アクロバティックキョンシー06

「人間の価値はいくらか? 結婚、子育て、マイホーム購入、老後生活で二億くらいはいると聞いたことがあるけどそれはその人の価値じゃない。ただ単にその人の人生で使った金。価値じゃない。だとすれば価値とは何か? それは至極簡単、生きるか死ぬかだよ。人間生きていれば、とか言う人いるけどそれは間違いだ。ただ生きているだけじゃあ死んでいるのと変わらない。つまり人間、何をして生きるかによって価値が決まると思んだよ伏見くん」

 麗月と出会った次の日、僕はあの言葉を真偽を確かめる為に彼の寝床である廃墟で待ち合わせをして顔を出した瞬間いきなりこんな事を語ってきたのだが全く頭に入ってこなかった。

 何故なら今日の僕は怒っているからだ。

「なるほど、それで言い訳は終いか寿」

 それならば俺の拳がその顔面を叩きつけるだけだが。

「言い訳とは心外だな。それじゃあ僕が何か悪いことをしたみたいじゃないか」

「したみたいじゃなくてしてるんだよお前は。僕の生きる侵害を」

 なんで勝手に変な約束してるんだよ。本人の許可もなしに。無論、話してくれていたとしても許可はしないが。

「あ、もしかして例のキョンシーのこと? でも仕方ないんだよ。大人の事情でどうしても彼女をこの街にいて欲しいんだ。その為にオモチャが欲しいと言われたから君を差し出したまでさ」

「僕の人権はどこいった」

 売られたのか? 二億円で?

「いいじゃないか。君のハーレムに一人加わったと考えれば」

「そんなの作ったつもりはないぞ」

 それにあのお方を攻略するのは不可能に思える。告白シーンの前に僕のライフが尽きるのが先になる気がする。

「で、伏見くん。ゾンビはどうするつもりなの?」

「どうするって、どうにかするしかないだろ。麗月さんの頼みでもあるし」

 てかこいつやっぱ知ってて連れて来たな。しかも最初から押し付ける気満々で。

「もしかして伏見くん。また僕が君に手助けすると勘違いしてるんじゃないのかな? 僕はただ彼女をここに留まらせたいだけ。例えそのせいで何が起ころうと僕の知ったことではない」

「何だよそれ。お前、一応大人だろ。責任くらいとれよ」

「責任? それを君が口にするかい」

 それは僕のせいで麗月をここに連れて来なくてはならない事情が出来てしまったということか? それとも……駄目だ。こいつの考えは読めない。

 ていうかこういう大人にはなりたくないな。責任云々ではなく、一人の人間として心底そう思う。

「とにかく、これは君が解決すべきことだ。僕は一切手出しをしない。 一つだけアトバイスをさせてもらうと勝てないなら勝つな、だ」

 だがこれは負けろというわけではない。勝てないのだから無理に勝とうしたら駄目という事だ。それは刹那の時によ〜く思い知らされた。あの時には負けに負けて最終的には囮として使われただけだが。

「言われなくても勝つつもりは毛頭ないさ。刹那の時みたく、勝ちでもなく負けでもない結果にしてやるさ」

「期待しているよ。なんせ君は僕の懐刀なんだからね」

 その為にこいつは僕を不死にした。あの日、あの時に。

「お前の懐刀になった覚えはねえよ。僕はただ僕の意志で戦うんだ。勘違いするな」

「伏見くん知ってる? 男のツンデレほど見てて不愉快になるものはないんだよ」

「知るか。僕は今現在不愉快だ」

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