イモータルヴァンパイア11
「さあて、とりあえずお疲れ様。やっぱり聖水も駄目だったみたいだね。それに場所も変えたけど意味なかったみたいだし」
隠れ場所の多い住宅街。公園とは違って不意をつける可能性はあったが彼女はやはりそれほど甘くはなかった。寧ろ、また苦い思いをさせられた。
寿ととある公園で合流して、お通夜ムードで反省会中だが悪いのは僕だ。寿はただ何も思いつかな僕に対して代わりに案を考えてくれて、更には使えそうな武器を探してそれを僕に渡しているだけだ。
「それは嫌味か寿。鼻からあんなもので勝てるわけなかったんだよ」
それでも僕は何故かその寿に苛立ちを覚えている。最初から気に食わなかったが、今ので気にくわない度が三割ほど増えた。
「いやいや、伏見くん。あれも杭と同様に当たれば効果はあったはずだよ。それにあちらは親切にも上からではなく僕らと同じ地面の上で戦ってくれたんだ。勝機は少なからずあったらずだよ」
だがその勝機とやらは相手が手加減をしてくれたからだろう。彼女が隠れ鬼を楽しめるように彼女自身が課したハンデだ。
決して僕が掴み取ったものでなく与えられたものだ。そして僕はそれを受け取り損なった。ただそれだけの話。
「確かに僕に落ち度があったのは認めるけど相手が悪すぎる。同じ不死でもこうも圧倒的な差があると……」
再生力がどこまであるかはわからないが、スピード、パワー、経験。どれをとっても彼女が優っている。
「だからって諦めるのかい?」
「残念ながら僕にその選択肢はない。それより次はどんな武器をくれるんだ? 十字架か?」
「あっはー。やっぱり伏見くんは僕が思っていた通りだよ。流石に今回は強敵だから弱音を出して僕をさながら青い猫型ロボットのように見立てて助けを求めてくるかと心配したけど無用だったみたいだね」
「お前、一体僕をどんな奴だと思ってるんだよ」
毎回毎回テストで0点をとってるとでも? 友人の金持ち野郎に自慢されて悔しがるとでも?
僕はそんな駄目人間じゃない。それに眼鏡キャラでもない。頭は悪いほうだけど0点は一度もない。
だから泣いて誰かに縋ったりはしない。ただ
「何にしろ次で三度目の正直。最後のチャンスになるわけど伏見くん。つまりは失敗は出来ない、許されないわけど僕が用意した策に乗ってくれるかい?」
「ああ、勿論だ。というか今までのは策じゃなかったのか」
そういえば少し考えればあれは策でもなんでもないな。場所と武器を提供してあとは僕にお任せだ。これでは策とは言えない。
「いやいや、無論策の一部だよ。敵を騙すにはまず伏見くんからと言うだろ」
「言わない。それよりもさっさとその策とやら説明しろ」
「そう慌てなさんなよ伏見くん。時間はあるんだしこの時間に彼女が襲ってくるわけじゃないんだからさ」
今日も今日とて太陽が嫌になる程、輝いている。これでは吸血鬼は外に出てこれまい。
「で、でもよお」
「わかるよ。不安なんだろ伏見くん。いきなり現れた自分よりも強い敵と出会って。僕の助力があって勝てなくて。でも心配しなくていい。僕の策は最初からなんだよ。たまたま深夜に出かけてた伏見くんが彼女に出会っていた時から始まっていたんだよ。いや、僕が君と出会った時と言ったほうが正確かな」
あの忌まわしき春休み。僕が寿 流という人物に会い、不死になることを誓ったあの春休み。あそこから寿の策は始まっていた。
「まさかお前あいつがここに来るのを知っていたのか⁉︎」
「仕事仲間から近々吸血鬼が来るから準備をしとけって言われてたんだよ。その仕事仲間は先輩だし恩人だから逆らえなくてね。色々と準備をしてたわけさ。だから大丈夫。勝てるんだよ、例え相手がどんなに強かろうとね」
仕事仲間、先輩、恩人。
この条件が揃っていても寿が誰かの指示に従うなんて珍しい。
それはともかく、こいつ知った上でこの戦いを僕にさせていたんだ。僕を不死にしたのも吸血鬼に対抗する為の手段。そうだとしたら僕が吸血鬼と出会った時に来たのも頷ける。
通りすがりなんかじゃなくてずっと待ち伏せてたんだ。でなければ寿があんなにタイミング良く出てくるわけがない。
「全てお見通しって感じだな」
「全てじゃないよ。伏見くんと初めて会った時は君を不死にするだなんて夢にも思わなかったからね。全てを知っているのは神様かあの人くらいだよ」
あの人。多分、さっき言っていたこの町にあの吸血鬼が来ることを予知した人か。一体何者なんだその人は?
いや、今はそんなことどうでもいい。
「どっちでもいいよ。お前が神様だろうとあの人だろうと。僕をあいつに勝たせてくれるなら」
利用されていたって構わない。
僕はただあの吸血鬼からこの町を守りたいだけなのだから。
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