ロリータフェニックス03

「さて、どうするつもりじゃ、お主。あの男が言っておったのはあのアルパカのキーホルダーとやらを探しておった少女じゃろ?」

「ああ、そうだ」

「つまりは、知り合いじゃ。お主に殺せるのか? 躊躇して先延ばしにしていたら世界が危険に晒されるぞ」

「わかってる……わかってるけど刹那。一言いいか?」

「うむ、なんじゃ?」

「お前、その姿はなんだ?」

 寿からの依頼の話があったその夜に、窓の小さな隙間から灰になって入ってきた彼女はいつもの大人な感じの姿ではなく、僕の妹くらいの背丈になって顔も少し幼くなっていた。

「ん? ああ、これか気にするでない。あの体を維持するのは少々きつくての」

 吸血鬼の力がいくつか失われて、彼女単体ではもう戦えない。今では人間にすら勝てないだろう。ただし、それは伏見の体を借りれば別だが灰の場合は消耗が激しくらしくいつもは日陰の何処かに隠れている。

「そうか。ならいいが、なんか不思議だな。どんな姿でもなれるのか?」

「当たり前じゃ。なんならお主が好きな幼女なってやっても良いぞ」

「僕はロリコンじゃない! というかその呼び方やめろ。『お主』ってその姿で呼ばれるとむず痒いんだよ」

 大人の姿だと威厳があるから何とも思わないが妹と同じくらいの少女で言われると違和感がある。

「ならどう呼べば良い?」

「普通に名前で呼べばいいだろ。何のために名前を教えたのかわからないだろ」

 刹那は本名が長かったからこう呼べと教えられたが僕の名前は呼びやすいと自負している。

「うむ、では櫂と呼ぼう。その方が一文字少ないからの。それに良いの名じゃ。苗字はダジャレ臭いがの」

 伏見と不死身。

 不知火にも言われたが結構気にしてるんだそれ。

「うるさい。とにかく、お前の力は貸してもらうぞ刹那」

「ほう、それはつまり殺す覚悟はあるということか?」

「覚悟なんて大層なもんじゃねえよ。あいつが言ってただろ。不死鳥は不死なんだ。殺しても死なないさ」

「なんじゃそれは。矛盾しておるぞ」

「ただの受け売りだよ」

 僕の恩人でお前をその姿になるように仕向けたあの饒舌で世界中の人間に忌避されてそうな男の。

「ふん、知らぬわ。だが確かにあの幼女は死んでも不死鳥の力で何もなかったかのように蘇るじゃろうな。しかし、それでも人を殺すのに変わりはないぞ」

 結局、取り憑いている不死鳥はどうしても倒せないらしい。だから何の罪もないあの少女を殺す他ないのだが、これからやろうとしているのはどんな理由があろうと殺しは殺しだ。

「そんなのお前の時と変わりはないだろ?」

「ふっはっ! 馬鹿言うな。妾は化け物じゃ。大分違うじゃろうが」

「でも、不死で生きてるじゃないか」

「いや、確かにそうじゃが……。はあ、やはり変わっておるの。だからこそ仕えがいがあるというのかもしれんな」

「それより、刹那に頼みたいのことがあるんだけど」

「あの幼女が探しておったキーホルダーとやらを見つければいいんじゃろ?」

「ああ、できれば気づかれないように殺したいからな。大きな油断が欲しいんだ」

 相手はただの小学生だが用心するに越したことはない。それにこれは今後の為に必須条件だ。

「お前らしいな櫂。じゃが、それだけでは足りんのではないか?」

 キーホルダーがもしそれほど大事な物ではなかったから隙などできない。

「いや、もう一つ。こっちで準備でしておく。だからできるだけ早めに見つけてきてくれ」

「わかっておるわい。だが殺す時は妾の力を使え。その甘ったれた考えは自分で実行せねばな」

「わかってるよ。口だけで自分は手を汚さない汚い大人にはなりたくないからな」

「ふっはっ! 同感じゃ。妾は手を汚しても身も心は汚されんようにしておるからの。今度奴に垢を煎じて飲ましてやってくれ」

「そんなの自分でやれ。とにかく、頼んだからな。見つかり次第実行だ」

 この二日後、刹那は水色のキーホルダーを片手に僕の部屋に帰ってきた。

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