第二話 2-2

「――天川、おい天川!」

 席を立ち、脚を揃え背筋を伸ばす。はっきりと、一文字の間違いなく正確に答えなければならない!


「――きっ、機体名『アードラ』! 中量級タイヤ内臓脚タイプ製造会社は六矢むつや産業MC部門特徴は市場に流通量が多く豊富なカスタマイズが可能の為運搬用としては勿論マルチキャリア同士の大会に於いても様々な仕様が存在し注意点としては豊富な拡張区画に様々な装備を隠し持っている点ですっ!」


 そこまで言い切って、視界に担任の倉嶋くらしま先生の呆気に取られた顔が映った。

 頭がぼんやりとしていて状況が掴めない。確か私は数百人の御舘立仁という男に追われていた筈だ。どうにかして逃げ切ったのだろうか。いや、そもそも全く同じ人物が百人も追いかけて来るだろうか。分身なんて人間じゃ無理だ。でも、御舘立仁ならやりかねない。これもまだあの男の策略かもしれない。今にも倉嶋先生の顔があの男に――

「天川、どうしたんだ? 起こそうとしたら突然訳の分からんことを言い出して……」


 その一言で、ようやく我に返る。今私がいるのは学校だ。そして時刻は午前十時。担任の倉嶋先生の日本史の授業中。どうやら、いや間違いなく私は居眠りをしていた。

 それを見兼ねた倉嶋先生は私を起こそうと声を掛けてきた。そして、悪夢の延長を抱えたままの私は目をさまし――傍から聞いていたら意味不明な文句を羅列した、というわけだ。

 教室の皆からの視線が痛い。倉嶋先生は居眠り程度で怒らない温和な先生なので、普段なら皆が軽く笑って終わる話なのだが、流石に私の行動に驚いたらしい。まだ私の顔を心配そうに見つめている。

「と、とにかく、天川、疲れているのかもしれんが、授業中寝るのはいかんな。次、気を付けろよ……さて、じゃあ次の195ページ、中川、読んでくれ――」

 先生が教壇に戻ると、周りの生徒も何事もなかったかのように目線を教科書に移していく。私もぼんやりと席に着いたが、教科書を開く気にはなれなかった。




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