アクロバティックキョンシー04

 ゾンビ。

 ゲームや映画に多数出演している有名なこの怪物は不死の代名詞とも言えよう。吸血鬼も確かにそうなのだが血を吸ったりコウモリになったりとその他に様々な能力を使えるがゾンビには不死しかない。故に不死のイメージが強い。

 だからどうしたという事なのだが何故不死しかない(僕もだけど)ゾンビをここまで大層な扱いをしているかというとその不死という一点においては吸血鬼とキョンシーも不死鳥も人魚の肉を食したグールよりも上をいくと言う。

 どんなにグチャグチャにしても一瞬で再生してしまうらしい。全盛期の刹那でも数秒はかかったのにだ。

「それって勝ち目ないじゃん」

 率直な感想はそれだった。殺しても死なない。いつも通り勝ちがない戦いになるらしい。

「だからこうして恥を忍んで協力を要請しに来ているのだ少年」

 と言いつつも恥らっている様子は一切ない。ここはツッコミ担当の僕がフォローをしてやるべきだろうか。

 と考えたものの二人のやり取りを聞いている限り、この麗月というキョンシーは刹那に匹敵するほどのプライドがあるらしいので受け流すべきなのだろうと判断して少し気になるところを指摘する。

「少年って、一応高校二年生なんですけどね僕」

「十七年生きただけで思い上がるな。それに例え何年生きていおうが人間は薄っぺらい存在だ」

 どうやら彼女にとって年齢は然程問題ではないようだ。物心がついて子供扱いされたくない男の子、女の子がこんなこと聞いたらなくぞ絶対。

「ふん、確かにの。夢もなくただ社会の歯車として働きそのまま死ぬ。なんともつまらん存在じゃ。しかし、櫂は違うぞ。既に人間をやめておる。ほら、この通りの」

 おもむろに刹那は白い麗月の腕を握り、それを僕の心臓部分に突き刺した。脆い人間の体は吸血鬼の筋肉とキョンシーの拳という連携? 攻撃で豆腐のように砕け散り、肉片と血がアスファルトの上にボトボトと不快な音を立てながら落ちていく。

「いっ! てぇ……お、お前わざわざこんなことしなくても」

「いやいや、百閒は一見にしかずと言うじゃろ。しかも、麗月は戦闘スキルは妾より高いが脳みそが腐っておる節があるからの」

「ほほう、死なんなのか。これは面白い」

 脳みそが腐っているというのを無視して赤に染まった腕を月にかざして不敵な笑みを浮かべる。

「問題なのは脳じゃなくて考え方だろこれ! 普通、傷口抉るか?」

 刹那は見えていなかっただろうが実は腕を抜く寸前の数秒、拳を開いたり閉じたりしてダメ押しをしてきたのだ。

「すまん、つい癖でな」

「癖って……」

 そう言われるとそれで許されるわけではないが許すしかない。なんだかこれ以上言うと僕が器の小さい人間に見えてしまうし。

「それでメリーレよ。これからどうする。彼奴はかなりしつこいぞ」

「分かっておる。しかし奴から仕掛けてくる様子もないようじゃし、何処かでゆっくりと話し合おうではないか。ここでは落ち着かん」

 夜だからといって不死三人が集まったこの会話は普通の人には聞かれたくない。だからといって刹那はそれを気にして小声になるような奴ではないので確かに場所は変えた方がいいかもしれない。本来の目的である噂の側転で追ってくる女性は見つかった(というか見つけられた)わけだし。

「それはいいけどよ刹那、何処かって何処だよ。この時間帯だとファミレスとか喫茶店は閉まってるぞ」

 財布は一応持ってきたが高校生の財布だ。カラオケの一室を借りるのも無理そうだが。

「何を言っておる。そんな所よりもっと落ち着ける所があるじゃろうが」

 お金はかからない。ここからそう遠くなく、誰にも文句を言われず、誰にも迷惑をかけないで済む場所。

 そう、僕の部屋が。

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