イモータルヴァンパイア10
「そろそろ時間か」
腕時計で確認すると時間は昨日と同じ三時。寿が指定した時間だ。後処理やその他諸々を考えるとこの時間帯がベストらしい。
「にしてもこんなので本当に効果あるのか?」
ペットボトルに『聖水』というラベルが貼られたその中身はただの水にしか見えないのだが吸血鬼はこういったものが嫌いらしい。
「問題はこれをどう当てるかだな」
これが本当に効果があると仮定してまず当てなくてはならない。というかこのペットボトルに入った水をどう使うかだが寿は投げやりに「君のしたいようにすればいい」の返してきたのでもう頼らない。
頼れるのは自分だけだ。しかし、どう考えても水は水としか使えない。
かけるか飲ますか。
後者だとかなりシュールな絵になるので、やはりかけるしかなくなる。
そうと決まればあと簡単。キャップを開けて、吸血鬼が来るのを待つだけだ。
「にしてもここに来るのか?」
場所にダメ出しをして今回選ばれたのは道が入り組んだ住宅街。
だがこの辺は真面目に仕事をしている人が集まっており、この時間に起きているなど滅多にない。
それに寿からは「例え見られても僕がなんとかするから」とお墨付きがある。
でもあの吸血鬼がここに来るかどうかはそれとは関係ない。前回は分かるように公園の真ん中で待っていたから気づいてあちらから来てもらった感じだが今回は違う。
僕は隠れながら待ち、のうのうとやって来る標的にこの『聖水』をかける。
正々堂々のせの字もない卑怯で下劣なやり方だが、そうしないと僕に勝ち目がない。
だからこそ僕は無様でも鏡を終始確認しつつ、ついでに空を見上げていつ来ても大丈夫なように準備する。
不死だからといって油断をしていたらこの前の二の舞だ。もう一度、鏡を確認して誰の姿もないのを確認して背中を壁に預けると左から地響きのような音がしたので何事かと振り抜いた時には既に遅かった。また遅かった。
今度は僕の両手が根元から貫かれ、それは『聖水』のラベルが貼られたペットボトルと共に冷たいアスファルトの上で無惨な肉塊と化していた。
「聖水か。杭で観念したと思っておったが進歩がないのう。いや、叫ばんかったのは進歩か」
僕は彼女の圧倒的なスピードに気を取られ過ぎて初歩的な事を忘れていた。吸血鬼は鏡に映らないんだ。
「気持ち良く寝てるのにそれを邪魔される不快さは良く知ってるからな」
毎日毎日、天真爛漫な妹か妙に覇気のある姉のどちらか、もしくはその両方に起こされているのだ。睡眠の重要性は重々承知している。それにこんなところ誰にも見られたくない。
「そうか。ならばもう一度問おう。妾の眷属にならんか? お主にはその権利がある。このまま隠れ鬼を続けても時間の無駄じゃろ」
これは伏見を思っての言葉ではない。退屈になってきたからだ。こんなのより不死の伏見を眷属とした方が面白そうだと思ったからだ。
「一つ……一つだけ聞いていいか?」
「なんじゃ? 妾に答えられる事なら何でも答えてやるぞ」
別にそんな大層な質問じゃない。誰もが疑問に思うであろう他愛もない質問だ。
「何でお前は人間を襲うんだ?」
お前というよりも吸血鬼は?
地球上には多くの生物が存在するのにその中で人間という生物の血を吸うのだろう?
「くっはっ! 愚問じゃな。それは人間が餌だからじゃ。人間が豚や牛や鳥を食うように妾達は人間を喰らう。ただそれだけじゃ」
「なんだよその言い方……まるで化け物じゃねえか」
いや、彼女は最初から吸血鬼という化け物だったが人間の姿をしているのに真顔で意味深長な言葉を虚心坦懐に言うのだ。これが人間のはずがない。
「化け物? それなら人間も化け物じゃぞ。動物を牢屋に入れて太らせてから食っておるではないか」
「なっ……」
何も言い返せなかった。
人間は他の動物を食べて生き長らえている。その点に関してはこの吸血鬼と何ら変わらない。ただ食している物が人間かそれ以外かというだけ。
つまりは人間も化け物になる。しかし、僕が質問したもののこれを否定する事は出来ない。
だって、彼女はただ真実を述べているだけなのだから。
「期限は明日までじゃ。それまでに妾に勝てなんだらお主の大切な者達を、お主の目の前で喰ろうてやる。さすれば少しは考えが変わるじゃろ」
両手は既に、会話の途中で綺麗に再生されていたが僕が反撃を許される事はなく、物理的に、文字通り首が飛んで背後にあった家の陰に隠れていたうんざりするほど蒼く輝く月を目にした。
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