イモータルヴァンパイア13

 この廃ビルは埃臭いがそれを我慢して階段をジャンプして逃げる。蜘蛛の巣が顔に当たっても気にせず逃げる。服が何かに引っかかり破けるが逃げる。

 伏見は脇目も振らずその一手に専念したが一階へと続く階段の前にはあいつが立ち塞がっていた。

「足の速さで妾に勝てるとでも? 確かに当初は隠れ鬼じゃったが今は殺し合いじゃろう? 敵に背を向けるなど言語道断じゃぞ」

「殺し合い? 違うね。今から始まるのは一方的な狩りだ」

 拳を振り上げ突進するとそれに反応して彼女は腕を盾にするが伏見の拳は地面に向けられた。

「なっ⁉︎」

 煙が広がりそれが晴れるまでの数秒、彼女はその場を凝視していたがそこには目的の人物像はおらず、大きな穴が空いていた。

「逃げた…わけがないか。何か企んでおるのあやつ。だがまあ、それで良い。策を巡らすのも立派な戦い方じゃ。どれ、一つ試してみるかの」

 こうして罠だと知りながら穴から一階に降りてそこで待っていた伏見と再び対面する。

「さて、そろそろフィナーレじゃ」

 一回軽く飛んで、着地すると同時に彼女は目にも留まらぬ速さで真っ直ぐ伏見の元へと駆け寄って両手を挙げて脇から腕を二本とも切り落とした。

 その肉の断面からは噴水のように血が噴き出したが、それでも伏見は声をあげない。

 不死と不死の対決において重要なのはどんな攻撃にも怯まない精神力だ。

 それを悟った伏見は痛みを我慢して蹴りを彼女の腹に風穴をあける。

 だが、流石の吸血鬼。圧倒的な回復力でこれを再生させる。

 伏見も再生を試みるが少し遅く、今度は足をもっていかれて仰向けに倒れてしまった。

「諦めい。不死は不死でもこれほど歴然とした差があるのじゃ。お主に勝てる見込みはない」

「それでも戦わなくちゃあいけない時があるんだ男には。人間には。お前にはわからないだろうがな」

「わからんよ。お主が戦う理由が。お主が諦めぬ理由が」

 永きに渡り人間を観察してきた彼女だがこの男の考えていることは未だ理解できないでいた。

 それは彼女が化け物だからではない。彼女が本当に人間を知ろうとはしていなかったからだ。

「くどい様じゃがこれが最後の質問じゃ。妾の眷属になる気はないか?」

 動けなくなった伏見の上に跨って爪を脳天に突きつけながら彼女は問うが答えは変わらない。

「そうか、ならば妾の一部となれ」

 殺せなくとも吸血鬼は血を吸うことで伏見を吸収することができるので首筋に牙を立てるが突然両手を挙げて降参のポーズをしたのでそれを止めた。

「その前に一つ、言い残したいことがあるんだがいいか?」

「構わん。家族に別れの電話なりするがよい」

 お許しをもらったところで、再生させた左腕でポケットに入った携帯を取り出してある男に電話をかけた。

「チェックメイトだ」

 その一言で壁が大きくて丸い何かに壊され、太陽の光が二人に降り注いだ。

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