生徒会な人々 その4 事務担当の日々

「おい、津島ーっ」


 三時限目が終わって休み時間、僕の後ろの席に座っている長瀬が話し掛けてくる。


「長瀬ー、なんだー?」

「お前、結局生徒会の役員になったんだって?」

「うん、まあ、そうなんだけど……」

「津島が生徒会役員かー」

 長瀬は興味津々で僕に話し掛ける。


「やっぱ、あの抱っこで拉致られたのがきっかけか?」

「頼む……それだけは思い出さないで……」

「何でだー? 女の子に抱っこされるなんてそうそうないからなぁ、むしろ俺的には羨ましいぞ」

「いやっ……長瀬……そういうもんじゃ……」

 僕は全面否定する。


「でも、生徒会って津島以外は女子なんだろ? ハーレムじゃねえか」

「ハーレムって……長瀬は実情を知らないからそう言えるんだよ」

「津島ーっ、お前って贅沢な奴だなぁー」

「そうなのかー?」


「……で、お前は誰が好みなんだよ。あの三人のうち」

「長瀬ー……もうその話やめようよ……」

「だって気になるしー、なっ!」

 長瀬は前のめりになって僕に詰め寄る。


「好みとか……そういうこととか……特に……」

 僕はなんとか話を逸らしたいが、長瀬は食いついたままだ。


「やっぱ本命は同級生の千代崎さんか? それとも背の高い先輩? それとも、まさかのチビっ子会長?」

「だからー……もうその話はやめようって……」

「津島ー、お前なんか顔赤いぞ? やっぱ誰かに気があるのか?」

「ぼっ……僕はそういうのないって……だからもうその話やめようよ……」


「うーん、俺だったらやっぱ千代崎さんかなー。なんかおしとやかだしね、それに気品もあるし」

「だから長瀬ー……もうその話は……」

「あと、背の高い……田村先輩だっけ? ああいうのもいいよなー、明るくて健康的でさ」

「長瀬ー……もうやめとけって……」

「あっ、チビっ子だけはないよなー! しかもあの先輩、チビっ子なのになんか凶暴そうだし、あははは……」

「だから……長瀬……うっ……後ろ……」


「パコーン!」


「いっ、痛てぇ……なんだよ!」


「誰がチビっ子だってー?」

 長瀬の後ろには、小夜子会長立っていた。長瀬は小夜子会長の上履きチョップを喰らって机にうずくまっていた。


「かっ……会長っ! なんでこんなとこにいるんですかー?」

「お前に渡す書類があってなー……って、トモっ! なんだこのアホたれは!」

「僕の友達の長瀬だけど……」

「こいつ許せんっ! あたしのこと馬鹿にしたし凶暴とか言ったし!」

「だからって会長、一般人をいきなり叩いてはいけませんよぉ……」

「うっさい! こういうアホたれは再起不能にしてやらないとな!」

「会長っ……再起不能とかって……なにげに恐ろしいこと言ってませんかー?」


 しばらくして、長瀬が起き上がる。そして

「あっ、チビっ子だ!」

 長瀬……それ言っちゃいけないって……


「パコーン! パコーン! パコーン! パコーン!……」

 小夜子会長の上履きが長瀬の頭上に連打する。


「うっさい! このアホたれがっ! 黙れっ! 黙れっ! 黙れっ!」

「うわっ! やめろっ! やめてくれって! 津島ーっ! 止めさせてくれ!」

「長瀬……悪いけどお前の自業自得だ……僕にはどうにもならないよ……」


 昭和五十八年五月下旬……最近、だんだんと蒸してくる日が増えてきた。

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