アクロバティックキョンシー03
噂通り関節を曲げず現れた女性はまず刹那に挨拶をした。どうやら知り合いらしいが。
「キョンシーと聞いてまさかと思ったが本当に貴様だったとはな
中国人なのは黒色のチャイナドレスを着用していることからわかったがなぜかツバのある黒いドイツ軍の帽子を被っているので一瞬判断に戸惑ってしまった。それに髪の毛が人生で一度も見たことがないピンク色なのがより一層混乱に導いた。
「それで妾に何用じゃ。しかもその下らんお遊びは何の真似じゃ、妾の主が混乱しおるではないか」
刹那の言う通り、僕の頭はショート寸前でそれを静める為の説明は以下の通り、理解し難いものだった。
「いやな、折角日本に来たんだ。キョンシーの存在を宣伝する為に分かりやすくしたのだがどうも動きにくくてな。そこで体操の技術を取り入れたのだが、これが中々に良くてな。年甲斐にもなくはしゃいでしまった始末だ」
年甲斐にもって、そりゃあ見た目は二十歳くらいだが刹那同様に僕が想像し得ないほどの年月を重ねているのだろうがそれを知らない人は「そんな大袈裟な」と言ってしまうだろう。
しかも、宣伝の為に恐怖を植え付れた人たちが不憫過ぎる。
「え? それじゃあキョンシーって関節曲げられるのか?」
宣伝する意図がわからないが曲げられるのならなぜ関節を曲げないのか、彼女の行動原理がわからない。
「少年、刹那の何かはおいおい聞くとしてその発言は心外だ。関節が曲がらないと言われているのは死後膠着のせいだが我らキョンシー、いや生き返った化物は人間の体の機能は正常に起動している、むしろ以前より調子が良い。それなのに関節が曲がらないのはおかいしだろ?」
つまり、死後膠着は生きている麗月らにとって無縁のものであると訴えたかったのだろうがその理屈は残念ながら伏見には理解できなかった。
「まあ、その辺でいいじゃろ。言い伝えと事実は異なるものじゃ。いちいち気にすることはない」
吸血鬼は太陽の光を浴びたら死ぬ、という言い伝え、伝承も実際は灰になって力を削ぐというだけだった。それと同じと思えばいいのか。
「姿は大分小さくなったがその態度だけは変わらんな刹那、安心したぞ」
「ふん、お主こそな」
お互い見つめ合い、微笑み合う。
「何この雰囲気? 僕だけ取り残されてるんだけど」
それは険悪より仲の良いことの方がありがたい。ここから戦闘にならないのは喜ばしいことだが僕は無視されてるみたいで気分は良くない。
「いやな、麗月とは腐れ縁というやつでな妾がお主に会うずっと前、世界中を旅しておった時に知り合ったのじゃ」
世界中を旅していたというのも初耳だが時間は掃いて捨てるほどあるのだからそうせざるを得ないか。日本語が喋れるのもその過程でというのなら納得がいく。
「なんだ刹那の友達か。それなら話をした時点で教えてくれよ」
こちらとしてはシュールな相手は初めてなので気を張っていたのでキョンシーは関節を曲げられると教えてくれれば良かったものを。
「キョンシーは腐るほどおるからの。まさか麗月とは思わなんだのだ」
「何を言う刹那。キョンシーと言えば吾輩だ、まずそう考えるが妥当であろう」
「知らん。しかし、お前も衰えたのではないか? 何故ここに来たのかは何と無く察したが一緒に良くないものを案内して連れて来てしまったようじゃの」
「良くないもの?」
どうやらそれに気づいていないのは僕だけらしく分かりやすい反応を示したのは僕だけなのだけど、それはつまり麗月は知りながらその良くないものを連れて来たことになるが。
「あの愚民か。あれは吾輩を執拗に追いかけてきてな。何度も返り討ちにしてやったが遂にここまで付いてきてしまった。これは吾輩の失態だ」
失態、その言葉を聞くと何か良くないことが起こる気がする。
「それで変な噂を流して妾を呼び寄せたという事か。解せんな、お主ほどなら妾の助力などいらんじゃろうて」
「そう申すな。吾輩と貴様の仲ではないか。それに相手が相手だ」
「待ってくれよ。お前らが何を言い合ってるか意味不明だ。僕にもわかるように説明をしてくれ」
会話から物事を読み取れるわけがない。だから素直に刹那に問いただしたが僕はそれを聞いて後悔した。またこうなるのかと。
「現れた、否、此奴を追ってこの街に来てしまったのじゃよ妾達のような化物が。お主にも分かるように言うとゾンビがこの街にやって来たのじゃ」
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