シルバードール01
麗月からのゾンビ退治の依頼は生き埋めにするという文字にすると犯罪臭しかしないものとなった。
だが相手が不死身で退かないという確固たる意志があったのだからこれは仕方ない。その意志をどうこうする力は僕にないのだから。
けど封じることはできた。いつまであそこに封じ込められるかは不明だ。もしかしたら明日かもしれないし、何百年も先のことかもしれない。
どちらにせよこれで麗月の依頼は終わり、一件落着……かと思いきやどうやら僕には休みがないらしく寿からメールが届いた。
それは知り合いの仕事を手伝ってあげてほしいということ。
だがこれはいつものことだ。僕の都合など二の次で無理難題を御構い無し押し付けてくる。
まあ、時間は有り余ってるから行くけど気味の悪いことに今回は報酬があるらしい。
これまでタダ働き同然のようにこき使ってのに今更そんなことを言い出すなんて裏があるとしか思えない。いや、あるね! 断言出来てしまう。
「それどどうするのじゃ? 手伝いということはあやつの知り合いが大まかなことをやるのじゃろ? では行かなくても然程問題はあるまい」
「それはそうだけど何もないのに断るってのもあれだろ。僕が行かないってことは寿の知り合いの負担が増えるってことだし」
この申し出を断るということは僕の仕事を押し付けることになってしまう。それでは心が痛む。
「やることなるあるぞ。妾の相手をせい。最近は麗月とばかり仲良くして妾のことを軽視しがちじゃったからな」
麗月はあの後この街に留まることになったけど住処探しとか手伝わされて今に至る。
始めは僕の部屋に住み着こうとしてたけどうちの姉妹がなんと言うか分かったものではない。
なので昔一人暮らしをしていたところを紹介して事なきを得た。
「軽視なんてしてないって。どうしたんだよ急に。お前そんなキャラだったか?」
「うるさいうるさい! 妾は吸血鬼じゃぞ、強いんじゃぞ」
そう言って手足をバタバタしている時点で嘘に聞こえてしまう。実際、僕よりも強いだろうけどなんか灰になってから情緒不安定じゃないかこいつ。
「分かってる分かってるって。だから落ち着け。確かに断っても寿の知り合いが何とかしてくれるだろうけどこれはつまり寿の知り合いが動くほどこの街に危機が迫ってるってことだ。僕はそれを放っては置けない」
「むぅ、そんなに好きなのかこの街が」
頬を膨らませて呟くな。可愛いだろ。
「ああ、好きだぜ。でもそれと同じぐらいお前のことを大事に思ってる。だから少しだけ待っててくれないか? その後だったらいくらでも相手してやるから」
「そ、そうか……大事に思うてくれておるのか。ふ、ふ〜ん。まあ、今回は特別に許してやらんでもない。じゃが約束は守れよ」
何故か顔に赤みが増し、キョロキョロとしだしたがどうやら機嫌は直ったらしい。
「僕も男だ。二言はないさ。それと刹那は連れて行くなって言われてるからここで大人しくしてろ」
「あの剽軽野郎がそう言っておったのか? 妾の力は必要ないと」
「いや、そうじゃなくて外に出すなってことだから必要ないんじゃなくてお前が出てくると困るってことじゃないのか?」
もしくは今回は日の出てる時にやってほしいからとかーー。いくつか浮かんでくるがこれというものはない。
「それは臭うのう。妾に隠れて何か企んでおるに違いない……が大体予想はつく。麗月もその件でこちらに呼んだのじゃろうな」
「その件? お前が何か知ってるのか?」
「無論じゃ。もしかしてあの男が何もなしに戦力を集めようとすると思うか? ああ見えても頭はキレる。まるで全てを見透かしているかのように行動しておる」
「知ってるよ。あいつはそういつ奴だ。それは腐れ縁の僕が良く知ってる」
出会ったあの時からそうだった。
あいつはーー寿 流は何も考えていないようで全てを考えているピエロ。
僕はそんなあいつが嫌いだ。
「なら、よい。妾はただ確認したかったのじゃ。考えることをやめ、あの男の手のひらで踊っているのでなければの」
「残念ながら僕は嘘が苦手でね。それに同じ馬鹿なら踊らなきゃ損だろ」
「ふっ、それもそうじゃな。せめて派手に踊っておれ。妾はその愚かさを特等席で観ているとしよう」
「ああ、それじゃあ行ってくるよ」
意を決して部屋の扉を開けるともう刹那の姿はなく、灰が僕の中と窓の外へと行くのが見えた。
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