるといいと思うから」
少し頬を上気させて杏子がいう。だから四限が終わると同時に飛び出していったのか。
「……ありがとう」
言うと杏子はとても嬉しそうに微笑んだ。
最近、自分の中での彼女の評価が変わっていた。初めはただうざい人間だと思っていたけれども、彼女はただ感情表現がストレートで一生懸命でまっすぐで、だからこそ少し不器用なのだということに気がついた。
悪い人ではないのだ。
「半分こしよう、せっかくだから」
言って半分渡す。
ますます嬉しそうな笑顔になる。
杏子は沙耶とあまり違わないのだ、と最近思う。ただ感情を出しすぎる杏子と感情を隠しすぎる沙耶のその違いがあるだけで。どちらもただ、人間関係に不器用なだけなのだ。
こんなに全身で好意を寄せてくれるのに、どうして杏子じゃだめなんだろう、と実は何度か思った事がある。確かに少し疲れるけれども、いい子なのは最近よくわかった。少し疲れるのは沙耶でも代わりないのに。
それでもやっぱり、沙耶じゃなきゃだめなんだ。
改めて思いながらも、パンにかじりついた。
「ん、おいしい」
「よかった!」
本当に嬉しそうに杏子は笑った。
こんなにいい子なのに、それでもやっぱり今思うのは、彼女のこんな笑顔が見たいということ。
酷いな自分、と思う。それでもやっぱり、自分が好きなのは大道寺沙耶なのだ。どんなに面倒な性格でも、どんなにこの恋が叶う見込みがなくても。揺らぐことのない事実を、思いがけない形で再確認する。
だから、大丈夫。今日はいつも通り事務所に行ける。
例え、叶わない恋だとしても。
「こんにちは」
出来るだけいつもと同じように、龍一は事務所のドアをあけた。
それでも、ダンボールだらけの事務所内の様子に一瞬、足が止まる。
そうだった。昨日は色々あって忘れていたけれども、この事務所はなくなるんだった。思い出した事実に少しだけ唇を噛む
「龍一君」
円が立ち上がり、微笑む。
「ごめんなさいね」
「いいえ。沙耶は?」
「仮眠室の方。なんか、龍一君が来たらはいってくるようにって言われたんだけど」
奥のドアを見る。
「そうですか」
「大丈夫?」
「はい」
円の顔を見て頷く。それから、少し伺う様にしてこちらを見ていた直純と清澄にも。
「俺は、平気です。沙耶がどうだかは、わからないけど」
「うーん、なんだか朝から妙に悟り切ったみたいな感じで逆に気味が悪いのよね。謝罪されたし、朝一で」
なに考えてんのか、あの子は、と小さく呟く。
「なにかあったら、呼んでね」
「はい」
頷き、ゆっくりと仮眠室の扉を開けた。
ノックの後、開いた扉。沙耶はそちらに微笑みかける。
「ごめんなさいね、龍一君」
「いいえ」
立ち上がり彼を迎えると、向かいの椅子を勧める。
「本当に、昨日はごめんなさい。あたし、多分酷いことした」
「それは……、俺の方こそ。酷いこと言って」
自分が吐いた暴言を思い出し、呟くと
「ううん」
沙耶は微笑を浮かべたまま、首を横に振った。
「あたしが悪いの。賢のこともわかっていたのに、なにもせずにいたから、結果的に龍一君も傷つけてしまったし」
本当にごめんなさい、と真顔に戻り頭を下げる。
「あ、いえ、別に……」
思ったよりも晴れやかな態度に少し違和感を覚えながらも、龍一は言う。
「昨日、聞いたの。龍一君達が帰った後に、円姉が直兄と電話しているの」
「はあ」
「連れて行って欲しかったはきつい、って。そうだな、って後から思った」
目を伏せる。
「あたしには、みんながいるのに勝手に悲観して、直兄が言う通り皆に失礼だなって思ったの」
ごめんなさい、ともう一度。
「うん、確かに失礼だとは、思う」
龍一が小さく言うと
「そうよね、ごめんなさい。……賢にも、悪いことをしたし」
一瞬、ぴくりと龍一の眉が動く。沙耶はそれには気がつかない。
「連れて行ってなんて。死にたがるなんて。申し訳ない」
「……そうだね」
「大丈夫、もう死にたがったりしない」
龍一の顔を真っすぐ見る。
「ちゃんと、普通に生きる努力をする。普通がなんだかは、わからないけれども」
必要以上に晴れやかな顔をして沙耶は続けた。
「大丈夫、あたしは一人でも生きていけるから。ちゃんと一人で生きていける」
ゆっくりと微笑むと、目の前の彼は何故か一度眉をひそめた。その意味が沙耶にはわからなかった。
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