マーメイドグール05
「それでどうするんだ天宮。お前のことだから考えがあってのことだろうが」
僕のように考えなしで行動するのではなくその真逆で全て考えて行動している天宮だ。何か策があってのあの台詞だったのだろう。
「うん。その前に伏見くんって本当に不死身なの」
「ああ、一年の頃に寿とあって、色々あって今じゃあ不死身の体だ。どんなにボロボロになってすぐ戻る」
実際に見せても良かったが天宮がそこまでしなくてもいいと止めてくれた。
まあ、男友達が自分で自分を切り裂いて再生する様など見たくないだろう。
「弱点とかはないの?」
「ああ、弱点はない。太陽の光を浴びても灰になったりしないし、鉄なんて恐くもなんともない」
痛みはあるがもう慣れた。いや、慣れてしまったと言うべきか。
「なら大丈夫。伏見くんが私の言う通りやってくれたらきっと成功するよ」
「そうか……でもこれが終わったらもう僕に関わらない方がいいぞ」
「なんで?」
首を傾げて問う。
可愛すぎるだろこいつ。
「なんでって、気味が悪いだろ不死身なんて。それにお前をこんな面倒ごとに巻き込んじゃうかもだし」
僕だけならともかく無関係な人を、特に数少ない友達をこんな危険なことに巻き込んでしまうのは申し訳ない。
「気にしないよそんなの。だって伏見くんは悪くないんだもん。悪いのは全部、伏見くんをそんな目に遭わせてる神様だよ」
「神様……ねえ。そんな奴がいるんだったら一言文句言ってぶん殴ってやりたいな」
それで何かが解決するわけではないが、憂さ晴らしくらいにはなる。
「その前に私の妹をよろしくね」
と天宮は笑顔で鉄製のメリケンサックを僕に手渡した。
「グルルルル、姉……サン」
暗い夜道、少女の姿をした屍は地獄から響いてきているのではないかという唸り声を上げながら裸足で厳しい山道を猫背のまま歩き続けていた。
「へえ、ちゃんと人間の言葉喋られるんだな。それでも手加減する気なんてないんだけど」
「オ前、ハ」
「お前の姉さんのクラスメイトだ。にしても改めて見てみると本当に天宮に似てるな」
服装はボロボロで血塗れだがそれさえ直せば左目の下にあるホクロ以外違いがなく、双子なのだなと思い知らされる。
「櫂、さっさと終わらせるぞ。何か嫌な予感がする」
体の中から刹那の声がする。伏見以外にその声は聞こえないが頷く。
「言われなくともそうすさ」
刹那に促され、迷うことなく真っ直ぐ標的の元へ走り右拳を乾いた血がベッタリと広がる顔面に勢い良く振るうとそれに応じて口蓋垂が見えるほど口を大きく開かれる。
「それを待ってたぜ!」
グールは人間の肉を好む。それは人魚の肉を食べたとて変わらないはず。
動物を食べていたのは何者かに自分の目的地を知らせる為、天宮が買った弁当を食べていたのは本能だという。
というのはグールの邪魔者を排除する=食べるであって、この事から天宮はグールが人魚の肉を食べたことによって視力が低下しているのではと予想した。
だから弁当が何か分からず排除する為に取り敢えず食べたのでは、と。
故に一撃必殺。
走れば像がブレて、いきなり拳を突き出せばまた弁当の時と同様に食べるのはこの予想が間違いでなければ必然。
賭けだったが僕と天宮の勝ちだ。
グールは僕の右拳を手首を喰いちぎり、ゴクリと切断面から溢れ出る大量の血と一緒に飲み込んだ。
これだけ見ると優位なのはグールの方ではと思われるが僕の右拳は罠。むしろ優位なのは僕の方。
「グォッ! グルウェ!」
飲み込んで数秒。グールは呻き声を上げながら嘔吐した。
今まで胃に収めてきた肉という肉を地面にぶち撒けた。その中に一際大きく腐敗臭が漂う物を拾い上げた伏見は木の陰で傍観していた寿に投げ渡す。
「これでこいつはそれほど脅威じゃなくなっただろ」
「勿論だよ。もう大した再生力はないからね。にしてもどうやったんだい?」
「あれだよあれ」
吐き出された物の中にある銀色のそれを指差す。天宮から渡された鉄製のメリケンサックだ。
そのまま装着すると警戒されるので刹那の灰を上から重ねて肉の化粧をして隠しておいた。
鉄を恐れるならそれを胃の中に入れられたら拒絶反応が起きてこうなる。
「成る程、じゃあ僕はこれを処分しておくからそっちは頼んだよ」
人魚の肉であろうそれを肩に担いで森の中に寿が消えると入れ替わりで刹那が僕の中に入れていた灰を集めて登場した。
「さて、どうするつもりじゃ櫂。お主の事じゃ容姿があの小娘と同じ此奴を殺すのを躊躇っておるのではないか?」
「まさか。そんな優しかったらお前みたいな綺麗な女に目潰しなんてしてねーよ」
「ほほう、では早速解体ショーといくかの」
刹那が殺意を込め、爪を立て、この事件の幕を下ろそうとすると
「残念ながら吸血鬼、その解体ショーは待っただ。俺のコレクションを壊すな」
黒いスーツに包まれた黒幕が唐突に伏見たちの目の前に現れた。
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