第二話 鬼教官、御舘立仁!
第二話 2-1
『タッグバトル優勝、おめでとうございます! いやあ、素晴らしい試合でした!』
インタビューを受けている。眩いフラッシュの明滅、たくさんの記者から向けられたマイク。誰もが私に熱い視線を送る。当然だろう、私は優勝者なんだから。
『今回の優勝に、特に大きな要因となったものはなんでしょうか?』
記者から投げかけられる質問がどれだけ嬉しい事か。優勝。甘美な響きを持つ素敵な二文字。その問いに、私は満面の笑みを浮かべて答える。
『そうですね、私の極めて素晴らしい実力も多少、いや大いに役に立ちましたけれど、それ以上に私の愛機アンドロメダⅠの性能がとても優れていたからだと思いますわ』
最後にオホホ、と口に手を添え笑う。あれ、私ってこんな口調だっけ。それに心なしか身体もないすばでぃーな気もする。まあいいか、優勝した私の真の姿がここに開花したのだ。カメラマンが熱心にフラッシュを焚く。優勝者がこんな美しいとは思ってもみなかったのだろう。
その後ろに、パパとおじいちゃんが見える。二人とも涙を流して嬉しそうにこちらに手を振っていた。
『鈴音、ありがとう! これでパパの会社は安泰だぁ!』
『アンドロメダも飛ぶように売れ取るのでな、こんなに嬉しいことはないわい!』
なんて幸せなのだろう。私は優勝を成し遂げたのだ。やはり私は凄い。優勝したのだから、どれだけ自画自賛しようと私を馬鹿にする奴は誰も居まい。いたとしても、優勝した私をねたんでいるだけ。気にする必要なんてない。
流石天才美少女。マルチキャリアも操縦出来て頭も良くて、そして何よりも美人! 天狗になっている? 違う、もう私は天狗なのだ、私は天狗――
『あの、質問宜しいでしょうか』
記者の声。はいはーい、どんな質問でも結構よ、今の私に答えられないものなど何も無い! そんな強者の笑みを浮かべる私に、その記者の男は質問する。
『じゃあ聞くが、前大会に於いて最も使用者の多かったマルチキャリアの名前、製造会社、特徴、相対した時の注意点、全て言ってもらおうか。昨日教えたよな?』
さぁっ、と場の空気が凍りつく。記者の男の顔が、急に鮮明に私の瞳に映る。ぼさぼさの髪。眼の下のクマ、やつれ気味の中年顔――
あの男が、底意地の悪い鬼のような笑みを浮かべ、私の前に記者として立っている。
『え、えーと、えーっと……』
『答えられないのか? これくらい頭に叩き込んでおけと何十回も言ったはずだが?』
立仁の顔がじょじょに般若のごとき形相に変わる。その背からメラメラと炎が燃え上がる。気付けば会場は火の海だ。
『ひぃっ……だ、誰か助けて!』
他の記者に助けを求める。だが、彼らは動かない。なぜ? 疑問をぶつけようとすると、他の記者が顔を上げる。
他の記者の顔も、立仁になっていた。
『さあ、はーやーくこーたえーろー』
何十人もの立仁が私の前に迫る。なんという恐ろしい顔をしているのだ。怒りの炎を漲らせているのに、その眼は底なしの真っ暗闇だ。引き攣った声で、助けを求める。
『おじいちゃん……パパ……!』
パパとおじいちゃんが助けに来てくれる。ほら、すぐそこまで来てくれている。
『ぱ、パパ!おじいちゃん助けて!』
『ああ――助けるとも。答えられるようになるまで、何度でもな』
その顔もまた、立仁だった。あまりの恐怖に卒倒しそうになりながら走り出す。道行く人々の顔もまた、こちらを向いた時にはあの御舘立仁の顔になっている。そしてその顔になった途端全力で追いかけてくるのだ。どこまで行っても終わりはない。あっちにも御舘立仁、こっちにも御舘立仁、全てが御舘立仁――
『サア、ハヤクコタエロォォォォォォ! アマカワァァァァア!!!』
『いやああああああああああああああああああああああああああああああああ!』
「――天川、おい天川!」
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