ライアースネーク03
「せ、先輩。先輩の趣味趣向に文句を言うほど私は愚かな者ではありませんが流石に外でそういうプレイは……」
「ちょ⁉︎ 違うんだ那恵ちゃん。これは彼女なりの冗談だよ。ほら、鉄板ネタ的な。だから気にしないで」
彼女が冗談などを言うなんてあり得ないけど流石に後輩に自分の人形だと言わせている変人だと思われたくないので咄嗟に嘘をついた。
必死さが伝わったのかどうにか納得をしてくれた。
「はぁ、そこまで言うなら先ほどのとんでも発言は聞かなかったことにしますけど結局お二人はどういう関係なんですか?」
「私は彼のにーー」
「ごめん那恵ちゃん。ちょっと二人で話したいことがあるから席外すね」
また変な誤解をされる前に白の口を押さえてそそくさと喫茶店を出て、少し離れた人気のないところへと移動する。
「何?」
「何じゃない。あんなことして、僕に対しての嫌がらせか?」
真顔で言うからどんな言葉も冗談ではないように聞かせてしまう。
というか、さっきのは表情の問題というより言い方の問題だ。
「依頼された」
またこうやって話す。
喋り慣れていないから仕方ないのかもしれないけど。
「依頼? 一体何の」
あの吸血鬼の成れの果てを排除する依頼は既に終わったはずだが。もしやあの中で何体か取り逃がしてしまったのか?
「貴方の護衛。依頼主は寿 流」
「護衛ってそんな。でもあいつが頼むなんてこれから何かあるってことか?」
そういえばあの吸血鬼の成れの果ては一体何処から来たんだ? 本能で動くと黒は言っていたがあれほどの量が集団で移動していたら寿がもっと早くに気づくはずだが。
もしや誰かが裏で動いていた? それなら寿が直前まで気づかなかったのも頷ける。
目的は分からないけどあれを利用して何かを企んでそれを阻止したことで恨みを買ってしまったのかもしれない。
あの依頼を協力するように言ったのはあいつだからせめてもの罪滅ぼしとして護衛をさせるようにしたというのは十分にあり得る。
「不明。依頼のこと以外は聞いていない」
「そうか。それにしても喋れたんだな」
あの時は黒が全て喋ってくれてちたから喋れないと勝手に思い込んでいたが銃が喋れるなら人形である彼女が喋れても何ら不思議ではないか。
「付喪神はどんな形態であろうと会話は可能」
「今は他の……黒と白。銃は持っているのか?」
「持ってはいない。この国で銃を持ってはいけないという決まりがある」
銃刀法違反か。
遊園地であんなに暴れてた人と同一人物とは思えないな。
それにしても彼女の常識外れの言動はまとめ役の黒がいないことが原因というわけだがいない物をどうこう言っても何も変わらない。
「分かった。とにかく、こうして後輩と楽しくショッピングをしている場合じゃないな。僕はこれから那恵ちゃんにさりげなく断ってくるからここで待ってて」
急いで先ほどの喫茶店に戻ろうとしたが裾を引っ張られてその足は止められた。
「護衛対象が勝手に動かれたら困る」
「一瞬だよ。ちょっと喋ってすぐに出てくるから」
とはいえ相手はあのお喋り好きの那恵ちゃんだ。
一話すと百を返してくるからきっぱりと断って戻って来るのは少し難しいかもしれないが。
「一瞬あれば貴方の首を落とすのは簡単」
言い返せない。
遊園地で醜態を晒した僕はそう思われて必然だし、もし僕を狙う暗殺者がこの店にいて背後から襲われたらあっさり殺られる自信がある。
「ならこうしよう。僕は急に君の用事に付き合うことになった。まあ、買い物は結構終わってるから那恵ちゃん一人でも大丈夫だろ。後輩に嘘をつくのは少し気が引けるけどね」
「へぇ、こんな可愛い後輩に嘘をつくんですか伏見先輩」
振り向くとそこにはニタァと笑う後輩がいた。
「な、那恵ちゃん⁉︎ いつから聞いてた?」
「安心してください。最後の方しか聞いてなかったのでその方が恋人かそれとも愛人かは分かってませんから」
「だから那恵ちゃん。僕らはそういう関係じゃないから」
「じゃあどういうご関係ですか? あ〜、私このままだと気になって気になって夜も眠れなくて勢い余って先輩のお家へお邪魔してしまうかもしれません」
この後輩、事もあろうに流れで家に入れるように誘導しにきている。
「親戚。この人の母と私の母は姉妹なの」
「ほほう、親戚! それにしても似てませんね」
「父親似なんだよ。ね、銀ちゃん」
コクリと首を縦に振り答える銀。
どうやら僕の必死の訴えが伝わっていたようで余計なことを言わないようにしているらしい。
「銀さん……変わったお名前ですね。その辺は伏見先輩に似てますね」
「余計なお世話だよ。それでなんだけど銀ちゃんの用事を手伝うことになっちゃって買い物の続きは……」
「今度でいいですよ」
「へ?」
「だからどうぞその親戚さんを優先してくださいと言っているんです。買い物はまあ必要な物は揃いましたので代わりに今度は買い物以外でお返しお願いしますね」
「あ、ああ。その時はお手柔らかに頼むよ。じゃあ行こうか銀ちゃん」
「あの人間、とても危険な気がする。以後気をつけて」
「危険って。そりゃあたまに変なところがあるかもしれないけど基本いい子だから」
お喋りで困るようなことをしてくるけどそれはただ構って欲しいという合図で邪魔をしてやろうとかそういった感情は一切ない。
入院生活のリバウドだと考えればそれを受け入れるのは先輩としての役目。可愛いものじゃないか。
「それと貴方の家で居候することになりました」
「へぇ、にしてもこれからどうしようか。正直護衛とか言われても困るしな。それりゃあ最近は刹那が不在だけどそれでも……って今なんて言った銀ちゃん」
「貴方の家で居候することになりました」
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