アクロバティックキョンシー07
決行は夜と決めている。
特別な理由はない。ただ常識として近所に迷惑をかけないようにするための配慮。そしてこれからのことを誰にも見られたくないから。
けど戦闘が予想されるとなると音がどうこう気にしている暇なんてないだろう。どこぞの光の巨人が周りの建物が壊れようが気にしないのと一緒。それに気を取られていたら負ける。
だから場所はそういうことを気にしなくて済む工事中のビルをお借りすることになった。無論、許可など貰っていない。寿だったら買い取っているのかもしれないけどしがない男子高校生にそれほどの経済力はないのでそこはご愛嬌。
ゾンビを誘き出すのは麗月と一緒にいればいい。これには確証はないがこちらから探す方法がない限りこうするしかない。こうせざるを得ないのだがこれはこれで助かる。
探す手間が省けるのは勿論、今回は少々準備が大変だったのでこの待ち時間はそれに当てられ、ちゅどいい感じになる。
今夜は満月。街灯がなくともそれの明かりだけでもそれなりに明るい。
だがその明るさとは裏腹に不気味さがある。そんな夜、ある一人の男が現れた。
ボロボロのTシャツ、ボサボサの頭。目の周りにはクマが浮かび上がっている。そして刹那の一部分を体の中に残しているから至る所に見られる継ぎ接ぎに気づけた。
「お前が例のゾンビか」
ここに来た。
それだけで十分な証拠だ。それでもそうしても問いたくなる。
「麗月様はどこだ? 俺はあの方に蹴られに来た」
こいつ何言ってんだ?
麗月から話を聞いていて驚かない自信があったのだがやはり駄目だった。
だっておかしいだろゾンビがドMなんて。
「俺は男には興味はない。罵倒も暴力も美少女からでないと全く嬉しくない」
しかもこんな条件までついている。正直レベルが高すぎてついていけない。
だが臆してはいけない。こいつに舐められるのは癪に障る。
「いる。だが麗月さんはお前に会いたくないらしいぜ。なんたって昔の仲間を頼りにこんなところまで来るんだからな。なあ、ここは麗月さんのために引き下がってくれないか?」
麗月さんは決して戦闘力で劣っているわけではないが対処法を知らない。不死身の対処法を。
「残念だがそれは無理だな。お前は好きな女の子を簡単に諦められるか? 俺は諦められない! あの衝撃、痛み、それにごみを見るかのような目線......目を閉じるといつもそのことが頭が埋め尽くされる。そう、これは恋なんだ」
恋の定義が分からなくなった。今度辞書で調べてみよう。絶対にその対象として彼の言うようなものなんてないと思うけど。
「そうか。なら退く気はないってことだな。じゃあ話はこれでお終いだ」
合図のメールを送る。
すると空から突然、鉄の塊が降ってきた。だがただの鉄の塊ではない。表面には女性の顔が彫られており、人がスッポリ入る大きさ。所謂アイアンメイデンというやつだ。
中にびっしりと鋭く長い棘がある拷問危惧。実際に見たことはないし、本当にこんなのが使われいたのか知らないけど麗月の話を聞いている限りではこれが一番だと判断して刹那に用意させた。入手経路には触れないでおくおとしておこう。
「ほほう。アイアンメイデン。いや、鉄の処女と言うべきかな。中世ヨーロッパで刑罰や拷問に用いられたものじゃないか。空想上の拷問危惧の再現とする説が強いけどまさかこんなところ出会うとはね。凛々しい彼女に貫かれてみたいな~」
驚くのではなく目を爛々と輝かせながら語るとはやはりドM。自然と足が後ずさるほどの気持ち悪さ。でも今回はその気持ち悪さを利用させて貰った。
「では思う存分に貫かれろ」
不用意に近づいたのが運の尽き。
闇に乗じて側転、ロンダート、後ろとびひねり宙返りをして背後に接近していた麗月がかかと落としでアイアンメイデンの中へと押し込み、そこで僕がガッチリと鍵をかける。
しかしそれでもまだ足りない。用意していた鎖で更に厳重にな状態へ。
「さて、では後はこれをこの穴に捨てるだけかの」
これまた用意していたのは落とし穴。それもただの落とし穴ではない。普通の人が落ちたら死ぬレベルの落とし穴。
「ああ、アイアンメイデンの棘には毒を塗っておいたからしばらくは動けないだろうな。今のうちに埋めとこう」
塵も積もれば山となる。
そして土が積もるとかなり重い。
ゾンビの不死力がどれほどあろうと筋力はさほど強くないらしい。それなら身動きできないようにして、その上に重いものを乗せればいい。
性格を考慮してこうなったのだがよく上手くいったと思う。一番の難関であるアイアンメイデンに入れるところは彼のドM精神に火がついてくれたお陰で警戒されていたら破綻していた。
だが麗月はそんな僕を気遣ってか笑顔でこう言ってくれた。
「結果良ければ全て良し。今回は非常に助かったぞ櫂」
「いや、スコップでゾンビの入ったアイアンメイデンを埋めている最中にそんなこと言われても……」
勝った気はしない。それに今回はバトルではなかった。ただの卑怯で卑劣な手だった。
やはり僕は寿のように上手くは出来なかった。結局、今回は彼に勝てないのを思い知られただけなのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます