魔ものならぬ和もの溢れる女子寮の管理人任されたんだけど

第六話 柚陽からのお願い

翌日、朝八時二〇分頃。摂蔭女子中学部三年二組の教室にて、ヤスミンと柚陽はいつものようにおしゃべりし合っていた。

「サオちん、職場体験活動は楽しくやれてるみたいやね」

「うん、学校へは行かないから参加出来るみたい。わたしもすごく嬉しかったよ。彩織さんが少しでも成長してくれて。今日も彩織さんは図書館に、あと照子お婆さんも、友人といっしょに宝塚歌劇を見に行ってるの。翔一お兄さんは神高の芸術鑑賞会で、昼までで終わりだって」

「それってつまり、昼から夕方までは翔一兄さんしか寮にいないってことやん」

「大五郎はいるけどね」

「チャンスーッ！」

　柚陽は突然大声で叫び、ガッツポーズも取った。

「びっくりしたぁ」

　ヤスミンは目を丸くする。

「ねえ、今日の帰り寮寄っていい？　翔一兄さんに折り入って相談事があるねん」

「どんなの？」

　ヤスミンは怪訝な表情で尋ねと、柚陽は囁くような声で耳打ちした。

「……そっ、そっ、そんなことを、頼むの？　ダッ、ダッ、ダメよ」

　ヤスミンは頬をカァァァァァッと赤らめる。

「お願いヤスミス」

「でっ、でもぉ……」

「ワタシの将来がかかっとうねん」

　柚陽は上目遣いで要求する。

「……分かったわ。でも、翔一お兄さん承諾してくれるかなぁ？　さすがに怒られそう」　

　　　※

ともあれ放課後、午後三時頃。ヤスミンは柚陽を連れて鶸梅寮へ。

「こんにちはーっ、翔一兄さん。お久し振りぃっ！」

「あっ、えっと、確か、きみは、クースタスさんのお友達の、南中さんだっけ？」

「ご名答。覚えてくれててめっちゃ嬉しいわ～♪」

　満面の笑みでそう言うと柚陽は、翔一の手をぎゅっと握り締めて来た。

「あっ、あのう……」

　翔一はドキッとなる。

「翔一お兄さん、柚陽さんから、お願いしたいことがあるんだって」

　ヤスミンはちょっぴり俯き加減で、照れくさそうに伝えた。

「えっ、何？」

　翔一が問うと、

「あの……そのう……翔一兄さん、ヌッ、ヌードモデルに、なって下さい！」

　柚陽は面と向かって、やや躊躇しながらも大きな声でお願いした。

「えっ！？」

　翔一は目を丸くし、口をあんぐりと開けた。

「あの、すみません。ちょっと頼み辛いことを言ってしまって」

　柚陽は頭を深々と下げた。

「あっ、あの、ちゅっ、中学生に、ヌードデッサンは、あまりに早過ぎるんじゃないかな？」

　翔一は早口調で御もっともな意見を述べてみる。

「翔一兄さん、ワタシ、美大を目指してるんです。中学生のうちからこういったことに取り組んでおかないと、ライバル達に差をつけられちゃうんです。数学と英語は、ワタシ達の学校では中三から高校課程を習ってるんですよ。だから早過ぎることはないと思うねんっ！」　

　柚陽は翔一の目を見つめながら、強く主張した。

「その、数学や英語とは違って、ヌードデッサンは、その、なんて言うか……健全性というか……えっと……」

　翔一は何か理由を付けて断ろうとするが、言葉に詰まってしまった。

「翔一お兄さん、わたしからもお願いします。翔一お兄さんが今、ヌードモデルになることによって、柚陽さんのデッサン力がさらに向上し、美大に合格し、ゆくゆくは世界的に有名な画家さんになったら、社会貢献になりますよ。翔一お兄さんも絵を趣味にされているので、柚陽さんの気持ちはよく分かるでしょう？」

　ヤスミンはきりっとした表情でお願いする。

「……分かった。やってあげる」

　翔一は社会貢献という言葉に押され、しぶしぶ引き受けてしまった。

三人はロビーからヤスミンのお部屋へ。

ヤスミンは柚陽に指示されるまま座卓を隅の方へ動かし、学習机の椅子を引っ張り出して、中央付近に置いた。

「では翔一兄さん、脱いで下さい！」

　柚陽は期待の眼差しで翔一を見つめる。

「でっ、でもね……」

　翔一はヤスミンの方にちらっと視線を送った。

「翔一お兄さん、わたしは目を逸らしてますから、全然気にしなくていいですよ」

　ヤスミンは地学の学習参考書を眺めながら伝える。

「じゃ、脱ぐね」

　翔一はまず上着から脱ぎ、上半身裸となる。続いて靴下とズボンを脱いだ。

　今、翔一はトランクス一枚だけの姿だ。

「あのっ、翔一兄さん、トランクスは、脱がなくて、いいです。さすがに、第二次性徴を迎えた男の人のあそこは、中学生のワタシにはまだ刺激が強過ぎるので」

　柚陽は頬をほんのり赤らめながら伝えた。

「あっ、それはどうも」

　翔一はぎこちない動きで椅子の上に上がる。内心かなりホッとしていた。

「ダビデ像のようなポーズをとって下さい」

「こっ、こう？」

柚陽から頼まれると翔一は少し足を広げ、顔を少し横に向ける。続けて左腕をぐっと曲げあごへ近づけ、握りこぶしを作った。

「そうです。素晴らしいです。翔一兄さんの上半身も下半身も、スマートでいいですね。ワタシ、筋肉質な男の人は苦手なんっすよぉ」

　柚陽はまじまじと、翔一のなよなよしたみすぼらしい裸体を眺める。

「あのう、なるべく早く描き終えてね」

　翔一は気まずそうにお願いした。

「はい。ワタシ、翔一兄さんを、一生懸命デッサンします！」

　柚陽は畳の上で体育座りをし、スケッチブックを太ももの上に置くと、休まず４Ｂ鉛筆を手に取り、翔一のあまり筋肉のない華奢なヌード姿を描写し始めた。

今このお部屋には、シャカシャカと鉛筆が紙の上を動く音だけが聞こえてくる。

ヤスミンは高校地学の参考書を黙読していた。

「あの、まだかな？」

　柚陽が描き始めてから十分ほどのち、翔一は尋ねてみる。

「まだまだです！」

　柚陽は真剣な眼差しで返答した。その直後、

「ただいまーっ！」

　玄関から、千景の声が聞こえて来た。

「ちっ、千景さん！？」

「幸岡先輩、もう帰って来ちゃった？」

「あの、こんな所を見られたら、非常に、まずいんじゃ？」

　三人は当然のように焦る。

「あそこに、隠れましょう」

　ヤスミンは小声で指示を出した。

　三人は忍者のようにすり足抜き足差し足で動き、押入れの中に隠れる。

ストーブやこたつなどが仕舞われていて畳一畳ほどしかないスペースに、ほとんど全裸の翔一と着衣の二人が密着してしまった。

「「「……」」」

三人はじーっと声を殺す。

「あれえ？　大ちゃん以外誰もいないの？　翔一くんもいないようだし、中学部は授業早く終わってたからヤスミンちゃんもう帰ってると思ったんだけど。お買い物へ行ったのかな？　でも、靴はあったし……展望台かな？　まあいいや、大ちゃんをお散歩へ連れて行こうっと」

　千景は通学鞄をソファの上に置き、ダイニングテーブル椅子の上にいた大五郎を両手で抱え込み、また外へ出て行った。

「……千景さん行ったみたいね。というかわたしまで隠れる必要は無かったような……」

　ヤスミンはふと気付いた。

「二階へ上がって来なくて助かったね、翔一兄さん」

　柚陽はくすくす笑っていた。

「あの、南中さん。失礼なことを言って申し訳ないんだけど、重たくて……」

「あっ！　翔一兄さん、ごめんなさい。馬乗りになっちゃって。ワタシのがきっと体重重いよね。すぐに退きます。ありゃ、退こうにも思うように動けへんわ～。すまんねぇ翔一兄さん」

「翔一お兄さん、柚陽さんが多大なご迷惑かけてごめんね。すぐに開けるので」

　一番襖寄りにいたヤスミンが押入れの戸を勢いよく引いた。明るい光が差し込んでくる。

　ヤスミンが最初に外へ出た。

「んっしょ」

　続いて柚陽が中腰になろうとした瞬間、

「きゃっ！」

　ヤスミンは思わず顔を床に背ける。

「きゃわっ」

　柚陽は手で口を押さえ、にやけながら凝視してしまう。頬がみるみるうちに赤くなっていた。翔一の穿いていたトランクスがずり下がって、あの部分がしっかり露出してしまっていたのだ。

「うわぁっ！」

　翔一は上体を起こすと大慌てでトランクスを元の位置へと戻した。

「思ったよりちっちゃかったですね。それに、薄かったですね」

「柚陽、失礼よっ！」

ヤスミンも頬をカァァァッと火照らせる。

「俺、女子中学生に、猥褻物を見せちゃった」

　翔一はかなり強い罪悪感に駆られる。

「翔一兄さんの大事な部分は猥褻物ではありませんっ！　芸術としてワタシは高く評価します！」

「わたしも猥褻物とは微塵も思っていません。あの程度のものなら」

　柚陽とヤスミンは慌ててフォローしてあげた。

「…………」

　翔一はどうコメントしていいのか分からず黙り込む。

「申し訳ございません！　翔一兄さん、観察してしまい」

　柚陽は土下座して謝罪して来た。

「俺は、その……全く気にしてないから」

「お詫びにワタシのヌードデッサン描かせてあげますっ！」

「いや、いいから」

　翔一は当然のように困惑してしまう。

「ワタシ、じつは、いつも小五の弟といっしょにお風呂入ってるっていうか、弟はすごく嫌がるんやけどワタシが強引に押し入ってるので、男の子の大事な部分自体は見慣れとんです。しかもあいつ、生意気にもう生えてるんっすよ、まだ薄っすらとではありますが。翔一兄さんは、小五の頃にはもう生えていましたか？」

　柚陽は堂々と打ち明け、興味津々に尋ねて来た。

「いっ、いやぁ、その……」

なんてこと訊いてくるんだよ、この子は。

　翔一は今、この子面白いけどちょっと苦手なタイプだなぁっと感じていた。

「柚陽、貴重なお時間を割いてヌードモデルをして下さった翔一お兄さんに失礼なこと訊いちゃダメでしょっ！」

　ヤスミンは顔を真っ赤に染めながらそう注意して、本棚にあった分厚い哺乳類の図鑑で柚陽の後頭部をバコォンッと叩く。

「いったぁ～っ、分かってまーすっ。すみません翔一兄さん。さっきのハプニングは、ワタシにとって一生忘れられない思い出になりそうです！」

　柚陽はてへへっと笑って、どこか嬉しそうにこう伝える。

「いや、今すぐに忘れてね」

　翔一は悲しげな表情でお願いした。

　　　　　　　☆

「ほっ、ほな翔一兄さん、さようならーっ！」

　玄関先にて柚陽は別れの挨拶を告げると、そそくさ鶸梅寮をあとにした。

「あっ、あの、翔一お兄さん、わっ、わたし、微小時間しか見ていないので……」

　ヤスミンは慌て気味に翔一を気遣う。

「あの、クースタスさん。そのことは、もう忘れよう」

　翔一はげんなりする。彼は今、穴があったら入りたい気分だった。

「そっ、そうですね。わっ、わたし、今から数学の公式や昆虫さんや日本の地名、新たにいっぱい覚えてさっきのことは忘れますから」

ヤスミンは自分のお部屋へ戻ろうと階段の方へ向かおうとした。

「ただいまーっ、新しく出来たファーストフード店で〝フランクフルト〟買って来たよ。ルッコラの香りとマスタードがピリッと効いててすごく美味しいらしいよ。六本あるからみんなの分あるよ」

　そこへ千景が帰って来た。ロビーに上がり紙袋をダイニングテーブルの上に置くと、テープを外して中から一本取り出す。

「「……」」　

ヤスミンと翔一は俯き加減であった。

「あれぇ？　どうかしたの？」

　千景はフランクフルトを美味しそうにもぐもぐ頬張りながら、きょとんとした表情で二人に問いかける。

「なっ、なんでもないよ」

「俺も、同じく」

ヤスミンも翔一も千景から目を逸らしながら答えた。

「なんか変だよ、二人とも」

　千景は当然のように疑問を浮かべる。

「ただいまぁー。今日はね、近くの幼稚園の子達が来てて、茉莉乃と絵本の読み聞かせしてあげたよ。みんなすごく喜んでくれてた♪　あと帰る途中、照子お婆ちゃんといっしょになっちゃった」

「ただいま」

　タイミング良く、彩織と照子さんも帰って来た。

「照子お婆ちゃん、阪神サウスアイランド王国のチケットを福引で当てて来たんだって」

彩織は嬉しそうに三人に伝えた。

十年ほど前に出来た、巨大プールにショッピングモールまで揃ってある近隣の大型複合アミューズメント施設だ。

「二等賞だったよ。ほら」

「お婆ちゃん、すごぉい！」

「とっても楽しみです♪　特にプールはわたしが故郷にいた頃に訪れたことがあるログナー・バード・ブルマウを思い出すので」

　照子さんがチケットをかざすと、ヤスミンの表情にも笑顔が浮かんだ。先ほどのあの件から意識を切り替えることが出来たようだ。

「高校生二枚、中学生四枚の計六枚あるよ。茉莉乃ちゃんや柚陽ちゃんも誘ってみんなで行って来な」

「俺も、ですか？」

「もちろんだよ。翔一くん、今度の日曜日に行こうね♪」

　　　　　　　　※

梅雨時らしく土砂降りの大雨だった翌土曜の夕方六時頃。翔一は鶸梅寮の自室で英語の復習にいそしんでいた。

そんな時、

「こんばんはー。あの、翔一くん、昨日出されてた数Ⅱの宿題で、分からないところがあって。問い２と５と６。一応頑張って考えてみたんだけど、空欄のままなの」

　千景がプリントを手に抱えて訪れて来た。

「確かに難易度ちょっと高めだね。全部やってあげるよ」

　翔一は快く引き受け、プリントを受け取る。

「翔一お兄さん、前にも言いましたが甘やかし過ぎるのは良くないですよ」

直後にヤスミンも訪れて来た。

「分かった。ヒントだけにしておくよ」

「あーん、残念」

「あの、千景さん、明日は水着着ることだし、ムダ毛剃ってあげるよ」

「私、剃らなきゃいけないほどムダ毛生えてるかな？」

　千景は自分の腕や脛を確かめてみる。

「よく見ないと気にならないくらいだけど、わたし、剃りたいから剃らせて欲しいな」

「それじゃ、剃ってもいいよ。ヤスミンちゃん今までムダ毛のこと何も言わなかったのに、気にするようになったんだね」

「わたしもムダ毛処理なんて面倒で今まで一度もしようと思ったことなかったけど、柚陽さんから、翔一お兄さんと一つ屋根の下で暮らしてるんだから女子力もっと高めた方がいいって言われたから。じゃ～ん、柚陽さんからいただいた女子力を高めるムダ毛処理セットよ」

　ヤスミンはピンク系花柄の可愛らしいマイポーチから除毛クリーム、刷毛、はさみ、シェーバー、毛抜き、ローションを取り出した。

その直後、

「楽しそうなことしてるみたいだね」

彩織がこのお部屋へ入って来た。

「いらっしゃい彩織さん、ちょっと今から千景さんの恥ずかしいところのムダ毛処理するので、翔一お兄さんは見ないようにしてあげて下さいね」

「わざわざ俺のとこでやらなくても」

　翔一は千景が悩んでいた数学の問題に集中。

「それじゃ千景さん、下着姿になってこの上に腰掛けてね」

　ヤスミンから頼まれると、

「うん」

　千景は躊躇なく半袖ブラウスとプリーツスカートを脱いでブラとショーツの下着姿になり、翔一が使っている敷布団に乗ったのち体育座りの姿勢になった。

　ヤスミンも敷布団の上に乗る。

「あの、幸岡さん、俺がいるのに本当に下着姿になったのかよ？」

　翔一は演習問題を解きながら気まずそうに問いかける。

「うん、私、翔一くんは覗いて来ないって信用してるし」

　千景はにっこり笑顔できっぱりと言った。

「翔一お兄ちゃん、信頼されてるね。あたしも剃り剃りしたいなぁ。楽しそう」

　彩織は羨ましそうに呟く。

「彩織さんはまだムダ毛全然生えてないから必要ないよ」

　ヤスミンはにっこり笑顔で言う。

「あたしにも早くムダ毛生えて欲しいなぁ」

「彩織さんも来年の今頃には嫌でもムダ毛に悩むようになると思うわ。千景さん、うなじと背中から剃ってくね。ブラも取って」

「分かった」

　千景は躊躇いなく薄ピンク色のブラを外しておっぱい丸見せに。

「では剃りますね」

　ヤスミンは最初に千景のうなじから背中にかけて除毛クリームを塗り、専用の刷毛で浮かび上がった産毛を取り除いてあげる。

「あっんっ、くすぐったぁい」

「それは我慢してね」

「うん」

　除毛後はアフターケアのローションを塗ってもらい、千景はブラを付ける。

「次はおへそ周り剃るね。仰向けに寝転がって」

「了解」

　千景は体育座りからぺたんと仰向けになった。

「じゃあ剃るよ」

「……んっ、気持ちいい♪」

「千景さん、少し前と比べてお腹の贅肉増えてるね。翔一お兄さんが来てから幸せ太りしたみたいね」

「私、そんなに増えてるかなぁ？　ひゃぅっ！　もうヤスミンちゃぁん、くすぐったいよう。わき腹ぷにぷにつままないでぇ～」

「ごめん、ごめん。今度は腿毛と脛毛剃るね」

　ヤスミンは千景の両足にも除毛クリームを塗って、うっすら生えていた太ももの毛と脛毛を刷毛で取り除いていく。

「ヤスミンちゃん、剃るの上手いね」

「ありがとう。裏側も剃るから今度はうつ伏せになってね」

「うん」

　千景は言われた通りの姿勢へ。太ももと脛の裏側のムダ毛もきれいに剃ってもらい、

「ふくらはぎ、揉んであげるね」

「ありがとうヤスミンちゃん、んっ、気持ちいい♪」

　ローションを塗ってもらうさいにマッサージもしてもらい、千景は恍惚の表情だ。

「次はわき毛剃るよ。腕上げてね」

「うん」

　再び体育座りの姿勢になったのち両手を天井に向けて伸ばした千景、ここも同じように剃ってもらう。

「んっ、ちょっとくすぐったい。ひゃぁっ」

「はい、きれいに剃れたよ。ローション塗るね」

「ありがとう。んっ！」

続いて腕毛も剃ってもらいローションを塗ってもらっている最中に、

「千景さん、アンダーヘアーけっこう広い範囲に生えてたから、ちょっとだけ剃っておこう。そのままだと水着からはみ出ちゃうかもだし。ちょっとパンツずらすね」

　ヤスミンからこんなお願いをされると、

「えっ！　そこも剃るの？」

　千景はピクッと反応する。

「うん、その方が絶対いいよ。わたしもさっきちょっと剃ったよ」

　ヤスミンはにっこり微笑みかけた。

「なんかそこ剃られるのは恥ずかしいな」

「すぐに済ますよ」

「でも、ちょっと……」

「茉莉乃もそこの毛最近濃くなって来たから、水泳授業始まる前に剃っといたって言ってたよ。千景お姉ちゃん、ヤスミンお姉ちゃんに剃らさせてあげて」

「わたしも水着シーズンくらいは剃って、狭い範囲にうっすら生えてる程度に整えた方がいいと思うわ」

「じゃぁ、お願いするよ」

千景は仰向けに寝ると、照れくさがりながらショーツを自分で膝の辺りまでずらした。千景のぷりんっとしたお尻がじかに翔一の敷布団に触れる。

「それじゃ、クリーム塗るね」

　ヤスミンは除毛クリームが塗られた刷毛を、千景の露になった恥部に近づける。

「あっ、ちょっと待って！　やっぱり剃るのはやめて。あとでチクチクして来そう」

　千景は頬をポッと赤らめた。

「それじゃ、カットして短くしとくね」

「それでお願いするよ」

「了解。では、カットするね」

「うん」

そんな会話とチョキチョキチョキッとはさみの音がしっかり聞こえて来て、

俺はべつに幸岡さんのムダ毛は全然気にならないけどな。

翔一はちょっと見てみたいと思ってしまったが、数学の演習問題に集中。

「はい、ムダ毛処理完了したよ」

「ヤスミンちゃん、ありがとう」

　千景はお礼を言ってショーツを自分で元の位置に戻す。

「どういたしまして」

「千景お姉ちゃんいいなぁ」

　自分のつるつるな腕を見ながら羨む彩織。

「翔一くん、見て。腕と脛、きれいになったでしょ？」

　その間に千景は服も着込み、翔一に剃った部分を見せてあげた。

「いや、分からないな。幸岡さんの肌なんか普段よく見てないし」

　翔一は困惑気味に伝える。

「あらら」

　千景はちょっぴり拍子抜けしたようだ。

「翔一お兄さん、これからは千景さんのお肌、もっとよく観察してあげて。千景さんがムダ毛処理怠らないように」

「べつにそんなことしなくても……」

「翔一くんにお肌じっくり見られちゃうのは、なんかちょっと恥ずかしいな」

「翔一お兄さん、千景さんは身だしなみにあまり気遣ってないだらしのない子だけど、翔一お兄さんはどう思われますか？」

「俺は、女の子は少しだらしのない方がいいと思う。化粧品や装飾品、ファッション、エステとかに無駄遣いしないだろうから」

「翔一くんにそんなこと言ってもらえるなんて、すごく嬉しいよ♪」

　千景は満面の笑みを浮かべ、ちょっぴり頬を赤らめた。

「そうでしたか。翔一お兄さんはそういう子が好みなんですね」

　ヤスミンも少し嬉しがっているようだった。

「……まあ、そうなるかな？　幸岡さん、これにヒント書いといたから、あとは自力で頑張って」

　翔一は話題を切り替えようとルーズリーフを千切って手渡す。

「ありがとう翔一くん、あっ、こう解けばいいのかぁ。また迷惑かけてごめんね」

「いやいや」

「ムダ毛剃ってすっきりした気分になれたよ」

　千景は満足そうに自分のお部屋へ戻っていった。

「あの、翔一お兄さんは、ムダ毛処理はされたことありますか？」

　ヤスミンは照れくさそうに問いかけてくる。

「いや、ないよ」

　翔一は即答した。

「そうでしたか。男の人も、ムダ毛処理された方がいいと思うので、もしよろしければこれ、どうぞお使い下さい。ではまたのちほど」

　ヤスミンはやや照れくさそうに女子力アップアイテムを手渡して来て、そそくさ自分のお部屋へ戻って行った。

「必要ないんだけどなぁ」

「じゃああたしにちょうだぁい♪」

「もちろんいいよ」

「ありがとう。来年には使えるようになりたいな」

　彩織は嬉しそうに受け取り、自分のお部屋へ。

　翔一は引き続き英語の復習。　

幸岡さんのムダ毛、俺の部屋のごみ箱に捨てていくのはやめて欲しかったな。

　ティッシュに包まれていたそれに、翔一は意識してしまったが一切手を触れようとはしなかった。