ライアースネーク04
吸血鬼の次は付喪神が我が家に引っ越して来ることが僕の知らないところで決定していた。
両親は仕事で忙しいからまず大丈夫だ。
問題は僕の姉と妹である。
燗奈ならあの性格だからすんなり受け入れそうだが麗嘉姉さんだ。
我が家が誇る常識人だし、両親が忙しくあまり家にいないので一番年上の麗嘉姉さんが面倒を見てくれているあの人は我が家で頂点に立っている。
なので麗嘉姉さんを説得しない限り僕らに未来はない。
「何か策はあるの? 寿からの依頼の関係で居候するのは僕は一向に構わないけど一人暮らしじゃないから」
「依頼のことを話せば納得してくれるはず」
「なんて説明するんだ? 僕は家族とかには自分が不死身なことを隠して生活しているんだけど」
それを黙って説明するには相当な話術が必須になってくるのに、学校で喋る時間より姉と妹と喋っている時間の方が十倍長かった僕にそれを強いるのはどうかと思う。
「なら人としてではなく人形としての扱えばいい」
「それはそれで僕が困る。てか寿は何かアドバイスとかしてくれなかったのか?」
「貴方はよく首を突っ込むから止めてやれと、そう聞いていますが」
「あいつ人を何だと思ってやがる。ていうか、それでずっと僕を見張るために居候するなんて考えるのもどうかと思うけど」
「拘束して地下に監禁すれば安全だと提案したのですが黒に止められました」
「その方法を選べばこうやって悩む必要はないと? 残念だけどその提案は却下。家族に迷惑がかかるようなのはやめてくれ」
特に燗南は一日の不在で騒ぎ出しそうだ。それがなくとも個人的にないけど。
「これを置いていく」
渡されたのは封筒。達筆な字で『遺言書』と書かれている。
「白に聞いた。一人になりたい時の魔法の紙」
「色んな誤解を招くぞこれ! 完全に自殺をする前だよ。しかも僕は死ねないし」
自分で言ってて悲しい。
てかこれは一体誰が書いたんだ? あの二丁の銃はそもそも手がないから書けないだろうから銀か。わざわざこんなの書くなんてこれは一種の嫌がらせなのかもしれない。
「じゃあ、これは無し」
「そうしてくれると助かるよ。でもこんなとこでこんな話をしてたっていつまで経っても平行線だな。結界とかで何とかならない?」
この前黒が張れるようなことを言っていた。あの時は必要なかったみたいで実際に見たことないけど便利そうだから使えるなら使って欲しいが。
「一般人に害をなす結界は禁止されています」
「だよね。こうなったら銀ちゃんは怪しい人たちに追われてるからしばらく家で匿う、という方向性でいこう」
また嘘をつこうとしている。けどこれはこういった非常事態だからであって決して普段から使っているわけではない。いや、これほんと。
「ミステリアスな少女役ですか。自信はありませんがやってみます」
「いや、銀ちゃんは気合を入れなくてもそのままで十分ミステリアスだよ」
方針が決まったところでいざドアを開けると腹に物凄い衝撃が走った。
「おっかえりーの正拳突き」
そこには明るい声で物騒なことを言っている妹がいた。しかもその言葉既に実行された後である。
「ただいま。それ他の奴になるなよ。確実に死人が出る」
冗談ではなく燗南は運動神経がいいからこんなのを体の弱い人が受けたら肋が折れてーーなんて事故が起こりかねない。
「安心してよお兄ちゃん。こんなことをするのは相手がお兄ちゃんだからなんだぞ」
「そんなバイオレンスな妹は御免被る」
「まあ、まあ、恥ずかしがらなくていいからーーってお兄ちゃんが女を連れて来た‼︎」
「変な言い方するな。ついさっき知り合ったばっかでお前が思っているような関係じゃない」
「そんな……つい知り合ったばかりの人を家に連れ込んで今夜はお楽しみするつもりだなんて。お兄ちゃんのケダモノ!」
「だから違うって言ってるだろ。それで、麗嘉姉さんは?」
こいつは適当にごまかしてお菓子でもやればいいが麗嘉姉さんはそうはいかないだろう。
最悪右手と左足を失うことになる。それくらいの覚悟がないと麗嘉姉さんに嘘などつけない。
「お姉ちゃんはご飯クッキングナウだよ」
「そうか。ムカつくから今すぐその喋り方やめろ」
「ふっふ〜ん。そんなにイライラしなさんなよお兄ちゃん。どうしてその人を家に連れて来たかはさておき、今日はお姉ちゃん機嫌が良いのだよ」
「機嫌良くても内容が内容だからな」
けどここでうじうじしても時間の無駄だ。腹を括って麗嘉姉さんのところへ行き、嘘の事情を話すと満面の笑みを浮かべて
「いいわよ」
と伏見の方へ振り向くことなく答えた。
「え?」
「居候でもなんでも。でも家事のお手伝いはしてもらうわよ」
「それくらいやってくれるだろうけど、本当にいいの?」
お金も問題は両親がやたら稼いでくれているからいいとして、同じ屋根の下で家族以外の異性というのはーー。
「ええ。櫂くんなりの考えがあってその子をここに連れて来たんでしょ。だったら櫂くんの意思を尊重するわ」
「ありがとうございます」
銀は素直にお辞儀をするが伏見はいつもとは全く様子の違う姉に対して動揺を隠せないでいた。
「やったー! 私のことはお姉ちゃんって呼んでいいからね」
燗南は兄の気持ちなど露ほども知らず、ただ賑やかになったことに歓喜して銀に抱きついた。
「ちなみに付き合ってるとか、そういうのじゃないんでしょ」
「知り合ったのはつい最近だからそんなわけないよ麗嘉姉さん」
「そう……とりあえずご飯にしましょ。二人ともお腹空いてるでしょ」
戸惑いながらも伏見は席へ着き、黙々と箸を進めた。
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