イモータルヴァンパイア09

「お兄ちゃ〜〜ん、起きろ。妹だぞ。良くあるベタな展開だぞ」

 妹が寝ている兄を起こす。

 それは僕のように妹がいる人にとっては日常の一コマで、妹のいない人にとって羨ましがる光景だろうがそれは妹が性格が良くて可愛かったらの話だ。暴力的な妹となるといつ何が飛んでくるかビクビクする場面だ。

「あと五分」

 しかし、今日はビクビクよりも眠気が勝った。

 この台詞もベタだが、生憎まだ本調子でない今はキレの良いボケをお見せするのは不可能なのだ。

「じゃあ、次のコーナーに……」

「っておい! 僕は若手の芸人か? 最初の紹介の時にスルーするやつか? それこそベタだ。使い古されてるんだよ」

 だが使い古されているからこそ簡単に受け入れられ違和感がないのだが僕は騙されない。

 そして吸血鬼も使い古されているネタだ。その点においては同じだろうが、こちらは恐れられているという大きな違いがある。使い古されているからか存在感が強い。圧倒的に強かった。足元にも及ぼなかった。

 昨日、もとい、今日の深夜、もとい、朝の三時に圧倒的な大敗を経験して、改めて自分が対峙しているものの大きさを痛感したからこそ妹のツッコミ程度には負けない。というか妹にはツッコミばかりしている気がするんだが気のせいだろうか? まあ、たまたまか。

「ごめんごめん。一回やってみたかったんだ」

 テレビで見たものを真似するなんて小学生レベルだがわからなくもないのでそれ以上追求はしない。

「それよりこんなに早く起こすなんて僕に何か用か?」

「うん、お兄ちゃん。これから私の友達からお兄ちゃんは何処かに行って。お兄ちゃんが私のお兄ちゃんだって知られたくないから」

「こんな朝からか」

 いや、あの燗南の友達だ。元気がこの世界の人類を全て励ませるほど有り余っていているから朝から集合なんて当たり前なのかもな。うん。

「お兄ちゃん、時計見てよ。もうお昼回ってるよ」

 いつも作動はするがその意味を成さない僕の机の上に置かれた目覚まし時計に目をやると一時を過ぎていた。

「あ、ほんとだ。昨日は色々あったから疲れてたのかもな」

「さあ、さあお兄ちゃん。早くしないと私の愉快な友達が来ちゃうぞ〜」

「はいはい。僕も用事があるからこの家は好きに使ってくれ」

 燗南の話からしてその愉快な友達の概要を知っているから出来れば会いたくない。というか会わない為の努力を惜しまない。

 それに僕の携帯には『負け組の君へ』という挑発的なタイトルのメールが一件届いていたのであいつの元に文句を言ってやらねば。




「やあ、どうだい調子は? 頭が弾け飛んだ時はヒヤッとしたよ」

 そう、あの時の敗因は霧となって僕の渾身の一撃を避けた吸血鬼に思いっきり後頭部を蹴られてその中に詰まっていたものが全部出てそのショックで数秒気絶している間に逃げられてしまったからだ。

「どうもこうもない。完璧に負けたじゃないか。杭があれば勝てるんじゃなかったのか?」

 自信満々にギターケースを渡されて、その中にあったこれならば勝てるじゃないかと思った自分が恨めしい。後半から使ってなかったが。

「それは当たればの話だよ。カスリもしないで勝てるわけないだろ伏見くん。それより次の戦いの話をしようか」

「またやるつもりか。やるって言った僕が言うのはあれだけど本当に勝算はあるんだろうな?」

 こちらは左腕と頭をやられたが相手はかすり傷一つない。この差を埋めるのは不死の僕でも不可能に思える。

「それは大丈夫だよ。順調に進んでる。伏見くんはただどうやって彼女に一矢報いる事が出来るか考えていればいいんだよ」

「いや、無理だろ。僕もそれなりに身体能力は強化されてるけど、やっぱり吸血鬼相手になると赤子同然だった。お前も見ていたんだろ?」

 あの怪物も言っていたが見ていたはずだ。でないとあんなメール送ってこない。それに切り落とされた左腕とかの後始末をしてもらわなくてはいけない。といっても一、二分で溶けて完全に消えてなくなるのでどちらにしろ楽なんだが。

「ああ、ドライアイになるほど見ていたよ。でも、あれは場所が悪かったんじゃないかな?」

「お前が指定したんだろ。僕にそれを言われても困る」

「まあ、まあ。そんなカッカしないでよ。元気だね~。今度はもっと効果的な武器を用意しているからその調子で頼むよ」

「不安と不愉快しかないけど頼まれたよ」

 今、この町からあの完全無欠の吸血鬼と戦えるのは同じ不死である僕しかいないのだから。

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