シルバードール04

 この街は意外といろんなものが揃っている。

 少し遠出にはなるがゲームセンターもあるし、ショッピングモールもある。その他にも遊べるところはあるが今回僕が来たのは『ミラクルワンダーランド』。

 妙にリアルなリスがマスコットのこの遊園地は数年前に閉鎖された。

 特に何かあったわけではなく単純に来場者が少ないからという理由でいまだにこの遊園地が残っているのは様々な噂が飛び交っているが真実は誰も知らない。

 そんな怪しさ満点のところにこれまた怪しい二人組がいた。

「こんなところに吸血鬼の成れの果てが? 周りに人がいないから隠れ家としては最高だろうな」

 変な噂が広まっているし、ここは街から離れているからまず来ようという人なんていない。僕らを除いては。

「こちらも結界を張って銃声を遮断する手間が省けるから都合がいい」

「それにしても本当にこんな夜中にやるのか? そりゃあこの時間帯、しかもこんなところなら目立たないだろうけど日が出てた方が僕らの方が有利だろ」

「奴らは日が出ているうちは隠れている。それも吸血鬼の力を使って巧妙に。いちいちそれを探し出すよりは動き活発な時に一掃した方が手っ取り早い」

「なるほど。僕は吸血鬼と鬼ごっこをしたことはあるけど残念ながら隠れ鬼はしたことないな。というかこんなボロ遊園地なんだからここら一帯を燃やした方が早くないか」

「それでは確実性がない。きちんと消滅したのを確認できる方法でないと」

「だから一体一体やるのか。そうしないといけないのは何となく分かったけど面倒くさそうだな」

「いいや。君と銀がいればこんな依頼はすぐに終わる。さあ、あそこに立っていてくれ」

 と指示されたのはマスコットがショーをする用のステージの上。

「おいおい、本当に囮って感じだな」

 スポットライトがあれば更に完璧なのだが流石にそこまでは望まない。というか望んでいたらあのゾンビと同じ趣味趣向となってしまう。

「来た」

 潰れた遊園地に電気が流れているわけもなく伏見の周りは暗闇に包まれているが彼の体には伝説の吸血鬼の一部がある。

 暗闇に生きるその化け物の力で視界は良好でその物体を捉えることが出来た。

「あれが吸血鬼の成れの果て……」

 赤いスライムの様に見えたがそれはただの肉塊だった。

 心臓を、腸を、肝臓を、脳みそが を、肺を、膵臓を、胆嚢を、脾臓を、血管を、人の体にあるものを丸めてボールにしたみたいな存在。

 それが吸血鬼の成れの果て。

 足も手もないが徐々に伏見の方へと近づいている。着実に、何かを求めるように。

 だがそれらはステージに辿り着く前に銀色の弾丸によって弾け飛んだ。

 無造作に飛び散ったそれらはアスファルトの上で肉が焼ける時の音と同じ音を立ててゆっくりと溶けていった。

「うえっ!」

 距離は十分にあったがそれでも伏見のところまでむせ返るほどの血の匂いが届き、伏見はその場で吐きそうになったが彼女は違う。

 淡々と肉塊へ銃口を向けて引き金を引く。それをただ繰り返しいる。

 必死に吐くのを耐えながら伏見は嫌でも彼女の強さを痛感した。

 なにも筋力や能力だけが強さではない。何事にも動じない心。

 実際に戦っている姿を見ないと分からないその強さは心強くもあり、本当に彼女は人間ではないのだと思い知らされる。

「お、終わったのか?」

「だといいが。想像していたよりも数が多い。もしかしてこれは……」

 お化け屋敷やメリーゴーランドから巣をつつかれたハチのように続々と出てきて、あっという間にステージを中心に円を描いた。

「お、おい。囲まれたぞ」

「問題ない。相手の数はあれだがあちらには決定打がないからこのまま銀が打ち続ければ」

 肉塊などカードゲームでいう攻撃力ゼロの雑魚モンスターと同じ。処理をするのが面倒なだけ。そう決めつけていた。

 しかし、『塵も積もれば山となる』という諺がある。

 一箇所に集まったそれはその諺通り積み重なったそれは近くにある観覧車と同じ背丈となった。

「打ち続ければ、何だって?」

 元は同じだがこれだけの量となると弾丸は吸い込まれてしまい、今度は伏見たちが決定打を与えらない状況へ陥ってしまう。

 そして肉の山は形を変え巨大な腕となり二人のいるステージへと振り下ろされた。

 だがその直後に風と共に灰が運ばれ、突如として現れた血よりも濃い紅き髪を揺らすその妖艶な女性は巨腕をスカイアッパー一発で吹き飛ばした。

「何をしておる。少し見ないうちに想像していたよりもかなり厄介なことに巻き込まれているようじゃの」

「刹那! どうしてここに?」

「今それを説明している暇はなさそうじゃ。そこの童女は手を貸せ」

 それからは地獄絵図だった。

 楽しいはずの遊園地に血の雨が降る。マスコットの絵が描かれた看板に血が滴っている光景は完全にホラーだがこれはこれで売れそうだーーなんて思った僕は不謹慎極まりない。

 最後の一体は銀の冷酷な銃撃。

 刹那は不服そうだったがこれで僕の囮としての仕事は終わった。

「ふぅ、久しぶりに良い運動になったわ。さてと、詳しい話を聞かせてもらおうかの」

 こうして寿からの依頼は終わったが新たな地獄が始まった。

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