マーメイドグール04
「伏見くん⁉︎ なんでここに」
「いや実は寿が様子見の結果、あのグールの狙いがお前だって聞かされて嫌な予感がしたから走ってきたんだ……って天宮は寿知らないか。それより何で僕はこんな時に律儀に説明してるんだ!」
運がいいことにグールは床に転がって石が入り混じった弁当に夢中なのでこちらに襲ってくる様子はないが顔があの天宮と同じなので少し複雑だ。
「とりあえず、逃げるぞ天宮」
ここは住宅街、太陽が沈みかけ周りに人はいないがここで刹那の力を使うわけにはいかない。
「ちょ、ちょっと伏見くん?」
手を引っ張ると遅いので刹那を体の中に取り込んで筋肉を強化してお姫様抱っこで人魚の肉が祀ってあった寺がある山へと全速力で逃げた。
別にお姫様抱っこ更に柔らかい部分が触れるからこうしたのではなく効率的に考えて、この方が良かっただけで決して疚しい気持ちなど微塵もない。
確かに、天宮の足は驚くほどすべすべだったがそれが目的でやるわけがない。それじゃあ僕は変態じゃないか。
ちゃんと理由があってお姫様抱っこをしたことをどうか理解してほしい。
「それで、伏見くん。見たの? あのグールさんの顔を」
安全を確認して降ろすと閉じていたその口を開いた。
「ああ、しっかりとな。何か知ってるなら教えてくれ。僕はあれを封印しなくちゃいけないんだ。これ以上最悪の事態にさせない為にも」
もう僕のような思いをする人を出さない為にも。
「あれは……私の双子の妹。左目の下にホクロがあったでしょ? あれを見てドッペルゲンガーじゃなくてあの子だって分かったわ」
一瞬すぎてそのホクロは見ていないが天宮が言うのならそうなのだろう。
「一年前、あの子は何者かに誘拐されたの。警察は全力で捜査してくれたんだけど何の手掛かりも見つからなかった。まさかこんな風に再会することになるなんてね」
「でも見ただろ。あれはお前が知ってる妹さんじゃない。ただ食い意地が張った屍だよ」
酷だろうがそれが現実だ。誘拐されて、行方知らずになった双子の妹が人間を食す屍と帰って来たのだ。
「それで、伏見くんはあれをどうするの?」
「とにかく、挽き肉になるまでグチャグチャにして鉄製の棺桶に封印する……らしい」
言ってて気がついたがグールになったとはいえ天宮の妹だったのだからもう少し言い方を和らげた方がよかったかもしれない。
と、心配したが天宮の表情はいつも通りで冷静そのものだった。
「グールは鉄を恐るから正しい判断だと思うけどそれだと急場凌ぎにしかならないよね」
なんで天宮はグールが鉄を恐るって知ってるんだ。僕は寿に聞かされるまでグールの漢字すらわからなかったのに。
しかし、天宮のいうことには一理ある。ただ鉄の棺桶に閉じ込めてもそれは倒したとは言わない。結局のところそれは急場凌ぎだ。
「でも相手は不死身なんだ。それ以外どうしろって言うんだよ」
それは刹那の時みたく無力化できればそれに越したことはないがあれは運が良かっただけだ。
吸血鬼に太陽という大きな弱点があって、寿の協力があって、刹那が油断があって何とか今の状況にできたのだ。
次もそうできるとは思えない。
「あれは…私の妹は誘拐された後にグールになったんだと思うけど、ここまではどう来たのかな?」
「普通に歩いて来たんだろ」
誘拐犯に殺されて、どこかに埋められてそのあと一人で……。
「そう、つまりグールになっても冷静だった」
「だけど人魚の肉を食べてその冷静さを失った。無闇やたらに動物を食べてるのがその証拠だろ」
「本当に無闇矢鱈なのかな。何か目的があってそうしていたんじゃないのかな?」
「というと?」
僕が聞く前に何処からともなく現れた寿が微笑みながら質問をした。
「うわ! 寿いきなり出てくるなよ。ビックリして心臓止まったらどうする?」
「止まっても伏見くんの場合、死なないから気にしない気にしない。さ、天宮 司さん。お話の続きを」
僕は気にするのだが誰も(二人しかいないが)気に留めず天宮のポケットから出された地図に注目した。
「気になってこの街でグールさんが捕食した動物の位置を調べてみたんですが不思議なことに八の字になっていたんです」
地図にあるいくつもある赤点は天宮の言う通り、歪ながらも八の字になっている。
「ただの偶然じゃないか。それにそんな事してグールに何の得があるんだよ」
「得とかじゃなくてこれは誰かに自分の目的地を示しているんじゃないのかな?」
「あっはー。所謂、蜂の八の字ダンスだね。成る程、成る程、確かにこの赤点が本当だとすると君の家が目的地になるね天宮 司さん」
八の字ダンスとは蜂が餌場が巣から遠い場合仲間に速さと八の角度でその場所を知られる行為で他にも円形ダンスというものがあるが天宮が言うには正確な場所を知らせる為にわざわざ八の字ダンスだと考えていた。
「流石、伏見くんの知り合いということはあるね。でもそれがどうしたっていうんだい? もしかして君が新たな策を提供してくれると言うのかい天宮 司さん」
なんとも嫌味な言い方だが天宮はそれに臆することなく真っ直ぐな目で答える。
「ええ、貴方が誰かは知りませんが任せてください。私の、妹が起こした不祥事です。姉の私が解決してみせます」
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