マーメイドグール01

 僕は友達が少ない。

 ラノベのタイトルではなく、紛れも無い事実だ。

 そして『いない』ではなく、『少ない』だ。友達は………いる。

 各学年に一人ずつ。つまりは僕の友達は合計三人しかいない。寿や刹那は例外だ。

 しかし、少なくとも無闇矢鱈に友達をつくり自分の心を窮屈にしているよりはマシだ。

 少数精鋭、数よりも質だ。

 本当に仲良くしたいと思った人だけと友達になる。数なんて関係ない。

 僕は僕の世界を狭めたくない。

 別に人見知りとかそうゆうのじゃなくて僕は僕の意思で友達を少なくしている。

 そこには捻じ曲がっているかもしれないけれど信念がある。

 媚を売る人間になるくらいなら死ねないが死ぬ方を選ぶ。

 と、家にいる悪魔二人の策略により昔かは変人扱いされてそのトラウマでぼっちになったなどという恥ずかしい話を隠蔽する為の言い訳を終えたところで、今は数少ない僕の友達、同い年で多分この学校の中で一番親しいと思われる天宮あまみや つかさと一緒に昼ご飯を食べていた。

 彼女を一言で表すとするならば完璧天然天使だろうか。

 優しいし、成績優秀。少しカールがかった長い髪は如何にもな天然さを醸し出している。というか天然だ。頭が良い天然、チートみたいな存在だ。

「ねえ、それ食べないの?」

 唐突に顔を近づけてきたと思ったら箸で僕の弁当の隅の方にあるーーというか隅の方に追いやった黒豆を指した。

「ああ、僕嫌いなんだよ豆系が。枝豆とかなら食べるけど黒豆は絶対に口に入れない」

 それはこの弁当を作った張本人も承知しているはずなのだが、こうして嫌がらせかと思えるほどの量を入れてくる。

「でもそれってお姉さんがつくってくれたんでしょ? きちんと全部食べないと失礼だよ」

「う……、でも僕は負けるわけにはいかないんだ。ここで食べたら今までの行為が無駄になる。それだけは…それだけは駄目だ」

 拳と歯を握り締めて思いつめた表情で言うがそんな僕を見る天宮は相変わらずニコニコしている。

「カッコよく言ってるところ悪いけどそれってただ単に伏見くんが食わず嫌いなだけだよね」

「はい。そうです、すいません」

 燗南ちゃんなら騙せれただろうがやはり無理か。

 僕は諦めて隅へ追いやった物たちを一気に口の中へかき込む。

「うん、最初からそうしてればいいんだよ。どんな食べ物も良いところがあるんだし、飢えに悩んでいる人たちからしたら食べ物を残すなんてあり得ないんだからね」

「いや、僕に飢えに悩んでいる人たちの気持ちをどうこう言われてもな」

 こう言ってはなんだが全く関係ない人じゃないか。そんな人の気持ちは考えてもわからない。

「それに好き嫌いばかりしてるとグールさんの祟りがあるよ」

「グールさん? なんだそれ。コックリさんじゃなくてか」

 やったことないが紙の上に色々書いて十円置くとそれが勝手に動いて質問に答えてくれるあれなら僕でも知ってるがグールさんは初耳だ。

「え? 知らないのグールさん。最近噂になってるんだけど…」

 噂? ああ、それって知り合いというか友達がいて、話している間に得られるものだろ。それに僕は他人の話に聞き耳を立てたりはしない。

 なら、僕が知る筈がない。

「僕はそうゆうのには疎くてな。それでそのグールさんがなんだって」

 女子のように噂が好きなわけではないが、さっきみたいな言い方をされては気になって昼寝もできない。

 それこそが天宮の狙いなのかもしれないがここは甘んじて受けよう。

「うん、最近ニュースで動物の変死体がこの辺で見つかってるって報道されてるよね? その犯人がそのグールさんなんだって。実際に見た人もいるみたいだけど警察は信じてないみたい」

「それはそうだろ。グールなんて空想上のものだからな」

 だが警察は信じなくても僕はその空想上のものを信じる。

 吸血鬼、不死鳥、そして僕自身。

 空想上であるはずの不死は存在しているというのを嫌というほど実感させられているから。

「どうしたの顔色悪いよ」

 机から乗り出して、その特大な胸を机に乗せて、こちらを上目遣いで覗き込んできた。

 もし、無意識でやっているなら凶器だな。意識しててもそうだが、普通の男だったらイチコロだった。

 だが僕は姉と妹から昔から英才教育を受けている。その程度で落ちる玉ではない。

「いや、なんでもないよ。ただ天宮がそんな話するなんて雨でも降るんじゃないかと思ってな」

「それって遠回しに私が堅物って言ってるのかな伏見くん」

「い、いやそんなことは……」

「まあいいや。とにかく、気をつけてよ。グールさんなんていないだろうけどこの町に何かいるのは確かだから」

 それってどういう、と僕が言うのを予測した天宮は間髪入れずにこう続けた。

「森の中にある小さな寺に祀られていた物がなくなっていたらしいから」

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