イモータルヴァンパイア12

 学校の裏山にポツンと建っている廃ビル。一体何の建物だったかは今では定かではないが今はこの町に巣食う吸血鬼の根城になっている。

 僕は制服姿で単身でそこに乗り込み、何処かにいるであろう彼女を探す。

 良く見ると窓という窓は鉄板らしき物で塞がれており、太陽対策はバッチリされている。

 三階まで上がってやたら長い廊下を突き進んでこれまたやたら大きな扉を開く僕の通っている学校の教室の五、六倍はあろうかという広い部屋のど真ん中に彼女はいた。

「やっと来たか。下らん遊戯は今宵で最後じゃ。準備は出来ておろうな?」

「ああ、終わらそうぜ全部」

 事前に寿が何か言ったのだろう。彼女が素直にここで待ってくれるなんてそれ以外考えられない。

「うむ、じゃが良いのか? 今宵は何も持っておらぬようじゃが。時間はいつも通りだというのに少し調子が狂うのう」

 鼠色柱に立てかけられた丸い時計はきっかり三時を指しているが、僕は手ぶらだ。

「武器ならあるさ。僕だ。僕の不死こそがお前を倒す武器になる」

「ほう、ようやく気がついたか」

 杭、聖水、十字架。

 吸血鬼を倒す為の武器は多くあれどそれらは全て何の力もない人間が化け物に対抗する為の物だ。

 そして僕は無力ではない。どんな経緯にしろ寿から『不死』という力を貰った。それなのに武器に頼るからあんは結果を招いてしまった。

 不死は不死らしく死に物狂いで戦った方がいい。

 それが僕が出した答えだ。

「お前のおかげで気づけたんだ。感謝してるぜ吸血鬼」

「そうか。だがそれはお主自身の力じゃ。褒美として無条件でお主の攻撃を一撃だけ受けてやろう。なに、後になって文句は言わぬ。その辺は安心せい」

「なんだよそれ。いきなり気持ち悪いな」

 僕のイメージはいきなり襲ってきた美人で綺麗なお姉さんだが恐い存在なので今更そうんな態度されると困る。

「年寄りが成長した孫を見て嬉しくなったのと同じじゃ。ただの気まぐれと思うてくれ」

 僕の血を吸った、心臓を抉った。

 それに関しての謝罪や償いなどではなく、気まぐれ。彼女の原動力はそこにあるのだろう。

 多分、この町に来たのも気まぐれ。僕に出会い、そのあと僕の血を吸ったのも気まぐれ。それが彼女だ。

「僕はお前の孫になった気はない」

「だが同じ不死じゃ」

「そうだな。じゃあ、一撃受けてくれ。同じ不死のよしみとして」

「ああ、よかろう。勢い良くこい。何処を何しても構わんぞ」

 両手を腰に回して、そこに前習え出来る構えをした彼女はあまりにもシュールなのだが僕は構わず二本の指をその紅い眼を奥へと押し込んだ。

 妙な感触だった。硬いがそれほど硬くない。マグロの目より少し柔らかいかもしれない。そんな感触を味わいながら僕は吐き気を堪えて更に奥へと押し込む。

「成る程、視覚を奪うか。良い選択肢じゃ。しかし忘れてはおるまいな? 妾は不死の吸血鬼じゃぞ。お主のように泣き喚いたりはせん」

 そう言った彼女は目玉がなくなった空洞から血の涙を流して一歩一歩こちらに歩み寄ってきた。

「痛みを感じないのか?」

 いくら不死で吸血鬼だからといっても大体の構造は同じのはずだ。それはさっきの一撃で確認できた。

 能力など以外は普通の人間と変わらないというのなら痛みがあるはずだ。それなのに、彼女は無反応。

「当たり前じゃ。妾が何百年生きておると思っておる。何万回この痛みを味わってきたのじゃからもう痛覚などないに等しい」

 これが経験の差。

 それを僕に見せつける為に褒美と嘘をついて攻撃させたのだろう。

 もう既に目は回復していて、血が蒸発して元の彼女に戻っていた。

「本当に化け物だな」

「ああ、お主と同じな」

 彼女の艶やかな爪を振ると風が吹いた。

 伏見は咄嗟に横に飛ぶがその風は刃となって彼の指を弾き飛ばした。

「成長、ではないな。それがお主本来の力か。ますます眷属にしたくなったのう」

「何度言えばわかる。僕はお前の眷属にはならない。ここに来たのはお前を殺す為だ」

 喋りながら意識を集中させて指を再生させて、そして伏見は全速力で逃げた。

「ほえ?」

 その突飛な行動に初めて可愛らしい声を出した。

「お前のテリトリーで戦うわけないだろ馬鹿!」

 ここは彼女の根城だ。さっきの風は単なる攻撃の衝撃なのだろうがこれから何を仕出かすかわかったものではない。

 故に伏見は無駄にだだっ広い部屋を出た。

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