生徒会な人々 その3 書記の日々

「よいしょっと」

 さっちゅん先輩が、書類の束を軽々と持ち上げる。

「トモっち、これそこの棚に入れて」

「はい」


 僕が書類の束を受け取ったとたん、「ズシリ」ともの凄い重さを感じる。

「さっちゅん先輩っ……これっ……重い……」

 僕はよろよろと、書類の束でよろけてしまう。


「トモっちは男の子なのに力ないなぁ」

「あっ……ごめんなさい……」


 生徒会書記の田村沙智子先輩……通称「さっちゅん先輩」はとても力持ちだ。柔道二段というのも分かる気がする。そして背も高い。男子である僕よりも十センチも高い。それでもれっきとした「女の子」だ。れっきとした……なんて言っては、さっちゅん先輩に失礼だが。

 今日は僕とさっちゅん先輩とで、生徒会室の書類の整理をしている。


「さっちゅん先輩はなんで生徒会の役員になったんですかー?」


 僕はなにげに気になっていた。背が高くて、力があって、柔道の有段者となれば運動部から引く手あまたのはずだからだ。どう考えても、わざわざ生徒会の役員になる理由が見当たらない。


「あたいが生徒会の役員になった理由? そうだねー……なんとなく……かな」

 あまりにも意外すぎる理由だ。


「なんとなく……なるもんなんですか? 生徒会役員って……」

「うーん……なんて言うか、みんなの笑顔が見たいからかな……だから」

「みんなの笑顔……いいですよね」

 僕も、さっちゅん先輩も思わず笑顔になる。


「あたいも笑顔になりたいし」

 そう言ったとたん、さっちゅん先輩が僕に駆け寄る。


「トモっち! 抱っこさせて~」

「うわっ……せっ……先輩! やめてくださいよぉ」

 さっちゅん先輩は、何かと僕を「お姫様抱っこ」したがる。今は僕とさっちゅん先輩しか生徒会室にいないからいいけど、こんな姿、他の人には見せられない。


「だってトモっち抱っこしてると、なんか嬉しいんだよね」

「嬉しいって……?」


「なんかー、トモっちって母性本能くすぐるんだよねー……ほらっ、かわいいし」

「あっ……あのっ……僕……男子ですよ……かわいいと言われても……困るし」


「それに、トモっちって優しいし……」

「そっ……そんなこと……ないですよ……僕なんか……」

「なんかって言っちゃダメっ! トモっちはもっと自分に自信持たないと」

「自信……ですか……僕……人と張り合うとか、較べられるとか……そういうの苦手で……」


「でも、トモっちは優しさとか思いやりでは誰にも負けてないと……あたいは思うけどね」

「そう……かなぁ……」

 僕とさっちゅん先輩はお互いを見つめ合う。僕は抱っこされたまま……


「おい! お前らいつまでそうやってるんだー?」

「あっ、えっ? 会長ー?」

 どうやらいつの間にかに小夜子会長と優子ちゃんが生徒会室に入ってきていたようだ。


「な~んかお前らいい雰囲気だなぁ~、あ~?」

 小夜子会長がジト目で、僕とさっちゅん先輩を見つめる。


「トモくん、いつまでさっちゅん先輩に抱っこされてるのー?」

「えっ……あのっ……優子ちゃん……これは……」


 いつの間にか、いつもの四人の笑いに包まれた生徒会室に戻っていた。


 昭和五十八年五月中旬……そろそろ初夏の足音が聞こえる。

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