ロリータフェニックス01
「伏見くん、君はベニクラゲを知っているかい? 不老不死のクラゲなんて言われてるけど、実際はちゃんと老いるし、ちゃんと死ぬんだよ。ただ成熟するとポリプ期っていうーーまあ、簡単に言ってしまうと赤ちゃんに戻ってループしているだけなんだ。傷が再生するわけでもないんだから不老不死ってのは大言壮語だと僕は思うんだよね」
メールで寿に呼び出されて彼が根城としている廃ビル行くと着くや否やいい大人がペラペラと喋り始めた。
「それで? 僕はその雑学に対してどう返したらいいか教えてくれ」
残念ながら僕の知り合いでいきなり呼び出していきなりクラゲのことを話し出す奴なんてこいつくらいで対応に困る。
多分、こいつが恩人でなければ速攻でこの場から立ち去っていただろう。
「へ〜、そうなんだっ! って驚いてくれるのが一番いいかな」
「ヘー、損なんだ」
「いやいや、伏見くんが何を損したって言うんだい?」
「時間」
「あっはー。上手いこと言うね。でも関係ない話じゃないだろ? 不死の君にとってはさ」
あり得ない存在、不死。
ベニクラゲなどとの不老不死と呼ばれる生物さえもなし得なかった不死。
そんな存在に、不本意ながらなってしまった僕はこの中年チャラ男に恩があるのでそれを返す為に協力しているのだが無駄話をする仲ではない。
「いいから本題に入れよ。こうして僕を呼び出したんだからまた不死退治の依頼をしてくるんだろ」
吸血鬼を無力化した時もそうだった。
目には目を歯に歯を不死には不死を。
それが唯一勝つ方法であり、この世で人間側を味方する不死は僕しかいないのだ。
つまり僕がやらなくてならない。そう、殺らなくては。
「流石、話が早くて助かるよ。それで、刹那ちゃんは何で黙ってるのだい? 彼女の力が必要なんだけど」
灰と化した彼女だが吸血鬼の力は残っており、その力があれば楽に事が終わるのだが……。
「お前が嫌いなんだよ。灰になったのはお前が考えた策のせいだからな」
「君のせいでもあるけどね」
朝顔作戦。
名前のセンスはともかく、ただ単に時間を誤認させて僕が誘い込んで外壁を壊して太陽でトドメを刺すという、何とも卑怯な作戦だ。
僕のことは同じ不死だからか、普通に接してくれるが他の人は別らしい。
「お前の場合は生理的に受け付けられないんだよ。僕だって出来ればお前とは会いたくない」
「寂しいな〜伏見くん。君とは長い付き合いになるだろうから僕としては仲良くしたいんだけど」
とか言いながらそのにやけた顔の奥に何を隠しているかわかったものではない。僕を刹那を倒す為の道具として使った男なのだから。
「残念ながら無理な話だ。それより早く依頼の話に入れよ。僕のカラータイマーが赤く光りだしてきた」
「おいおい、君は光戦士か何かかい? でも、そうだね。伏見くんは伏見くんで忙しいだろうから簡潔に言おう。君には幼女を殺してもらう」
「は?」
「言い方が悪かったかい? 詳しくは小学四年生の少女を殺して欲しいんだ」
「その小学四年生のツンデレ少女が不死だって言うのか?」
「その子が不死という訳じゃないよ。その子に取り憑いている不死鳥が不死なんだ。あと、ツンデレかどうかは知らない」
「不死鳥か。なんか強そうだな」
多分、吸血鬼と同様に不死の怪物で有名で多くの作品で取り上げられているだろう。
そんな不死鳥だ。
僕の想像としては火を纏って、優雅に空を舞う何者にも囚われない存在。
つまりは彼女と同じ上位の存在なのだという認識はあるのだが、実際に見たことがない。
逆に見たことのある人の方が少ないだろう。
というか本当にいるんだ。
いや、でも、吸血鬼がいるのならいても不思議ではないか。
「でも不死なら殺せないだろ」
刹那、つまり吸血鬼の場合もそうだった。
太陽の力で灰にできたが弱体化しただけで灰のまま生きて、その灰で体を形成して過ごしている。
「目的は殺すことであり、死なすことじゃないんだよ伏見くん」
「意味わからん」
率直に言うが本当に意味わからん。殺すと死なすは同義語だろうに。
「そうか不死鳥の知識がないから知らないだね。不死鳥が成長することを」
「成長? 不死鳥がか?」
「不死だからって不老じゃないから成長くらいするよ。吸血鬼である彼女だって六百年生きてるけど地味に成長してるんだ。君だってそうだろ?」
最初からあの姿だったらそれは逆に怖いが確かに言われてみればそうか。
「ああ、確かにそうだな」
「特に不死鳥は厄介でね。成長すればするほど強くなるんだ。放っておいたらあと一ヶ月で世界を灰にできるくらいになるね」
「強っ‼︎ 僕をそんな奴と戦わせる気なのか」
「いやいや話を聞いていたかい伏見くん。成長し終える前に殺す。たとえ、取り憑いたのが小学四年生の少女でもね」
無慈悲かもしれないが世界が灰になるよりはマシだ。仕方ないと割り切るしかない。
「でもなんで僕何だよ。話を聞く限り、不死鳥が暴れるとかはないんだろ?」
「ないよ。完全に成長し切るまではね」
し切ったら終わりか。その時は僕が灰になるだじゃあ済まなそうだな。
「だけど、僕に頼む必要あるか? お前のことだし、知り合いの暗殺者とかに頼めばいいだうに」
寿はいつもの話を聞いている限りだと何かと知り合いが多い。暗殺者の知り合いもいると僕が不死になった頃くらいに教えてくれた。
「確かに、その方向性もあったけど、今回の依頼は気づかれないというのが最低条件でね、その点においては彼女と知り合いの君が適任なんだよ」
「ほう、僕の知り合いだなんてそれはまた随分と限られてくるな」
家族を入れないとすれば両手で数えられる。
「伏見くん、自分から友達いないアピールはやめようよ。なんだか僕も悲しくなってきちゃったじゃないか」
正確には『いない』ではなく『少ない』だ。そこのところは間違えて欲しくない。まるで僕が陰キャラみたいじゃないか。
「知るか。それよりそいつの名前を教えろよ。不死鳥に取り憑かれたっていう小学四年生の少女の名前を」
たとえ知り合いが少なくとも、いら少ないからこそ名前を聞けば顔が浮かんでくるはずだ。
覚悟を決めて寿に問うとその口からは意外な答えが返ってきた。
「
それは三週間前に知り合った生意気な少女の名だった。
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