第一話 1-6


「アンタは二流以下の未熟な操縦士だ。その上、マルチキャリアは技術だけの試作品じゃねーか。最初から俺の答えは変わらねえよ、イキったガキの相棒なんてお断りだ」


 二流以下。技術だけの試作品。そして――イキったガキ。頭が真っ白になった。

 あまりの言葉に口をパクパクとさせるだけの私を見て、彼は勘弁してくれ、とでも言うように手をひらひらと振った。


「まずお前、それなりに腕に自信があると言ったが、一回戦ってみただけの俺でも分かるさ、アンタはど素人と大差ない。ワンパターンな動きしかできないボットと同じだ」


 ど素人、ボットと同じ、その言葉がザクザクと心に突き刺さる。だけど、彼の言葉は終わらなかった。


「まあ、百歩譲ってアンタの腕は考えないことにするさ、鍛えればある程度どうにかなるもんだしな。だがな、あの機体は何だ? 確かに対峙したあの時、速度には驚いたさ。跳躍した時はマルチキャリアの技術もここまで来たかと感心すらした」


 どうやら、私のことは覚えていなくても、アンドロメダのことは覚えていたらしい。それを話す彼の目が一瞬明るくなった、けれどすぐに死んだような眼に戻る。


「――だが、それだけだ。跳んでから着地するまでの間は隙だらけだし、停止時の安定性も悪い。ホバーは地形の影響を受けやすいからな。アスファルトで舗装された道路の上を進んでりゃあいい輸送用ならいいかもしれねえが、マルチキャリアバトルでは子供だまし同然さ。確かに地区予選の初っ端のザコには通用するかもしれんが、全国では通用しない」


 上から好き放題言ってくれて。そう思いつつも、私は反論できない。確かに、どれもマルチキャリアにホバークラフトを搭載した弊害だ。立仁の言葉は辛辣だったが、正しくもあった。この男のMCへの観察力の高さもうかがえる。


「んで、極め付けに、タッグ戦という競技だ。俺は確かに個人戦では優勝したし、腕にも自信はある。だが、一人で孤独に戦うのと、二人で協力して戦うのでは訳が違う。俺がいくら頑張ろうが、相方が使い物にならなければ確実に途中で負ける。アンタに、俺と同じことが出来るのか? 俺の呼吸に合わせて戦えるのか?」


 それは全くと言っていいほど正論で、反論の余地はどこにもなかった。

 私だってそんなことも分からないほど、子供じゃない。御舘立仁みたいな実力者からすれば、私なんて。でも、それでもずっと考えて、何度もここに来るか悩んで、どうにか決意してまで来たというのに。

 ここで言い返せないのが、悔しくて悔しくて仕方がなかった。目頭が自然に熱くなる。人前で泣くなんてみっともないと分かっていても、目から涙がこぼれそうだった。顔が真っ赤になっているのが、自分でも分かる。


「つまり、だ。アンタみたいな、お遊びしたいだけの嬢ちゃんと組む気は全くない。分かったか? 分かったら、さっさとおうちに帰るんだな」


 止めの一撃といわんばかりに、一言一句を強調して言うと、立仁は再びリーゲルのコクピットの中に戻ってしまった。もう言う事は無い、という事らしい。ぽつんと、私は一人だけ取り残される。

 後は微かにパネルを叩く音が聞こえてくるだけ。足元を照らす電球が、より自分を惨めに感じさせる。あとは、電子音声が時折聞こえてくるだけで、来た時と同じ静けさが戻っていた。


 気が付くと、目からボロボロと水滴が零れ落ちていた。本当は声を上げて泣きたい気分だったが、あんなヤツに聞かれるのは嫌だった。泣いた私の姿を見ても、彼はバカにするだけだろう。鼻水まで垂れてきて、いくら手で拭っても顔から溢れる液体は止まりそうにない。

 これ以上、ここにいたって無駄。御舘立仁は私とタッグを組む気はない、そうはっきりと言った。もう諦めるしかない。当然、他にペアとして思い当たる相手はいない。いたなら、とっくにそっちに話を持ちかけている。

 誰も思い当らなかったから、最後の最後、一か八かでここに来たのだ。そして見事に一蹴にされ、私はみっともなく泣きじゃくっている。

 もうどうすることも出来ない。私が一人で空回りして、パパにも、おじいちゃんにも、工場の皆にも迷惑をかけただけ。所詮私はただの女子高生。そんなガキに、会社の手助けなんて出来るわけがなかったんだ。私って、なんてバカで、役に立たないんだろう。

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