バタフライエフェクト02

 人は人を変える力がある。それが影響力だ。

 彼女、生徒会長である神保 箕鵜の悩みはその影響力に関するものだった。

「最近、なんだか妙なの」

 教室には箕鵜先輩だけしかおらず、僕は向かい合うように椅子に座ると唐突に話が始まる。

「妙と言いますと?」

 不肖この伏見 櫂、妙なことには慣れている。というか僕が妙な存在そのものだ。

 この案件以外と簡単に終わるかもしれない。

「いやな、最近私が主張したことがその通りになるんだ。一週間前に朝の読書中、喋っている人を注意したらそれから誰も喋らなくなってしまったの」

 他の学校がどうかは知らないが朝には十分の読書の時間がある。個人的には積まれた小説を処理できる有意義な時間なのだが全生徒がそう思っているとは限らないらしい。

「それは授業中だけじゃなくて休み中もということですか?」

 先生にもよるが授業中生徒の声が全くしないということはたまにある。

 特に頭のいいクラスは僕と違って意識の高い生徒がワンサカいるので

「ええ。流石に家でどうなのかまでは知らないけど異様なほど静かで……」

 ちゃんと授業を受けているのだが先生に当てられても頑なに口を開かないらしく全て箕鵜先輩が答えていると言う。

「今までにもそんなことが?」

「いえ、これが初めてよ。だからどうしたらいいか困ってるの」

 過去に同じことがあったらそれはそれで怖いがもっと怖いのはそれがずっと続くことだ。

 当てても答えが返ってこない先生とそれをフォローする箕鵜先輩がかわいそすぎる。

「う〜ん。でもそれって箕鵜先輩が怒ったと思ったから大人しくしてるだけじゃないですか?」

 何せ彼女には人の上に立ち導く才能とこんな僕が自然と敬語が使ってしまうほどの威圧感があるのだ。クラスメイトでもその力に屈したと考えられるんだが。

「にしてはおかしいでしょ。注意した人だけじゃなくてクラスの皆が喋らなくなるなんて」

 一クラス四十人くらいいるのに注意しただけで全員が一言も発しないのは妙を通し越して不自然である。

「確かに……。では調べておきます。箕鵜先輩は生徒会の仕事で忙しいでしょうからすぐに終わらせますよ」

 生徒会の仕事がどんなのかは委員会に入ったことのない僕が知る由もないがきっと大変のはずだ。それに三年ともなるも本格的に受験か就職かを問われる時期。

 一方、二年は中学の時と同じでかなり気が楽な時期だ。ならばそんな僕が頑張って先輩に少しでも楽になるようにすることが後輩として仕事だろう。

「そうしてくれると助かるわ。でも決して無理とかしないでよ。君は好き好んで無理をする傾向があるから」

 そうなのだろうか?

 癖は誰かに指摘されるでわからないものだが僕は好き好んで無理をする癖があるらしい。

 道理で理不尽なことに巻き込まれるわけだ。僕自らそこの渦の中に飛び込んでいるのだから。

 しかし、この妙な体質になった以上その責務を果たさなければならないのだから。不死を倒せるのは不死しかいないのだから。

「合法的に箕鵜先輩の部屋に入るチャンスを見逃すわけにはいけませんから無理もしますよ」

「フッフッ、そう。だけどこの件は解決まで望んでないの。こうなった原因を突き止めて頂戴。そうしたら後は私がどうにかするから」

 笑っているが多分心の中では笑っていないのだろう。彼女は好き好んで自分で自分を追い詰める節がある。

「いえいえ。ここは僕を信じてくださいよ。これでも幾度となく修羅場をくぐって来ましたから」

「そうか。なら期待して待っているよ」

 こうして僕は箕鵜先輩の部屋に入れてもらうために悩み解決に行動を開始する。

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