バタフライエフェクト03

 さて、生徒会長にあそこまで言われたのだが何をどうしたらいいかさっぱりだ。

 青い猫型ロボットに助けを求めるがごとく天宮に頼ろうとしたが僕と同じ帰宅部の彼女は既に帰ってしまったらしい。

 仕方なく明日相談しようと今日は諦めて真っ直ぐ帰宅部らしく帰宅していると会いたくない奴に会ってしまう。

 つい最近この街を騒がせたグールの飼い主であり、謎しかない男。緒方 和弥に。

「お〜やおや。こ〜れはこれは偶然だな寿のお気に入り。どうした学校帰りか」

「………」

 素通り。

 問いただしたいことは山ほどあるがそれ以上に関わり合いたくない。今だにこの男の情報は名前と肉が好きでそれ以外が嫌いという僕以上に偏食の激しいというどうでもいいこのしかない。

 肉の件は野菜を極力避け、姉どころか数少ない友達に指摘されても今だそれをやめない僕は何も言えないが。

「無視はないだろお前のことら調べてあるんだぞ伏見 櫂。お前も不死なんだろ?」

 この言葉にはギョとした。

 何せこの男は自分で不死をコレクションにしていると豪語していたのだ。そうだ、それも僕が知ってるこの男の情報の一つだ。

 もうないがな。

「そうだけどあんた一体何者なんだよ。得体の知れないおっさんと話せるほど僕の心は広くないぞ」

 いやこの男が相手なら誰もそうなはずだ。老若男女踵を返して逃げ出す。箕鵜先輩の部屋に入る権利を賭けてもいい。

「う〜む、そうかそうか。なら教えよう俺は言うなれば不死愛護家だ。不死を守り導いていく活動をしている。メンバーは俺しかいないがな」

 それは最早自称じゃないのか?

 本当にそんな組織があるならいいがないなら始末が悪いので、あえてそれには触れない。

「別に守ってもらわなくとも不死は死なないから放っておいてもいいだろ」

 動物なら病気だとか色々あって手助けをする団体ができるんだが不死は病気になっても、何も食べなくとも死なないのだから援助など必要ない。むしろ邪魔なくらいだと思うが。

「死ななくとも無力化や封印は可能だ。俺はそれを阻止しようとしている」

 吸血鬼は灰にして全盛期の力を失わせ、不死鳥は成長する前に雛に戻されたり、僕と寿がしている主な活動だ。

「なら僕たちの敵じゃないか」

 ただてさえ不死の化け物を相手にしているというのに、そこに横槍を入れられたらたまったものではない。

「いやそうでもない。俺も不死なら助けるって訳じゃあない。あくまで理性があって俺がコントロール出来る奴だけだ」

「グールも理性のある奴だと?」

 傍から見てもあれは暴走しているように見えながこの男にとってあれが理性のあり、コントロール出来る奴ということなのだろうか?

「あれは俺が操って行動しただけに過ぎん。もうあれは寿に押し付けることとして伏見、お前俺の手下になる気はないか? どうせ恩を返せとか言われて嫌々寿に従ってるんだろ?」

「まあ、そうだがお前の手下になるより寿にこき使われる方がよっぽどマシなんだよ。刹那も断ると思うぜ」

 特に初対面で逃してしまいプライドを傷つけられているから尚更だ。今頃散歩と称してこいつを探している真っ最中だろうさ。

「そうかなら諦めよう。だがお前に恩を売っておくのは悪くないかもしれんな」

「お前なんかの恩を買ってたまるか。僕は忙しくてお前に構ってる暇なんてないんだ」

 帰宅部が何をと思われるかもしれないが今回ばかりは許してほしい。この男から遠ざかるのに手段を選ぶ暇などなあ。

「ほう、その忙しさの原因は生徒会長からのお悩み相談でか?」

「⁉︎ 何でそれを知っている」

 これはまだ天宮に話してないし、メールとかで伝えたわけではない。なのに何処で情報が漏れた?

「いいだろそんなどうでもいい事は。お前はただ俺の言うことを聞けばいい」

「誰がお前みたいな奴の言うことなんて聞くかよ。こう見えても僕は先生の言うことも聞かない問題児なんでな」

 自慢することではないが誇張する。

「ふんっ、先生だと? あんな奴ら先に生きるものなどではなく、先に生まれただけの存在にすぎん。いいか覚えておけ伏見。成績がいい奴が偉いんじゃない。金を持ってる奴が偉いんじゃない。真に偉いのは貫けるものがある奴だ。お前にはそれがあるか?」

「な、なんだよいきなり」

 不良が良いことをすると評価が上がるあれではないけどいきなり真面なことを聞かれると頭が困惑してしまう。

「いいから答えろ伏見。これは俺がこれからお前をどうするかのテストでもある」

 既にスルー出来る流れじゃない。不本意だが答えてやるか。

「強いて言うならこの不死の体で全てを受け止める。痛いけどそれを耐えるだけでみんなを守れるからな」

 たったそれだけで二度とあんな思いをしないなら僕は一生痛みを味わうことさえ厭わない。

「くだらん……が及第点だ。お前を標的にするのはやめる。あの吸血鬼もな」

「じゃあ僕はもう行くから二度と目の前に現れてくれるなよ」

 さてさて帰って燗南ちゃんの相手でもしてやるか。今ならいいお兄ちゃんになれそうだ。何があっても平常運転でいいお兄ちゃんだけど。

 といい気分で帰宅部の部活動の続きに勤しもうとしたが緒方に肩を掴まれ阻止された。

「おいおい伏見。まだ話は終わってない。お前の先輩で生徒会長である彼女の悩み事の解決の仕方を俺が教えてやろうと言ってるんだ。素直に教えられろ」

「誰がお前なんかの……」

「ならお前は何かいいやり方を思いついたのか? 思いついたのなら教えろ。事細かに教えろ。俺が参ったと言うほど教えてみせろ」

 ない。

 これまた不本意ながら頼るしかあるまい。この素性の知れない男に。

「はぁ〜、もういい。わかった。お前の恩を買うよ。買えばいいんだろ」

 僕はこうして人生で一番不服な買い物をしたのだった。

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