バタフライエフェクト04
緒方からの提案は初めは意味不明だったが理由を聞くと実にアホらしいものだった。策とは言わないわけだ。
けどそれは確かに効果があった。それを実行してたった二、三週間で箕鵜先輩のクラスは元通りになったのだ。これには僕も驚いた。と同時にこのやり方の意図を知っている僕は遣る瀬無くなってしまったが。
「それにしても凄いわね伏見くん。こんなにも早く解決してくれなんて。正直驚いたわ」
再び図書館。解決し、その報告等をするために箕鵜先輩と話し合う。
「ええ、そうですね」
驚いたのはこちらもだ。まさかあいつに教えてもらった方法がここまで有効的だとは思わなかった。嬉しくもあり、悲しい予想だ。
「あら、なんだか嬉しくなさそうね。これで箕鵜先輩の部屋に合法的に入れるぜ! って喜ぶと思ったんだけど」
一体箕鵜先輩は僕をどんなやつだと思っているのかは定かではないがこれを聞く限りどうやらかなりヤンチャっぽい。そんな風な態度をとったことなどないが(ぜとか言わないし)。
「いや、もちろんその件に関しては嬉しいですよ。引きこもりがちな僕がこの喜びを世界の中心で叫びたいくらいなんですけど……」
世界の中心が何処かは知らないけど、そこまで行く財力などないけど、その件についての気持ちはそれほどの域なんだけどそれをマイナスにするほどの出来事があった。
「けど何? もしかして私たちが付き合っているという噂と何か関係があるの?」
「まぁ……はい」
関係というかそれが原因だ。それが緒方から教えられた方法だ。僕というどこの馬の骨かもわからない後輩が付き合っていると思わせる。
特にこの場合僕というのがポイントらしい。学校一のイケメンとかだとただの美男美女カップルを生み出すという腹立たしい結果になってしまうだけ。
だが僕だとどうだろう? 他の男子からしてみれば気にくわないだろう、納得いかないだろう。女子は緒方曰くいろいろと縺れに縺れ巻き込むらしいが。
とにかく、簡単に言ってしまうと僕と箕鵜先輩が付き合っているという噂を流して箕鵜先輩の発言力を失わせるということだった。
休みになったら箕鵜先輩に会いに行き、帰りも一緒に帰るようにこちらから仕掛けた。それを周りから降り注ぐ殺意とプレッシャーを跳ね除けつつ毎日続けた。僕がしたのはたったそれだけ。
なので僕が解決したというより、周りが勘違いして勝手に解決したというのが事実なのだ。
「気にしちゃダメよ噂なんて。それともそのせいで彼女さんと喧嘩しちゃったとか?」
「いや、僕は年齢=彼女いない歴ですからそんな気遣いいらないんですけどねぇ……。箕鵜先輩は人気ありますから僕は他の男子生徒から殺気のこもった視線を送られてきて、いつ襲われるのかとビクビクしてるんですよ」
どの学年、どのクラスにも箕鵜先輩のファンや狙っている人はいて僕はそんな彼らの標的になってしまったわけだ。なりたくてなったわけではないが、覚悟してこういう状態に仕向けたのだから文句は言えない。
「この学校にそんな人いないよ。それに伏見くんは何も悪いことしてないんでしょ? だったら堂々としてなきゃ」
「それはわかってるんですけど、どうも落ち着かなくて」
噂を広めたのは僕自身だけどここまで敵意をむき出してくるとは予測だにしなかった。男子生徒侮り難し。
「んー、じゃあいっその事本当に付き合っちゃう?」
その唐突な提案には答えられなかった。というのも僕の脳の機能が完全に停止したからである。といのもこれまでの人生灰色だったからだ。
告白されることなんてまずないし、まず女子と話す機会などなかった。今はそうではないけどあの時は陰険で、不死でもなく、いろんなことに嫌気がさしていた。高校一年の時にその時代は終わったがやはり今の今まで告白はされたことがなかった……今までは。
「あ、ごめんなさい。迷惑だったわよね」
「い、いえ迷惑とかじゃなくてちょっと混乱したというか走馬灯を見てました」
「走馬灯⁉︎ 伏見くんの中で一体何が起こったの?」
「すいません。冗談だとは理性でわかってるんですけど本能が騒いでしまって」
「ああ…本当に君は面白いわ。それよりいつ私の家に来る? 噂が収まってからの方がいいかしら?」
「そうですね。楽しみに取っておきますよ。それにこれから会うのは控えた方がいいかもしれませんね」
こうして話し合っているのを見てくる人たちの視線が痛い。どうやら噂が想像以上に生徒中に伝わっているようだ。
「のようね、伏見くんにこれ以上迷惑はかけたくないわ。そうしましょう」
七十五日、というほどではないがとりあえずほとぼりが冷めるまで会わないようにした。メールなどのやり取りは続けたが、なぜか遠距離恋愛しているようになってしまった。
が、彼は気付いてはいない。自分が全てを改変できる蝶の羽を捥いだ事を。ある男の思惑通りになってしまった事を。これ機に裏で手をこまねくだけの者が動き出した事を。
知らぬが仏、という言葉があるが彼は、彼らは知っておくべきだった。そうしたらこの物語はこんなにも絡まる事はなかった。彼女の力で全て鎮めらた。こんなにも怪訝な話はならなかった。
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