ライアースネーク01

 あの依頼で僕はただ立って、その場で起こることを見ているだけに終わってしまう。

 助けに来てくれた刹那に説明をしたが……あまりその時のことは思い出したくないが何故かそれから刹那は忙しそうに動き、僕の部屋に足を踏み入れることはなくなった。

 寿はこれに関しては気にしなくていいとは言ってくれたが正直あれでは役に立てた気がしない。

 こちらはやる気満々なのに僕の仕事がないと言われると疎外感に苛まれる。

 だからではないが今回の数学のテストは目も当てられない結果だ。

「お久しぶりですお久しぶりです。いやはやこんな場所で会うなんて運命とは数奇なものですね先輩」

 人の気分などお構いなしにテンションの高い後輩が話しかけてきた。

「那恵ちゃん大袈裟だな。そりゃあ会うだろ。ここは学校で僕と那恵ちゃんは先輩後輩なんだから」

「テンション低い返しですね。それにしてもこの間の噂の件なんですけど何故か先輩に話して以来ピタリとなくなったそうですよ」

 麗月のことか。

 そういえばあれは那恵ちゃんから仕入れた情報から始まったんだっけ。

 今頃あの強靭で、強烈なキョンシーは寿が用意した建物で待機をしているから二度あの謎の怖さのある側転による被害者は出ないはず。

「へぇ、偶然ってあるものなんだね。それは数奇だ。でもさ、やっぱりこの出会いは仕組まれたものだと」

「ほほう、と言いますと」

「いや、だって那恵ちゃん校門で待ってたら絶対に会うじゃないか」

 裏門がないわけではないが疚しいことなど一切ない僕は無論正門を利用する。

「絶対ではないですよ先輩。もし、先輩が私よりも早く下校していたらここでいくら待っていても会えるのは翌日ですから」

「帰るという選択肢はないのか。あれ、というか那恵ちゃん部活はしてなかったんだ」

 聞いてなかったがそういえば彼女が部活をしている姿を見たことがない。

「私は運動音痴ですし興味のあるものはありませんでしたので先輩と同じ帰宅部ですよ部長」

「僕は帰宅部の部長になった覚えはない。それで僕に何か用かい」

「あれれ、私は先輩に用がない時は話しかけちゃいけないんですか? 一緒に帰ろうとか、そのついでに何かを奢ってもらおうとか思っちゃダメなんですか?」

「う……そうじゃないけど」

 しまった。

 火のついた彼女の口は誰にも止められない。

「はは〜ん。分かっちゃいましたよ。私は空気が読める後輩ですからね。先輩が何も言わずとも。相手は誰ですか? 天宮先輩? それとも神保先輩ですか」

「何を勘違いしているか僕には分からないけど特にこれから予定はないよ。那恵ちゃんが何かあるならそれに付き合うよ」

 帰っても誰もいないだろうし、今は特に何かをする気にはなれない。いい気晴らしになるだろう。

「流石! 買い物に付き合ってくれるだけではなくて奢ってくれるなんて」

「誰もそこまで言ってないけど……。まあ、丁度暇だったし、可愛い後輩の頼みなら断れはいけどさ」

 決して僕の財布の紐は緩くないが今回は無礼講だ。ん? 無礼講の使い方あってるか。

「ならばすぐに行きましょう。急がないと天宮とここでバッタリ会って私たちとの関係がバレてしまいますよ」

「僕たちの関係ってただの先輩後輩じゃないか。その発言こそ誤解させかねないな」

 けど天宮と神保先輩は忙しい人だ。ここでバッタリなんてことはないし、周りに僕の知り合いがいないので変な噂が流されることはない。

 友達が少ないっていいね。

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