プレゼントを君に

 プレゼントを片手に、僕は町を歩いている。

 あの試合から数日が経った。まだ完全にモヤモヤが無くなったわけじゃないけど、それでも沈んだ気持ちだけということもない。少しずつ、それは薄くなってきている。

 時間が解決してくれることもあるんだ、って実感してる最中だ。たぶんこのまま、いつか自然に無くなってるんだと思う。

 ゆうちゃんに感謝して、誕生日が今月だって前に話してたし、何かプレゼントをしようと思った。

 アクセサリーは重いよね、でも何が好きなんだろう……そういう話ってあんまりできてなかったからなぁ……。

 そんなことを考えながら買ったものが、右手に持っている紙袋の中に入っている。

 ゆうちゃんの働くお店に一度行ったんだけど、彼女は二時間ほど待たないと空かないらしいと言われ、予約だけして暇を潰しに出てきたところだ。

「予約が埋まってる」という言葉を聞いてチクリと胸が痛んだのは、たぶん気のせい。

 どうやって暇を潰すか考えて、とりあえず本屋に入った。

 サッカーバカだと自分でも思うけど、本屋に来るといつも最初にサッカー雑誌をチェックしに来てしまう。小説とか漫画とかも好きなんだけどね、小さい頃からの癖だから仕方ない。

 スポーツ雑誌のコーナーに着いて、何か面白そうな記事がないかチェックをしていると、シンヤが大きく写った表紙が目に入った。

 その雑誌を手に取ってインタビュー人気は目を通す。主な内容は、代表選手としての意気込みと、海外移籍の噂についてだった。

 ヒロさんは凄い人とチームメイトだったんだな。

 そんなことを改めて感じながら、僕はそれを棚に戻した。

 僕とほとんど歳が変わらないのに、国を代表する選手としてインタビューを受け、サッカーをすることでお金を稼いで生活をしているシンヤ。

 遠い存在で、追いかけても追いかけても届かない存在の気がする。

 何で僕はサッカーをするんだろう。

 好きだから、っていうのはもちろんそうなんだけどさ。好きだから、ってだけで終わらせられるのかな。分からないや。

 考えすぎるのは僕のよくない癖だと自覚している。そこで考えるのをやめて、他のコーナーへ移動を始めた。

 結局本屋で暇を潰し、いつもの薄暗い部屋のブース内でゆうちゃんを待った。

 少し慣れちゃったのかな、異世界感も薄れてしまった気がする。

「あー! 来てくれたんだ、ありがとー!」

 いつも通り、ニコニコしながら彼女は近づいてきた。僕も座ったまま会釈で返事をする。

「ね、今日はどうしたの? またお話? それとも?」

 ニヤニヤしながら僕の正面に座る彼女を見ると、胸が高鳴った。

 何か緊張しちゃうよね。でも、初めて来たときに感じる緊張とは違うものの気がするけど。

「何しに来たと思う?」

 そう言った僕を見て、彼女は首をかしげた。

「えー、気持ちよくなりに? とうとう?」

 少し僕との距離を詰めて、彼女は「いやらしいー」なんて笑った。

 何て言うか、ここに来てる時点でいやらしいのは否定できないよね。でも、残念ながら違うんだよね。

「えーと……」

 脇に置いたままの紙袋を手にすると、そのまま彼女に差し出した。

「6月が誕生日だって前に言ってたから……これっ!」

 言い訳みたいに理由を言わないと、それを渡すことすら恥ずかしかった。

 僕ごときにプレゼントを渡されても困るかもしれないし、何か場違いなことをしてしまった気がしなくもない。でも、渡したかったんだから仕方ないよね。

「えっ、私に?」

 頷いて返事をすると、彼女はおそるおそる手を伸ばした。

「ありがとう……めちゃくちゃ嬉しい……!」

 あれ、何か予想と反応が違う。「マジでー? やった、ありがとね!」みたいなノリで来るかなって思ったのに。

「誕生日、覚えててくれてたの?」

「いや、日は知らないんだけどさ。初めて来たときに6月が誕生月だって言ってたから」

「よく覚えてるねぇ……」

 うーん、やっぱり、僕なんかがそれを覚えてて祝うって、何かちょっと気持ち悪かったかな……? 引かせてしまった?

「あの、迷惑だったら捨ててね」

「そんな迷惑なものなの?」

 意地悪そうに笑って問われて、それには首を横に振った。全力で。

「冗談だよ、本当に嬉しい! ありがとう! もしかして、これをくれるために今日来てくれたの?」

「いや、まぁ……そうだけど……」

 気持ち悪いよなぁ、僕。

「今年初めて祝ってもらっちゃった……! やったね」

 そう言って、彼女は紙袋を胸元に抱えた。何て言うか、演技だとしても喜んでもらえたら嬉しいよね。

「ちなみに、何日が誕生日なの?」

 今後のために……と言いそうになったけど、こんな本名すら知らない、不安定な関係の一年後なんてあるのかどうか分からないから黙っておくことにした。

「えっ、今日だよ、今日。だから、偶然かもしれないけど本当に嬉しい」

 そう笑う彼女の笑顔が眩しくて、僕は顔が赤くなる。ここが暗い店内で良かったと自覚できるくらいには。

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