マーメイドグール06
「何者じゃお主」
気配はなく、ただ伏見たちの後ろに立ち尽くしているその男はただならぬ雰囲気を纏っている。
「何者かと聞かれたら俺は
と、メリケンサックを食べた後遺症で痙攣して地に伏しているグールを指差した。
「ほほう、つまりこのグールをこの街に放った諜報人か。ならば話は早い。貴様の首根っこを掻き切って万事解決じゃ」
「まあまあ、落ち着けメリーレ・ヴァン・ホルミレ。俺はお前と戦う気なんて毛頭ない。ただ壊されそうになったオモチャを回収しに来ただけだ」
言い終えると一瞬のうちにグールを拾い上げ肩に担ぐと元の位置に戻って背を向けた。
「待て! 何がなんだが、お前が何者か見えてこないが一つ聞きたいことがある」
「なんだ。肉についての質問なら大歓迎だが」
「そんな話お前なんかするかよ。その天宮の妹を誘拐してグールにしたのはお前か?」
本人は理性がなく聞いても答えは返ってこないと確信しているからこの疑問は心にしまっていたがもうそれは必要ない。
「いいや俺が出会った時には既にこうだった。人魚の肉を食うように仕向けたのは俺だがな」
「何でそんなこと……」
「優れたものをより優れたものにしたい。自分のコレクションなら尚更だ。失敗に終わったが」
「清々しいほどの傲慢さじゃな。いずれ天罰が下るぞ」
「吸血鬼に言われても説得力がないな。とにかく俺はこれで失礼する。寿に人魚の肉を回収されてしまってはな」
と寿が消えて行った方向に視線を送ると先程グールを回収した時みたく一瞬のうちに伏見たちの視界から消えてしまった。
「あいつ寿を知っていた…。一体何者なんだ」
「そんなもん知らん。妾がいる限りあのような下賎な輩にでかい顔はさせんて」
こうして謎の黒幕的な男が登場してこの事件は終わりを告げた。
数日後、あれ以降動物の変死体が出ることはなく街は静かさを取り戻していた。
「それでその怪しげなおじさんが連れて逃げて行ったの?」
「ああ、追いかけようとしたんだが手掛かりがなくてな。グールの力を削いだだけでも良しとしようってことで解散したんだ」
いつも通り、変わらず学校に通い退屈な授業をやり過ごして昼休み。
僕は今回の事件の最大の被害者である天宮に昨日の顛末を報告した。
「え? 刹那ちゃんって伏見くんの身体の中にずっといるんじゃないの?」
全然違うとこに食いついてきた。ここは黒幕に触れようぜ天宮。
「それは僕が困る。別に僕の眷属ってわけじゃないんだから戦う時以外は自由行動させてるよ」
灰になってから昼夜関係なく行動できるのでこの時間は悠々自適に散歩している。
「ふ〜ん。刹那ちゃんと話してみたかっただけどな〜」
「なら今度呼んどくよ。流石に学校は無理だけどな」
あいつは高校では浮いてしまう。髪の毛もあるが雰囲気的に。
「じゃあ楽しみにしてる。でも伏見くん、質問を間違えたんじゃないの? そのお肉好きのおじさんが妹をグールにしたとしても何も変わらないもん」
「確かにそうだけど、やっぱ気になるじゃないか。僕はお前の妹がどんな子だった知らないけど数少ない友人の妹がどういった経緯で怪物したのか」
かく言う僕も色んな経緯があって不死という怪物になったので私的に興味があった。
「私は気にならないよ。それよりも先のことを考えて、どうしてグールに私を襲わせたのかを聞かなきゃ」
「え? いや、そんなのお前があいつの姉だからだろ」
「そんなの関係ないよ。その人の目的が何であれ人魚の肉をグールを食べさせたらこの街から出て行ったら寿さんに回収されることなんてなかったのに」
「う〜〜ん。人魚肉を食べさせ、パワーアップさせたグールにさせたいことがあったから…?」
「私を襲わせる理由は?」
あ、そうか。となるとそのさせたいことは天宮を襲わせることだから……。
「謎は深まるばかりだな」
「今はあっちが動くのを待つしかないね。それより伏見くん」
天宮は箸で僕の弁当箱を指し、ニッコリと笑いながらこう指摘した。
「野菜も残さず食べようね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます