ライアースネーク02
女性の買い物は長い。
食材ならある程度決まってからさほど時間はかからないが服となると話は別だ。
服は組み合わせにより無限大の可能性がある。その無限大の可能性が女性を惑わせる。
「先輩、服選びに時間のかかることは仕方のないことですよ。何せ女性は外見を気にする存在ですから」
「その言い方だと僕ら男性はまるで外見を気にしてないように聞こえるけど」
「おっと、これは失礼。先輩のようなナルシストもいらっしゃるのでこれは語弊でしたね」
「だから勝手に僕のキャラを肉付けするな」
こんな不死身だということ以外は無効性な僕をいくら要素を付け足してもテコ入れを失敗したキャラのようになってしまうだけだ。
「でも先輩そんなこと言いながらこのカーテンの外で待ってるんでしょ? 待っててください。すぐに鏡使わせてあげますから」
「これは那恵ちゃんが着替え終わるのを待ってるだけだよ。別に鏡を使いたいとは一切思ってない」
というかナルシス=鏡を使うなんてそれはちょっと安直過ぎない?
僕と世の中のナルシスに謝罪をするべきだ。
「なるほど。ナルシストではなく、後輩の生着替えを覗きたいヘンタイだったと」
「何その言われよう⁉︎ ただ待ってただけで後輩にヘンタイ扱いされた僕って一体……」
「な〜に、落ち込むことはありませんよ。生着替えは見られなくても私のコスプレ姿を見られるのですから」
まるで落ち込んでいる僕を励ますようにカーテンを開けてその姿を露わにする。
そこにはヒラヒラとしたスカートとそれと同じようにヒラヒラとした白いカチューシャを身につけた那恵ちゃんの姿が。
……って、ヒラヒラヒラヒラって僕の語彙少なくないか? いや、今はそんなことどうでもいい。
「何故にメイド服⁉︎」
悪くはない。
今那恵ちゃんが着ているのはデザインの一部にエプロンが使用されたエプロンドレス。
その他にもメイド喫茶で使用される場合が多いヴィクトリアンメイド、それとは対象的にスカートの丈が短く大胆なフレンチメイドがあるが……。
「私なりにリサーチした結果、先輩はこういうのが好みなのではないかと思いまして僭越ながらこうして着させてもらいましたがやっぱり私には似合いませんでしたかね?」
一体どんなリサーチをしたんだ那恵ちゃん。我が後輩ながら恐ろしい子。
「いや、似合ってるよ。ただ突然で驚いただけで」
「先輩にお褒め頂けるとは光栄です。今のは録音したので寝る前に聞くことを習慣にします」
「やめてくれ。その域になるともう那恵ちゃんはどんなキャラか分からなくなる」
出来れば身内にヤンデレがいるのはいただけない。
「どんなキャラってそれは徹頭徹尾、先輩をこよなく愛する後輩ですよ」
などと恥ずかし気もなく言い切るこの後輩はやはり変わっている。
「さて、少し疲れましたね。あそこの喫茶店で休憩しましょう。帰宅部の体力ではそろそろ限界です」
「そうだな。僕もちょうも喉が渇いてきたところだし」
後輩に勧められ入った喫茶店。
そこには先日、遊園地で勇敢に戦った付喪神がいた。
「な?」
つい言葉が漏れてしまったが那恵ちゃんに知り合いだとバレると色々と厄介だ。
ここは穏便にお互い知らないフリをして乗り切ろう。あちらには渋い声の銃がいるからこちらの気持ちは察してくれるはず……だったのだが何故かその場から離れて当たり前のように僕らと同席した。
「あれれ? 何です? 私と先輩の邪魔をするなんて。お知り合いですか?」
「いや、その……」
どう言い訳しようか。
もうこうなったら関係ないとは言えない。だがいざこういう時咄嗟に嘘をつけない。
やっぱり品行方正な僕はいきなりそんなことをするのは無理なようで口籠ってしまう。
戸惑っていると銀の方先に口を開いた。その台詞は那恵ちゃんだけでなく僕にも衝撃を与えた。
「私は人形。彼の人形」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます